知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第63話 ユートピア

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「新国家樹立?」

 サカキとクルレーン、喜志田を始めとするビンゴ軍の上層部を集めての会議で、告げられたのがその報告だ。
 センド配下の諜報部隊の1人がその情報を持ってきたようで、信ぴょう性は高い。

「はい、なんでも首都スィート・スィトンでは、新国家樹立を記念して、大規模な祭りが行われるとか」

 センドが丁寧な口調で、さも当然のように喋っているが意味が分からない。

「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ。それってどういうことだ? 旧ビンゴ王国が再興したってことか!? 確か王太子がいるって話は聞いたけど」

「いえ、そうではありません。なんでも新国家の元首は帝国軍のアカシと呼ばれる双子の姉弟きょうだいで、首都にいる国民は喜んでそれを迎え入れたと」

「アカシ……?」

 俺は喜志田と視線を合わせる。
 プレイヤーかこの世界の住民かきわどい名前だ。
 だが聞いたこともないらしく、喜志田は首を振った。

 センドもクロスも聞いたことがないという。

 いや、待て。そういえば、どこかで聞いたような……。
 俺が撃たれる前。このビンゴ王国領での戦い……。

 思い出した!

 ゾイ川北部で、帝国軍を嚢沙之計のうしゃのけいで破った時。
 その時の敵大将が、そのアカシ姉弟きょうだいの腹心だとか。『古の魔導書エンシェントマジックブック』に載っていた。

 情報が少なくて、プレイヤーかどうかも分からないが……いや、今は知らないていで行こう。
古の魔導書エンシェントマジックブック』のことを彼らに語っても理解できないだろうし、喜志田にはできる限り秘密にしておきたかった。

「…………」

 喜志田がじっとこちらを見てくる。
 気取られたか? いや、何も言ってこないということは、ただぼうっとしているだけだろう。

「けどよ、それってどうなるんだ? 帝国の野郎が、帝国を裏切ったってことだろ? 俺らにとっちゃ悪い事じゃないんじゃないか?」

 サカキの言うことは一理ある。
 そのアカシとかいう姉弟きょうだいは帝国軍から離脱し、ビンゴ王国の首都を制圧したということになる。
 つまりエイン帝国とは相いれない国が1つ誕生したということで、そこと同盟を組めれば労せずしてビンゴ王国から帝国軍を一掃することができるだろう。
 それで俺たちの当初の目的は達せられる。

 だが本当にそれでいいのか?
 帝国と反すると言っても、それはただ敵の敵は味方という理論で成り立つだけで、こちらに牙を剥かないという保証はない。

 しかもその場合、旧ビンゴ軍が制圧する地域は、ビンゴ領の南と東という、首都を挟んでの飛び地になってしまう。
 何かあった時にかなり不都合を生じるだろう。

「難しいな。何より情報が少なすぎる。相手が接触してくるならまだやりようはあるんだけど……」

 そんな俺のつぶやきを聞いたわけじゃないだろうが、外が騒がしくなり伝令の大声が届いてきた。

「急報! 急報です! ビンゴ主都にて独立した新国家から周辺地域に布告がなされました!」

「よし、入れ!」

 センドが声をかけると、走ってきたのか汗だくの男が飛び込んできた。

「こ、こちらです……」

 男が取りだしたのは一枚の紙。
 そこに大陸の言語で長々と書かれていた。

「センド、読んで」

 喜志田が臆面もなく命じる。
 こいつ、さては読めないな。
 まぁ俺もまだ完璧じゃないからありがたいけどさ。

「はっ……」

 センドが答えると、書かれた内容を朗々と読み始めた。

『この度、私たちはここスィート・スィトンに新たな国家を樹立したことを宣言します。私たちの国は“ユートピア”。この乱世において、どこにも干渉せず、どことも関係を持たず、どことも交戦しない完全独立国家となります。この考えに共鳴した人は、どうぞスィート・スィトンへお立ち寄りください。私たちと真の理想郷ユートピアを創造しましょう。スィート・スィトンに住む皆さまは私たちの考えに共鳴し、共に歩むことを認めてくれました。これを認めないという方。どうぞ、スィート・スィトンまでお越しください。我らが精鋭30万の兵が、その愚かな妄想を打ち砕くでしょう。私は丹蓮あかしれん。私は丹蓮華あかしれんげ。新国家ユートピアの国家元首による布告は以上となります』

 読み終えたセンドの腕が震える。
 紙が緊張して、今にも破れそうだ。

 そしてその震えが頂点に達した時、センドは読み終えた紙を机にたたきつけ、叫ぶ。

「ふ、ふざけるな! 何がユートピアだ! スィート・スィトンは我らがビンゴ王国の首都ではないか!」

「センド、うるさい」

「も、申し訳……」

「ま、分かるけどね。この独立宣言、異常だよ。アッキーなら分かるよね」

 喜志田が挑むような目つきで、ただ口元には笑みを浮かべて聞いてくる。

 やっぱりこいつには分かってる。
 アカシとかいう姉弟きょうだいの名前。
 丹蓮あかしれん丹蓮華あかしれんげか。
 例外はあるとはいえ、ほぼ間違いなく日本名。つまりプレイヤーだ。

 だがそれをここで話すわけにはいかない。
 それは喜志田も分かっているだろうから、それ以外のことで異常だと彼は言っているのだろう。

「このふざけた国名は別として、やっぱり“帝国の人間”が、“ビンゴ主都を制圧”し、しかも“旧ビンゴ王国民全員が同意した”ってとこだろ」

 国を滅ぼされたビンゴ王国の人間が、国を滅ぼした張本人に『新しい国を創りましょう』と持ち掛けられて素直に受け入れることができるか。
 国を滅ぼされたことがない俺からすれば想像でしかないが……一方的に殴られた相手に「仲良くしようぜ」と言われるようなものかな。まぁ、ありえないだろう。

 ドスガ王国ですら、共和制にして直接支配ではなく保護という形の同盟でなんとか保たれているというのに。

「ええ、すくなくとも私は絶対に受け入れません」

 センドが鼻息を荒くして答える。
 隣のクロスも同様のようで何度も頷いている。

「それからこの精鋭30万。こんな兵がどこにいたっていうんだ。しかもそれを養う資源はどこから来る?」

 ゲームと違って支配した瞬間から収入が入るわけじゃない。
 農民や工業を保護し、税制を定め、しっかりと安定させてからようやく収入が入るようになるのだ。

 30万なんて数は誇張だと思うが、仮にいたとしてもスィート・スィトンだけでまかなえる税収では絶対ない。
 なんてったって、シータ王国と南郡との交易を始め、ヨジョー地方を支配下に置いたオムカ王国ですら、数万の兵でひーひー言っているのだ。経験者は語るもの。

「ん、なんでだジャンヌ? 精鋭かは知らんけど、もともと9万くらいはいただろ」

「サカキ……お前はこれまでの戦いを全部否定するつもりか。確かに帝国軍は10万近くいた。けどそれから生半可な戦いをした覚えはない。何万もの人たちが傷ついて死んでいったんだ。だから今、帝国軍というくくりで言えばどれだけ残っているかは分からないが、少なくとも9万って数字はありえない」

「あ、そっか」

「まぁ号して30万で、実態は10万いるかどうかだと思うけど……それでも元帝国軍と旧ビンゴ兵を吸収してようやくって感じだろうな」

「しかし……我らビンゴ王国の人間がいきなりやってきた人間に服従するわけがない。なにかトリックがあるはず……」

「そこらへん、アッキーには考えがあるんでしょ」

 クロスの問いに喜志田がこちらに振ってくる。
 そんな答えにくい質問をこっちによこすな。

「まぁ、な」

 言いづらいのでぼかす。

 この兵数といい、全ての人間が賛同するという異常事態といい、考えられることは1つ。
 スキルだ。

 おそらく精神操作系のスキルで、最初に旧ビンゴ兵をこちらにけしかけたのもその仕業と考えられた。
 そしてゾイ川で敵を破り、東岸を制圧した時には旧ビンゴ兵は我に返ったように降参してきた。
 ここから敵のスキルには効果時間や影響範囲があるんじゃないかと推測したわけだが。

 そうか。
 スィート・スィトンにいる全員の賛同を得たというのは、その精神操作によって操った結果ってことか。

 つまり寝返りとかも誘えないということで、こちらの優位性が消えてしまう。
 これは厄介だぞ。

「んー、俺は30万っての真実だと思うけどなー」

 喜志田が首をひねって気になることを言う。

「なんだよ、なんか思いついたなら言えよ」

「うーん、まだ推測の段階なんだけどねー。というか消去法? それにきっとアッキー怒るからあんま言いたくないんだよねぇ」

「なんで俺が怒るんだよ」

「だってアッキー。そういうの嫌いでしょ?」

「中身も何も言われてないのにそんな判断はできないだろ」

「……ま、いっか。でも俺に怒んないでよ? いいね?」

 なんだかやけに念を押してくるな。
 だから俺は頷いて続きを促す。

 そして頭をぼりぼりと掻いた喜志田がセンドに向き直った。

「センド、スィート・スィトンにいる民間人ってどれくらいいたっけ?」

「はっ、確か20万は超えていたかと」

「なるほどねー。それに旧ビンゴ軍の降伏兵は10万弱だっけ? やっぱり計算は合うね」

「おい、まさか……」

 ゾッとした。
 あるいは、と思ってすぐに打ち消した想像。いや、妄想。

 だが確かにそれ以外はあり得ない。
 そして、それが真実だった場合、この相手は……丹とかいうこの姉弟きょうだいのプレイヤーは。

 これまで戦ってきたプレイヤーの中でも、
 ひどくて、
 いびつで、
 気味が悪くて、
 吐き気がして、
 何よりも許せない。

 机が激しく震えて、置かれたカップが倒れそうになる。
 俺が机に握りこぶしを叩きつけたせいだ。

「ほら、やっぱり怒るじゃん」

 喜志田がやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
 当然だ。
 こんなことをされて内心穏やかでいられる人間なんているだろうか。

「どういうことでしょう将軍?」

 クロスが聞く。
 それに対し喜志田は、聞きたくもない真実を、事も無げにさらっと告げる。

「簡単なことさ。30万の精鋭。すなわちスィート・スィトンにいる民間人を武装させて死ぬまで戦わせる。まったく、理想郷ユートピアとはよく言ったもんだよ」
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