知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第26話 ヨジョー地方防衛戦1日目・退却

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 大砲の音が鳴ったのはその日の夕方だった。
 いずれは、と思っていたが想定よりだいぶ早かった。それほどまでに切り替えが効く相手だったということだ。

 北から飛んでくる大砲は、目前に落ち、壁に当たり、そして出丸にも直撃した。
 それで鉄砲を撃っていた兵100人以上が死傷した。

「撤退する!」

 判断は一瞬だ。

 これ以上ここに籠っていても、大砲の玉にさらされて犠牲を増やすだけだ。
 だから逃げ場がなくなる前に逃げ出すのがここは正解。大砲を撃っている間は、敵の歩兵が近づいてこないので、今を逃すと後はない。

「狼煙を上げろ!」

 他の砦には俺の判断がすぐには伝わらない。
 だから退却のための狼煙を上げさせることが、他の砦へのメッセージとなる。

「ジャンヌ様、ここは危険です。早く退避を!」

 アークが顔色を変えて進言してくるが、今は全軍に下知する方が先だ。

「いいから、狼煙!」

「失礼します!」

 サールの声。
 視界がぶれる。

 どうやらサールに抱え上げられたらしい。
 そのまま階段を降りようとしたところで、衝撃が襲った。

 大砲の玉が直撃したらしい。
 しかも俺が今までいた壁の上。

「アーク!」

「無事です!」

 声に安堵するも、サールはよりスピードを上げて階段を下りていく。

「降ろしてくれ、サール!」

「そうは参りません。ジャンヌさんに何かあれば、団長に殺されますから」

 冗談とも本気とも取れない言葉に口を封じられ、俺はそのまま準備されていた馬に放り乗せられる。

「では、退きます」

 俺の後ろにサールが飛び乗って手綱を引く。
 馬が走り出す。

 背後から喚声が聞こえた。

 どうやら歩兵が突っ込んできたらしい。
 それに対し、まだ出丸に残っていた鉄砲の音が聞こえる。

「駄目だ、残ったら死ぬだけだ!」

「大丈夫です、彼らもそれは分かっております」

「でも――」

「駆けます、舌を噛みませんよう」

 サールは逃亡するのと反論をつぶすのとを同時にやってのけた。
 馬を加速させた。

 俺は必死に馬の首につかまりながら、周囲に目を走らせる。砦から出て逃げていく兵たち。
 てんでバラバラになっておらず、一応の統率はあるままの退却だ。
 あとは準備しておいた舟に乗り、川を渡ってヨジョー城に籠るだけ。

 しばらくして背後から火が上がった。
 砦にあった油に着火したのだ。

 俺を殺した火が夕闇に煌々ときらめく。
 忌々しいはずの炎も、どこか遠い思い出になってしまった感じがする。

 この時間帯というのが幸いだ。
 もうすぐ陽は暮れる。敵の追撃は激しくなくなるだろう。

 それまでに軍を整えて、負傷者を王都へ送還して、万が一の夜襲の警備をする。
 やることがてんこ盛りだ。

 幸いにして、ヨジョー城に集まった兵はそれほど減ってはいなかった。
 あらかじめ撤退は全員に周知していたから混乱は起きなかったのだろう。
 サカキとニーアが騎馬隊を指揮して殿軍についたのも大きい。

 だが――

「アーク……」

「申し訳ありません」

 ヨジョー城で合流したアークの額には布が巻かれていて、その左目の辺りからは赤い色がにじんでいた。

「いや、謝るのは俺だ。俺がすぐに逃げなかったから」

「いえ、ジャンヌ様がいなくともあの場で指揮を執ったでしょうから、結果は変わらなかったかと。ジャンヌ様が気に病む必要はございません。それにまだ私の武運は尽きないようで。弓で狙う時は左目をつむるので、手間が省けます」

 出来の良いジョークには聞こえなかったが、アークの心遣いだろう。
 俺は苦笑と安堵の中間くらいの笑みを浮かべた。

「帝国のやっこさんら、消火にてんてこまいだから来るのは明日だろうな」

 サカキが戻ってきてそう告げた。

「そうか。あまり痛手にはならなかったか」

 燃やしたのはアルパ、ベダ、ガーマの3つの砦。
 敵が入った瞬間を狙って火をつけた形になったが、敵も警戒したようでそこまでの打撃を与えられなかったよう。最南端のデンダ砦はタイミングが合わず、無傷で帝国軍に接収されてしまったようだ。

「あ、それと敵陣の後方で騒ぎが起きてたよ」

 ニーアも最後まで残って戦況を見てきたらしい。
 なんだかんだで、こういう血なまぐさいことを嬉々としてやるのだから、普段のこいつからは考えられない豹変ぶりだ。
 いや、こっちが素なのか?

「そうか、ゴードンがやってくれたか」

 帝国軍の背後を襲った集団。
 いつぞやの反エイン帝国同盟軍を名乗る武装集団で、彼と再び会ったのは、戦場視察の後。
 ヨジョー城で細部の詰めを行っていた時だ。

『おう、反エイン帝国同盟軍『聖女の誇り』烈火のゴードン様がやってきたぜぇ!』

 髪もひげもぼさぼさの、一言でいえばむさい男が品のない大声でやってきたのだ。

 その姿に声を聴いて、俺の記憶が一気に呼び起こされた。
 というかそれまで申し訳ないことに存在を忘れていた。

 去年。
 帝都からの帰りに帝国元帥府所属の軍と戦うことになった際。優勢になっていた帝国軍を背後から襲ったのが反エイン帝国同盟軍、このゴードンが率いる軍2千だった。

 実はその前にクロエたちにボコボコにされてた縁もあり(初めて竜胆と会った時だ)、彼らは俺たちに協力してくれたわけだが。

 確か昔は『賢者の誇り』とか言ってなかったか?
 それに確か色んな二つ名を持っていたような気もするけど……。

『あんたら、また帝国とやるんだろ? なら俺たちを使いな。なに、支払いは金でいいぜ?』

 どうやら、あの後も山賊稼業を続けていたらしい。
 といっても活動範囲はその名が示すように帝国領土で、そもそも良民を襲うのではなく官民を襲うことから、俺たちの取り締まりの対象にはならなかった。
 山賊と手を結ぶのはなんとも後ろめたいような気もするが、今は一兵でも欲しい時。

 結局、向こうの言い値で一時的な軍事同盟が成立した。

『んんー? なんだか回りくどいことしてやがんな。ま、いいぜ。この轟天のゴードン率いる1万が、帝国30万に風穴開けてやるぜ』

 兵数が増えた以上に、30万と聞いても物おじしない彼の勇猛さには頼もしかった。
 とはいえ真正面から食って掛かるわけにもいかず、彼には夜襲や補給路を脅かす陽動の任務を与えたわけで。

 どうやらうまくやっているようで一安心といったところか。

「とりあえずは初戦は痛み分け、か」

「ああ。だが油断はするなよ。夜に渡ってくる可能性がある。警戒を取りながら交代制で兵を休ませてくれ」

「けどよぉ、ジャンヌ。あいつら船なんてあるのかよ?」

「あるさ。1年前はそれで渡河してきた。今回もその準備はあるはずだ」

 少なくとも1年前の相手ならそうする。
 そう確信をもって言えたことに、少し不安を感じながらもため息をついた。

 本当に、楽をさせてくれない。
 綱渡りの曲芸。

 けど渡り切らないことには未来はない。
 だから戦い続ける。

 新たな覚悟を胸に、俺は現場の指揮を執るために立ち上がった。
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