知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

閑話9 長浜杏(エイン帝国大将軍)

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 正直うんざりだった。

「ふははは! オムカの奴ら! 縮こまって出てきませんぞ!」

 そりゃ野戦には出てこないでしょ。

「この大軍に恐れをなしたのだろう! 所詮オムカなど過去の栄光にしがみついた愚か者の集まりということ!」

 それブーメランだって気づかない?

「はっ、こんな奴らに負けるものがいるなど。情けないにもほどがあるでしょう!」

 あーあー聞こえないー。

「それもこれも皆、皇帝陛下の威光によるものでしょうな!」

「だしょ? だしょ? やっぱそだべ? 俺様のおかげやべぇよな!?」

 はい、頭がヤバいです。

 というわけでヨジョー城、その対岸にある砦群をにらんでの軍議の場。
 それが何か作戦を決めるだのなんだのする以前に、皇帝陛下へのよいしょの阿諛追従あゆついしょうの場になってたりする。

 こいつら――帝国の貴族を名乗る奴ら――の狙いは明白だ。
 皇帝の覚えめでたくして、戦後の褒賞をもらうのが目的。

 しかしここまであからさまだと苦笑しか沸かない。

 くそー、元帥めー。
 これを見越してなすりつけたな。

「んじゃまぁそんなわけで。ミルグーシ卿とムノーン卿は左から攻めて、ダメンダコラ卿とアリエンシ卿は右から行っちゃって。んで、んで、中央から俺様の率いる最強軍隊が突撃すれば大勝利確実っしょ。ふっ。やべ。オムカ、終わったな」

「ははぁー!」

 お気楽皇帝のお気楽行程にお気楽貴族どもが頭を下げる。
 いやいや。確かにこの軍勢で力押しは間違っていない。
 けどこれは――

「ダメでしょ」

 不意に意思の方向性――視線を感じた。
 それも敵意に満ちたもの。

 あれ?
 何、この剣呑な雰囲気?

「駄目、とは何かな、大将軍殿?」

 貴族の1人にそうなじられ、ようやく自分の失敗を悟った。
 あちゃー、本音が声に出ちゃったか。正直者だな、僕様。

「いやいや、そんなこと誰も言ってないですって。素晴らしい作戦だと思いますよ?」

「今、駄目と言ったではないか!」

「あぁ、きっと心の声が漏れたんでしょうね。オムカも駄目だな、と。それを聞き違えたんでしょう」

「しらじらしい嘘をつくな! 大体貴様は今回は予備隊のはずであろう! この軍議に出ることすら不要の者が何を言う!」

 やれやれ、我ながら良い切り返しだと思ったんだけどなぁ。
 それ以前にこの人たち、僕様のこと嫌いすぎなんだよね。僕様はどうでもいいと思ってるけど。

 それもこれも元帥のせい。
 元帥が軍事権を煌夜ちんと結託しちゃったから、それでいて結果を出しちゃったから、彼ら貴族様の活躍の場がなくなってもやもやしていると。

 そんな彼らにとって、元帥府にいる僕様は同じ穴のむじなということで。

 その後もがみがみと貴族様たちは言いつのってくるが、こちらはまったく聞く気がないのだからお疲れさまだ。
 ただのひがみとか、有能な僕様にとってはありきたりなことで、無能たちの言い分に聞く耳を立てるだけでも時間の無駄というもの。

 だからいつまで続くとも分からない非難の嵐からどうやって逃げ出そうか考えていると、

「待て、もうその辺でよかろう」

 若者の颯爽とした言葉が会議の場を沈めた。

「陛下……」

 1人の貴族様が、声の主に反応して苦言を呈するように言いつのる。
 だがこの世におられる唯一にて絶対の皇帝陛下様は、右手を挙げてそれを制した。

「彼女は我が国が誇る大将軍だぞ? その意見をむげにするなんて、ちょっとありえなくないか?」

 へぇ、この男。
 まぬけとか阿呆とか呼ばれるけど、それなりの度量は持ってるんじゃないか?

 今まで積極的にかかわろうとしなかっただけに、こう見えると新鮮だ。
 うんうん、そうやって腰を低くして頼まれれば僕様としても誠意をもって答えてあげなくもないけどね!

「じゃあ申し上げても良いですかね、陛下?」

「うむ。俺様は懐の深い皇帝だからな。どんな言葉でも良いぞ。なにせ去年、オムカに惨敗したお主だ。さぞかし素晴らしい提言をしてくれるだろう!」

 はい、前言撤回。
 やっぱりこいつは阿呆だ。

 彼としては『一度辛酸をなめたのだから、それに対する知恵を持っているはず』と言いたかったのだろうが、あからさまな侮蔑でしかない。

 しかも今の言葉を、皮肉として言うならまだ分かる。
 制止された貴族たちの溜飲も下がるし、僕様に恥をかかせることにもなるからだ。

 けど、今の言葉はあからさまに善意から出たものだ。
 それがはっきり分かるから嫌悪感しか浮かばない。貴族たちもそれを知りつつも、それに乗っかるしかないので、誰も幸せにならない。

 いやいや、待て待て。
 落ち着け僕様。

 そういう人だってさんざん聞かされてきたわけだし、元帥からも言い含められてきたはずだ。
 大人になれ、僕様。
 もうにじゅう……いや、違う。あっぶねー、17歳ね、永遠の17歳!
 17歳だけど大人になるよ! 相手の半分の年齢しかないけど、大人の対応するよ!

「じゃあ申し上げますけど。大軍に兵法なし。真っ向から大軍でぶつかるのは常道です。けど、犠牲が多くなるのも事実。相手はかの堂島元帥も手を焼いた稀代の策士ジャンヌ・ダルク。何をしてくるか分かりませんね」

「ふん、農民や奴隷がどれほど死のうが問題ないわ!」

「むしろ勝利の礎となれたことを誇りに思うだろう、ガッハッハ!」

 こういうことを本気で言える人、いるんだなぁ。
 ほんと、信じられない。

 ま、いいけどね。

「ただ、その火の粉が貴方たち――いえ、天に2つとない主上の身にに降りかかるのはいかがなものかと思いますけど」

「なんだと?」

「つまり、俺様ってことか? どういう意味だ?」

 興味深そうに眼を輝かせこちらを見てくる皇帝陛下。
 本当に分かってんのかな。

「かのジャンヌ・ダルクの得意とする戦法に、火を使うものがありました。かつて尾田張人将軍がそれによって敗北し、去年にオムカと引き分けた大将軍は、焼かれた砦に難渋されたってもので」

 ま、僕様のことだけど。
 分かっていても引っかかる。引っかからざるを得ない状況に追い込む。それがあの女の悪質な策。

「ふん、火など気を付ければよかろう」

「その通り! この大軍に火攻めなど無意味! 逆に出てきたところを返り討ちにしてくれる!」

「それに東には川が流れておる。火消しの水には困らんぞ!」

 貴族様たちの反論に内心――じゃなく、物理的にため息をついた。

「はぁ、ここまで言って分かんないかなー。対面にある砦。外は土で覆ってるけど、基本材質は何でできてると思う?」

「それはもちろん木……まさか!」

 遅いよ。遅すぎる。
 あー、もう。ここまで言わなくちゃ分からないとか。
 本当、こいつらにつけた元帥、恨むよ!

「そういうことです、皇帝陛下。相手は適当に戦って時間を稼いだところで逃げるでしょうね。そしてこっちが勝った勝ったと砦に入ったところを、ボンっ」

「そ、それならば砦など破壊してしまえば……」

「逃げる敵を追うなって? しかも30万の兵を休める場所を壊せと?」

「ぐ、うぅむ……」

 やれやれ。
 本当にそれが厄介なところ。

 30万と言えば超強力な軍隊だと思うが、その反面に弱点が分かりやすい。
 指揮系統の肥大化と、宿営場所の確保の難しさと、補給路の確保のしづらさだ。

 野戦などしてこない以上、相手としてはその弱点を突いて退散させるのが狙いだろう。

 オムカ王国の軍は多くても5万といったところ。
 それに対して30万も出すのだから、相手は直接ぶつからず、あの手この手でこちらの衰弱を誘う。

 オムカ王国を本当に滅ぼしたいのなら、同等か少し多い兵で原野で破るのが一番早いのではないかと最近思う。
 かつて元帥がビンゴ王国に行ったように。

 そこを分かってないから、こんな無駄な出兵になるわけで。

「うむ、大将軍の懸念は分かった! ならこっちは砦を完膚なきまでにぶっ潰して、そのままヨジョー城をぶんどっちまおう! まさかオムカもヨジョー城を燃やすとか超もったいないことしないだろうしな!」

 おお、まさかの皇帝覚醒?
 馬鹿みたいな物言いだけど、ある意味物事の本質をわきまえてる。

「お、お待ちを、陛下……」

「そ、そうです。ヨジョー城にしよるとしても30万もの大軍を、対岸に渡すには時間がかかり……」

 ま、そこらへんはそうなるよね。
 というわけで言いたいことは言ったし、なんか無駄に火をつけちゃったみたいだし、あとは高みの見物とでもいこうかな。
 それくらいの役得がないと、元帥を恨んでも恨み切れないからね。

 というわけで軍議は散会となった。
 自分の部隊のところに戻ると、若い男性が立って僕様の戻りを待ちかねていた。

「大将軍様、軍議のほどは?」

 女性たちの目を引く端正な顔立ちながらも、今彼の目を引くのはそこではない。
 顔の左半分を削り取ったような火傷の痕。誰もが一度見たら、悪い意味で忘れないほどの傷を隠すことなくさらしているのは、彼の中の怒りを忘れないためか。

 ユイン。
 去年、悪辣なジャンヌ・ダルクの火計に陥って重傷を負った僕様の副官だ。

「ま、ちょっと馬鹿馬鹿しい感じだったけど。結果も馬鹿馬鹿しいものにならなきゃいいな」

「……そうですか」

 彼は不満なのだろう。
 ジャンヌ・ダルクに復讐ができないことを。
 表情には出ないが声音がそれを物語っている。

「大丈夫だって。僕様たちの出番は意外に近いさ。その時まで、その胸の中にしまった爪は研いでおいてよ?」

「はっ」

 ユインは、今も昔も残忍さとは程遠いほど表情を表に出さず、礼儀正しく頷くだけだった。

 ま、彼としてもあの馬鹿貴族と共に戦うつもりはないだろう。

 というわけで僕らは出番が来るまで待機、待機っと。
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