知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話21 大山雫(シータ王国四峰)

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 敵が近づいてくる。

「っそ! いや、味方に合流します! って、ちょ! 俺らごと撃つ気かよ!」

 視界が急旋回した。
 それは馬が横に方向転換したことを示す。

 その直後、耳をつんざく号砲が鳴り響く。
 鉄砲の斉射だ。

 追ってくる騎兵隊がバタバタと倒れた。

 その間に敵と距離を稼いだ良介は、ようやく馬の速度を落とした。

「無事か」

「殺されるところだったぜ!? あんたらによ!」

 良介が文句を言ってるのは、確かオムカの鉄砲隊隊長。
 顔は見えないけど、確かこんな声だった。

 てゆうかいつまで担がれてるんだろう。

「良介、降ろす」

「あ、すんません。雫さん」

 視界が回って、馬から降りた。
 ずっと担がれて馬に揺られていたから、着地した瞬間によろめいた。

「おっと、大丈夫か?」

 と、誰かの体に当たった。
 大きくて、硬い。

 硝煙の匂いのする、背の高い男の腹部。
 見上げれば、自分の体を受け止めるようにしていた、鉄砲を担いだ男がニッと口だけで笑う。

「放す」

 なんだか不快になって、つっけんどんに言って離れる。
 あるいは彼と雰囲気が似ていたからかもしれない。

「ちょっと雫さんに何する!」

「別に何もしてないさ。しかし……これは嫌われたかな?」

 噛みつく良介に男が苦笑しながらつぶやく。
 その態度も、なんだか癇に障った。

 だが男はふと視線を外し、

「さて、のんびりもしてられないぞ。団体さんの到着だ」

 視線の先には確かに歩兵の大軍が地面を鳴らしながらこちらに向かってくるのが見えた。
 騎兵隊とは逆側。

 男の説明では、どうやら騎兵隊に目を引き付けておいて、その間に逆から出た歩兵が距離を稼ごうということらしい。よく分からない。

「本隊は動いてくれているが、正直微妙だな。逃げようと思うが、大砲はどうするかい?」

 見れば大砲を操っていた部下たちは、もう及び腰になって戦々恐々としている。
 大砲は彼らの武器。これまでも大事に扱えと言ってきたから、それを守るために戦うか、置いていくなんてもってのほかと思っているのかもしれない。

 とはいえ、彼らに直接戦えといっても無理な話だ。
 大砲が武器とはいえ、あの大軍相手では距離を詰められれば即全滅する。
 その前に騎兵隊が後ろに回ったら終わりだ。大砲の方向転換はそう簡単なものじゃない。

 だからここで留まって戦っても意味はない。全滅するだけ。
 自分の命はどうでもよくても、他人の、部下たちの命を賭けさせていいとは思っていない。

「捨ててく」

「賢明な判断だ。じゃあ、号令よろしくな」

「分かってる」

 男の脇をすり抜け、不安そうな部下たちの前に出る。

「逃げて」

 部下たちは、一瞬、何を言われたのか判断突きかねるような顔をしていた。
 その反応の遅さにも苛立ちが募る。

「逃げて、早く!」

 言われ、金縛りから解けたように、我先に身一つで逃げ出す部下たち。

 後方を見る。
 ミカたちの本隊が動いているのが見えるが、動き始めたばかりですぐにここに到着するとは思えない。

 間に合うかどうか。微妙なところだ。

「で? おたくらはどうする?」

 鉄砲を担いだ男が、飄々とした様子で聞いてくる。
 彼も、彼の部下も危険だというのに、動じていない。

「逃げる。けど、最後にこれをやってから」

 ポケットから取り出した、小さな丸いもの。
 折り紙で作ったもので、それを鶴の上に載せる。

「ああ、合図ね。じゃあ、さっさとやってくれ。こっちはあと一射くらい騎馬隊にかましてくる」

 そう言って男は離れる。
 自信家なのか、それとも何も考えてないのか。

 いや、今はいい。

「良介」

「はいよ!」

 良介も心得たようで、紙製の丸い球に触れると、即座に馬へと飛び乗った。
 自分はその球を乗せた鶴を空へと飛ばす。

 ぐんぐんと急上昇していく鶴は、ある一定の高さまで行ったところで――破裂した。

 青空に咲く花火。
 あまりよく見えないけど、何かがあったのは遠くからでも分かるはず。

 これで仕事は終わった。

「っし、行きますよ!」

「分かった」

 素直に頷いた。
 さっきまでは死ぬことしか考えてなかったけど、ここに至ってはもう生きることしか考えていない。

 やはり死ぬのは怖いのだろうか。
 少し頭が冷えたのかもしれない。

 どちらにせよ、現金な性格だ。

「お嬢ちゃん、ぼうっとしてるなよ? 先に行くぜ」

 鉄砲を担いだ男が先に駆けだす。
 その部下たちもその後に続いて逃げていく。

「雫さん、行きましょう」

「ん」

 けど彼らは間に合うのか。
 先に行った自分の部下たちも馬じゃない。

 だとすると、今も迫ってきているあの騎兵隊に追いつかれるんじゃないか。
 そうなったらどうなるか。

「……良介、先行って」

「雫さん!?」

「勘違い。これは守るため。もうちょっと足止めする」

「…………それじゃあしょうがねーな」

 ため息をつき、馬を走らせる良介。
 そのまま自分の横を通過していく。

 これでいい。
 あとは必死に生きるだけ。

 ――が、

「あっ!」

 急に体が浮いて、今度はすとんと何かの上に乗った。
 馬だ。
 振り向けば良介がいる。

「なんで?」

「俺がいねーと、爆弾化できねっしょ」

 それはそうだけど。

「それに、皆を守るために残るって雫さんの心意気に触れちゃあ、置いていけねぇっしょ!」

「……馬鹿?」

「ぐわっ! まさかそう切り返されるとは」

 本当に訳が分からない。

 彼が裏切ったのと同じように。

 けど、どこか胸が安らぐ。
 それは良介が、ちゃんと話してくれているからなのだろうか。

「とにかく! 雫さんはぜってぇ俺が守るから。とにかく逃げながら戦うっしょ!」

「ん」

「っしゃあ! 行くぜ!」

 良介が馬を走らせる。
 思えばうまくなった。

 数か月前に来てからは、落馬は当たり前。馬に蹴られたこともあった。
 けどなぜか根気よく続けて、今では自分を後ろに乗せることもできる。

 馬蹄の音。
 敵の騎兵隊が来る。

 それを鶴とカエルの爆弾で迎撃する。
 だが相手も承知していたのか、鶴は炎が撃ち落とし、カエルは方向を散開して回避される。

「くっ……あっちの方が速ぇ!」

 良介が吐き捨てる。
 確かに相手は爆弾をよけながらでも確実にこちらとの距離を詰めてきている。

 こうなったらもっと折り紙で……。
 そう焦る気持ちで次の折り紙を取り出そうとする。

「あっ!」

 ポケットから取り出した折り紙が、宙に舞った。
 こんなイージーミスを。バカみたい。

 これで自分の攻撃方法はなくなった。

「いや、間に合った! 姐さんだ!」

 良介が歓喜の声を上げる。
 見上げれば、確かに味方の大軍がすぐそこ。

 だがホッとしたのもつかの間。

 自分たちとミカたちの軍との距離100メートルほど。
 そこの手前10メートルのところに、急に地面から何かが噴き出した。

 熱波が来る。
 炎だ。
 10メートルほどの幅を、壁のように炎が吹き上げている。

 まさかあの敵のプレイヤー。
 こんなこともできるなんて。

 もう少しでミカと合流できる。
 けどその間を炎の壁で防がれた。

 回り込もうとすれば、確実に追いつかれる。
 その果てにあるのは死だ。

 死。
 どれほどそれを思ったか分からない。

 けど、これはあんまりだ。
 助かったと思った刹那、こんなことで終わりだなんて。

 絶望に打ちひしがれている中、良介は馬の速度を止めない。

「雫さん、つかまっててください!」

「なに」

「前は炎! 後ろは敵! なら行くしかないっしょ!」

「ちょっと!」

 何をするか分かった。
 けどそれが何を意味するのか、すぐには分からなかった。

 ふと、風を斬り裂く音が聞こえた。
 目の前の炎とはまた違う音。

「ぐっ!」

「良介!?」

「なんでもねぇ! 突っ切るぜ! 火の輪くぐりならぬ、火の壁くぐりだ!」

 加速した。突っ込んだ。
 熱い。
 髪の焦げる匂い。

 だが燃えてはいない。

 なぜかと首を動かしてみれば、良介が自分に覆いかぶさるようにしていた。
 その密着度合いに、ボディに鶴をぶち込もうと思ったけど、折り紙は全部なくなったことを思い出した。

 抜けた。

 ミカたちがすぐ前にいた。
 そのまま群衆の中に突っ込む。

 味方の中に入ったことで安心したのか、馬が速度を落とす。
 どうやら部下や、さっきの鉄砲を担いだ男も無事のようだ。

「雫、無事!?」

 ミカが慌ててやってきた。

「ん」

「危なかったわね、あとは下がってて……って良介!?」

 そこで良介の異変に気付いた。

 いつまでも体をこちらに寄せているので、何かと思ったら、馬から滑るように落下した。

 その背中に、何本か矢が突き刺さっていた。

「良介……」

 ミカが医療班だとか騒いでいるけど、自分には聞こえなかった。
 目が、耳が、五感すべてが目の前にいる瀕死の男に吸い込まれていく。

「へへ、守るって決めた。ならやるしかねぇでしょうが」

「あまりしゃべるな良介。急所は外れてる。とにかく手当てが先だ! 担架、早く!」

 ミカが慌てふためくさまを初めて見た気がする。
 そんなどうでもいいことをふと思う。

「へへ、雫さんのそんな表情初めて見た、ぜ。こりゃもうすぐ落とせる、かな?」

 軽口を叩き、無理やり頬を歪ませる良介。

 一体、この時の自分はどんな表情をしていたのだろう。
 泣いていたのか、笑っていたのか。
 いや、いつも通り無表情のはず。

 けど、なんでだろう。
 自信がない。

 彼が逝ってしまった時も変わらなかった自分の顔。
 それでも今は、その時とはなんか違う。
 そんな気がしてならない。

 錯覚だろうけど。

「……馬鹿」

 悪い気は、しなかった。
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