知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第29話 ヨジョー地方防衛戦4日目・10の勝因

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 結局、その日は帝国は追ってこなかった。
 しかも翌日も動きがない。

 その理由は『古の魔導書エンシェントマジックブック』によって知れた。

 なんでも、

『ワキニス・エインフィード。35歳。ちょっと頭痛い。それなのに出ろって? マジなにこの拷問。ありえないんだけど。だから明日。明日に俺は本気出す! これ以上は情報が足りません』

 正直声を失った。
 こんなんでいいんだ、皇帝って。

 いや、絶対よくないけど。
 ただ相手のミスはこちらのメリット。

 余裕もってこちらも準備ができた。

 さらに朗報が入る。
 ヨジョー城を出た帝国軍はその数を減らしていた。

 なんでも5万ほどをヨジョー城とデンダ砦に残したのだ。
 退路と補給路の確保としてだろう。

 軍略上は正しい。
 そもそも20万以上もいるのだから、5万が減ったところで戦力差は変わらないと判断するのも当然だ。

 だがこちらとしてはそれだけ兵力が減ったのがありがたい。
 しかもその5万がプレイヤー率いる部隊っぽいのが、一番のありがたみだ。

 味方の士気も高まっている。
 というのも、ヨジョー城から撤退した時、追撃に来た1万ほどの騎兵を、ブリーダとクルレーンがせん滅したのだ。しかも1騎も失わず、聞いてほれぼれとするほどの戦術だった。

 これで味方が奮い立たないわけがない。

 彼らには戦うな、と言った手前、表立って褒めることはできず、俺個人としては複雑な気分だが、まぁ結果オーライとしておこう。
 相手が仕掛けてきたもので、迎撃しなければ被害が出ていた状況でもあったのだ。

 というわけで1日の猶予を得た今日。
 俺は例の場所で帝国軍を待ち受けていた。

 以前、クロエたちと検分に回った、ヨジョー城とノザーン砦の間にある、右手に地割れ、左手に木々が生い茂る場所だ。
 その地割れと森の間に、オムカ王都へ通じる道に蓋をするように柵を並べた。

 500メートル以上の幅を柵で何重も固めるのだからかなり時間がいる作業だったが、先に到着していたジルたち予備兵の頑張りと、帝国が足踏みした時間があってなんとか格好はついた。

 もちろん正面からぶつかれればひとたまりもないのだが、一瞬足止めをするだけでいい。
 そのために、この場所を選んだのだから。

「よっし、これで食い止められるな。ここら辺……ってと、呼び名が不便だな。名前あるのかな?」

 隣に立って兵たちが作事をするのを見守るジルに問いかける。

「そうですね……確かチーナンとか、ちょっとこの辺り出身の者を呼びましょう」

 そして連れてこられた兵が言うには、チハン平原と呼ばれる一帯らしい。

 なるほど、チハン平原ね。
 となるとここで戦うとチハン平原の戦いとか呼ばれるわけか。

 兵力差的にも戦局的にも絶望度的にも、三国志の赤壁せきへきなんだけど。
 うちにもっと水軍があれば、ヨジョー北のウォンリバーでもっと楽に食い止められたのかもしれないな。

 などとないものねだりをしつつも、今ある状況で勝たなければならないのは兵家の常。
 ぼやいてもいられない。

 いよいよ来たる帝国軍との決戦を目前に控えて俺も動揺しているらしい。
 落ち着かなければ、と思っても1つ間違えれば大軍に飲み込まれてここにいる全員どころかオムカのみんなが死ぬ。

「ジャンヌ様、軍議を招集しましょうか?」

「いや、もう……やっぱり呼んでもらおうか」

「は、すぐに」

 ジルの迅速の動きに苦笑する。
 まるで部下とか召使いみたいな動きだが、立場的には同等――いや、彼の方が数倍上なのだ。

 何度もそれは言ったつもりだが、彼は態度を改めない。
 まぁそれがジルらしいといえばジルらしいが。

 それに今のも、その遠慮から出たのではなく、思い悩んだ俺の表情を見て取ってのことだろうからとやかく言えない。
 確かにジルに言われるまで、俺は放念していたのだから。

 この圧倒的兵力差。
 少しの手違いが全面の大きな決壊となる。

 だから最終確認を行うべきだったが、ジルに言われるまで気づかなかったわけで。
 やはりよほど余裕もなかったらしい。

 5分後、陣幕に覆われた一角にジル、サカキ、ブリーダ、クルレーン、アーク、クロエ、ウィットの面々、そしてグリードと、さらにワーンス王国のアズ将軍をはじめとする南群の将たちが集まった。
 アークは怪我をおしての参戦だ。
 陣幕の外ではニーアとサールがそれぞれ警護している。

「招集に応えていただき感謝します。まずは状況の報告を。斥候せっこうの報告では帝国軍は1時間ほど前にヨジョー城を進発。こちらに南下しているとのこと。激突はおそらく3時間後。兵力は20万。負傷者を後方へ送り、5万ほどをヨジョー城および対岸の守備に回した結果となります」

 ジルが口火を切り、現状を説明する。

 その反応はそれぞれ。
 サカキは、ようやくおでましか、と言わんばかりに不敵に笑う。
 ブリーダは意気軒高の模様。
 クルレーンは目を閉じ動かない。
 アークは出血の収まった額の傷跡に手をやる。
 クロエとウィットは忠犬のようにじっと出撃の命令を待っている。
 アズ将軍は覚悟を決めた様子で小さく頷き、その他南群の将は落ち着きなく周囲を見回している。

「では、作戦の詳細を我らがオムカ国軍師のジャンヌより説明いたします」

 ジルが俺を呼び捨てにしたのは、一応ここが他国の人も集まる公式の場だから。
 彼らしくTPOをわきまえたのだ。

 そして俺は作戦の概要から詳細までを語る。
 知っていた者はそれを当然のように聞く。
 知らない者の中でも憮然とただ聞く者と困惑しながら聞く者がいた。

「そ、それで勝てるのか?」

 策の内容を知らない者で困惑しながら聞く南群の将――確かトロン王国のワイ将軍とか言ったか――が不安げに声をあげる。
 それに同調するように困惑した、アズ将軍以外の南群の将も頷く。

 どうやら彼らの不安を取り除くのが俺の決戦最初の仕事らしい。

「勝ちます」

 そう断言した。
 断言したくないが、そうせざるを得ない。

 そしてそのあとに理由をいくつか挙げる。
 勝つと断じる根拠だ。

 三国志に郭嘉かくかという人物がいる。
 |曹操《そうそう《幕下の彼はいわゆる軍師で、若くして亡くなった時には、曹操に惜しいと言われたほどの男だ。彼がいれば赤壁での大敗はなかったとも言われる。

 そんな彼は戦場での軍師でありながらも、まさに『古の魔導書エンシェントマジックブック』でも持っていたんじゃないかと思うくらい、敵の人間性を分析し予言している。
 たとえば劉備りゅうびは必ず裏切るから殺した方がいいとか、孫策そんさくは勝手に暗殺されるから放っておいていいとか、袁紹えんしょうの子供たちは放っておけば仲間割れするとか、劉表りゅうひょうじゃ劉備を扱えないとか。
 相手の器量と心理を分析して、しかもそのことごとくを的中させたのだから、本当に天才軍師だったのだろう。

 その彼が、北方の雄、袁紹えんしょうとの戦いにおいて、決戦に迷う曹操に『袁紹が負ける10の敗因』と『曹操が勝つ10の勝因』を説いて彼の迷いを払い、その結果、曹操は華北かほくを制圧する歴史的大勝を得た。

 だからここでは、俺もそれに倣うことにしよう。

 1つ、敵は遠征軍で疲労していること。
 1つ、敵の補給路が伸びきっていること。
 1つ、連日の勝利で敵は驕っていること。
 1つ、敵に軍略はなくただ大軍で押してくること。
 1つ、先日我が軍は敵の将を1人討ったこと。
 1つ、敵の将に連携はなく功名争いが起きていること。
 1つ、敵は進撃してきたのではなくこの地までおびき寄せられたこと。
 1つ、敵は“帝国軍最強”の元帥府の軍をヨジョー城にとどめたこと。
 1つ、我々に後はなく、ここで負ければすなわちオムカと南群の滅亡を意味すること。

「そして最後の1つ、シータ王国から援軍が来ること」

 それを聞いた諸将がざわめいた。
 こればかりは今まで口外してこなかった。

 そうすれば敵に知られて、対策を打たれる可能性があるだけでない。
 水鏡に話した感触で、来ることは疑いないが、間に合うかどうか微妙だったからだ。来るとすればウォンリバーを遡上してくることだが、現に渡河のタイミングでは間に合わなかった。

 だから現状、ほぼ援軍として効果は持たないわけだが、それでも援軍の言葉は諸将に勝利への展望を見せるには十分だ。

「それと、最後の1つ。これから我が軍で1つ勝利をつかみ取りましょう」

「い、今からか!?」

「今だからこそ、です。そうですね。そちらからもいくつか軍を貸してもらえるとありがたいのですが。もちろん、前線に放るなんて危険なことはしません」

 戦場だ。
 危険なんてものがない場所はない。

 けどこうでも言わないと彼らは戦ってくれない。
 戦いたくない味方は弱点になりうるから戦わなくていい、そんなことを言っていられる状況じゃない。ハカラの時と同じように、無理やり戦わせれば、戦わざるを得ない状況に追い込めば必然戦力になる。

 初戦は確かに勝った。
 だが結局砦は早々に焼き払い、そして敵の渡河を防ぐこともなくヨジョー城を明け渡した。
 そして今、こうしてヨジョー城どころか砦にも劣る柵で20万の大軍を防ごうというのだから、彼らも委縮して当然だろう。敗色が濃厚とみて、寝返る算段をしている人物がいるかもしれない。

 だから徹底的な負けになる前に、寝返りを決心する前に一度勝たせる必要がある。
 どんな小さな勝ちでも良い。勝てるかも、と思わせることが大事。

 それが今だ。
 しかもそれが誘引の計になるこのタイミングしかない。

「アズ将軍。あなたは五か国の軍をまとめて、この位置に兵を伏せてください。そこまで敵をおびき寄せます。なので機を見て弓で敵を射てもらう感じで。その後はここまで退いてください。それだけです。お願いできますか」

「分かりました。全力を尽くしましょう。皆様がたもよろしいでしょうか?」

 今となっては南群で一番力の強いワーンス王国のアズ将軍だ。
 他の諸将も力強くはなく、それに確かに危険は少ないと見たから流れで頷く。

「引き付けた敵を迎え撃つ。サカキはこの位置に、それからブリーダはここ。グリードも連れて行ってくれ。それで、ジルは引き続きここの防衛態勢をちゃんと整えてもらえると」

「よしきた!」

「了解っす……ってこいつもっすかぁ」

「ふふふ、ならばどちらが多く敵を討ち取るか勝負だ、カレンダー!」

 意気が上がる中、ジルが難色を示す。

「この配置ですが……囮の部隊は、もしや……」

「ああ、俺が囮になってここに敵をおびき寄せる」

「無茶です……と言っても聞かないのでしょうね。貴女は」

「すまん。けどそれが一番いいんだ。サカキは歩兵だから騎兵に追いつかれるかもしれないし、ブリーダは攻撃力に活かしたい。グリードは他国の人間だから無茶はさせられない。となると俺しかいない」

「分かりました。クロエ、ウィット。2人とも、くれぐれもお願いしますね」

「了解です! 隊長殿に指一本触れさせませんよ!」

「承知です。

 ジルの言葉に、クロエとウィットが快活に答える。

 これですべてが決まった。

 オムカが滅びるかどうか、その一戦の幕が今まさに上がるのだ。
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