知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第65話 発覚

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「おーい……まだつかないのか?」

「すみません。あともう少しなんですけど……大丈夫です?」

「も、もちろん……大丈夫さ」

「…………背負われてる人の言うセリフじゃないと思うんですけど、すみません」

「し、仕方ないだろ。すまんな、サール」

「いえ、ジャンヌさんのためなら。それにこの方が効率よくジャンヌさんを守れます。ええ、守りますとも。こう敵が来てもぽーんと放り出せば5メートルは稼げます」

「うん、その脱出装置はなしにしようか」

 というわけで、サールにおぶられた俺は、桑折景斗こおりけいとの案内で砦の北東にある丘を登っている。
 丘といっても小さな山に近く、木々も生えた結構な傾斜で、体力のない俺は早々にギブアップ。
 サールに助けてもらって今に至るわけだが。

「サール、重くないか?」

「はい、大丈夫です! ジャンヌさん軽いですから! 逆に重くても問題なしです。ジャンヌさんの重みを受けて、私は……私は……もう、最高です!」

 気合十分……というかそっち系だったのか……。
 まぁ、いつまでも兄のことを引きずってるよりはいいか。

 俺が目覚めてから、一度、正式に会話したことを思い出す。
 いや、あれは会話というか謝罪というか。

『ごめん、サール』

『いえ、ジャンヌさんが謝ることでは……』

 突然頭を下げた俺に、サールは面食らったように狼狽していた。

『それでも……ごめん。俺のために、フレールは……』

『……いや、でも本当にいいんです。あれは、ジャンヌさんのせいじゃないし。兄も、死ぬつもりはなかったでしょうけど、万が一の時は……私がいるから。だから、私は兄のため、ジャンヌさんのため、精いっぱい護衛を務めます』

『…………ありがとう』

 兄の死を乗り越えて一皮むけたような。
 それでもやはりどこか負い目を感じてしまうのは、彼女の瞳にやる気以外にどこか悲壮感を漂わせる何かを感じたからか。

「あ、すみません。つきましたよ」

 と、前を行く景斗が振り返って示す。

 そこは丘の頂上。
 少し開けた場所で、テニスコート2面分くらいの広さはある。

 ここで不審なものを見つけたって話だけど……。

「なんもないぞ? 何を見たんだ?」

 サールに降ろしてもらって辺りを見回す。
 見晴らしもいいからてっきり砦の方も見えるかと思ったけど、ここからじゃあ木が邪魔して全然見えない。
 そんな場所で何をみつけられたのか。ふと疑念が頭をよぎる。

「いえ、あります。すみません、分かりづらくて」

「え? 何が?」

「貴女の、墓が」

「は?」

「ジャンヌさん!」

 気が付くと突き飛ばされていた。
 地面を転がり、視界が転がる。
 そして金属のぶつかる音。

 何が起こった!?
 今何て言った!?

 ようやく視界が収まったところで、見た。

 景斗が2人いて、1人は剣を抜いた状態で――サールと斬り結んでいる。
 それはまさに俺がいた場所で、サールが俺を突き飛ばさなかったら斬られていただろう。

「く、の!」

 サールが景斗を蹴り飛ばす。
 離れたサールは俺の前に来て剣を構えた。

「なに……が?」

 目の前の光景が理解できず、思わずつぶやく。
 すると笑声が辺りに響いた。

 景斗が――奥にいる武器を持たない方の景斗が髪をかき上げ高笑いする。
 何がおかしいのか、何が楽しいのか、まったく分からないその嘲笑とも言える笑いに、背筋が凍る。

「あ、すみません。まさかこんなことも分からないなんて。それでよく天才軍師とか名乗れますね」

「一度も名乗った覚えはないけどな」

「みんな言ってますよ。天才だ。最強だ。なんてね。それがこんなことも分からないなんて。本当に、本当に……腹立たしくて前から殺してやりたいと思ってましたよ」

 これまでの景斗の印象と全く違う。どこか狂ったような、間違ったような、取り違えたような変化。

「……裏切りか?」

「いえ、すみません。裏切るなんて考えたこともないですし、したつもりもありません」

 裏切っていない?
 どういう意味だ……いや、混乱した脳が高速回転し、1つの可能性にたどり着く。

「お前、帝国のプレイヤーだったのか」

EXACTLYそのとおり。大正解ですよ」

 元々敵対している身だから、裏切っていない。
 くだらない言葉遊びだ。

「お前が、内通者ってことか」

「やっぱりそれには気づいてたんですね。すみません、ちょっと見くびってました」

「そりゃあれだけ情報が駄々洩れしてたらな。まぁ、最後には利用させてもらったが」

 俺が死んだこと。
 死んだと思わせたこと。
 それを使って、帝国軍を罠にはめた。
 内通者の存在がなければ、あれほど綺麗にはいかなかっただろう。

「……それですよ。あれにはまんまとやられました。すみませんが、今でもちょっとムカついてます」

「だから、今なのか……」

「すみません。だからとか意味わかんないですけど。まぁそういうことで死んでもらおうかなって」

「ちょっと待ってくれ。それなら交渉はできるんじゃないか。すでにビンゴ領から帝国軍はいなくなった。しかもこの敗戦で帝国の力は落ちる。なら俺たちと一緒にいた方が――」

「あ、すみません。引き抜きとかそういうの無理なんで、時間の無駄なんでやめてもらいますか。これ、見てもらえます?」

 景斗は両腕の袖をまくりあげ、その手のひらをこちらに向けてくる。
 いや、正確には手首のあたり。そこに2本の赤い横線に1本の射線の入れ墨のようなものがあるのが見て取れた。

「つまらないものですみません。けどこれ、見てくださいよ。あの双子のスキルでつけられたんです。あのあかしとかいう変態の双子に」

 双子! 丹姉弟あかしきょうだい
 やはりプレイヤーだったか。

「あの双子を困らせたら、嘘をついたら、それぞれ線が消えるんだそうです。そして3つ目が消えた時、死ぬんだとか。はっ、まったくふざけんなって話ですよ」

 今度は自嘲するように笑う。
 そこにはいつものようにおどおどした様子はない。

「今、リーチなんです。だからこれ以上失敗できない。呼び出されて嘘はつけない。こんな僕でも死にたくないんです。だからすみませんが――」

 哀れむような、さげすむような、あなどるような視線を景斗は俺に向け、

「死んでください。僕のために」

 言い放ち、景斗が指を鳴らした。
 景斗の前に立つもう1人の景斗――剣を構えたドッペルゲンガーが前に出る。

 だが俺は動けない。
 景斗から聞かされた話が色々とショッキングすぎて、混乱して、圧倒的に逃げるタイミングを失っていた。

「ジャンヌさん、下がって! いえ、逃げて」

 2人の景斗――無手の本体と、ソード型の剣を持つドッペルゲンガーに対し、俺をかばうようにして剣を構えるサールが叫ぶ。
 対する景斗は、そんな彼女を見下すようにため息をつく。

「はぁ……すみませんが、どいてくれますか。僕のために」

「どけるわけないでしょう。ジャンヌさんを守る。それが私の全てだから」

「…………すみません。理解できません。どんな時でも大事なのは自分。そうでしょうが」

「貴方には分からない。人を守るってことが」

「すみません、分からなくて結構です。それで、僕に勝つつもりですか?」

「所詮は素人剣術。分身というのには面を喰らいましたが、これしきの腕で団長から手ほどきを受けた私に勝てるとは思えません」

 ニーア。
 確かにあれの下で腕を磨いたというのなら、よほどの腕がない限り無理だろう。

 だが景斗は相変わらず飄々とした表情で、

「あ、はい。すみません。言葉が足りてませんでした。2人じゃなく――“10人”です」

 景斗が指を鳴らす。
 すると、彼の周囲の地面から、泥のようなものが沸き上がったかと思うと、次の瞬間には景斗の姿を作った。
 その数、8体。しかもそれぞれが全て武器を持っている。日本刀、槍、ハンマー、鎖鎌、トンファー、フェンシングのエペ、斧、べん

「すみませんね。嘘をつきました。僕のスキルは『ドッペルゲンガー』じゃない。『シャドウ』。それが僕の本当のスキルです」

 シャドウ。影。
 これらは全てあいつの影だというのか。

「あ、ちなみにこれらを斬っても無駄ですから。所詮は影。実態のないものは斬れない。つまり殺せない。その意味、すみませんが分かりますよね?」

 おいおい、なんだそりゃ。
 チートじゃねぇか!

「さて、すみませんが実証実験に参りましょうか。意気揚々と勝てる宣言した女剣士が、どんな顔でプギャーするのか」

「ジャンヌさん、逃げて!」

 サールの必死の叫び。
 だが状況を分析すればそれは不可能だと知る。
 俺に体力はない。砦まで逃げる間に追いつかれて殺される。ならやることは1つ。

「駄目だ。逃げられない。サール、惑わされるな。本体は1人。それを倒せば」

「……分かりました!」

 サールが前に出る。
 俺はそれを見ているしかない。
 歯がゆい。
 けど信じるしか、生き残る道はない。

「ま、そう来ますよね。すみませんが、さすがです」

 サールが一気に距離を詰めた。早い。日本刀のシャドウを切り下げる。次いで斧を持つのを両断する。
 血はでない。
 わずか黒い霧のようなものが吹きだすだけ。本当に影なのだ。

 斬られたシャドウはその場に崩れる。

 シャドウはあと7体。いや、更にもう1体を、鎖鎌使いを斬って捨てたから6体だ。

 強い。
 確かにニーアに鍛えられただけのことはある。

「私はもう二度と……二度と失わない。だから――」

 サールが叫ぶ。
 そして槍を斬りはらい、エペを両断し、さらに前へ。

 そして無手のまま驚愕の表情で棒立ちしている景斗に対し――

「お前を斬る!」

 斬った。
 殺した。

 また1人、プレイヤーが死んだ。
 俺の命を狙った相手だが、これまで彼と共にいた時間を思うとやるせない気持ちにもなる。

 だが、それをぶち壊す声が響いた。

「いやいや、素晴らしい突進。でもすみません」

「あっ……」

 鮮血が舞った。
 サールだ。
 そのわき腹に日本刀が刺さっている。

 シャドウの1人が、ひどく歪んだ笑みを浮かべながら、サールを背後から刺していた。
 馬鹿な。本体がやられたのに、スキルが発動しているわけがない。
 いや、まさか。そんなことが……。

「それもシャドウです」

 刀を引き抜く景斗。本体。混戦の中、武器を持ち換えていたのか。
 支えを失い崩れ落ちるサールの体。
 それを見て、俺の頭がカッと燃える。

「景斗ぉぉぉ!」

「あ、はい。すみません。はぁ……でもまぁ確かにすごかったです。まさか5体も一瞬でやられるとは。でも無駄でしたね」

 景斗の言葉通り、サールが斬って捨てた5体のシャドウに異変が起きた。
 地面に捨てられたそれらがぐずぐずと地面に溶けていく。

 だが、次の瞬間。
 再び泥のような形で噴き出したそれは、一瞬後には元の桑折景斗の姿を取り戻していた。
 10人の桑折景斗が俺の目の前に現れた。

「ま、こういうことで。すみません」

 強い。
 これがあの謝ってばかりで、どもってばかりで、何をやらせてもうまくいかない桑折景斗なのか。

 あるいは見くびっていたのかもしれない。見下していたのかもしれない。
 俺みたいな最弱が人をあれこれ言えないのに。傲慢にでもなっていたというのか。それが油断だというのなら、俺もまだまだということ。

「さて、これで邪魔者は消えました。すみません、待たせてしまいまして」

 どうする。
 ここで後ろを見せて逃げようにも、すぐに追いつかれて殺される。
 それにまだ生きているだろうサールを見捨てて逃げられない。

 なら叫ぶか。
 いや、ここは砦に近いと言っても片道30分以上はかかる。

 声も聞こえなければ、駆け付けるまで俺が生きている保証はない。

 なら、やれることは1つ。

「それ、癖なのか。ずっと気になってたんだけど。そのすみませんっての」

「……この絶体絶命において、その余裕。すみません、ぶっちゃけうざいです」

「はっ、図星かよ。そうやって謝ってばかりで、元の世界での性根が知れるな。大方、人の影に怯えて生きてたんだろうよ。さっきだってそうだ。自分の影に隠れてこっそり闇討ち。お前は陰に隠れなくちゃいけない臆病者だ!」

 やることは1つ。
 本体を怒らせて直にとどめを刺すように仕向ける。
 それでも俺がこいつに勝てる道理はないが、何もされずに殺されるよりは生きる確率はある。
 だが――

「ははっ、すみません。笑っちゃいました。駄目ですよ。そうやって本体の僕をおびき寄せて何かしようってんでしょう? 貴女が嫌になるほど知恵の回る人だってのは、すみません、ずっと見させてもらいましたから」

 くそ、ダメか。
 いや、まだだ。
 最期まで諦めるな。
 皆に助けてもらったこの命。
 こんなところで諦めるわけにはいかない!

「さて、すみませんがここまでです。今までお世話になりました。それではさようなら」

「ふざけるな!」

 叫ぶ。
 だがどうしようもなく、シャドウがこちらに向かって、その剣を振り上げる。
 それを避けても、後ろの槍が、斧が、鎖鎌が来る。

 もはやすべてが絶対的に絶命な状況。
 それでも俺は目を閉じない。
 逆転の手段が残されていないか考えに考えて考え抜く。
 それが、俺にできるたった1つの力なのだから。

 そこへ――何かが横切った。

 剣を振り下ろそうとしたシャドウにぶち当たり、吹っ飛ばした。

 これは……木刀?

 どこから投げられたのか。いや、木刀と言えば竜胆? でもあいつが木刀を投げるなんて……。

「へぇ、案外丈夫だな、その化け物」

 振り返る。
 そこに、人影があった。

「で? てめぇは、何やってんだ?」

 ここにいるはずのない人物。
 木刀を肩に担いだ澪標愛良みおつくしあいらが、そこにいた。
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