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第5章 帝国決戦
第25話 ヨジョー地方防衛戦1日目・初戦
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帝国軍30万が3つに別れた。
左のベダ砦と、右手のガーマ砦に対して5万以上。
俺のいる最北端のアルパ砦に10万ほど。
その後ろに5万ほどの本陣があるから、やはり合計で約30万といったところか。
「火の準備は問題ない?」
「はっ、各砦ともに準備完了しています」
「ん、サンキュ」
守備隊長のアークの言葉にうなずく。
各砦には鯨油を詰めた油壺を用意させている。
もちろんいざとなったら敵ごと砦を焼くためだ。
だがおそらく相手にはこの策は見破られているだろう。
敵の陣容を調べている間に、1人の異物が紛れ込んでいた。
プレイヤーである、長浜杏という人物だ。
もちろんプレイヤー相手にスキルは効かない。けど他の人物を探っているとその人物が陣中にいることが分かった。
ただその人物自体とは面識はない。
だが一度戦った人物だとは調べて分かっていた。
去年、帝国に侵入した後にもつれこんだ帝国軍との戦い。
そこで指揮していた相手が、彼女だった。
あの帝国最強を誇る元帥府に所属する、いわばビンゴで戦った堂島の部下とも言える人間。
それが幕僚にいるのなら、こちらの計略も看破されているだろう。
……まぁ、必ずしも人間関係が上手くいっているようではないみたいだけど。
それでも知らずにいれば大打撃を与えられるだろう計略を見破られたのは痛い。
だからこそせめて最低限の効果を得られるよう布石は打っておくべきで。
「デンダ砦は、問題ないか」
あそこにはクロエたちがいる。
きっと俺の意図をくみ取って動いてくれるだろう。
「敵軍、動きます!」
敵が布陣を終え、少しの時間を置いてその報告が緊張と共に走った。
まずは左右が前進。少し遅れて対面の本隊も動き出す。
背後の本陣は動かない。
敵の大半は歩兵だ。
それが広がって波のようにこちらに向かってくる様は、ある意味圧巻とも言える。
同時、これらの人間と殺し合いをするのだと思うと吐き気がしてくる。
だがここで怖気づいてはいられない。
生憎、無抵抗に殺される道理も義務も筋合いも持っていないのだから。
「まだ引き付けろよ」
口内でつぶやく。
その間にも敵がどんどん近づいてくる。
「まだだ」
歯を噛みしめながら、耐える。
恐怖に逃げ出したくなる気持ちと共に。
「まだまだ」
叫びたくなるのを必死で抑える。
右手の指輪に視線を送る。
やがて、その敵の最前線が一線を越えた。
さらにそこから5秒を数え、
「よし!」
「放てぇ!」
俺が旗を振るのと、アークが声を放つのは同時だった。
そして一瞬後。
けたたましい爆発音が眼下から、そして左右からも放たれる。
出丸に置いた鉄砲隊が敵に向かって発砲したのだ。
それが数百丁にもなるものだから、鼓膜を揺さぶるほどの轟音になって響く。
発砲を受けて何も起こらないわけがない。
突っ込んでくる敵はバタバタと倒れ、若干うろたえたように足を止める。
そこで気づく。
敵は盾も持たないのか。いや、あの歩兵は通常の歩兵じゃない。
着ているものも粗末だし、何より鍛え抜かれた精鋭とも見えない。
「農民か、奴隷か」
貴族が参戦しているからどういう意味かと思っていたが、そういうことだと行きつく。
彼らは今までの職業軍人でもある兵ではなく、無理やり徴集され死ぬために突っ込まされた一般人なのだ。
勝ったとして褒賞にありつけるわけでもなく、ただただ搾取される日々に後戻りするだけの悲しき存在。どこから30万なんて大軍、と思ったが、ある意味、敵は数だけをひたすら集めたということか。
一瞬、躊躇した。
人を人と思わない、そんな用兵に躊躇いを覚えたのだ。
だがそれを吹き飛ばしたのは次なる砲声。
「放て!」
アークが再び声を上げると、第2射が放たれる。
鉄砲の交代撃ちにより間断なく発射することが可能になる。
こちらの砲撃に戸惑っていた敵の前衛がバタバタと倒れる。
その光景に俺は歯噛みしながらも、気を取り直す。
彼らを倒さなければ、もっと多くの人が死ぬ。
オムカに住む、何百、何千万の人たちが殺戮と略奪の嵐に巻き込まれるのだ。
数が少ないから良い、というわけではない。
けど、俺の立場上、それはもはや避けられないもので。
「…………ふぅ」
一呼吸。
硝煙の舞う中、良いものではないがそうでもしないと自分を制御できない。
「ええい、ひるむな、進め、進めー!」
敵の部隊長が歩兵を叱咤激励して前進するよう叫ぶのが聞こえた。
「鉦」
無表情に俺は言う。
今は迷うな。
カンカンと鉦が鳴らされると、出丸の左右の扉が開き、騎馬に乗った軍勢が飛び出した。
それは一本の槍となって、未だ恐慌状態の敵を突き刺していく。
サカキとニーアの指揮する2隊だ。
2本の槍は、現物のように一直線に貫くのみでなく、時に曲がり、時に交差し、縦横無尽に敵陣を貫き通す。
やがて前進と叫んでいた声が聞こえなくなった。
サカキがそのあたりに突っ込んだから、おそらく指揮官が討ち取られたのだろう。
「鉦」
再び命令を出した。
散々暴れた2隊を連れ戻すためだ。
指揮官を討たれて混乱する先鋒に、後ろのまとまった部隊が合流しつつある。それで先鋒の秩序が回復されれば2隊は敵の中で孤立する。
何より今は一兵でも惜しい状態だ。
彼らを死なせないために、撤退の見極めは少し早いくらいがちょうどいい。
2隊も暴れて満足したのか、素直に命令に従いつつ、まだ貫いていない部分をかけ通して出丸に戻った。
左右の砦からは間断ない鉄砲射撃で敵を近づけないように成功しているらしい。
敵が一度退いていく。
圧倒的に勝ったというわけでもなく、ただ優勢に戦況を進められた形になるが、それでも撃退できたのは大きい。
この調子なら、2日くらいは持つかもしれない。
少し甘い見積もりだと思うが、そうでもしないとやっていけない。
そう思いつつ、緩んだ心を引き締めた。
左のベダ砦と、右手のガーマ砦に対して5万以上。
俺のいる最北端のアルパ砦に10万ほど。
その後ろに5万ほどの本陣があるから、やはり合計で約30万といったところか。
「火の準備は問題ない?」
「はっ、各砦ともに準備完了しています」
「ん、サンキュ」
守備隊長のアークの言葉にうなずく。
各砦には鯨油を詰めた油壺を用意させている。
もちろんいざとなったら敵ごと砦を焼くためだ。
だがおそらく相手にはこの策は見破られているだろう。
敵の陣容を調べている間に、1人の異物が紛れ込んでいた。
プレイヤーである、長浜杏という人物だ。
もちろんプレイヤー相手にスキルは効かない。けど他の人物を探っているとその人物が陣中にいることが分かった。
ただその人物自体とは面識はない。
だが一度戦った人物だとは調べて分かっていた。
去年、帝国に侵入した後にもつれこんだ帝国軍との戦い。
そこで指揮していた相手が、彼女だった。
あの帝国最強を誇る元帥府に所属する、いわばビンゴで戦った堂島の部下とも言える人間。
それが幕僚にいるのなら、こちらの計略も看破されているだろう。
……まぁ、必ずしも人間関係が上手くいっているようではないみたいだけど。
それでも知らずにいれば大打撃を与えられるだろう計略を見破られたのは痛い。
だからこそせめて最低限の効果を得られるよう布石は打っておくべきで。
「デンダ砦は、問題ないか」
あそこにはクロエたちがいる。
きっと俺の意図をくみ取って動いてくれるだろう。
「敵軍、動きます!」
敵が布陣を終え、少しの時間を置いてその報告が緊張と共に走った。
まずは左右が前進。少し遅れて対面の本隊も動き出す。
背後の本陣は動かない。
敵の大半は歩兵だ。
それが広がって波のようにこちらに向かってくる様は、ある意味圧巻とも言える。
同時、これらの人間と殺し合いをするのだと思うと吐き気がしてくる。
だがここで怖気づいてはいられない。
生憎、無抵抗に殺される道理も義務も筋合いも持っていないのだから。
「まだ引き付けろよ」
口内でつぶやく。
その間にも敵がどんどん近づいてくる。
「まだだ」
歯を噛みしめながら、耐える。
恐怖に逃げ出したくなる気持ちと共に。
「まだまだ」
叫びたくなるのを必死で抑える。
右手の指輪に視線を送る。
やがて、その敵の最前線が一線を越えた。
さらにそこから5秒を数え、
「よし!」
「放てぇ!」
俺が旗を振るのと、アークが声を放つのは同時だった。
そして一瞬後。
けたたましい爆発音が眼下から、そして左右からも放たれる。
出丸に置いた鉄砲隊が敵に向かって発砲したのだ。
それが数百丁にもなるものだから、鼓膜を揺さぶるほどの轟音になって響く。
発砲を受けて何も起こらないわけがない。
突っ込んでくる敵はバタバタと倒れ、若干うろたえたように足を止める。
そこで気づく。
敵は盾も持たないのか。いや、あの歩兵は通常の歩兵じゃない。
着ているものも粗末だし、何より鍛え抜かれた精鋭とも見えない。
「農民か、奴隷か」
貴族が参戦しているからどういう意味かと思っていたが、そういうことだと行きつく。
彼らは今までの職業軍人でもある兵ではなく、無理やり徴集され死ぬために突っ込まされた一般人なのだ。
勝ったとして褒賞にありつけるわけでもなく、ただただ搾取される日々に後戻りするだけの悲しき存在。どこから30万なんて大軍、と思ったが、ある意味、敵は数だけをひたすら集めたということか。
一瞬、躊躇した。
人を人と思わない、そんな用兵に躊躇いを覚えたのだ。
だがそれを吹き飛ばしたのは次なる砲声。
「放て!」
アークが再び声を上げると、第2射が放たれる。
鉄砲の交代撃ちにより間断なく発射することが可能になる。
こちらの砲撃に戸惑っていた敵の前衛がバタバタと倒れる。
その光景に俺は歯噛みしながらも、気を取り直す。
彼らを倒さなければ、もっと多くの人が死ぬ。
オムカに住む、何百、何千万の人たちが殺戮と略奪の嵐に巻き込まれるのだ。
数が少ないから良い、というわけではない。
けど、俺の立場上、それはもはや避けられないもので。
「…………ふぅ」
一呼吸。
硝煙の舞う中、良いものではないがそうでもしないと自分を制御できない。
「ええい、ひるむな、進め、進めー!」
敵の部隊長が歩兵を叱咤激励して前進するよう叫ぶのが聞こえた。
「鉦」
無表情に俺は言う。
今は迷うな。
カンカンと鉦が鳴らされると、出丸の左右の扉が開き、騎馬に乗った軍勢が飛び出した。
それは一本の槍となって、未だ恐慌状態の敵を突き刺していく。
サカキとニーアの指揮する2隊だ。
2本の槍は、現物のように一直線に貫くのみでなく、時に曲がり、時に交差し、縦横無尽に敵陣を貫き通す。
やがて前進と叫んでいた声が聞こえなくなった。
サカキがそのあたりに突っ込んだから、おそらく指揮官が討ち取られたのだろう。
「鉦」
再び命令を出した。
散々暴れた2隊を連れ戻すためだ。
指揮官を討たれて混乱する先鋒に、後ろのまとまった部隊が合流しつつある。それで先鋒の秩序が回復されれば2隊は敵の中で孤立する。
何より今は一兵でも惜しい状態だ。
彼らを死なせないために、撤退の見極めは少し早いくらいがちょうどいい。
2隊も暴れて満足したのか、素直に命令に従いつつ、まだ貫いていない部分をかけ通して出丸に戻った。
左右の砦からは間断ない鉄砲射撃で敵を近づけないように成功しているらしい。
敵が一度退いていく。
圧倒的に勝ったというわけでもなく、ただ優勢に戦況を進められた形になるが、それでも撃退できたのは大きい。
この調子なら、2日くらいは持つかもしれない。
少し甘い見積もりだと思うが、そうでもしないとやっていけない。
そう思いつつ、緩んだ心を引き締めた。
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