知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

挿話 一時の休息

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「おっ風呂、おっ風呂。隊長どーのと、おっふろー」

 前を着替えとタオルを持ったクロエがスキップしていく。
 その後ろを俺はやれやれと思いながらついていくのだ。

 結局、イッガーとの話をして、それから一度自宅に帰って大浴場に行く時にはすでに日は暮れてしまっていた。
 まぁお風呂で汗と疲れを流して、それから帰りの酒場で適当につまんで帰って寝るという流れができるから、別段問題があるわけじゃないけど。

 それにしても今日は今日とてギリギリだった……。
 あそこでビンゴ軍の計略に気づかなければ、今頃この首都バーベルはビンゴ国との戦乱の最中だっただろうし、相手の先鋒の指揮官がある程度分別のある保守派だったからこそ、あの場で俺やジル、サカキは生きて帰ってこれた。
 伏兵1万なんているわけないからね。

 こうやってのんびりお風呂を楽しめるのも、一応知力99をくれたあのクソ女神のおかげ……いや、そんなわけない。うん。運が良かった。きっとそうだ。そうに違いない。

「隊長どのー? どうしましたか? 難しい顔をして?」

「あ、ああ。クロエなんでもないよ」

「そうですか。さ、さ、行きましょう。お風呂が私たちを呼んでますー!」

「お、おい! 押すなよ!」

「あ、てか隊長殿のそれ、なんでしたっけ? ユオッケー?」

「ああ、湯桶な。ふふ、これがあれば体を洗うのも、こうやって荷物を運ぶのも出来る。銭湯に必須のアイテムなのさ」

 湯桶にタオルと手ぬぐい、それから着替えを入れて持ち運ぶのはもう公認スタイルだろう。
 そこはちょっと偉い人権限で職人に発注させてもらった。公私混同? いやいや。これでお風呂が何倍も楽になる。メンタルケアの一環。要は経費です。

「おおぅ、“戦闘”に必須なんですね。さすがオムカ国の軍師様です」

 なんか意味が通じてないけど、感嘆した様子のクロエ。

「自分も欲しいです! 隊長殿とおそろいで! なんか異国情緒な感じもいいです!」

「ん、そうか。じゃあ今度、また作ってもらうかー」

「っしゃー!! 私の時代が来ましたよ!」

 何の時代だよ、と思ったけど、特に咎めることでもない。こうやって日本情緒が広まれば、なんかちょっと心のゆとりにもなるってものだ。

「あれ、なんか人がいなくないですー?」

 公衆浴場に入ると、クロエが不思議そうにあたりを見回す。
 そう。普段ならこの時間、一日の疲れを落とすため、家族連れで浴場に来る人が多く、めっちゃ混んでるのがいつもなのに、今日は休館日に間違えて来てしまったかのように人気ひとけがない。

「もしかしてもうやってないです?」

 日本の銭湯と違って番台さんはいない。基本フリーで、入り口にお金を入れれば入っていいことになっている。
 だから管理する人は、時間ごとに見回りに来るのでいつもはいない。

 まいったな。何かのあれで休業になったとか? そうなると、この疲れを取れないのか。シャワーや家の狭いお風呂だと、思い切り体が伸ばせなくてどうもすわりが悪い。
 やっぱり大浴場でうんとリラックスしたかったんだけど……。

「あ、でも中はお湯が張ってますね」

「んーーーー、じゃあ、入っちゃうか」

「ですね!」

「そうじゃ、よし」

 ん? 何か今聞こえたか?
 ま、いっか。それよりお風呂の魅力には敵わない。

 というわけで脱衣所――やはりそこも誰もいない――で服を脱ぐと、手ぬぐいと湯桶を持ってお風呂の中へ。

 まぁ正直。今の自分は、そう。年頃の女の子。しかもかなりスレンダーなボディに、これまた下がほとんど見えないくらいの胸部もあるわけで。
 それが生まれたままの姿であるものの、自分から見える範囲はとても狭いというパラドックスの塊なわけだけど。

 かれこれ2か月。さすがに見飽きたというかいやそんなわけないです今でもがっつりヤバいですかんべんしてください本気で目のやり場に困るのよ体を洗うのもドキドキしながらやってるのよ。ああ、なんだろう。この生殺し感。

「おおおおお! さすがジャンヌなのじゃ!」

「はい、これこそまさに美の化身。もはや敵う者はいないでしょう」

「ありがとうございます、と女王様にお伝えください」

「ん?」

 何か聞こえた気がして振り返る。
 けど今日は誰もいなかったはずだ。気のせいか。

「さ、隊長早く早くー」

 クロエが入り口で止まった俺の腕を取ると、そのまま浴場へと引きずり込んでいく。

「お前は前を隠せ!」

 クロエはタオルを肩にかけた、生まれたままの姿そのものだった。
 その無防備すぎる彼女の姿に、思わず目を背ける。いや、今は女の子同士だからいいのか……? いい、んだよな?

「さ、隊長殿。こちらへどうぞー」

 と、クロエが浴場の傍に俺を誘う。

「隊長を洗ってあげますからね!」

「い、いやいいよ。自分で洗うって」

「まぁまぁ、いいからいいからー」

 クロエに捕まえられて、その場に座らされる。そして俺の湯桶を持つと、浴場からお湯をすくって俺の体にかけてくる。

「ふぉぉぉぉぉ」

 疲れた体に湯が沁みる。ああ、やっぱりこれ。これですよ。

 それからクロエは、目の粗いタオルで俺の体をごしごしとこすり始める。

「おお、どんどん綺麗になってきますねー。おかゆいところはありますかー?」

「ん……大丈夫」

 てかなんで他人にやってもらうシャンプーとかは気持ちいいんだろうか。こうやって他人に体をごしごしされたことなんてないけど、これもまた気持ちいい。

 だが、その時の俺はそれによって起こる未来を予測できていなかった。

 ごしごしと体の汚れを落としていくクロエの腕が、徐々にその速度を落とし、

「はぁ……はぁ……隊長殿の、柔肌……ピチピチ……肌、肌……」

「クロエ?」

「もういただいちゃいますよ! 隊長殿ですよ!」

「ちょ!?」

 急にクロエが抱き着いてきた。肌と肌が触れ合う。クロエのつつましやかなところが背中に当たり、何かを刺激する。

 振り切ろうとするも、筋力1の俺にこれでも鍛え上げているクロエの腕力に敵うわけもなく。かといって誰もいないから助けを呼ぶこともできない。
 このままめくるめく“ゆ”と“り”の世界に突入してしまうのか……なんて色々な意味で覚悟を決めてしまったわけだが。

 だがそれは2つの声と共に消え去った。

「それ以上はいかんのじゃー!」

「クロクロ! あんたはなにやってんの!」

「ぶぎゃーーー!!」

 クロエの悲鳴。そしてがしゃーんと何かが崩れる音。
 振り向く。そしてそこにいたのは……。

「え? マリアに、ニーアに……メル?」

「別人です。と、ジャンヌさんにお伝えくださいニーア」

「いや、本人じゃん!」

 そのめんどくさい感じ、世界に2人といるか。

「てか何やってんの? マジで何やってんの!?」

 3人とも、素っ裸の状態で立っている。この国には前を隠すっていう文化はないのか! ないんだろうな! だって日本じゃないからね!
 ああもう! テンパってますよ! そりゃ!
 咄嗟に目を背けても、脳裏に完璧にインプットされちゃってるもん。何が? 皆まで言わすなし!

「だって、ジャンヌがここに来ると聞いたのじゃ」

「ジンジンとサカキンからね」

 あいつら……。報告の場で何を。

「それを聞いたら、もう。やるしかないっしょ」

「うむ! ジャンヌの家に一番近い浴場を貸し切りにし、こうやって潜んでおったのじゃ!」

「おったのじゃ、じゃない!!」

 何無駄な権力行使してんの!? 暇人なの!?
 一応、今日。めっちゃ滅びる可能性あったんだからね!?

「じゃあ、そういうわけで」

「うむ、いただいちゃうのじゃ」

「あ、それには私も参加すると、ジャンヌさんにお伝えください」

 3人がじゅるりと唾を飲み込んで立ちはだかる。

 考えろ。こうなったらなんとかしてここから逃げる手を。クロエ戦闘不能。出口は3人の背後。武器なし。味方なし。あとは、えっと、えっと……。

「さぁ、ジャンヌとお風呂なのじゃー!」

 あ、無理。

「ふぎゃああああああ!」

 オムカ国軍師の悲鳴が、浴場の空間にこだました。
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