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第5章 帝国決戦
閑話10 長浜杏(エイン帝国大将軍)
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「なんたる体たらくか!」
本陣に張られた天幕の中で、怒声が響き渡る。
僕様はそれを素知らぬ顔で聞いていた。だって僕様はただのアドバイザーだからね。
しっかし、初めて見たけどあの砦。エグイね。
砦の北門に位置するところに、変なでっぱりがあると思ったけど、そこから間断なく鉄砲撃たれれば確かに近づけない。
それでひるんだところに騎馬隊が突っ込んでくるとかよく考えられてる。
じゃあ犠牲を気にせず突っ込めば、と思うけど、堀があってさらに近づくのが困難。
そもそも盾もなしに犠牲を気にせず突っ込めと、上に立つものは簡単に言えるけど、実際に戦場に立つ人間からしたらたまったものじゃない。
何より大事な自分の命。
それをチップにかけて弾に当たらないことを願いながら走るなんて、常人にはできないだろう。
一度態勢を立て直し、再び攻め入るも結果は同じ。
というかよりひどい目に遭った。
正面からの突破は難しいとみて、左右の軍の一部が砦と砦の間に入り込もうとした。
敵の内側に入り込めば、複数方向からの攻撃には耐えられまいと思っての行動だろう。
それが罠だった。
部隊が砦と砦の横を通り過ぎ、北砦の南門から攻め入ろうとした瞬間に、前後左右から挟撃を受けてたちまち全滅したのだ。
あの4つの砦。なんであんな位置かと思ったけど、なるほど。
ああやって中に入り込んだ馬鹿を仕留めるための狩り場だったのか。
いや、本当にあのジャンヌ・ダルクってのはえげつないことを考える。
敵にしておくのが惜しいくらいだ。
というわけで、1日の間に2連敗を喫した我が軍は、今やどうするの混乱に満ちた喧噪の中にあるわけで。
「まぁまぁ、まだ我らの犠牲は数百でしょう。いずれは落ちますよ」
「ふん、そうだな。やられた歩兵などいくらでも補充できるか」
なるほど。
彼らにとってやられた数千の歩兵はカウントするに値しないということか。反吐が出るね。
そんな非人道的な慰めによって何とか場は収まったものの、解決策が出るわけでもなかった。
当然だ。
この貴族様たちは戦いのプロフェッショナルじゃない。
領民から搾取して豪華な生活を送ることのプロフェッショナルに、現状を打破する戦術が浮かぶわけがない。
「だが、俺様の臣民が無闇に死んでいくのは心苦しいぞ?」
「さすが偉大なる陛下。しかし陛下が気に病む必要はございません」
「その通りですぞ。死んでいった彼らも皇帝陛下の恩ための犠牲と知れば、納得いきましょう」
こんな奴らのために死んでもなぁ。
恨み言をいう筋合いはあっても、絶対感謝しないだろ。
それにしてもどこまで愚鈍なんだろう、こいつらは。
いくら大軍に兵法なしと言えども、それは野戦での話。
攻城戦ならもっと違った手が使えるはずだろうに。
「はぁ……」
「なにか? 大将軍殿?」
おっと、いけない。
またしても僕様の鋭敏な頭脳が話を聞いてもらいたくて、ため息をつかせてしまったようだ。
「いやいや、皆さん本当に気長だなぁと」
「なんだと?」
「そう睨まないでほしいなぁ。ただ気長、というかお人よしだなって思っただけだから」
「ええい、うるさい! いったい何がお人よしだ! 話せ、いや、話さんで良い! 出ていけ!」
「はいはい、出ていきますよっと。ただこれはただの独り言。なんで敵に合わせて攻城戦に付き合うのかなぁと思うんだよね。愚直に攻めても被害が出るだけ。攻城戦なんだからさ」
「何が言いたい?」
「さぁ、これは独り言だからね。ただ僕様なら相手に付き合わずにこっちのペースでやるよな、と。例えば大砲とか打てば、あっちも平静でいられなくなるでしょ」
「大砲だと? そんなもの、騎士の精神に反する」
「騎士道精神だか何だか知らないけどね。負けたら意味がないでしょ。そもそもこれは対等な果し合いじゃない。オムカを蹂躙する戦いでしょう? そこに騎士道精神とか持ち込まなくてもよくないかなーぁと?」
「む、むぅ……」
「し、しかしだな。我らは大砲の準備など」
「あ、そういえば元帥からうちで余った大砲をいくつか持って行けって言われてたなー。今もうちの陣で埃かぶってる気がするなーっと」
「ぐ、ぐむむ……」
「じゃ、そういうわけで独り言も終了! 出てけって言われたから出ていきますよ」
天幕の出口に手をかける。
その時、背後から、
「待てぇ!」
その言葉に僕様は、人の悪い笑みを浮かべていたと思う。
「それで、大砲をお渡ししたのですか?」
陣に戻ってその話を聞いたら、ユインにそう聞かれた。
「ま、そりゃね。味方が困っているんだから、助けてあげなきゃ。恩を売る意味もあるしね」
「あの御仁どもが恩を感じるとは思いませんが」
「手厳しいねー、ユインは。大丈夫、こういうのはやった、ってことが重要だから」
「そういうものですか」
「そういうもん。てか機嫌悪い? もしかして大砲を使わせることで、味方が勝っちゃうことが嫌って?」
「そんなことはありません!」
「なーんだ。てっきりあのジャンヌ・ダルクを横取りされることから不機嫌なのかと思ったよ」
「そ、そんな、ことは……」
ふふ、本当に分かりやすいなぁ。
意思の方向性がはっきり出すぎてる。
ま、そこがユインの良いところなんだけど。
「大丈夫だよ。あれくらいじゃあの女は殺せない。きっとこれからが本番。あの女にとっても正念場ってことさ」
とは言っても、若干祈らずにはいられない。
本当、こんなことで死なないでよ、ジャンヌ・ダルク。
僕様が君の首を取るまでは、さ。
本陣に張られた天幕の中で、怒声が響き渡る。
僕様はそれを素知らぬ顔で聞いていた。だって僕様はただのアドバイザーだからね。
しっかし、初めて見たけどあの砦。エグイね。
砦の北門に位置するところに、変なでっぱりがあると思ったけど、そこから間断なく鉄砲撃たれれば確かに近づけない。
それでひるんだところに騎馬隊が突っ込んでくるとかよく考えられてる。
じゃあ犠牲を気にせず突っ込めば、と思うけど、堀があってさらに近づくのが困難。
そもそも盾もなしに犠牲を気にせず突っ込めと、上に立つものは簡単に言えるけど、実際に戦場に立つ人間からしたらたまったものじゃない。
何より大事な自分の命。
それをチップにかけて弾に当たらないことを願いながら走るなんて、常人にはできないだろう。
一度態勢を立て直し、再び攻め入るも結果は同じ。
というかよりひどい目に遭った。
正面からの突破は難しいとみて、左右の軍の一部が砦と砦の間に入り込もうとした。
敵の内側に入り込めば、複数方向からの攻撃には耐えられまいと思っての行動だろう。
それが罠だった。
部隊が砦と砦の横を通り過ぎ、北砦の南門から攻め入ろうとした瞬間に、前後左右から挟撃を受けてたちまち全滅したのだ。
あの4つの砦。なんであんな位置かと思ったけど、なるほど。
ああやって中に入り込んだ馬鹿を仕留めるための狩り場だったのか。
いや、本当にあのジャンヌ・ダルクってのはえげつないことを考える。
敵にしておくのが惜しいくらいだ。
というわけで、1日の間に2連敗を喫した我が軍は、今やどうするの混乱に満ちた喧噪の中にあるわけで。
「まぁまぁ、まだ我らの犠牲は数百でしょう。いずれは落ちますよ」
「ふん、そうだな。やられた歩兵などいくらでも補充できるか」
なるほど。
彼らにとってやられた数千の歩兵はカウントするに値しないということか。反吐が出るね。
そんな非人道的な慰めによって何とか場は収まったものの、解決策が出るわけでもなかった。
当然だ。
この貴族様たちは戦いのプロフェッショナルじゃない。
領民から搾取して豪華な生活を送ることのプロフェッショナルに、現状を打破する戦術が浮かぶわけがない。
「だが、俺様の臣民が無闇に死んでいくのは心苦しいぞ?」
「さすが偉大なる陛下。しかし陛下が気に病む必要はございません」
「その通りですぞ。死んでいった彼らも皇帝陛下の恩ための犠牲と知れば、納得いきましょう」
こんな奴らのために死んでもなぁ。
恨み言をいう筋合いはあっても、絶対感謝しないだろ。
それにしてもどこまで愚鈍なんだろう、こいつらは。
いくら大軍に兵法なしと言えども、それは野戦での話。
攻城戦ならもっと違った手が使えるはずだろうに。
「はぁ……」
「なにか? 大将軍殿?」
おっと、いけない。
またしても僕様の鋭敏な頭脳が話を聞いてもらいたくて、ため息をつかせてしまったようだ。
「いやいや、皆さん本当に気長だなぁと」
「なんだと?」
「そう睨まないでほしいなぁ。ただ気長、というかお人よしだなって思っただけだから」
「ええい、うるさい! いったい何がお人よしだ! 話せ、いや、話さんで良い! 出ていけ!」
「はいはい、出ていきますよっと。ただこれはただの独り言。なんで敵に合わせて攻城戦に付き合うのかなぁと思うんだよね。愚直に攻めても被害が出るだけ。攻城戦なんだからさ」
「何が言いたい?」
「さぁ、これは独り言だからね。ただ僕様なら相手に付き合わずにこっちのペースでやるよな、と。例えば大砲とか打てば、あっちも平静でいられなくなるでしょ」
「大砲だと? そんなもの、騎士の精神に反する」
「騎士道精神だか何だか知らないけどね。負けたら意味がないでしょ。そもそもこれは対等な果し合いじゃない。オムカを蹂躙する戦いでしょう? そこに騎士道精神とか持ち込まなくてもよくないかなーぁと?」
「む、むぅ……」
「し、しかしだな。我らは大砲の準備など」
「あ、そういえば元帥からうちで余った大砲をいくつか持って行けって言われてたなー。今もうちの陣で埃かぶってる気がするなーっと」
「ぐ、ぐむむ……」
「じゃ、そういうわけで独り言も終了! 出てけって言われたから出ていきますよ」
天幕の出口に手をかける。
その時、背後から、
「待てぇ!」
その言葉に僕様は、人の悪い笑みを浮かべていたと思う。
「それで、大砲をお渡ししたのですか?」
陣に戻ってその話を聞いたら、ユインにそう聞かれた。
「ま、そりゃね。味方が困っているんだから、助けてあげなきゃ。恩を売る意味もあるしね」
「あの御仁どもが恩を感じるとは思いませんが」
「手厳しいねー、ユインは。大丈夫、こういうのはやった、ってことが重要だから」
「そういうものですか」
「そういうもん。てか機嫌悪い? もしかして大砲を使わせることで、味方が勝っちゃうことが嫌って?」
「そんなことはありません!」
「なーんだ。てっきりあのジャンヌ・ダルクを横取りされることから不機嫌なのかと思ったよ」
「そ、そんな、ことは……」
ふふ、本当に分かりやすいなぁ。
意思の方向性がはっきり出すぎてる。
ま、そこがユインの良いところなんだけど。
「大丈夫だよ。あれくらいじゃあの女は殺せない。きっとこれからが本番。あの女にとっても正念場ってことさ」
とは言っても、若干祈らずにはいられない。
本当、こんなことで死なないでよ、ジャンヌ・ダルク。
僕様が君の首を取るまでは、さ。
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