知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

回想3 ビンゴ王国からの使者

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「はっはっは! やってやったぞ、カルキュールの奴め!」

 心から笑いがこみ上げる。

 かれこれ7度目の正直。
 ようやく俺考案、メル作成の農商業の法案がカルキュールに認められて発布されることになったのだ。
 最後の最後まで細かい事をうだうだと言ってきたのを、あの手この手の屁理屈を並べて認めさせたのは痛快だった。もちろん細かい調整があるので正式な発布は少し先になるだろうが。

 これまでになく上機嫌でハイになっていたんだろう。
 王宮の書庫にメルの姿を見つけると、そのまま近づいて問答無用で肩を叩き、そのまま抱きしめた。

「ありがとう、メル。お前のおかげでなんとか法案が通った!」

「――――っ!!」

 メルが声にならない悲鳴をあげる。

 っと、まずいまずい。こんなことしたら……いや、俺って今女だよな。なら問題ないんじゃね?
 なんか俺のジェンダー基準があいまいになってくる今日この頃。でも今はとにかくメルへの感謝でいっぱいだった。

「何かお礼させてくれ。何か欲しいものないか? メルの好きなもの、なんでもプレゼントするからさ」

「い、いえ。何もいらないと、ジャンヌさんに言っておいてください」

「いや、言っておいてくださいって俺が俺に言うの?」

 なにその面白表現。
 なんてことを感心してしまうほど俺は舞い上がっていたわけで。

 そんな俺を一気に現実に引き戻す足跡が近づいているのを、まだ気づけていなかった。

「ジャンヌちゃん、ここにいた! 大変だ! すぐに謁見の間に来てくれ!」

 あまりに真剣で緊急を要する響きを持ったサカキの声に、俺はハッと我に返ると、メルの肩に手を置いて、

「ごめん、メル。この埋め合わせは今度」

 未だに魂が抜けた様子のメルに謝罪してサカキの後を行く。

「何が起きたんだ!?」

「ビンゴだ」

「攻めてきたか!」

「いや、使者が来た」

「使者?」

 何の使者だ?
 過去に2度にわたってボコボコにしたことを恨みにして攻めて来るならまだしも。

「さぁな。とりあえず今、宰相が会ってる。俺らもすぐ来いってよ」

 今朝、俺の法案を認めて僅か1時間。
 働き者だな、カルキュール。

 赤い絨毯が敷き詰められた王宮の廊下を走る。
 人はあまりいない。財政の再建を理由に、大半の人を解雇したからだ。
 といっても、無情に放り出したわけではなくしっかりと次の仕事を世話してやり、家に帰る者には少なからずの金を与えた。

 もともとが不必要なほどの人数が働いていたのだ。
 それを整理したので、こうも閑散としているがそれで困ったことにはなっていない。

 もはや何度通ったか、そろそろこの道にも慣れてきた。
 大きな扉の前には2人の衛兵がいて、サカキと俺の姿を見ると慌てて扉を開けた。

 謁見の間には、定常のごとく玉座にマリアがいて、その横にカルキュール、そしてニーアがいる。
 ハワードとジルは先に来ていた。ブリーダは外回りのために今はいない。

 そんな彼らの中央の位置にいる、紺色のローブを着た初老の男が使者だろう。

 彼は入って来た俺らに気づいてかいなくてか、マリアとカルキュールに向かって、

「それではご返事のほど、お待ちしております」

 どうやらちょうど終わって退室するところだったらしい。

「うむ。ご苦労であった。ニーア、ご使者殿を特別室にお通しせい。くれぐれも丁重に扱うのじゃぞ」

「はっ」

 マリアが威厳高々に言い放つが、やはりまだ子供っぽさはぬぐえない。
 これを見てあの使者がどう思うか。顔を見たかったが、頭を下げて礼をしているので見えない。

 使者が退室すると、弛緩した空気が室内に広がる。

「ジャンヌにサカキ、遅い」

 カルキュールが額にしわを寄せて文句を言ってくる。
 俺は舌でも出してやろうかと思ったけど、場所が場所なので控えた。

「失礼しました。それでビンゴはなんと?」

 適当な返答にイラっと来るところがあったのか、カルキュールの口が一瞬歪む。
 だがそれを精神力と、これまで海千山千の政治家と渡り合ってきた政治力で押さえつけた。

「明日、北のエイン帝国を攻めるために王都の近くを通らせて欲しい、そう言ってきおった」

「近く……?」

「ゾーラ平原じゃよ。前にジャンヌがビンゴ軍を徹底的に打ち破ったところじゃのぅ」

 答えたのはハワードだった。

 ああ、あそこか。よく覚えている。
 ハカラがまだ生きていたころで、俺の初陣だ。
 あの時の記憶はまだ俺の中で黒々と生きている。が、今は感傷に浸っている場合じゃない。

「ゾーラ平原を通って、北にあるエイン帝国領か……行軍の道程としてはおかしくはないが」

 俺は『古の魔導書エンシェントマジックブック』を開いて付近の地図を表示させる。
 ゾーラ平原は王都バーベルから西へ10キロほどの場所にある平原で、そこから東にある林を通れば王都へ、北にある街道を行けばエイン帝国領へと続く分岐点となっている。

 その地図をみて、俺はしきりに首をかしげる。

「確かに近くだけど……わざわざ使者を寄越してくるものかな?」

「余計な敵を増やしたくなかったからではないでしょうか、ジャンヌ様。エイン帝国を攻めている間に、我らに横槍を入れられたくないと」

「いや、ジル。それなら停戦の使者であるはずなんだ」

「んじゃ、一緒に攻めようぜってことなんじゃね? ほら、言うだろ。敵の敵は味方だって」

「サカキ、それも違うよ。それなら道を借りるなんて言わず、共同戦線の話が来てたはず」

「ふむぅ、おかしな話じゃのぅ。これが宣戦布告じゃと言うなら分かるんじゃが」

「結局奴らの目的はなんなのだ!? ええい、ジャンヌ・ダルク! お前は軍師だろう! なら軍師としての役割を果たせ!」

「分かってますって、宰相殿。ならちょっと黙っててもらえるかなー」

 外野がうるさくて考えがまとまらない。

 とりあえず落ち着け。
 何故ビンゴはわざわざ使者を送って来た? 宣戦布告ではなく、ただ近くを通るなんてことを。そんな道を借りるみたいなことを言わなくてもいいのに、それをわざわざ言いに来たということはやはり横槍を警戒して?

 ん? 道を借りる?
 そういえばそんなのがあったような…………。

「あっ!」

 分かった。
 いや、思い出した。

 ただその策は上等なものとは思えないため、裏があるのではと考えてしまう。

 さすがに考えすぎか。
 いや、考えすぎてダメなことはない。軍人は常に最悪を考えるべきだ。

「分かったのか、ジャンヌ・ダルク! ならさっさと教えい!」

 カルキュールが怒鳴り散らす。

 いい加減うるさいから俺は説明のために口を開き――

 止まった。

 この対応は少しでも相手に疑念を持たせてはならない。
 敵を騙すにはまず味方から。口の軽そうなカルキュールには騙されておいてもらおう。

「いやいや、まったく分からない。全然わからないなー。勘違いだったみたいだよ。うん。知力99でも分からないものは分からない。ただ、向こうから手を差し伸べてきたんだから、ちょっと挨拶だけしてこようかなー」

 うーん。我ながら名演技だ。
 ただおかしいのはカルキュールをはじめとする皆の俺を見る目がいぶかしげということ。

「挨拶? ならさっきの使者を呼べばよいのだろう?」

「いや、そういうわけではなく」

 俺が煮えたぎらない態度を取っていたからだろうか、マリアが不安そうに聞いてくる。

「それで良いのか、ジャンヌ?」

 彼女の立場ではそうだろう。本当なら全部話して安心させてあげたいが、今はまだ俺の胸の中にしまっておくべきだ。

「ええ、大丈夫でしょう。あ、使者の人はよく接待して帰してあげてください」
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