知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第1章 オムカ王国独立戦記

第50話 急転直下

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 夜が明けた。

 ハカラの戦死、そしてエイン帝国軍の敗走。
 その報告を受けて民衆は歓喜に包まれたが、その陽気さも長くは続かなかった。

 各地に放った斥候から次々と方向が入ってくるにつれて熱気が下がって行き、一気にお通夜モードになった。

 それもそのはず。
 王都から逃亡した4千。
 ブリーダを討伐に出た6千。
 北の砦の1万。
 合わせて2万の兵が王都の近くで待機しているのだ。

 いや、その後に入った報告でブリーダが撤退する帝国軍を散々に追撃したというので、残ったのは3千ほどだという。

 それでも1万7千。
 こちらの5倍以上の兵力があるわけだ。

 これで陽気になれという方が難しい。

 逆になぜ帝国に歯向かったのだ、と不満を漏らす者も多いという。
 だがそれを収めたのが我らが女王だった。

「ロキン宰相は我々との融和を図った名宰相であった。だが私欲にまみれたハカラはそれを誅し国政を壟断ろうだんするだけでなく、重税を課し民を苦しめた。あろうことか、余に退位を迫ったこともある。そもそも我々は帝国の属領などではなく、確たる土地を持った国であった。その正統なる国家の我らを陪臣ばいしんごときが支配して良い道理はない! これは我らが真の自由を勝ち取るための戦いなのじゃ! 今は確かに辛い時期が続くかもしれない。けれどここで立ち上がらなければ、我らはいずれ弊履へいりのように使い捨てられるだけの運命だったのであろう! それで良いのか!? 良いわけがない! 我らは父祖が残したこの地を守らなければならんのじゃ!」

 まぁなんてご立派な演説だろうか。
 有史以来、こういう風に土地だ血統だと、古臭い風習に縛られて一体どれほどの血が流されたかと思うと、この国もその1つだと理解して憤然とする。

 なんてニヒルに考えてみたりしていたが、民衆はその演説を歓喜の涙で応えた。
 これまで数十年にわたって虐げられてきた怒りもあるのだろう。

 というわけで町並みは一応の落ち着きを取り戻し、以前のようになるまではもう少し時間がかかるだろうが、人々に活気は戻って来たのだった。

 そんな中、俺は営舎にいた。

 打倒帝国だなんて息巻いて、兵になりたいと志願してきた者が老若男女問わず営舎に押しかけてきた。それをジルたちに任せ、俺は裏で事後の作戦を考えているところだった。

「でもよかったです、隊長殿がふさぎ込んでしまったのではないかと心配してました」

「……サリナと約束したからな。この国を守るって」

「そうですね。あの子も、それを望んでるでしょう」

 クロエはそうつぶやいて悲し気に笑った。
 その目は泣きはらしたのか腫れて見えた。俺以上に付き合いはある相手だったし、見ていて仲がいいと思ったからそれも仕方ないだろう。

 当の俺も本当はまだ全然回復していない。
 ふと思い立ったように暗澹あんたんたる気分になって、すべてを投げ出したくなる時がある。けど、何かをしている方が気が紛れると思い、こうしてここにいる。

 とりあえず集めた情報をもとに今後の作戦を練ることにした。
 王都に3千700の兵。
 北の金山に2千、南にブリーダの3千。
 そして東にハワードの1万。

 すでにハワードには伝令を走らせた。
 こちらは無事に済ませたので、シータ軍に城塞を引き渡して王都に戻ってほしいという要請だ。
 全軍合わせれば1万8千強。

 数値上では北の砦にいるエイン帝国軍と互角。
 しかも籠城戦となればこちらが有利だ。高さ10メートルを超える壁を乗り越えるのは至難の業で、門もしっかり防御を固めている。さらに小田原城並みの総構えなわけだからちょっとやそっとじゃ兵糧は尽きない。

 だから勝てる――いや、負けはしない。
 唯一の懸念は総兵力が1万8千というだけで、今日の時点では3千700がこの城の総兵力だということ。

 ハワードはもう少しかかるとしても、北の金山かブリーダの兵が合流するまでに敵が猛攻して来たら、と考えるわけだ。

 まぁそれでも何カ月もかかるわけじゃないから問題はないだろうと結論付けた時、ジルが入って来た。
 クロエが直立不動の姿勢をとって迎える。

「ジャンヌ様」

「ジル、志願兵に問題が?」

「いえ、それは特にないのですが……いかんせん素人ですから」

「素人でもやることはあるさ。警備や見回り、炊き出しとか雑用はいくらでもある。それで、何人くらい?」

「それが、2千人を超えました」

「2千!?」

 クロエが素っ頓狂な声をあげて驚く。
 それはそうだろう。今王都にいるオムカ正規軍の半数以上の数なのだから。

「ま、いいんじゃないか。これから長い戦いが始まるんだ。いずれは……」

 戦力として数えられるようになるだろうし、と言おうとして詰まった。
 それはつまり、彼らにも死を強要するということ。俺はまた繰り返すというのか……。

「ジャンヌ様?」

「いや、なんでもないよ。ところで何の用? 志願兵の話だけじゃないんじゃないか?」

「はい、本題なのですが……捕虜についていかがしましょう」

「捕虜か……」

 昨日の戦闘で3千もの捕虜を得た。
 とはいえ、それはそれで問題の種なのだ。

 捕虜とて飯を食うから、大事な兵糧が減っていくわけだし、何より問題なのがその人数。
 オムカ軍と捕虜の数を比べると、数値上の戦力は同等なのだ。
 もちろん怪我を負ったから捕虜となった人物が多いので、今すぐにどうこうなるわけではないが、もし籠城戦となった時に傷が癒えた捕虜たちが黙っているかというとそうはいかない。

「重傷者以外は放逐。そのやり方が順当と思いますが」

「さすがだね、それでいい。不安の種を残すより、敵としてかかって来た方が楽だし」

「ではそのように。昼過ぎには解放します」

 深々と礼をしてジルが退室していく。
 なんか俺の方が上役みたいだけど、そもそも俺ってジルの副官だよな。いいのかな、こんなんで。
 それをクロエに聞いてみると、

「いいのです。隊長殿は、隊長殿なんですから」

 もはや意味が分からない。
 けどクロエはそれを当然だと思っているらしく、もしかしたらジルもそう思っているのかもしれない。なんとも不思議な関係だった。

 そこから2時間ほど経ち、ジルたちと昼食でも取ろうかと外に出る。

 外はさんさんと太陽が輝き、初夏にかかろうとしていることを主張していた。

 あるいはもう見ることはできなかっただろう太陽。
 二度と見ることができなかった者もいる。
 ……やめよう。深く考えるとより落ち込むだけだと気を取り直し、志願兵の対応をしているジルに近づいていく。

「ジル、昼食でも食べない?」

「これはジャンヌ様。そうですね。志願兵はほぼ洗い終わりましたので」

「あ、ジャンヌちゃん! 俺もいくー!」

「サカキ、お前は遅番だから今来たばかりだろうに……」

「ちぇー。どうせ俺は役立たずですよ」

 口を尖らすサカキに、俺はふと思いつき、

「サカキ」

「ん?」

「よくやってくれた」

「え?」

「ニーアから聞いた。軍を打ち破るだけでなく、ハカラが逃亡の際に苦し紛れに王宮に放った火を大急ぎで消し止めたって。ハカラは取り逃がしたけど、女王の身と王宮はシンボルだ。失っちゃいけなかった。その判断は素晴らしい。それに捕虜を2千以上もとったんだから自分を卑下することはない。きっと女王様からも褒美がもらえるだろう」

 朝方、マリアに会いに行ったとき、ニーアにそう聞いた。
 ハカラを取り逃したのは良くないが、臨機の対応はさすがだった。

「…………あっ」

 サカキは一瞬声が詰まったようになり、不意に顔を背けて、

「ま、ジャンヌちゃんの命令は完遂できなかったけどね。うん、そうか、そう言ってくれんのか」

「ああ、これからも頼むよ」

「…………ちょっとトイレ行ってくるわ」

「え、おい!?」

 手をひらひらと振ってすたすたと歩き去って行くサカキ。

「いいんです、ジャンヌ様」

「でも、今来たばっかって」

「男には見られたくない顔というものがあるのでしょう。あれでもハカラを取り逃がしたことを気にしていたわけですから」

 俺も男なんだけどなぁ。
 ま、そうか。泣き顔なんて見られたくないよな。だからこれはこれで良しとしよう。

「さ、それでは昼食にしましょうか。せっかく街も活気を取り戻したようですし、どうです? 美味しい肉料理の店が――」

 ジルが努めて明るく言い、クロエが肉という単語に目を光らせ、俺がそれもいいかな、なんて思った瞬間。

「急報! 急報! ジーン隊長! ジーン隊長!」

「ここだ!」

 声の主を発見した伝令の男がこちらに猛烈な勢いで走って来た。

「どうかしたのか?」

 伝令の男はあえぐようにして言葉にならないようだ。
 ジルが落ち着かせると、ようやく唾を飲み込んだ男はその内容を報告した。

「エイン帝国軍、10万! 王都バーベルを目指して進軍中です!」

 一瞬、空気が凍った。
 だがすぐにその内容を理解し、

「馬鹿な!」

 そんなはずはない。
 だって『古の魔導書エンシェントマジックブック』で周囲の状況は見ていた。敵は北の砦に集まった2万弱のみ。それ以外にはいなかった。

 そもそもそんな大軍が来たら分かるはずだ。
 だってビンゴの時も、シータの時も、このハカラの時も、敵軍の動きは認知できていた。それなのに、こんなすぐ近くにエインの軍がいるなんてありえない。知る由もない。

「あ――」

 知らない。
 そう、知らないのだ。
 『古の魔導書エンシェントマジックブック』は知らないことは教えてくれない。

 ビンゴの時は、戦闘を見ていたから認知できた。
 シータの軍は包囲されたので認知できた。
 ハカラの軍は同じ王都にいるのだから認知できた。
 だがこのエイン帝国の軍を、俺は知らない。

 知らないものは、調べられない。
 それが『古の魔導書エンシェントマジックブック』のルールだったのに。
 なんて迂闊。

「まさか10万とは。誤報か見間違いではないのか?」

「見渡す限りの大軍、少なくとも5万はくだらないかと!」

「5万……」

 それだけでも俺たちよりはるかに多い。
 しかもそれが北の砦の2万と合流されれば更に兵力は増えるのだ。

「分かった。お前は引き続きその軍を監視。行軍スピードを調べながら敵の数を正確に割り出せ」

「は、はっ!」

「ジル、捕虜はまだ解放していないな!?」

「はっ、この後に開放する予定でしたが」

「よし、俺が王宮から戻るまでまだ解放しないで……いや、とりあえず俺と王宮に来てくれ。クロエ、お前は俺の代理として各門に通達。橋を上げて門を閉じて厳重に警戒。すぐ戻る!」

「はっ」

「承知しました、隊長殿!」

「それと、サカキ! サカキはどこだ!」

 くそ、すべてが後手に回っている。
 なんだ、この状況は。
 何かとんでもないものが動いている。そんな気がしてならなかった。
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