知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話11 マリアンヌ・オムルカ(オムカ王国女王)

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「女王様、よろしいでしょうか」

 ノックがして、ニーアの声が聞こえる。
 どうやら時間のようだ。

「うむ、入るのじゃ」

「失礼します」

 ドアを開けて入ってきたのは、目立つ赤い髪を油で固めて後ろにまとめたニーア。
 さらにいつもと異なり、パンツルックの姿はまるで男装の麗人。

 うーむ、いいのぅ。
 脚が長いと、こうも似合うんじゃなぁ。

 対する自分も、いつもと少し違う。
 国外のVIPに会うため、少し派手目に着飾っている。
 とはいえいつもの延長線上のドレスというところが、なんとも面白みもない。

 外交に面白みを持ち込むのも違うのだけど、少しくらいはおしゃれな感じに決めてみたいもの。

 とはいえ今日、これからがジャンヌの助けとなる重要な場となるのだから、少し気を引き締めなければ。

「準備は、よろしいでしょうか?」

「うむ、では参ろうかの」

 着替えを手伝ってくれたお付きを下がらせる。
 そしてニーアに先導させ、部屋から出たそこは、いつもの王宮ではない。

 ここは王都バーベルから南西に10キロ行ったコリョの街。
 南群とを遮る河川の岸にあり、川を遡ればビンゴ王国へ、下ればシータ王国へと続くため、人の往来が多く、様々な人間が集まって昔から王都に次ぐ第二の都市としてにぎわっていた。
 ジャンヌは交通の要所として、ここの発展にも気を使っていたというけど、実際に来て見てみれば、その発展ぶりも目を見張る想いだ。

 コリョの街の、一番格式の高いホテル。
 その一室に自分はいた。

 ジャンヌが北で頑張っている中、こんなところでバカンスをしているのか、と言われればはっきりと否定しよう。
 自分もここに戦いに来た。

 もちろん剣をもってどうこうできるはずもない。
 だからここで行われるのは、血の流れない戦い。
 けど、この戦いの趨勢を握るだろう戦いだ。

「これは、女王様。いつもと違い、お美しいいで立ちで」

 1つの扉の前で、宰相のマツナガが待っていた。
 隣にいるスラっとした女性は、ニーアがつけた彼の補佐官(もとい監視役)だという。

 先年の南群によるクーデターを裏で操っていたという噂の男。
 それでもジャンヌが毛嫌いしながらも頼りにしているところを見ると有能なのだろうけど、やはりどうも良い印象は持たない。そもそもの出会いが最悪だったのだ。

 だから今のはっきりとお世辞以外の何物でもないものの応対には、ついとげとげしい口調になる。

「いつもは美しくないような言い方じゃな」

「ええ、いつもは可憐とお呼びした方がよいかと考えておりまして。いや、しかしお仕えして1年。こうも成長の速さを感じると、私が年寄りになった印象を受けます」

「おべっかはよいのじゃ。それで? 諸侯は集まっておるのか?」

「ええ、我が国は彼らの盟主でありますから。彼らを待たせる権利はありましょう」

「お主の旧主であるドスガ王国も来ておるのじゃろう?」

「ええ、ええ。しかしあの国はもう共和国と名前を変えており、私とは一切関係がございません。今、私がお仕えするのは、マリアンヌ・オムルカ様、ただ1人ですとも」

 どうやらこの厚顔無恥な男には、自分程度の皮肉では通用しないようだ。
 ジャンヌならこういう時、なんていうんじゃろうのぉ。

「宰相、くだらないおしゃべりは来年にして。それともこってりしぼられたい?」

「おっと、これは失礼しました。さすがに貴女にしぼられるのはごめんですからな。それでは女王様、こちらになります。しかし本当によろしいので? 私が出席しなくとも?」

「よい。余が話すからこそ、意味があるのじゃ」

「さすが、かつての大陸の支配者オムルカ家の血統。群衆を遊び転がし、踏みにじることがお得意ですな」

「貴様!」

「ニーア、良いのじゃ」

 つかみかかろうとしたニーアを引き留める。
 正直、無礼この上ないが、今に始まったことではないし、もともとこの世界の人間ではないと聞けば、それもまた仕方がないとは思う。

 むしろこんな男に構って、せっかくの準備を無駄にしたくない。

「冗談ですよ。この私相手にここまで冷静を保てたのです。もはや貴女は一国の王たる気概を備えておられる。中にいるのはお人よしと、衆愚政治の犠牲者、プライドが高いだけの愚者と、金の亡者にことなかれ主義者。かつてオムカを支配していたという、帝国の海千山千の狸どもよりははるかに楽でしょう。存分に手玉に取られますよう」

 そう言って最敬礼するマツナガ。
 本当に、この男は分からない。
 だからこそ良い印象を持たないのだけど、なんとなく緊張をほぐしてくれたのは伝わった。

「では、参る」

「いってらっしゃいませ」

 マツナガがドアを開ける。
 奥は窓から光が取り入られているからか、とても明るい。

 光に包まれる廊下を、ドレスに躓いて転ばないよう、ゆっくり、だがしっかりとした足取りで進んでいく。

 緊張はしている。
 けど、これもジャンヌのための戦い。
 そう思えば、勇気が湧いてくる。

 それに先にマツナガが言っていた、あのハカラとロキンに比べれば遥かにくみしやすいはず。
 あの傀儡の日々を抜け、これでも少しずつ女王であることを学んできたのだ。
 今の自分なら、きっと戦える。

 だから1つ深呼吸すると、再び歩みを進めそのまま光のある部屋の中へと入った。

 そこは大広間で、中央に円卓が設置されている。
 席は6つ。

 その5つまでが埋まっていて、残りの1つが自分の席だ。

 ドアが開いてから、着席した5人の視線を受けている。

 その誰もが男――しかも自分なんかの2回り以上も年上の男たちだ。
 それぞれ、ワーンス、トロン、スー、フィルフの国王、そしてドスガ共和国の首相。

 5人が5色の意味を持った視線をこちらに投げかけてくる。
 それをわざと無視して、自分は部屋を横切り、そして自分の座るべき椅子の後ろに立つ。

「お待たせしたのじゃ。余がオムカ王国第37代王女、マリアンヌ・オムルカじゃ」

 そう宣言して、着席する。
 一応、南群とは協定関係にあるものの、その一番上に立つ盟主的な立ち位置にオムカはある。だから一番年下でも、この場では自分が一番上だ。

 それを明らかに快く思っていないのが、トロンとスーの国王だ。
 マツナガ評いわく、プライドが高いだけ、と金の亡者とのこと。

 そう考えると、恐ろしそうな目でこちらを射抜く2人も、実は怖くないのではと思ってしまうのだから不思議だ。

「皆、忙しい中、急に集まっていただき申し訳ないと思うと同時、感謝するのじゃ。そもそも我々は――」

「能書きは無用。今、陛下がおっしゃったように我々は忙しい。さっさと要件を聞いて帰りたいのだ」

 そう話を遮ってきたのはトロン王国の国王。
 痩身の初老で、長く伸ばしたあごひげを手でもてあそんでいる。

 どうやら彼は最初に発言することで、議長の代わりをしたいのだろう。
 プライドが高いということだけど、国土の半分が砂漠でおおわれているため、国力としては下の方だ。

「へへっ、トロンの、言うじゃねーか。その通り。俺たちは儲け話の途中で抜けてきたんだ。せめて稼げる話じゃねーと、ここに来た意味はねーなぁー」

 スー王国の国王は、脂ぎった感じでいかにも下世話な雰囲気の男だ。
 両手にじゃらじゃらと、宝石の指輪を鳴らしていて、目障り耳障りだ。
 砂漠を超えてくる商隊の通り道ということで、トロンと同じくらいの国土だが、それにより莫大な利益を得ているという。

「はぁ、おぬしらは口を開けば金、金、金、金、金。もう少し為政者としての自覚をもたれよ」

 そう2人をたしなめるのは南群の中央に存在するフィルフの国王。
 だいぶ高齢で、去年は病を患っていたと聞いたが、今回、無理を推して出てきていただいた。
 ジャンヌは人の好いおじいさんと言っていたが、ことなかれ主義と言えばそうなのかもしれない。

「別に私は金とは言っておらん。そこの拝金至上主義の成金野郎と一緒にしないでいただこう」

「はんっ、お前さんの国だってうちのおこぼれに預かってるくせに。つか、それがなかったら、産業もねぇ、農業もできねぇお前さんの国は、今頃倒産してんじゃねーの? え、違うか? トロンの?」

「おぬしら、いい加減にせんか。昔から国境を争っては周辺に迷惑を振りまく慮外者が」

「黙ってろ、死にぞこないの老いぼれ!」「金にならねー爺は引っ込んでろ!」

「老いぼれだと! 許せん、このわしを侮辱するとは、この若造が!」

「ま、まー、まー。少し落ち着きませんか」

 ようやく参戦した気の弱そうなワーンス国王。
 だが彼の小さく弱々しい声は、3人の激昂した男を止めることはできなかった。

 このままでは会議が破綻する。
 けど焦りはない。

 じっと彼らを観察する。
 なるほど。確かにこの者たちは、あのロキンどころかハカラより小さい。

 あの帝国の猛者に立ち向かっていったジャンヌに教えを受けた以上、ここで自分が退くわけにはいかない。

 だから、気づかれないよう深く深呼吸。
 隣のニーアと視線が合った。
 彼女は少し微笑んで小さくうなずく。
 それだけで少し勇気が出た。

 そう、勇気だ。
 あとは、勇気の問題。

 だから――

「いつまでそうしておるのだ!」

 ダァン、と激しく机をたたき、あらんかぎりの声で叫ぶ。
 一瞬、静寂が室内を支配した。
 そこに畳みかけるように、彼らを制する言葉を吐く。

「ここには争いに来てもらったのではない。これからの平和を成すために集まってもらったのじゃ」

 まさか一番年下の自分がここまで強気で来るとは思わなかったのだろう。
 誰もが黙り込み、目を白黒させて落ち着かない様子でこちらを見る。

 ジャンヌをちょっと真似てみたんじゃが、うん、少しスカッとした。
 これはちょっと病みつきになるかもしれんの。

 ……いや、いかん。
 国を背負う人間が、そんな一時の感情に支配されては。

 だから頭を切り替えて、すぐに本題に移る。

「すぐに本題に入らなかったことは謝ろう。しかし、ここは諸国、そしてオムカが協力し合わなければ生きのびることができん時期に入っておる。じゃからぜひ、諸国の力を貸してほしい。この通りじゃ」

 頭を下げる。
 王としてのプライド、それを捨てるだけでジャンヌが救えるのならいくらでも捨てる。

 突然の流れに静まり返った部屋の中、

「1つ、よろしいだろうか」

 これまで沈黙を守っていたドスガ共和国の代表が遠慮がちに手を挙げた。

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