知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第66話 永禄の剣

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「愛良、さん……?」

 澪標愛良みおつくしあいら
 景斗と同様、この世界に来たばかりのところを保護した女性。
 気合いの入った特攻服が目立ち、たまに威嚇いかくするような目つきで見てくるのが怖い。
 竜胆と仲が良いらしいのは、里奈から聞いていたがなぜここに。

 もしや景斗と同じく、帝国の人間だったとか!?

 いや、それにしては俺を助けてくれたように見える。

 まだはっきりとしたことがわからない以上、完全に警戒を解くわけでもなく、黙ったままこちらに一歩一歩近づいてくる彼女を注視する。

「えっと、すみません。なんで貴女がここに?」

 景斗が身構えながら聞く。
 それに対し、愛良さんは深々とため息をつく。

「別に……間違いだと思いたかった。だから確証を得るまでは何もしないつもりだった。けど……こりゃダメだろ」

 そして愛良さんは担いだ木刀をビシッと景斗に突き付ける。

「オレが来たのは、裏切り者を裁くためだよ」

 木刀を突き付けられた景斗は、少し驚きに目を丸くするが、すぐに小ばかにしたようにくすりと笑い、

「えぇ、それって僕のこと言ってます? すみませんが、ひどいですね」

「もう外見に惑わされねぇよ。あんたの行動、見させてもらった」

「それだけで遠慮なく刀投げたんです? 下手したら僕が死んでましたよ? すみませんが、ひどくないです?」

「ひでぇのはてめぇだろ。こいつを殺そうとするなんてよ」

 こいつ。俺のことか。
 彼女の言葉遣いから、俺のことをどう思ってるのかよくわからないけど、それでも今はどうやら味方らしい。そのことがわかる言葉だった。

「あはっ、貴女もそれを守るために来たんですか? でも残念でしたね。1人じゃあどうしようもないでしょう」

「やってみなきゃ、わからねーだろ」

 木刀を一振り。
 やる気満々の愛良さんだが、景斗の言う通り1対10だ。
 いくら喧嘩慣れしてそうな格好とはいえ、木刀一本でどうにかなるものではない。

 だから俺は代案を出す。

「待ってくれ、愛良さん、それは無茶だ。それより誰かを呼んできてくれ。そうすれば――」

「黙って見てろ。あんたは別のところで戦えばいい。オレたちをもとの世界に戻す戦いを。だからここはオレの場だ。言ったよな。あんたのためにオレが剣を抜くってよ」

「え……」

 愛良さんの問答無用の物言いに、思わず絶句する。

 俺のために剣を抜く?
 そういえば、最初に竜胆の報告を受けた時にそんなことを言っていたか。

 あれは俺に対して剣を向けるという意味ではなく――

「で? すみませんが、別れの挨拶は済みましたか? この人を守るってことは、僕と敵対するってことですよ? 折角得た第二の人生。死に急ぐことはないでしょう?」

「生憎だが、オレの人生は全部、愛梨沙ありさのためにあるんだよ。2回目とか3回目とか、そんなもの関係ねぇ」

「物分かりの悪い人、すみませんが嫌いですよ」

「オレもてめぇみたいな裏切り者、大っ嫌いだよ!」

「だから裏切って……あぁ、もういいです。すみませんが、死んでください」

 めんどくさくなったように、投げやりに景斗が吐き捨てる。
 それに応じたかのように、剣とトンファーを持った2つのシャドウが愛良さんを襲う。

 危険だ!
 だが声が出ない。
 なぜなら対する愛良さんはニッと笑って、

「上等ォ!」

 吠えた。

 そのままシャドウに突っ込む。
 剣を持つシャドウが斬撃を見舞う。それをステップを踏んで逃れる。そこへもう1体がトンファーを逆手に持ったまま一閃。

「らぁ!」

 だがそれを愛良さんは木刀で迎え撃った。
 激突音。
 勝ったのは愛良さんだ。トンファーを弾き飛ばし、がら空きの顔面に返す刀で木刀を叩き込む。

 だがシャドウは人間じゃない。
 それで行動不能にはならず、攻撃を受けたまま今度は左手のトンファーを振るう。

 それを愛良さんは動物みたいな反射神経で横っ飛びして回避。
 だがそこは罠の中だった。

 もう1体のシャドウが剣を大上段に構えて待ち構えていたのだ。
 態勢を崩した愛良さんに向かって、その剣を振り下ろす。

 叫ぶ間もない。

「ちっ……と」

 髪の毛が舞った。
 愛良さんの前髪が切れて飛んでいた。
 そして、彼女の構えた木刀が中ほどで斜めに真っ二つにされていた。

 まさに間一髪。
 迎撃した木刀を切り裂く刹那の時間で回避のために時間を作れて難を逃れたわけだが、本当に見ていて寿命が縮む思いだ。

 ただ、これで愛良さんの武器が無くなったことは事実。

「逃げろ! そんなスキルじゃ太刀打ちできない!」

「太刀打ち、ね。はっ、しゃれたこというじゃねぇか」

 いや、笑ってる場合じゃないだろ。
 相手のシャドウはまだ健在。
 それぞれの武器を構え、ゆっくりと愛良さんの距離を縮める。

「確かに木刀これじゃあ無理だ。けど――」

 木刀の切れ端を投げ捨て、愛良さんが空中に手を伸ばす。そしてそこには一振りの日本刀が現れた。
 いったいどこから? 竜胆と同じスキルか? いや、何かが違う。

「ぅらぁ!」

 愛良さんの気合一閃。剣の型などなにもない。ただ力任せに振り下ろす。
 金属音。受けたシャドウの刀が折れる。同時、愛良の刀も真っ二つに折れていた。相打ちだ。

「危ない!」

 もう1体が来る。愛良さんに剣はない。いや、折れた刀を投げ捨てた。トンファーが来る。だが愛良さんはそにれ向かって下から思いっきりかちあげる。無手。殴る気か!? いや、金属音。トンファーの先が寸断されていた。愛良さんの手には折れたはずの刀が。

 なんだ、何が起きた?

「いいぞ、もっとだ、もっと来い!」

 愛良さんが叫び、天に向かって手のひらをかざす。

 すると次の瞬間、空から何かが降って来た。
 それは質量を持った棒状のもので、ものすごい勢いで地上に降り注ぎ、愛良さんの周囲に――俺のところまで飛んできて思わず悲鳴をあげそうになった――突き刺さっていく。

 それは日本刀だった。
 愛良さんの周囲および景斗たちの方まで所狭しと地面に突き刺さる日本刀。
 10本や20本ではきかない。100本近くあるだろう。
 一体どこからこんな……いや、これが彼女の本当のスキルか!

 愛良さんが手近なところに刺さった一本を抜き取ると、肩に担ぎ、

「さぁ、気やがれ! チーム『暗怒炉女堕アンドロメダ』レディース総長、澪標愛良みおつくしあいら! 特攻ぶっこみいくぞ、コラぁ!」

 再び吠えた。
 味方であるはずの自分さえも思わずすくんでしまうほどの迫力。

 てかやっぱりレディース……。気合入ってるなぁ。

「こけおどしを!」

 景斗がシャドウを動かす。
 それに対し、愛良は一歩踏み出し再び力任せに振った。相手は折れた剣で迎え撃つ。愛良さんの刀も壊れた。だがその時には愛良は左手に次の刀を持って、返す刀で振っていた。斬った。
 斧が来る。力任せの一撃。刀が砕けた。だが地面のもう一本を拾って、そのまま斧の柄を寸断した。右。鎖分銅が飛んでくる。愛良さんは刀で受けた。普通ならこれで身動きができなくなる。だが愛良さんはそれを投げ捨てて、走る。その途中で地面の刀を抜き、鎖鎌の柄を叩き切った。
 力任せの豪剣だが、獣のような反射神経で次々に影を屠っていく。

 その姿は、ある1つの歴史上の人物を彷彿ほうふつさせた。

「け、剣豪将軍……」

 足利義輝あしかがよしてる
 室町幕府の第13代将軍で、部下に裏切られ非業の死を遂げた人物だ。

 その最期が、幕府所蔵の名刀を畳の上に次々と刺し、押し寄せる敵兵に対し斬っては刀を替え、斬っては刀を替え戦ったという。
 当代一の剣豪、塚原卜伝つかはらぼくでんの弟子でもあるほど剣術に長けた人物だと言われる。

 その姿は、まさに今の愛良さんそのもの。

「あぁ、んな名前のスキルだったな。“喧嘩上等”っての選ぼうと思ったらミスってよ。だがこれでよかった!」

 喧嘩上等、剣豪将軍。あいうえお順ならそうなるのか。
 てか喧嘩上等ってどんなスキルだよ。

 だがともあれ、愛良さんのスキルのおかげで戦況が少し好転した。
 けど、それじゃダメだ。倒れたシャドウはすぐに復活して動き出す。

「駄目だ、すぐに再生してくる!」

「ならよぉ!これでどうだ!」

 地面に転がったシャドウを、手にした刀で突き刺す。
 両手を刺し抜けば、ピンでとめられた蝶のように動けなくなる。
 刀を無尽蔵に用意できる、愛良さんならではの戦術だ。

「斬っても死なないんだろ。化け物だな。ならこうしても良心は痛まねぇ」

 滅茶苦茶だ。けど強い。
 都合9体のシャドウは叩き伏せられ、そして次々に地面に縫い付けられていく。

「さって、残るは本物ってことだよな?」

 愛良さんが地面から刀を引き抜き、残った本体の景斗に向き直る。

「ひ、ひっ!」

 景斗の顔からはすでに余裕が消えて青ざめていた。
 まぁ、こんなの見せられちゃね。心中察するわ。

「で? お前はどうするんだ? こそこそ奥に引っ込んでよぉ? 来いよ。オトコらしくケリつけようぜ?」

「…………くっ」

 景斗の顔がゆがむ。笑ったのだ。

「く……ははは! すみませんねぇ、脳筋の猪武者には付き合いきれません。ここはおさらばです」

「逃がすと、思ってんのかよ?」

「逃げます」

 景斗は言うが早いが、回れ右して脱兎のごとく走り出し、木々の中に入っていく。

「てめぇ!」

 それを愛良さんが追おうとする。
 だがそれを俺は止めた。

「待った、愛良さん!」

「あぁ? んだよ」

「もういい。逃がしてやってくれ」

「でもよぉ、あいつが密告したせいで大勢死んだんだ。そのオトシマエ、つけねぇとダメだろ」

 それはそうだけど……ってか、オトシマエとか怖いんですけど。
 いや、そうだけどやっぱり駄目だ。

「見晴らしの悪い森の中だ。万が一ってこともある。それに彼はプレイヤー。偽りでも俺たちの仲間だった。それを殺すのは、駄目だ」

「誰もコロシなんかしねーよ。ちょっとボコって二度と逆らわねーように教育しなおすだけだって」

 それも十分怖いんだって。

「ふん、まぁいいさ。あんたが言うなら意味があんだろ。けど、オレの気持ちは収まらねーから……よっ!」

 愛良さんは肩に担いだ刀を振りかぶると、思い切り景斗の逃げた方角へとぶん投げた。
 弧を描いて飛んでいく刀。
 そして……悲鳴が聞こえた、気がした。

「ま、これで少しは晴れたわ。って、あの影が消えてんな」

 見れば景斗のシャドウは文字通り影も形もなくなった。

「それがスキルなんだろ。……いや、ありがとう。助かった」

 俺はようやくホッと一息ついた気分で、愛良さんに頭を下げる。
 すると愛良さんはカラッと笑い、

「いいってことよ。これも全部、オレのためだからな」

「愛良さんの?」

「あの竜胆って子から聞いたよ。あんたについていけば、元の世界に戻れるって」

「いや、まだ決まったわけじゃないけど」

「できるよ、あんたなら。これまで見ていて、その思いは確信に変わった。あんたはいいヤツだ」

「いいやつって……」

「勘だ。ま、その勘のせいで酷い男掴んだり、事故ったりしたわけだけど……」

 そりゃ物騒な勘で。
 もちろん言わないけど。

「今度は大丈夫だと思ってる。あんたならやれる。そう信じる」

 愛良さんがまっすぐにこちらを見てくる。
 その瞳には、有無を言わせないというか、どこかこちらも強くうなずいてしまうような、そんな熱がこもっていた。

「ま、そんなわけで改めて。澪標愛良みおつくしあいらだ。好きなものは正々堂々とバイク。嫌いなものは裏切りと卑怯なこと。特技は裁縫。3歳の娘持ちのシングルマザーだ。そこんとこ夜露死苦よろしく

 今のよろしくって絶対漢字当ててたよな。
 うん、まぁ俺としては彼女の本心が知れて一安心なわけだけど。

「っと、そうだサール!」

 倒れたままのサール。
 血が止まっていない。すぐに砦に戻って治療をしないと危ない。

「オレに任せときな。そんなひょろいガタイじゃあ、潰れちまうからよ」

 愛良さんがそう言って笑う。
 その笑顔は一本気な力強さがあり、なんだか不安を吹き飛ばしてくれるような力強さがあった。

 信じていた仲間が1人去ったことは悲しいけど、信じられる仲間が1人増えたことは喜ばしい。
 心強い。
 心底そう思った。
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