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第5章 帝国決戦
第49話 最後の夜
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いよいよ明日、帝国との講和会議が開かれるわけで、その最後の日には、夜を徹して明日に対する準備をしている――
「隊長殿ー飲んでますかー?」
――わけがなかった。
お祭り騒ぎだった。
緊張感のかけらもなかった。
「つかクロエ。お前、まだ二十歳じゃないだろ」
「何言ってるんですか? 15歳過ぎればもう成人! お酒も飲めます!」
「飲めるか!」
あー……つーか、あれか。
元の世界とこの世界じゃあ基準が違うのか。
いや、だからってみのがしていいわけじゃないけど!
「実はクロエは二十歳なのです!」
「嘘つけ!」
「いや、でもほぼほぼ20歳ですよ! 隊長殿ももう15歳過ぎてましたですよね? いいからいいからー、クロエのお酒を飲むのですー」
「断固ノン!」
「違いますよー、これお酒じゃないですー。ちょっと癖のある炭酸ジュースですー」
「癖凄すぎだからな!」
本当なら説教ものだけど、周囲ももう色々騒がしくて出来上がってる状態だからどうしようもない。
あぁ、この空気。苦手だ。
「隊長!」
ふと振り返ると、絶対安静だったはずのマールがそこにいた。
「マール、もういいのか?」
「ええ! こんな時に休んでられません! クロエ! 隊長がお酒は二十歳からと言ってるでしょう! いつまで隊長を困らせるの!」
おお、さすが隊の風紀委員。
よし、どんどん行け。
「まぁまぁ、そう怒鳴るな、マール」
「そうそう、マールも退院祝いで飲んでおこうよー」
「ちょ、ウィットにルック!? なにを……」
「ほらほらー、クロエのジュースを飲めないのかー!」
「あ、やめ、クロエ……ごくっ……ごくっ……」
俺が止める間もなく、ウィットとルックに羽交い絞めにされたマールは、クロエの持つ自称炭酸ジュースを無理やり流し込まれる。
うわぁ、辛いぞあれ。
「こ、これは……」
一杯飲み切ったマールが、わなわなと体を震わせる。
お、怒ったか!?
だが――
「美味しいー、もう一杯ー」
クロエの手からもう1つのコップをぶんどってごくごく飲み始めた風紀委員。
マール堕つ……。
あれ?
ってことは、俺の防壁がいなくなったわけで……。
「さぁ、隊長殿もいっぱいどうですか?」
「こいつと同意見なのは気に食わないですが、明日のために力入れておきましょう!」
「美味しいですよー」
ヤバイ、これは完全にヤバイ。
ここで俺がそのジュースを飲んだら、色々と問題が出る。
「さぁ、たいちょー。いっしょに飲んで気持ちよくなりましょー」
「マール、ピッチ早すぎないか!?」
「そんなことないでしゅよー……ん? ……ぶはぁ! き、傷が……!」
無理な飲みっぷりが傷にさわったらしい。
マールが口から血を吐き出して、その場で倒れた。
おいおい、ヤバイだろ、これ!
「誰か医者! 医者連れてこい!」
辺りがさらに騒然とする中、俺はこれを好機ととらえた。
マールにはかわいそうだが、マールに付き添ってその場から脱出。
マールの看病につきしたがい、容体が安定するのを見定めてからその場を離れた。
さすが知力99。
チャンスをものにする術を分かってる。
というわけでバカ騒ぎのグラウンドゼロから離脱して、城壁の上の誰もいない場所へと退避した。
……ふぅ。
なんというか、やっぱりこの空気苦手だ。
元の世界でも、酒は飲めたとはいえそんなに強くない。というより、飲んで騒ぐのがそれほど好きじゃなかった。人付き合いが苦手だったと言ってもいい。
けど、こうして傍から見て、幸せそうに騒いでいるのを見ている分には、なんとなく俺も楽しくなってくるのだ。
だから城壁にもたれかけながら、下で行われている宴会をぼんやり眺めていると、
「明彦くん、見つけた」
「里奈……」
誰かと思って身構えたが、里奈で安心した。
「飲んでないのか?」
「ん、ちょっとね。明彦くんともお話ししたかったし」
講和の話から王都に戻ってからここまで、確かに里奈と2人きりになる時間はほぼなかった。
だからここで、ある意味転換点となる日の前日に、里奈と俺も話がしたかった。
それがなんだか通じ合えたみたいで、少し嬉しい。
「それに私、お酒弱いし」
「あー……弱い?」
頭をよぎるのは、あの惨劇の夜と言ってもいい日。
弱いというか、なんというか。
「え、もしかしてなんか変なことした!?」
「……いや、覚えてないならいい」
「え? え? ちょっと、私何したの? 気になる!」
「いや、俺の口からはちょっと……」
「それって絶対ヤバイやつ! 姉としても、人としても!」
ずーんと落ち込んでしまった里奈。
いや、まぁそこまででもないか。
ちょっと酒乱ってだけ……ちょっと? ちょっと? いや、うん。黙っておこう。
「私、もう絶対お酒飲まない!」
「あー、まぁ、ほどほどに、な」
「明彦くん、見てて! 私は過去の失敗を克服する女だから!」
そこまで決意することなのか。
まぁお酒の失敗はね、そう考えるよね。けどそう言って成功したって話は聞いたことないけど。
「ところで話ってなんだ?」
里奈が決意を新たにしたということで、改めて本題に入る。
「あ、えっとね。その、一応明日で平和になるんでしょ?」
「まぁ、会議がうまくいけばだけどな」
「大丈夫、明彦くん、これまでたくさん頑張ってきたんだから。絶対大丈夫」
「……ありがとう」
こう直截的にはっきりと言ってくれると、なんだか勇気が湧いてくるから不思議だ。
とはいえ、ありがたいけど、わざわざそれを言いに来たのか?
「それでね、明彦くんはどうするのかな、って」
「どうするって?」
「ん、それはもう。これから」
「これから?」
「そう、平和になって、この世界で生きてくとして、その時に、明彦くんはどうするのかなって」
これから、か。
「そういえば考えてなかったな……」
改めて考えてみると、俺にできることなんてそうそうないわけで。
軍は解散しないだろうけど、国境の警備が主な仕事になるとそこに軍師の仕事はない。
かといって俺の政治力で政治家になろうとするのも難しいだろう。というかマツナガとそんな毎日顔を合わせたくない。
そう考えると俺にできることは何かという話になる。
歴史の研究?
といっても俺は戦史専門なわけで。
ようやく平和になったのに、また血なまぐさいことをやるとか。
それに誰に対して策を練るというのか。
もう戦う相手もいなくなるというのに。
つくづく、俺は平和な時代においてはごく潰しの能無しになるらしい。
「うーーーーーん?」
あれ? それってヤバくね?
知力99の軍師とか言ってるけど、平時には無駄知力のニートが爆誕するってこと!?
「だ、大丈夫だから、明彦くんは私が養ってあげるから!」
心遣いは嬉しいけど、それってヒで始まってモで終わる2文字のやつじゃない?
「てゆうか養うって、里奈は決まってるのか?」
「ん……うん、まぁ」
里奈が少し恥ずかしがるように、小さく何度か頷く。
せっかくこんな話をするのも今しかないわけで、俺は里奈を促した。
「その、前に言ったじゃない? 教師になりたいって」
「あぁ、そうだったな」
「だから、その……学校を作りたいなって」
「……ほぉ」
「や、やっぱ変、かな? 私が、教師とか」
「いや、素晴らしいと思う」
俺のやろうとしていることと違い、彼女は未来に向いている。
それは喜ぶべきことであって、決して笑うようなことじゃない。
「だから応援したいよ。平和な新しい時代を担う人間を育てるってことだからな」
「そ、そうかな」
「あぁ。ってことは、やっぱり数年とかじゃ駄目だな。なんとかしてこの和平を恒久的なものにしていかないと」
「あ、うん。その、そうなんだけど」
なんだか里奈の様子が変だ。
どもっているというか、なんだか自信がなさげに思える。
といっても仕方ないか。
まだ教職とか取る時期じゃなかったし、いきなりそんなことを考えて実行しようと思えば委縮するのも当然。
だが、里奈の心配は別のところだった。
「実はね。学校を作るとか、よく分からないし。どうしたらいいかなって」
なるほど。
前の世界とは違って、学校があるところに行くのではなく、学校を作る所からだから、その大変さは尋常じゃないだろう。
里奈が暗くなるのも分かる。
「あー、そこらへんはそうだな。うーん、じゃあマツナガに金を出させるか。国の発展のために教育は必要だしな」
「えっと、それもそうだけど、やっぱり人手も……」
「確かに。それならうってつけがいるんじゃないか? 竜胆ならきっと良い先生、ってか遊び仲間かな、あれは。あ、それとイッガーなんかも頭いいし、きっといい教師に――」
「明彦くん」
「へ?」
なんか里奈の声のトーンが1つ下がった。
あれ、これ不機嫌な時の里奈の声。
俺なにかした?
「私、学校、作る。とても、大変」
「あ、ああ。分かってるよ」
てかなんでカタコト?
逆に怖いんだけど。
すると里奈はぷぅっと頬を膨らませて、
「もう! なんで気づかないのかな! 明彦くんはそんなにぶちんなのかな! 私はね、私は…………明彦くんに手伝ってもらいたいの」
「俺に?」
俺が、里奈の手伝いをする。
ん? ってことはこれは――その、一緒に学校経営ルート?
里奈と?
一緒に?
「…………俺でいいの?」
「明彦くんがいいの!」
「姉として?」
「それは一旦置いといて!」
顔を真っ赤にして里奈が叫ぶ。
えーっと……。
まさかそんな風に言われるとは思わず、頭が真っ白です。
なんかこれ、遠回しだけど、いや、違うよな。まさかそんなはずがない。
でも、一緒に事業を立ち上げる、って話とはまたちょっと違う気がする。
もはやこれは、告白と呼ばれるようなものと考えてもいいのか?
いや、それはさすがに自意識過剰だろ。
ないない。
ない、けど……。
正直、里奈のことは元の世界の時から気になっていた。
だからこそ元の世界に戻ろうとしていたわけで。
けどこの世界で出会って、俺がこんな姿になって、もう里奈とどうこうなるとかはある意味諦めていたところなんだけど。
だからこれをそういう風に受け取ってよいのか。
少なくともからかっているような空気出ないのは感じているけど、正直頭の中はクエスチョンマークばかりだった。
「俺は――」
その時、俺は何と応えようとしたのだろう。
それは永遠に分からなかった。
なぜならその時――
「あー! ジャンヌここにいたー!」
馬鹿の乱入だ。
しかもその後に、
「ジャンヌー! 今日はこの衣装を着るのじゃー!」
「ふっふ、先日の女王様とのコスプレツーショットは売上爆増の大成功だったさ。これを定期的に打ち出せば、もう止めることはできないさ!」
「隊長殿はどこですかー! 隊長殿にジュースを飲ませるのでーす!」
「ジャンヌ様、いけません。ジャンヌ様にはまだお早い!」
「そうだそうだー! アッキーはどこだー! あたしをこんなところまで連れてきた責任を取れー!」
「あ、姐さん! まずいですって、それ以上は……」
「おにく、おいしい」
はぁ……騒がしいのがたくさん来た。
里奈を見るとあからさまに残念そうにしながらも、どこかホッとしていた様子。
俺も同じだ。
その里奈が、連中に囲まれる前に俺に近づき、
「また今度、ね」
耳打ちされた。
なんだかその吐息が、どこかとても官能的で、自らが女の体ながらもどこか熱くなる気分だ。
「さぁ、飲むぞー!」
そんな俺らをよそに、ニーアが酒を片手に騒ぎ出す。
まったく。
明日にはこの世界の行く末を決める大事な日だってのに。
まぁいい。
こいつらとなら、もう少し騒いでも罰は当たらないだろう。
なんてことを思った俺は、色々と見通しが甘かったと後になって後悔する。
そう。これが。
皆と一緒に楽しく騒ぐ――
最後の夜だった。
「隊長殿ー飲んでますかー?」
――わけがなかった。
お祭り騒ぎだった。
緊張感のかけらもなかった。
「つかクロエ。お前、まだ二十歳じゃないだろ」
「何言ってるんですか? 15歳過ぎればもう成人! お酒も飲めます!」
「飲めるか!」
あー……つーか、あれか。
元の世界とこの世界じゃあ基準が違うのか。
いや、だからってみのがしていいわけじゃないけど!
「実はクロエは二十歳なのです!」
「嘘つけ!」
「いや、でもほぼほぼ20歳ですよ! 隊長殿ももう15歳過ぎてましたですよね? いいからいいからー、クロエのお酒を飲むのですー」
「断固ノン!」
「違いますよー、これお酒じゃないですー。ちょっと癖のある炭酸ジュースですー」
「癖凄すぎだからな!」
本当なら説教ものだけど、周囲ももう色々騒がしくて出来上がってる状態だからどうしようもない。
あぁ、この空気。苦手だ。
「隊長!」
ふと振り返ると、絶対安静だったはずのマールがそこにいた。
「マール、もういいのか?」
「ええ! こんな時に休んでられません! クロエ! 隊長がお酒は二十歳からと言ってるでしょう! いつまで隊長を困らせるの!」
おお、さすが隊の風紀委員。
よし、どんどん行け。
「まぁまぁ、そう怒鳴るな、マール」
「そうそう、マールも退院祝いで飲んでおこうよー」
「ちょ、ウィットにルック!? なにを……」
「ほらほらー、クロエのジュースを飲めないのかー!」
「あ、やめ、クロエ……ごくっ……ごくっ……」
俺が止める間もなく、ウィットとルックに羽交い絞めにされたマールは、クロエの持つ自称炭酸ジュースを無理やり流し込まれる。
うわぁ、辛いぞあれ。
「こ、これは……」
一杯飲み切ったマールが、わなわなと体を震わせる。
お、怒ったか!?
だが――
「美味しいー、もう一杯ー」
クロエの手からもう1つのコップをぶんどってごくごく飲み始めた風紀委員。
マール堕つ……。
あれ?
ってことは、俺の防壁がいなくなったわけで……。
「さぁ、隊長殿もいっぱいどうですか?」
「こいつと同意見なのは気に食わないですが、明日のために力入れておきましょう!」
「美味しいですよー」
ヤバイ、これは完全にヤバイ。
ここで俺がそのジュースを飲んだら、色々と問題が出る。
「さぁ、たいちょー。いっしょに飲んで気持ちよくなりましょー」
「マール、ピッチ早すぎないか!?」
「そんなことないでしゅよー……ん? ……ぶはぁ! き、傷が……!」
無理な飲みっぷりが傷にさわったらしい。
マールが口から血を吐き出して、その場で倒れた。
おいおい、ヤバイだろ、これ!
「誰か医者! 医者連れてこい!」
辺りがさらに騒然とする中、俺はこれを好機ととらえた。
マールにはかわいそうだが、マールに付き添ってその場から脱出。
マールの看病につきしたがい、容体が安定するのを見定めてからその場を離れた。
さすが知力99。
チャンスをものにする術を分かってる。
というわけでバカ騒ぎのグラウンドゼロから離脱して、城壁の上の誰もいない場所へと退避した。
……ふぅ。
なんというか、やっぱりこの空気苦手だ。
元の世界でも、酒は飲めたとはいえそんなに強くない。というより、飲んで騒ぐのがそれほど好きじゃなかった。人付き合いが苦手だったと言ってもいい。
けど、こうして傍から見て、幸せそうに騒いでいるのを見ている分には、なんとなく俺も楽しくなってくるのだ。
だから城壁にもたれかけながら、下で行われている宴会をぼんやり眺めていると、
「明彦くん、見つけた」
「里奈……」
誰かと思って身構えたが、里奈で安心した。
「飲んでないのか?」
「ん、ちょっとね。明彦くんともお話ししたかったし」
講和の話から王都に戻ってからここまで、確かに里奈と2人きりになる時間はほぼなかった。
だからここで、ある意味転換点となる日の前日に、里奈と俺も話がしたかった。
それがなんだか通じ合えたみたいで、少し嬉しい。
「それに私、お酒弱いし」
「あー……弱い?」
頭をよぎるのは、あの惨劇の夜と言ってもいい日。
弱いというか、なんというか。
「え、もしかしてなんか変なことした!?」
「……いや、覚えてないならいい」
「え? え? ちょっと、私何したの? 気になる!」
「いや、俺の口からはちょっと……」
「それって絶対ヤバイやつ! 姉としても、人としても!」
ずーんと落ち込んでしまった里奈。
いや、まぁそこまででもないか。
ちょっと酒乱ってだけ……ちょっと? ちょっと? いや、うん。黙っておこう。
「私、もう絶対お酒飲まない!」
「あー、まぁ、ほどほどに、な」
「明彦くん、見てて! 私は過去の失敗を克服する女だから!」
そこまで決意することなのか。
まぁお酒の失敗はね、そう考えるよね。けどそう言って成功したって話は聞いたことないけど。
「ところで話ってなんだ?」
里奈が決意を新たにしたということで、改めて本題に入る。
「あ、えっとね。その、一応明日で平和になるんでしょ?」
「まぁ、会議がうまくいけばだけどな」
「大丈夫、明彦くん、これまでたくさん頑張ってきたんだから。絶対大丈夫」
「……ありがとう」
こう直截的にはっきりと言ってくれると、なんだか勇気が湧いてくるから不思議だ。
とはいえ、ありがたいけど、わざわざそれを言いに来たのか?
「それでね、明彦くんはどうするのかな、って」
「どうするって?」
「ん、それはもう。これから」
「これから?」
「そう、平和になって、この世界で生きてくとして、その時に、明彦くんはどうするのかなって」
これから、か。
「そういえば考えてなかったな……」
改めて考えてみると、俺にできることなんてそうそうないわけで。
軍は解散しないだろうけど、国境の警備が主な仕事になるとそこに軍師の仕事はない。
かといって俺の政治力で政治家になろうとするのも難しいだろう。というかマツナガとそんな毎日顔を合わせたくない。
そう考えると俺にできることは何かという話になる。
歴史の研究?
といっても俺は戦史専門なわけで。
ようやく平和になったのに、また血なまぐさいことをやるとか。
それに誰に対して策を練るというのか。
もう戦う相手もいなくなるというのに。
つくづく、俺は平和な時代においてはごく潰しの能無しになるらしい。
「うーーーーーん?」
あれ? それってヤバくね?
知力99の軍師とか言ってるけど、平時には無駄知力のニートが爆誕するってこと!?
「だ、大丈夫だから、明彦くんは私が養ってあげるから!」
心遣いは嬉しいけど、それってヒで始まってモで終わる2文字のやつじゃない?
「てゆうか養うって、里奈は決まってるのか?」
「ん……うん、まぁ」
里奈が少し恥ずかしがるように、小さく何度か頷く。
せっかくこんな話をするのも今しかないわけで、俺は里奈を促した。
「その、前に言ったじゃない? 教師になりたいって」
「あぁ、そうだったな」
「だから、その……学校を作りたいなって」
「……ほぉ」
「や、やっぱ変、かな? 私が、教師とか」
「いや、素晴らしいと思う」
俺のやろうとしていることと違い、彼女は未来に向いている。
それは喜ぶべきことであって、決して笑うようなことじゃない。
「だから応援したいよ。平和な新しい時代を担う人間を育てるってことだからな」
「そ、そうかな」
「あぁ。ってことは、やっぱり数年とかじゃ駄目だな。なんとかしてこの和平を恒久的なものにしていかないと」
「あ、うん。その、そうなんだけど」
なんだか里奈の様子が変だ。
どもっているというか、なんだか自信がなさげに思える。
といっても仕方ないか。
まだ教職とか取る時期じゃなかったし、いきなりそんなことを考えて実行しようと思えば委縮するのも当然。
だが、里奈の心配は別のところだった。
「実はね。学校を作るとか、よく分からないし。どうしたらいいかなって」
なるほど。
前の世界とは違って、学校があるところに行くのではなく、学校を作る所からだから、その大変さは尋常じゃないだろう。
里奈が暗くなるのも分かる。
「あー、そこらへんはそうだな。うーん、じゃあマツナガに金を出させるか。国の発展のために教育は必要だしな」
「えっと、それもそうだけど、やっぱり人手も……」
「確かに。それならうってつけがいるんじゃないか? 竜胆ならきっと良い先生、ってか遊び仲間かな、あれは。あ、それとイッガーなんかも頭いいし、きっといい教師に――」
「明彦くん」
「へ?」
なんか里奈の声のトーンが1つ下がった。
あれ、これ不機嫌な時の里奈の声。
俺なにかした?
「私、学校、作る。とても、大変」
「あ、ああ。分かってるよ」
てかなんでカタコト?
逆に怖いんだけど。
すると里奈はぷぅっと頬を膨らませて、
「もう! なんで気づかないのかな! 明彦くんはそんなにぶちんなのかな! 私はね、私は…………明彦くんに手伝ってもらいたいの」
「俺に?」
俺が、里奈の手伝いをする。
ん? ってことはこれは――その、一緒に学校経営ルート?
里奈と?
一緒に?
「…………俺でいいの?」
「明彦くんがいいの!」
「姉として?」
「それは一旦置いといて!」
顔を真っ赤にして里奈が叫ぶ。
えーっと……。
まさかそんな風に言われるとは思わず、頭が真っ白です。
なんかこれ、遠回しだけど、いや、違うよな。まさかそんなはずがない。
でも、一緒に事業を立ち上げる、って話とはまたちょっと違う気がする。
もはやこれは、告白と呼ばれるようなものと考えてもいいのか?
いや、それはさすがに自意識過剰だろ。
ないない。
ない、けど……。
正直、里奈のことは元の世界の時から気になっていた。
だからこそ元の世界に戻ろうとしていたわけで。
けどこの世界で出会って、俺がこんな姿になって、もう里奈とどうこうなるとかはある意味諦めていたところなんだけど。
だからこれをそういう風に受け取ってよいのか。
少なくともからかっているような空気出ないのは感じているけど、正直頭の中はクエスチョンマークばかりだった。
「俺は――」
その時、俺は何と応えようとしたのだろう。
それは永遠に分からなかった。
なぜならその時――
「あー! ジャンヌここにいたー!」
馬鹿の乱入だ。
しかもその後に、
「ジャンヌー! 今日はこの衣装を着るのじゃー!」
「ふっふ、先日の女王様とのコスプレツーショットは売上爆増の大成功だったさ。これを定期的に打ち出せば、もう止めることはできないさ!」
「隊長殿はどこですかー! 隊長殿にジュースを飲ませるのでーす!」
「ジャンヌ様、いけません。ジャンヌ様にはまだお早い!」
「そうだそうだー! アッキーはどこだー! あたしをこんなところまで連れてきた責任を取れー!」
「あ、姐さん! まずいですって、それ以上は……」
「おにく、おいしい」
はぁ……騒がしいのがたくさん来た。
里奈を見るとあからさまに残念そうにしながらも、どこかホッとしていた様子。
俺も同じだ。
その里奈が、連中に囲まれる前に俺に近づき、
「また今度、ね」
耳打ちされた。
なんだかその吐息が、どこかとても官能的で、自らが女の体ながらもどこか熱くなる気分だ。
「さぁ、飲むぞー!」
そんな俺らをよそに、ニーアが酒を片手に騒ぎ出す。
まったく。
明日にはこの世界の行く末を決める大事な日だってのに。
まぁいい。
こいつらとなら、もう少し騒いでも罰は当たらないだろう。
なんてことを思った俺は、色々と見通しが甘かったと後になって後悔する。
そう。これが。
皆と一緒に楽しく騒ぐ――
最後の夜だった。
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