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第2章 南郡平定戦
第38話 帰還、そして…
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結局2日ほどドスガの王都に滞在した後、北上して川を渡るとほどなくオムカの領土に入った。
3日もかからないから、やはり川をさかのぼった方が早いらしい。
サルスの街でサカキたちが来るのを待ち、合流してから翌昼前に王都バーベルの門をくぐった。
そこで俺を待っていたのは、異常なほどの歓待だった。
「ジャンヌ様ー!」「またお勝ちになった……まさにあのお方は勝利の女神だ!」「きゃー、こっち見た!」「僕、大きくなったらジャンヌ様の従者になるんだ!」
門をくぐった途端のお祭り騒ぎ。
国民総出の祝賀ムードだった。紙吹雪が舞う中、軍の先頭で大通りを行くのは何の公開処刑かと思った。
「大人気だな、ジャンヌちゃん。老若男女問わずに」
「あぁ……滅入るほどにな」
「いいなー、俺なんか黄色い声援一つねーし。だってあれだぜ?」
「うぉぉぉぉ! サカキの兄貴ぃ!」「100人斬りの猛者を倒したってマジっすか!?」「ドスガの王を捕まえたのも兄貴って話ですぜ!」「さっすがサカキの兄貴! やることのスケールがでけぇや!」
見れば少しむさくるしい系の男の集団がサカキに向かって手を振っていた。
「……人気者じゃないか」
「違うの! 俺はああいうのじゃなくて、もっとキャーとかステキーとか言われたいの! 女の子がいいの!」
「ふーん。いつもジャンヌジャンヌとか言って付きまとってくるくせに。要は誰でもいいってことかー」
「いや、それも違う! 俺の心はジャンヌちゃんだけだ! い、今のは、その……」
「ふーん。へー。ほー。そうなんだー、サカキは見境ないんだー」
「ジャンヌちゃーん、ひどいぜ…………」
普段うるさいからここぞとばかりに意趣返ししてやった。
公開処刑の羞恥心と疲労を、サカキで憂さ晴らしすると、幾分か心が軽くなった。
兵舎へ戻って、そこで軍を解散した。
俺とサカキは報告のため王宮へ入る。
外がこれなら中はもっとお祭りムードだろうなんて思ったが、王宮はそんなものとは無縁だった。暦は10月に入っていて、マリアの戴冠式まであと2カ月もない。誰もがそちらの準備に奔走し、お祝いごとなんかしている場合ではなくなったのだ。
「ふん、1か月も経たずに帰って来たのは立派なものだが。貴様の仕事は山ほどあるぞ、ジャンヌ・ダルク!」
ねぎらいの言葉1つなく、帰還の挨拶を受けたカルキュールは俺を執務室へと追い込んだ。
退室の間際に、マリアの喜びと憂いが混ざった表情が心に痛かった。帰ってきたら存分に相手する、その約束を果たせぬまま離れ離れにされたのだ。里奈に似た顔でそんな表情をされると心が痛む。けどこの仕事量からして、当分マリアの相手をしてられないだろう。
何よりジルが抜けたのが痛い。軍関連の仕事が俺に回ってくるのだ。サカキにも任せてるけど、こういった事務仕事にまったく向いておらず、
「ごめんよ、ジャンヌちゃん。俺、こういう書類見ると眠気が……ぐぅ」
本気で蹴り落としたいと思った。
てかマジで過労死するんじゃないかと思う。
「隊長殿、顔色悪いですよ。少し休んだらどうですか」
帰還して2日経った昼過ぎ。クロエが執務室に来て言った。
出丸もまだまだ完成ではないだろうし、治安維持のための巡回も行っているはずだからクロエも大変だろう。そんな気配は見せないあたりさすがだが。
「そうも言ってられないんだよ。パレード用の衣装の制作状況は逐次監視しないといけないし、ジルたちが抜けたことで警備のスケジュールを練り直さなくちゃならない。あとシータ王国にも招待状を出してるから迎賓館の準備も必要だし、返礼についても考える必要があるし」
タスクを並べるだけで気が滅入る。
晩年の諸葛孔明もこんな気分だったのかなぁ。
「だから心配してくれてありがたいけど、休んでる暇はないよ。っと、そろそろカルキュールと会議の時間だ。メルを交えて、予算の話。ミストがある程度融通してくれたとはいえ、まだまだ経済的には厳しいから。頭の痛い問題だよ」
「そう、ですか……」
クロエが眉をひそめて俯く。
何も手伝えないことが辛いと思っているのだろう。
そんな心中がありありと見えたので、俺は少し声を優しくして言った。
「今日は帰れそうだ。だから栄養のある料理を頼むよ。あと熱々のお風呂も」
「――っ、はい! 承知しました!」
クロエの顔がパッと明るくなる。
それだけで少し胸のつっかえが取れた気がした。
っと、そんなことをしている場合じゃない。
会議の時間だ。
席を立つ。
そしてクロエの横を通り過ぎ、議題について思いをはせようとした時、
「――ん?」
何かが来た。
体の奥底。湧き上がる何か。
ぐるんと視界が回る。
いや、回ったのは体か。あるいは脳か。
それすらも理解できない。
思考が回らない。
もう何を考えているのか分からない。
衝撃。
視界が固定された。すべてが横倒しになっていた。
いや、横になったのは俺の体か。
「――――――」
誰かの声が聞こえる。
それが誰なのか、何を言っているかもわからない。
聞こうにも体が動かないし声もでない。
あれ? これヤバい?
死ぬ?
俺死ぬのか?
また、死ぬのか?
それは――嫌だ。
こんないきなり。
こんな中途半端なところで。
こんな何もできていない状態で。
こんな誰にもお別れが言えないまま。
死ぬのは……嫌だ。
そう願っても体は動かない。声も出ない。
ゆっくりと毒が回るように、意識がもうろうとしてきて、まぶたが落ちていく。
そして完全な闇が降りた時、
(あぁ、これが死ぬってやつだった)
二度目の死。
それを感じて、俺の意識は途絶えた。
3日もかからないから、やはり川をさかのぼった方が早いらしい。
サルスの街でサカキたちが来るのを待ち、合流してから翌昼前に王都バーベルの門をくぐった。
そこで俺を待っていたのは、異常なほどの歓待だった。
「ジャンヌ様ー!」「またお勝ちになった……まさにあのお方は勝利の女神だ!」「きゃー、こっち見た!」「僕、大きくなったらジャンヌ様の従者になるんだ!」
門をくぐった途端のお祭り騒ぎ。
国民総出の祝賀ムードだった。紙吹雪が舞う中、軍の先頭で大通りを行くのは何の公開処刑かと思った。
「大人気だな、ジャンヌちゃん。老若男女問わずに」
「あぁ……滅入るほどにな」
「いいなー、俺なんか黄色い声援一つねーし。だってあれだぜ?」
「うぉぉぉぉ! サカキの兄貴ぃ!」「100人斬りの猛者を倒したってマジっすか!?」「ドスガの王を捕まえたのも兄貴って話ですぜ!」「さっすがサカキの兄貴! やることのスケールがでけぇや!」
見れば少しむさくるしい系の男の集団がサカキに向かって手を振っていた。
「……人気者じゃないか」
「違うの! 俺はああいうのじゃなくて、もっとキャーとかステキーとか言われたいの! 女の子がいいの!」
「ふーん。いつもジャンヌジャンヌとか言って付きまとってくるくせに。要は誰でもいいってことかー」
「いや、それも違う! 俺の心はジャンヌちゃんだけだ! い、今のは、その……」
「ふーん。へー。ほー。そうなんだー、サカキは見境ないんだー」
「ジャンヌちゃーん、ひどいぜ…………」
普段うるさいからここぞとばかりに意趣返ししてやった。
公開処刑の羞恥心と疲労を、サカキで憂さ晴らしすると、幾分か心が軽くなった。
兵舎へ戻って、そこで軍を解散した。
俺とサカキは報告のため王宮へ入る。
外がこれなら中はもっとお祭りムードだろうなんて思ったが、王宮はそんなものとは無縁だった。暦は10月に入っていて、マリアの戴冠式まであと2カ月もない。誰もがそちらの準備に奔走し、お祝いごとなんかしている場合ではなくなったのだ。
「ふん、1か月も経たずに帰って来たのは立派なものだが。貴様の仕事は山ほどあるぞ、ジャンヌ・ダルク!」
ねぎらいの言葉1つなく、帰還の挨拶を受けたカルキュールは俺を執務室へと追い込んだ。
退室の間際に、マリアの喜びと憂いが混ざった表情が心に痛かった。帰ってきたら存分に相手する、その約束を果たせぬまま離れ離れにされたのだ。里奈に似た顔でそんな表情をされると心が痛む。けどこの仕事量からして、当分マリアの相手をしてられないだろう。
何よりジルが抜けたのが痛い。軍関連の仕事が俺に回ってくるのだ。サカキにも任せてるけど、こういった事務仕事にまったく向いておらず、
「ごめんよ、ジャンヌちゃん。俺、こういう書類見ると眠気が……ぐぅ」
本気で蹴り落としたいと思った。
てかマジで過労死するんじゃないかと思う。
「隊長殿、顔色悪いですよ。少し休んだらどうですか」
帰還して2日経った昼過ぎ。クロエが執務室に来て言った。
出丸もまだまだ完成ではないだろうし、治安維持のための巡回も行っているはずだからクロエも大変だろう。そんな気配は見せないあたりさすがだが。
「そうも言ってられないんだよ。パレード用の衣装の制作状況は逐次監視しないといけないし、ジルたちが抜けたことで警備のスケジュールを練り直さなくちゃならない。あとシータ王国にも招待状を出してるから迎賓館の準備も必要だし、返礼についても考える必要があるし」
タスクを並べるだけで気が滅入る。
晩年の諸葛孔明もこんな気分だったのかなぁ。
「だから心配してくれてありがたいけど、休んでる暇はないよ。っと、そろそろカルキュールと会議の時間だ。メルを交えて、予算の話。ミストがある程度融通してくれたとはいえ、まだまだ経済的には厳しいから。頭の痛い問題だよ」
「そう、ですか……」
クロエが眉をひそめて俯く。
何も手伝えないことが辛いと思っているのだろう。
そんな心中がありありと見えたので、俺は少し声を優しくして言った。
「今日は帰れそうだ。だから栄養のある料理を頼むよ。あと熱々のお風呂も」
「――っ、はい! 承知しました!」
クロエの顔がパッと明るくなる。
それだけで少し胸のつっかえが取れた気がした。
っと、そんなことをしている場合じゃない。
会議の時間だ。
席を立つ。
そしてクロエの横を通り過ぎ、議題について思いをはせようとした時、
「――ん?」
何かが来た。
体の奥底。湧き上がる何か。
ぐるんと視界が回る。
いや、回ったのは体か。あるいは脳か。
それすらも理解できない。
思考が回らない。
もう何を考えているのか分からない。
衝撃。
視界が固定された。すべてが横倒しになっていた。
いや、横になったのは俺の体か。
「――――――」
誰かの声が聞こえる。
それが誰なのか、何を言っているかもわからない。
聞こうにも体が動かないし声もでない。
あれ? これヤバい?
死ぬ?
俺死ぬのか?
また、死ぬのか?
それは――嫌だ。
こんないきなり。
こんな中途半端なところで。
こんな何もできていない状態で。
こんな誰にもお別れが言えないまま。
死ぬのは……嫌だ。
そう願っても体は動かない。声も出ない。
ゆっくりと毒が回るように、意識がもうろうとしてきて、まぶたが落ちていく。
そして完全な闇が降りた時、
(あぁ、これが死ぬってやつだった)
二度目の死。
それを感じて、俺の意識は途絶えた。
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