知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第45話 愛良の決断

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 数日して、俺は愛良が働いている孤児院へと足を向けた。

 というのも里奈が、

「愛良がちょっと変なの。ぼうっとしてるというか、どこか上の空で。普通はしないミスとかもして。明彦くん、心当たりないかな??」

 そう言ってきたわけだけど、どのみち彼女のところに行くつもりではあった。
 おそらく同じ内容で、彼女と話がしたかったからだ。

 時間がかかったのは、マリアの出発について、その内容を詳細つめることになったためだ。
 仮にも一国の王が最前線に出向くのだ。警護体制は万全でなければいけないし、彼女の居住区やお世話をする人間をどうするかなど決めることは山ほどあった。

 ただ、そこまで大げさにならなかったのは、マリアがこう言い切ったからに他ならない。

『余の身の回りは全てニーアとお姉さまに任せるのじゃ。ほかの者はついてくる必要はない』

 豪胆というか、怖いもの知らずというか。
 まぁニーアがいればなんとかしてくれるだろう、という期待もある。

 だから対応は短時間で終わり、とはいえそれでも諸事を済ますのに時間がかかって俺はようやく孤児院へと足を向けられたわけで。

「あ、先輩! お久しぶりっです!」

 孤児院の庭で、子供たちとボール遊びをしている竜胆が俺に気づいて手を振ってくる。

 俺もそれに答えながらも、竜胆と、その横で生気のない表情の愛良へと近づく。

「あ、もう少し待っててください。もうすぐ自由時間が終わるので」

 あぁ、知ってるよ。
 そこを狙って来たわけだから。

 そしてちょうど5時の鐘が鳴る。
 子供たちが遊び道具をしまって建物の中へ入っているのを見ていると、竜胆と愛良が残る。

「あ、今日、竜胆はそろそろ出ないといけないのです」

「ん、そうか」

 それはある意味好都合だ。
 けど竜胆が用事があるってのが珍しいな。

「実は新沢さんの手伝いをすることになってですね」

 新沢……あぁ、あの新選組オタクの。
 今は王都の警備を担当してるとか。

「はい、とっても愉快で正義ジャスティスなんですよ」

 確かにあいつと竜胆は合いそうだ。
 それがいいかどうかは別にして。

「ただいつまでたっても竜胆の名前を憶えてくれないんですよね。いっつもソージ、ソージって。そんなお掃除が好きなんですかね?」

 多分それ総司だな。新選組一番隊組長の沖田総司。
 あの新選組脳は絶好調かぁ……。

「ではでは、そういうわけでまたです、先輩! 愛良さんも、また明日です!」

「……ああ」

 俺は手を振り、愛良は気のない返事をする。

 残った2人。
 俺と愛良。

 気まずい沈黙が流れ、それを打ち破ったのは愛良だった。

「ちょっとツラ貸しな」

「ああ」

 ぶっきらぼうに言い放つ愛良に、俺は頷く。

 もとよりそのつもりだったけど、機先を制された感じだ。
 てかツラ貸しなとか、初めて聞いたよ。校舎裏とか連れてかれないよな?

 いや、そうでないにしてもやることはきっと同じだろう。

 きっと彼女も待っていたのだ。
 俺に思いのたけをぶつける時を。

 怒りを。

 彼女は元の世界に娘さんを残してきたという。
 そのために元の世界に戻ろうと必死だった。俺の身を守る代わりに元の世界に戻すことを約束したが、こうして講和の流れとなれば、元の世界になどもどれないとなれば。

 俺に対して裏切者、と叫ぶくらいの権利は彼女にある。

 だからそう言われたのなら、俺は甘んじて受け入れるつもりだった。
 けどだからといって俺の主張を変えるつもりはない。悲しいことだが、お互いの立場と信念が完全に平行線になっている以上、衝突は避けられないと感じていた。

 先導は愛良。
 目的地があるのか足早に進んでいく。

 俺はその後ろを黙ってついていく。
 2人の間に会話はない。

「ここらでいいだろ」

 そう言って愛良が止まったのは、城内にある畑の近く。
 夕暮れも迫っているためか、周囲に人影はない。

 そこで愛良は城壁の向こうに沈みゆく夕日を眺めながら、不意にこう言った。

「するのか?」

「え?」

「講和だよ」

「……ああ」

 主語が後から来たため反応が遅れた。
 その話が振られるだろうと分かっていたのにできなかった。

「そうか……」

 愛良はそう呟いて黙り込む。
 その沈黙の間が、怖い。

「その、よく分かんねぇんだけど。講和すると、どうなるんだ?」

 一瞬、虚を突かれた。
 まさかそのことすらも分かっていなかったのか。

 いや、あるいは。
 俺からしっかりと説明を受けることにより、この現実を受け入れたいのか。

 だから俺は説明した。
 講和することにより、大陸の統一がなくなること。
 つまり女神の条件を達成することが不可能になること。
 そして俺たちはこの世界で生きていくしかないということ。

「つまり、あの世界には戻れないってことか」

「ああ。だが今すぐでなくとも、何年かしたら状況も変わるはずだし――」

「いや、もういい」

 止められてハッとした。
 俺はなんて適当なことを言ったんだ。
 そんな確約もないこと、気やすめにも何もなりやしないのに。
 余計に彼女のことを傷つけるだけなのに。

「……ふぅ」

 ため息をつく愛良。
 俺は怒鳴られるのかと思った。
 怒り狂い、何発かは殴られることも考えた。

 何せ、ビンゴへ出兵している時、彼女に命を助けられた時、俺は彼女に約束をした。
 必ず元の世界にもどしてみせる、と。

 それを一方的に破ったのだから、怒るのは当然だと思った。
 けど彼女は怒らなかった。内心では怒っているのかもしれないが、それを表に出そうとはしなかった。
 俺は謝るべきなのだろうか。
 いや、本当はそうすべきなのだろう。
 けど、どこかそれこそが本当の裏切りに思えてならなかったから、彼女を本気で傷つけることになりそうだから躊躇った。
 自分が傷つかないためにそうしたのかもしれない。

 だから静かに彼女は頷くと、

「そうか……」

 とだけつぶやいて、空を見上げた。

 そんな彼女に、俺は声をかけられないでいた。

 そしてその日は、それ以上言葉をかわすことなく、愛良とは別れた。
 後ろ髪を引かれる思いだが、やはり俺には彼女を説得できる気がしなかった。
 なんせ、俺には彼女ほど元の世界に戻る理由がなかったから。

 そして数日後。

「先輩、愛良さんがどこにもいないんですけど、知りませんか!?」

 竜胆からの報告に、慄然とした。
 手を尽くしたが、街でも孤児院でも愛良を見た人はいなかった。

 ビンゴ王国で出会って数か月。
 スキル『剣豪将軍』を持ち、ヤンキーが入ってるものの面倒見がよくて一児の子持ちで俺の命の恩人の澪標愛良は。
 別れの挨拶もないまま、オムカからその姿を消した。
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