知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
453 / 627
第5章 帝国決戦

第16話 夜空を染める烽火

しおりを挟む
 2月末日。
 その日は晴れ渡り、乾燥した空気が王都バーベルを包んでいた。

 その夜半。
 昼の激務で疲れ果て、ベッドでうとうとし始めた俺の耳に、家の外から怒鳴り声が響く。

「火事だー!」

 家事?
 鍛冶?
 火事!?

「隊長殿!」

 俺の頭が言葉の意味を正確に置換するのと、隣の部屋で寝ていたクロエがすっ飛んできたのが同時。
 上着を羽織り、ショートブーツを履いて急いで外に出る。

「おお!」

 空が赤い。
 時刻は夜中のはずが、空を昼のように赤々と照らしている。
 その元凶は火。

 とりあえず近辺でのものでないのに安堵。
 中央にある王宮あたりでもない。

「あの場所は……」

「西です!」

 声を発すると同時、クロエが走り出す。

「あ、おい!」

 走り出すクロエについていこうとするが、その加速には到底ついていけない。

 まだ思考が追い付かない。
 というより起きていない。
 平和ボケか、緊急時の反応が遅れている。

 街を駆け――半ば早歩きになっていたが、到着した時には息が上がっていた。

 そしてすべては終わっていた。
 王都西にある倉庫と付近の家屋の半数が焼け落ち、半数が半焼といった状態で俺を待っていた。多少くすぶっているものの、焦げ臭いにおいが鼻につく。

 周囲には兵たちが多数集まっていて、整然とそれぞれの役目を果たしている。
 王都を流れる川から水を汲んで来た者、残った火で類焼しないよう建物を徹底的に壊している者、やじ馬が近づかないよう交通整理をする者。

 その中で俺の姿を見つけた1人の人物が近づいてきた。

「ジャンヌ様」

 ジルだ。
 鎧をつけた万全の姿で兵を指揮していたらしい。この国では治安維持のほか、こういった災害に対する対処も軍がやっているからジルが出てくるのは間違ってはいない。

「被害は?」

「住宅街でないのが幸いでした。死者は10名ほど、火傷や煙を吸い込んだ軽症者は100人ほどでしょうか」

「そうか……」

 それでもそれほどの人が死に、怪我をしたというのだから痛ましいことだと思う。

 だがそれ以上に被害を受けた人物がいた。

「あー、アッキー。聞いてくれさ。ここに集めてたの全部燃えちゃったのさー」

 ミストが初めて見せる泣き顔でこちらに駆けてくる。

 そうか、ここだったのか。
 ミストが物資の集積地点としたのは。

「いやー、ほんと危なかったのさ! 今週末にビンゴ方面へ送るための商品を入れて、その最後のチェックをしてたら、いきなりボッさ」

「いたのか? この時間に?」

「そりゃそうさ。物資の管理を任されたからにはしっかりやらないとさ」

 彼女の意欲と覚悟にはもう頭が下がる思いだった。
 ワーカーホリックとも言えなくないけど。

「大丈夫なのか? 煙とか吸い込んでないか?」

「燃えたのは隣の倉庫からだったからさ。水と思って探してる間に類焼して、もう逃げるしかなかったさ」

「そうか……とにかく無事で何よりだよ」

「無事じゃないさー。せっかく集めた商品がこんがり焼けてしまったさ。もう死にたい気分さ……」

 うん、まぁそうだろうな。
 こいつが頑張ってくれているのは、集められた物資を見れば分かる。それが一晩で無に帰したのだから、嘆くのは当然だろう。

「1つお聞きしたいのですが、出火の原因は分かりますか?」

 ジルが丁寧に問いただす。
 発火性のものがあるかどうか。そこに焦点が向くのは当然だろう。

「いやー、それは分からないさ。ここに集めたのは、基本的に工芸品とかばっかさ? 燃えるようなものもないし、夜だから太陽の光で燃えるようなものもないさ」

「ふむ……まぁいいでしょう。申し訳ありませんが、この後、本営に出頭願えますか? 色々とお聞きしたいこともあり」

「それってうちが疑われてるってことさ?」

「いえ、そういうわけではありませんが。ここまでの火災ともなれば、原因を掴まないことには王都の治安も守れませんゆえ」

 ジルの言うことは正しい。
 だがミストが出火の原因というのもないとは思う。

 それ以上に軍事のトップと経済の大動脈を握る人間が険悪なムードになるのは、何より俺の知人が険悪な様子で争うのはなんともいただけない。
 だから俺が仲介のために声を出そうとして――

「いや、これは放火だぞ、ちびっ子」

 別の方から声が来た。

 見ればだんだら羽織の男が腕を組みながら闊歩してくる。
 ジル並みの身長だが、細めのジルと違って横もデカい。サカキといい勝負かもしれない。
 えっと、こいつは確か。

新沢五郎あらさわごろう。王都守護職配下の壬生狼みぶろの局長よ」

 男がそう自己紹介してにかっと笑う。
 そうだ、例の新選組大好きプレイヤーさんだった。

 本人としてはさわやかな笑顔を目指しているのだろうが、その巨体も相まって威圧感しか生まない。
 近藤さんというより、芹沢鴨せりざわかもだよなぁ……。言ったら怒られそうだから言わないけど。

「えっと、新沢、さん?」

「おっと、俺のことは局長と呼びな。近藤さんでもいいぜ、トシ」

 あぁ、こういう人だった。
 初めて会った時は、なんとなく話が合ってテンションが上がって意気投合したが、後々、イッガーの態度とかを思い出すと顔から火が出るほどの想いだった。
 だから一応テンションは抑えて、とはいえ呼び名で問答するとめんどくさいことになりそうなので彼の要求通りに答える。

「分かった。近藤さん。放火ってどういうことなんだ?」

「おぅ、トシ。それでいい」

 むぅ、なんかこの近藤さん、トシと呼び合う関係いいなぁ……いやいや、ここはにやついてる場合じゃない。

「このヤマは放火、赤馬アカウマの仕業よ。俺の長年の勘がそう告げている」

 なんか今度は刑事っぽくなった。
 まぁ新選組も治安維持、警察機構と言えば間違ってはいない。

 ちなみに赤馬アカウマは警察の隠語で放火犯ということ。らしい。後で聞いた。

 てか勘かよ。
 堂々と出てきた割には根拠が薄すぎた。
 イッガーもあまり期待しない方がいいって言ってたけど、そういうことか。

「それよりいいのかい、王都守護職さんよぉ」

 新沢がジルに向けて声を向ける。
 王都守護職なんて役職はないけど、新選組の親組織である京都守護職のもじりかな。

「なにがですか?」

「こんなに捜査員をここに集めて。俺がホシなら今頃ほくそえんでるぜ」

 新沢の言葉に頭を殴られたような衝撃が走る。

 陽動!

 大々的に放火してそちらに注目を集め、その隙に別のところで別の犯罪を行うってことか!

 だとすると本当の目的はなんだ。
 王宮か?
 いや、いくら王都の別のところで騒ぎが起きたといって、王宮の警備を解くわけがない。
 それこそ本末転倒のことだからだ。

 だとすれば……。
 西に軍を集めるとなれば、その逆を攻めるのが軍略の常道。

 とすれば東。
 そこは確かに住宅が密集しているし、何より軍の倉庫がある。
 そこを燃やされれば国として、軍として大打撃を受ける。

「ジル、すぐに軍を東地区に走らせてくれ。念のために北と南にも向かわせる!」

「承知しました!」

 ジルがバッと身をひるがえすと、大声をあげて兵を指揮していく。

「新沢――いや、近藤さん。助かった」

「なに、これくらい俺にとっちゃ当然のことよ。義を見てせざるは勇無きなりってやつさ」

 そう言って、混乱した状況の中、かかと笑う。
 もしかしたらこいつ、大物かもしれない。

「アッキー。ちょっといいさ?」

「ん、どうした?」

 ミストが近寄って小声で話しかけてきた。
 その様子が神妙だったので、俺も声を落とす。

「これが放火だとして、誰が首謀者だと思うさ?」

「それは……」

 考える。
 いや、考えるまでもない。
 これはただの放火じゃなく、物資を狙った敵国の破壊活動に他ならない。

 物資の流入を見て、最近活発に動いていたミストの倉庫が狙われたのも、そう考えると納得は行く。

「帝国だろう。こないだも帝国のスパイが暗躍してたのを、イッガーと、この新沢が防いでくれたし」

「……ま、そうだろうさね」

 なんだかすっきりしないミストの返事。

「わたしはこの一件、シータの手先だと思ってるさ」

「シータ? いや、ありえない。だって水鏡が、九神がそんなことをするはずは……」

「アッキーは知らないさ。あの国も、しっかりした一枚岩じゃないのさ」

 それは……そうだろう。
 もともと商人たちの連合政権みたいなものだ。
 だから九神の言うことを聞かずに突っ走るのもいるだろう。

 けどありえない。
 シータ王国にとっても、俺たちの戦力は生命線のはずだ。
 俺たちと協力してようやく帝国に抗える状態なのに、俺たちを弱体化させてなんのメリットがあるのか。
 あるいは帝国におもんぱかっての売国行為なのか。

 分からない。
 そう断定するには証拠が足りないし、根拠も当然ない。
 何よりそれをほのめかした当の本人も、

「いや、忘れてくれさ。これは帝国の破壊工作。そう思った方が色々幸せさね」

 そう言ってそれ以上は話題について触れなかったからだ。

 だが俺には不安が残ったまま。
 そして一夜が明けて。

 再び放火が行われたものの、ジルの迅速な行動で建物が数棟焼かれたが、死者はゼロに抑えられた。
 そして放火犯および放火未遂犯として5名が逮捕されることになった。

 彼らは執拗な取り調べにも応じず黙秘を続けた。
 ただし言葉や風貌から北の人間、帝国によるスパイだと判断され投獄された。

 この一件を受け、王都の警備が厳しくなると同時に、いよいよ帝国の妨害が活発になってきたのを感じる。

「報復に帝都を焼きましょうか?」

 後日、そう言ってきたのはマツナガだ。
 それを俺は言下に却下した。

 甘いと言われようとも、兵士でない人を犠牲にするのはできればしたくない。
 まぁ俺が却下したところで、マツナガが簡単に引き下がるとは思えないけど。

 どちらにせよ近いうちに軍事行動にも出てくるはずだ。
 そうなればこのような小細工は意味をなさないはず。
 何より相手にはあの教皇様がいる以上、大きな効果は望めないだろう。

 だがそれ以上に気になるのはミストの推論だ。

 この放火はシータの手によるもの。

 本当にそうなのだろうか。
 だとしたら、俺たちはあまりにシータに対して無防備すぎる。
 帝国と戦っている間に、わき腹を突かれたらそれで終わりだ。

 本来なら「ありえない」とばっさり切り捨てる内容だ。
 だが俺がそこまで気に病むのは、最悪の事態を想定しておくのも軍師の仕事というのもあるが、あるいは俺もシータ王国に疑念を抱いているからか。

 水鏡がそんなことをする人間だというのは分かっている。
 だが九神は?
 あまつは?
 他の豪族は?

 あまりに頼り切るのはまずいかもしれない。
 信じたいのに信じられない。
 そんな二律背反に悩まされ、そんなことを疑ってしまう自分が嫌で嫌で。

 本当にこの世界は救いようがないほどに残酷だ。
 改めてそう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...