知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第46話 男の勲章

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 出発の日は瞬く間にやってきた。
 マリアが参加するということで、クロエ隊500のほか、ニーアら近衛騎士団30名、王都防衛軍から500の軍勢がマリアを守りながら北上する。

 このほかに、ヨジョー城に送るための兵糧を輸送する部隊が1日前に出発していて、俺たちが出ると王都はほぼ空となる。

 といっても帝国とは停戦状態だし、万が一敵が奇襲してくるにしてもヨジョー城から王都までの防衛ラインには簡易的なのろし台ができているため、王都を強襲することは不可能だろう。
 ビンゴ王国には兵力はなく、南群とシータ王国の兵力は今は北に集中しているから、王都を突く兵力はないから安全なのだ。

 だから守る兵力がなくても王都民の顔は明るい。
 帝国との戦いの先行きに不安を感じているのもあれば、ここ数年の戦闘にえん戦気分が出ているのもあるから、その講和の使者として我らが女王様が向かうとなれば誰もが喜んで見送りに来たのだ。

 旅程にして5日ほど。
 講和交渉の数日前到着とかなりギリギリのスケジュールだったが、幸いなことに道中では特になんの異常も妨害もなく済んだため、予定通りの日程で俺たちはヨジョー城に入った。

「お待ちしておりました、女王様」

 ヨジョー城の城門では、先ぶれを受けていたジルが迎えに出ていた。
 なんかもう執事みたいな感じだ。

「うむ、厄介になるのじゃ。できれば交渉に向けて色々話したいんじゃが……」

 といいつつも、マリアの顔に濃い疲労の色が出ている。
 何日も馬車にゆられればそりゃ疲れるだろう。

「女王様はお疲れです。どこか休める場所は?」

「はい、こちらに準備しております」

 マリアの体調を心配したニーアに、ジルが同調してその日は休憩のため解散となった。
 まぁもう少し日にちはあるし、ここで無理して体調を崩されるよりはいいだろう。

 というわけで、暇になったわけだが。

「サールはどうする?」

「私はジャンヌさんの傍でお守りします」

 ニーアたち近衛騎士団はマリアについているが、サールは近衛騎士団でありながら俺個人の護衛みたいな感じになっていた。
 それもニーアに命じられてということなので、むげに追い返すわけにもいかず、こうなったわけで。

 若干、いつも見られてるみたいでやりにくいけど、まぁ立場が立場でしょうがないと納得。
 それじゃあこれからどうしようかな、と思っているとクロエがやってきた。

「隊長殿、部隊は一度解散していいですかね?」」

「ああ。今日はもうないだろうから、自由時間にしてくれ」

「了解です! じゃあちょっとマールのお見舞いに行ってきます!」

 そう言って元気に走り去っていくクロエを見て、俺も後で行こうかな、なんて思っていると、

「アッキー」

 呼ばれ、振り返ってみれば水鏡と雫、そして見慣れない金髪で顔をしかめた風の若い男がいた。

「水鏡か、まだいてくれたんだな」

「さっさと帰った方がよかった?」

「いや、そういうわけじゃ――」

 参ったな。
 そういえば水鏡も元の世界に戻りたい人間だったよな。
 愛良の失踪による、気持ちのダメージにまだ整理がつかない状態なのに、ここでその論戦は避けたいところだが。

 なんて思っていると。

「クッキー」

「え?」

 今のは誰だ?
 いや、この声。このぼそぼそと告げる感じ。

「クッキー、ない?」

 雫だ。
 横目でこっちを見てくるだけだから、一瞬俺に言ったのか分からなかった。

 けど、クッキーって……そういや去年末に来た時ポリポリ食べてたよな。
 気に入ったのか?
 というかいると思ってなかったし、そんな状況じゃないから持ってきてるわけがない。

「いや、クッキーはないんだけど」

「…………そう」

 あからさまに落胆された。
 そしてもう俺と目を合わせてくれない。

 ……相変わらず訳が分からんけど、確かほぼ同い年だよな。

「ふーん、雫に好かれてるのね、アッキーは」

「好かれてるのか? これで?」

「モテモテでうらやましい限りね。ふんっ」

「モテモテって……何か不機嫌じゃないか?」

「別に。アッキーには関係ないでしょ」

 なんなんだよ。
 急に冷たくなりやがって。

 水鏡の変な態度に文句の1つでも言ってやろうと思ったが、その間に入ってきた人物がいた。

「おい、てめぇ。ミカの姐さんと雫さんになに因縁つけてんだ、コラ!」

 凄みのある怒声が響く。
 見れば、水鏡の隣にいた見知らぬ金髪の男が、その凶暴な目つきでこちらを見てくる。
 ていうか睨まれた。メンチ切られた。超怖かった。

「え、えっと……君は」

「君だぁ!? んだ、てめぇ。ちんちくりんのくせに俺にメンチ切るたぁいい度胸じゃねぇか! 上等だ、コラァ!」

 いや、メンチ切ったのそっちが先だろうに!
 ヤバイ。久々(?)に話の通じないやつだ、これ。

「斬りますか?」

 サールが俺を守るように間に立ってそう言ってきたが、もちろんそんなことさせるわけにはいかない。
 俺は全力でサールを止める羽目になった。

「あぁ? なにごちゃごちゃやってんだ! つかミカの姐さんなめてんじゃねーぞ!? 姐さんはなぁ、俺たちはぐれ者に優しくしてくれて、住むところも仕事も与えてくれた大恩人だぞ! それでいて国王サンの信任厚く一国を切り盛りするすんげぇ人なんだぞ! しかも怒るとすっげぇ怖ぇんだからな!」

 水鏡を見る。
 この褒め殺しに近い内容に、顔を真っ赤にして黙り込んでしまっていた。無理もないな。

「それに雫さんはこの殺伐とした中、癒しをくれる超すんげぇ人なんだぞ! 見てて心洗われる力、超パネェんだからよ! お菓子くらい常備しとけや! さ、雫さん。クッキーはないけど、乾パンならありますよ! って痛い! なんで殴るんすか! え? 乾パンはお菓子じゃない? す、すみませんした! けどそれでも食べる雫さん……マジ癒し」

「えっと、もう帰っていいかな?」

「あ、てめぇ、なに飽きてんだコラ! そーか、やっぱオレ様の超つえーとこ見せねぇと収まらねぇってわけか。いいぜ、見せてやるよオレの超最強極悪スキル『愛のバクダン・ラブ・イズ・オーバー』で木っ端みじんに――でぇ!」

「お前は、いい加減に、しろ!」

「…………馬鹿」

「痛い、痛い! 姐さんに雫さん! やめて。チョップと踵は! だめぇ!」

「だから、姐さんって呼ぶんじゃない!」

「そんな食べないもん」

 水鏡のチョップ連打に加え、雫の足の甲を的確に踏みグリグリされ、もだえる金髪。
 うーん、さてはこいつ。迫力あるけど残念な奴だな?

「……愉快な仲間が増えたんだなぁ」

「ち、違うから! これは、あれよ…………ただの馬鹿よ!」

「姐さん、ひでぇぜ……」

 しょぼくれる金髪。完全に尻に敷かれてるな。

 しかし水鏡もシータ王国でのプレイヤーのまとめ役をしているようだ。
 その統率力に責任感ある行動、そして確かに怒ると怖い感じ。

「なるほど、姐さんか」

「変に納得しないの!」

「そうだ! 姐さんを姐さんと呼んでいいのは、オレらミカミカ親衛隊の連中だけだからな! つか姐さんとタメ語きくとか、姐さん! このガキ、つるし上げてちょっとヤキ入れていいっすよね!?」

「いいわけないでしょ!」

 水鏡のチョップが再び金髪の頭部を襲った。
 うーん、しかしこの感じ。デジャヴ。
 しかもミカミカ親衛隊って……。

「お前も大変なんだなぁ」

「うぅ、もう何も言わないで」

 いや、しかし講和の件で落ち込んでいると思ったけど、意外と元気、なのか?
 それはそれで安心したいところだが。

「いっつー……つかなんすか、このガキ?」

 頭を押さえながらこちらをにらんでくる金髪に、水鏡は深く嘆息してその答えを言った。

「彼女はオムカのジャンヌ・ダルクよ。お前にはそれで分かるだろ」

「いや、分からないだろ」

 突っ込んでいた。
 それもそうで、そんな省いた説明で伝わるような奴は――

「スンマセンでしたー!!」

「は?」

 え? 伝わった?

 男は土下座せんばかり、いや、もう土下座してた。
 今までいきってた金髪を地面にこすりつけるほどに頭を下げて謝罪してきた。

 その本気度に、若干引く。

「ジャンヌ・ダルクといえば、先頭に立ってオムカを独立に導き、帝国の重鎮を何人も死に追いやった張本人! さらに度重なる帝国軍の侵略を、100回も跳ね返したオムカの英雄! その一番の戦果は、敵兵10万をわずか100人で追い払ったという天才的な策略には、生き残ったのはわずか数人というすさまじさ! 姐さんや国王サンが認める超英傑! 何より姐さんと同じ『闘技場の三女神』じゃないっすか! 去年の年始に開催されたニューイヤーライブではチケット即完売の30万人相手にマラソンライブを決行して3日3晩歌い続けたとかいう! くぅー、オレも見たかったぁー!」

「…………それ、誰の話?」

「何言ってんすか。ジャンヌ・ダルクさんのことですよ! これ、シータ王国で知らない人はいないっすから! つか、そんな偉大な方に、なめた口きいて、本当にスンマセンでした!」

 いや、それ絶対俺じゃない。
 どうやらこの世界には俺以外にもジャンヌ・ダルクっていう名前の人がいるみたいだなー。
 と軽く現実逃避。

「オレ……オレ……エンコつめさせていただきやす!」

「ちょ、ちょっと待て! 頼むからやめて!」

 本気で指を詰めそうな感じだったので、全力で止めた。
 てか姐さんとか指つめるとか。え? そっち系じゃないよね? 大丈夫だよね?

 というかさっきから聞いてる感じ、あまりに捏造が過ぎる。
 話を盛るとかそういうレベルじゃない。全部嘘じゃないか。

「えっと、水鏡?」

「あー、それはね。えっと……あきらのせい」

「あいつかよ!」

 九神明。シータ王国の王様にしてプレイヤーだ。

「まぁ本当はそんな感じじゃなかったんだけどね。なんとかって商人と意気投合して、こんな感じに……」

「商人って……」

「あ、でもアッキーの知り合いって言ってたかな?」

「…………それってミストって名前じゃないよな?」

「ん、いやそんな名前じゃなかったけど」

 よかった。
 あいつもそこまでめちゃくちゃな奴じゃないか。

「でも語尾が『~さ』ってちょっと独特な女の人だったね」

 はい決定!
 そんな語尾で女商人って1人しか知らない。

 てかあいつ何やってんの?

「アッキー。何か心当たりでも?」

「いや、知らない! 全然知らない人!」

 危ない危ない。
 なんかこっちのせいにされそうな気がした。

「そう。で、こっちだけど。あぁ、そうそう。良介、自己紹介」

 水鏡に促された金髪が、勢いよく起き上がって直立不動。

「う、うす! 姓は吉川きっかわ、名は良介、下町生まれの18歳。よく分からず途方に暮れたオレを救ってくれた姐さんの護衛を務めることになった新米っす! スキルは爆弾を――あだっ! な、なにするんすか、姐さん!」

「いいから。ちょっと喉乾いたから。ジュースもってきて」

「う、うす!」

 直立不動から敬礼した金髪――吉川は全速力でその場から駆け去って行ってしまった。

「まぁ、あんな感じ。便利なんだけど、素直というか、馬鹿というか……」

「それでパシらせるとかひどいな」

「ひどくないわよ。相手が望んでることをさせてるだけよ」

 それで十分にひどいと思うのは俺だけか?

「ミカ」

 と、雫が物静かに口を開いて、端的な言葉で俺たちの会話に割って入ってきた。

「聞かないの、講和のこと」

「!」

 水鏡が珍しく驚いたような表情を浮かべたが、それも一瞬。
 いつもの静かな顔に戻って俺をじっと見つめてくる。

 そして、

「ちょっと場所を移しましょうか」
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