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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
閑話26 堂島美柑(エイン帝国軍元帥)
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目が覚めた。
それは意識として覚醒したというだけで、まぶたが開いたという現象には当てはまらない。
体中が鉛のように重く、まぶたも閉店した鉄製のシャッターのように、断固として開くことをサボタージュしている。
だから肉体の勤労意欲がわくまでは、まぶたを閉じたまま過去の記憶に想いを馳せる。
最後の記憶は里奈くんとの一騎討ち。
あれはすさまじいという言葉を通り越した何かだった。お互いの攻め手が数手先まで看破されているような――それでいて、何も考えずに反射だけで動いているような激突。
どちらが死んでもおかしくない戦いは、こちらの負傷によって幕を下ろした。
そうだ、思い出してきた。その後に、応急手当をして兵を収容して防備を固めて迎撃計画を話し合っていた次の日の夜。
急に天地がさかさまになって倒れた。
それからベッドでの暮らし。
帝都から呼び寄せた医者によって手術がなされ、そして意識を失った。
あれからどれくらい経ったのか。
1日、いや、あるいは2日くらい経っているのかもしれない。
頭が整理できると、ようやくまぶたが腰を上げる気になってくれたようだ。
ゆっくりとまぶたが開く。
瞳を焼くような光はない。
見えるのは石の天井。
壁際のろうそくが小さく揺れているのが見える。
そうか、ここは病室か。
気を失う前に見た光景と一致している。
どうやら手術はうまくいって、それで今まで寝ていたということか。
早く起きなければ。
体はまだ言うことをきかないが、それでもベッドに縛り付けられるのは嫌だった。今、外がどうなっているかも知りたかった。
だから起き上がろうとして、やっぱり無理で、せめて腕を使おうとして――
「ん?」
左手が動かない。
何か冷たいもので抑えられている。
右手を使って、体を浮かび上がらせて左に倒す。
杏だ。
杏がひざまずいてベッドに突っ伏すようにして寝ている。
その両手が、私の左手を包み込むようにしているのだ。
まったく……。
「何をしている、杏。起きろ、朝だ」
窓のないこの部屋では朝かどうかも分からなかったけど、そう言ってみる。
だが杏は目覚めない。
寝坊助か。
仕方なく、左手を振り払ってその肩を揺らしてみる。
「杏!」
だが返事はない。
「…………杏?」
もう少しゆすってみる。
だが反応はない。
いや、反応はあった。
自分の手に。
何か冷たいもので濡れている。
それは、ここ数年、何度も見てきたもの。
飽きるほど見て、飽きるほど浴び、飽きるほど絞り出したもの。
それがなぜこんなところに。
なぜ杏の体を触った手についているのか。
「はぁ……はぁ…………っ!」
動悸が激しくなる。
嘘だ。
そんなわけがない。
そんなことがあっていいわけがない。
いつの間に。
いや、自分が寝ている間にだ。
一体、何が起こった。
どうしてこうなった。
杏が……長浜杏が、死んでいるなんて。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
うるさい。なんだこの音は。
必死に否定する音。
それが自らの発した声だと知って愕然とする。
「うっ……あ……」
吐き出した。
胃の中のものを。
咄嗟に顔を背け、毛布に顔を押し付けたので、杏にはかからなかったのが幸いだ。
どうして。
杏が死んでいる。
それ以上に、なんでそれにここまで狼狽するのかが分からない。
だって、杏だ。
少し生意気で……いや、かなり生意気で、どこか野心的で、怒りっぽくて、礼儀を知ってるようで知らず、かといって戦は天才的に上手い。
だがそれだけだ。
部下として優秀であるだけで、人間として好きとか嫌いとかはなかった。
だから優秀な部下を失った。
その悲しみだけが来ると思ったのに。
なぜだ。
なぜ、なぜなの。
なんで、私は、今。
――泣いているの?
「堂島さん!?」
扉が激しい音で開け放たれた。
そこから顔を出したのは椎葉。
「……椎葉、か」
「大丈夫、ですか」
「あ……ああ……いや、分からない」
「そう、ですか…………」
椎葉はかける声を失った様子で黙りこくってしまった。
その後ろから現れた尾田張人が、私と杏の亡骸を見てつぶやく。
「やっぱりここでか……」
「知っていたのか、杏のことを」
「ええ。実は昨晩――」
「いや、最初からにしてくれ。私が気を失ってから。すべて聞く」
「そうですね。では、お召し物をお着換えください。シャワーと軽い食事は用意します。その間に我々は……大将軍にしかるべき処置を」
「……ああ、頼む」
一瞬、椎葉の視線が私の胸元に行ったのが分かった。
そこは杏の固まった血で汚れた――いや、杏の血が汚いわけがない。どちらかといえば自分の吐瀉物のことだろう。
それにずっと寝ていたからか、体が硬いし汗もかいている。
だからシャワーを浴びる分には問題ない。
「その前に教えてくれ」
「なんでしょう」
「私は何日寝ていた?」
「3日ほどです」
「……分かった。あと1つ。杏を殺したのは、オムカか?」
「はい、詳細は後でまとめてお話ししますが。敵のサカキという大将と相討ちになったようです」
「聞いた名だ。オムカ軍の総司令官ジーンとともに、な」
「はっ、相討ちするなら、ちゃんと殺した証拠を持って来いってんだ、あのおっさん」
尾田張人の杏をけなすような言葉に、一瞬心がさざ波だったが、すぐに落ち着いた。
おそらく彼はあれで寂しさを紛らわしているのだろうと。
なんだかんだで、この2人は馬が合っていたような気がする。
だからその姿を見るのがなんとなく辛い。
「煌夜は?」
「わかりません。が、もしかしたら先に葬儀の用意をしているかもしれません」
「用意周到なことだ」
だがその如実のなさが煌夜を煌夜たらしめているのだろう。
言葉を発したことにより、思考が回ってきた気分だ。
そうなると、心の奥底にぐつぐつと煮えるような気持ちが沸き上がってくる。
「椎葉」
「はい」
「これまでが手ぬるすぎた。これからはもはや徹底的にやる。お前も徹底的にこき使ってやるから覚悟しろ」
「……わかりました」
「ここに、長浜杏の命に誓おう。たとえ私以外が滅んだとて、オムカの人間は私が必ず一人残らず討ち滅ぼす、と」
杏の頭に手を置きながら誓う。
ごくり、と喉の鳴る音。
椎葉がこちらを異様な目で見てくる。
「では、シャワーを浴びる。あとは頼んだぞ」
立ち上がり、そのまま服を脱ぎ去ってシャワー室へ。
この胸に沸き上がる炎。
それを消さぬよう、地獄の窯のように熱いシャワーを浴びるのだ。
それは意識として覚醒したというだけで、まぶたが開いたという現象には当てはまらない。
体中が鉛のように重く、まぶたも閉店した鉄製のシャッターのように、断固として開くことをサボタージュしている。
だから肉体の勤労意欲がわくまでは、まぶたを閉じたまま過去の記憶に想いを馳せる。
最後の記憶は里奈くんとの一騎討ち。
あれはすさまじいという言葉を通り越した何かだった。お互いの攻め手が数手先まで看破されているような――それでいて、何も考えずに反射だけで動いているような激突。
どちらが死んでもおかしくない戦いは、こちらの負傷によって幕を下ろした。
そうだ、思い出してきた。その後に、応急手当をして兵を収容して防備を固めて迎撃計画を話し合っていた次の日の夜。
急に天地がさかさまになって倒れた。
それからベッドでの暮らし。
帝都から呼び寄せた医者によって手術がなされ、そして意識を失った。
あれからどれくらい経ったのか。
1日、いや、あるいは2日くらい経っているのかもしれない。
頭が整理できると、ようやくまぶたが腰を上げる気になってくれたようだ。
ゆっくりとまぶたが開く。
瞳を焼くような光はない。
見えるのは石の天井。
壁際のろうそくが小さく揺れているのが見える。
そうか、ここは病室か。
気を失う前に見た光景と一致している。
どうやら手術はうまくいって、それで今まで寝ていたということか。
早く起きなければ。
体はまだ言うことをきかないが、それでもベッドに縛り付けられるのは嫌だった。今、外がどうなっているかも知りたかった。
だから起き上がろうとして、やっぱり無理で、せめて腕を使おうとして――
「ん?」
左手が動かない。
何か冷たいもので抑えられている。
右手を使って、体を浮かび上がらせて左に倒す。
杏だ。
杏がひざまずいてベッドに突っ伏すようにして寝ている。
その両手が、私の左手を包み込むようにしているのだ。
まったく……。
「何をしている、杏。起きろ、朝だ」
窓のないこの部屋では朝かどうかも分からなかったけど、そう言ってみる。
だが杏は目覚めない。
寝坊助か。
仕方なく、左手を振り払ってその肩を揺らしてみる。
「杏!」
だが返事はない。
「…………杏?」
もう少しゆすってみる。
だが反応はない。
いや、反応はあった。
自分の手に。
何か冷たいもので濡れている。
それは、ここ数年、何度も見てきたもの。
飽きるほど見て、飽きるほど浴び、飽きるほど絞り出したもの。
それがなぜこんなところに。
なぜ杏の体を触った手についているのか。
「はぁ……はぁ…………っ!」
動悸が激しくなる。
嘘だ。
そんなわけがない。
そんなことがあっていいわけがない。
いつの間に。
いや、自分が寝ている間にだ。
一体、何が起こった。
どうしてこうなった。
杏が……長浜杏が、死んでいるなんて。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
うるさい。なんだこの音は。
必死に否定する音。
それが自らの発した声だと知って愕然とする。
「うっ……あ……」
吐き出した。
胃の中のものを。
咄嗟に顔を背け、毛布に顔を押し付けたので、杏にはかからなかったのが幸いだ。
どうして。
杏が死んでいる。
それ以上に、なんでそれにここまで狼狽するのかが分からない。
だって、杏だ。
少し生意気で……いや、かなり生意気で、どこか野心的で、怒りっぽくて、礼儀を知ってるようで知らず、かといって戦は天才的に上手い。
だがそれだけだ。
部下として優秀であるだけで、人間として好きとか嫌いとかはなかった。
だから優秀な部下を失った。
その悲しみだけが来ると思ったのに。
なぜだ。
なぜ、なぜなの。
なんで、私は、今。
――泣いているの?
「堂島さん!?」
扉が激しい音で開け放たれた。
そこから顔を出したのは椎葉。
「……椎葉、か」
「大丈夫、ですか」
「あ……ああ……いや、分からない」
「そう、ですか…………」
椎葉はかける声を失った様子で黙りこくってしまった。
その後ろから現れた尾田張人が、私と杏の亡骸を見てつぶやく。
「やっぱりここでか……」
「知っていたのか、杏のことを」
「ええ。実は昨晩――」
「いや、最初からにしてくれ。私が気を失ってから。すべて聞く」
「そうですね。では、お召し物をお着換えください。シャワーと軽い食事は用意します。その間に我々は……大将軍にしかるべき処置を」
「……ああ、頼む」
一瞬、椎葉の視線が私の胸元に行ったのが分かった。
そこは杏の固まった血で汚れた――いや、杏の血が汚いわけがない。どちらかといえば自分の吐瀉物のことだろう。
それにずっと寝ていたからか、体が硬いし汗もかいている。
だからシャワーを浴びる分には問題ない。
「その前に教えてくれ」
「なんでしょう」
「私は何日寝ていた?」
「3日ほどです」
「……分かった。あと1つ。杏を殺したのは、オムカか?」
「はい、詳細は後でまとめてお話ししますが。敵のサカキという大将と相討ちになったようです」
「聞いた名だ。オムカ軍の総司令官ジーンとともに、な」
「はっ、相討ちするなら、ちゃんと殺した証拠を持って来いってんだ、あのおっさん」
尾田張人の杏をけなすような言葉に、一瞬心がさざ波だったが、すぐに落ち着いた。
おそらく彼はあれで寂しさを紛らわしているのだろうと。
なんだかんだで、この2人は馬が合っていたような気がする。
だからその姿を見るのがなんとなく辛い。
「煌夜は?」
「わかりません。が、もしかしたら先に葬儀の用意をしているかもしれません」
「用意周到なことだ」
だがその如実のなさが煌夜を煌夜たらしめているのだろう。
言葉を発したことにより、思考が回ってきた気分だ。
そうなると、心の奥底にぐつぐつと煮えるような気持ちが沸き上がってくる。
「椎葉」
「はい」
「これまでが手ぬるすぎた。これからはもはや徹底的にやる。お前も徹底的にこき使ってやるから覚悟しろ」
「……わかりました」
「ここに、長浜杏の命に誓おう。たとえ私以外が滅んだとて、オムカの人間は私が必ず一人残らず討ち滅ぼす、と」
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