知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第60話 決戦直前の策謀

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「あ、どうも宅配便です」

 ノックの音にドアを開けるとイッガーがいた。
 背中に背負った大きな木箱を、重そうに担いでいる。

「あ、これここに置きます」

「いや、置きますって、なにそれ……」

 だがイッガーは答えずに、木箱を俺の部屋の中央に運ぶと、ドンッと落とすように置いた。

「ん、ご注文の品です」

「いや、何か頼んだ覚えはないんだけど……」

 てかなんで宅配便?
 何かの冗談か?

 なんて思ってると、不意に木箱が動いた。

 中に何かいる……?

 なにこれ、超怖い。
 まさかヤバいものを入れてきたんじゃ――

「はい、じゃあ開けます」

 そんな俺の心境などなんのその。
 イッガーは黙々と作業して、ついに木箱の蓋を開けた。

「こらぁ! 雑に扱うなって言ったでしょ! 狭いし腰打ったし最悪! もう、隊長殿と会えるからって言葉に騙されたし! こんな目に遭うならもっとあの時しばいとくべきだったー!!」

 確かに、ヤバいものが入っていた。

 木箱から飛び出したのは、見覚えのある顔、聴き馴染みのある声。

「クロエ?」

「………………」

 木箱から頭を出したクロエの首が、オイルの切れたロボットのようにギリギリとゆっくりこちらに向く。
 目が合った。

 俺の顔に何かついているのか。
 見てはいけないものを見てしまったような、いや、見られてはいけないものを見られてしまったような、その顔には後悔と恥辱と悲観と怒気と屈辱と悔恨が入り混じった、なんとも表現しがたい感情がうごめく。

 そして――

「帰して」

 バタンと箱が閉じて、クロエの顔が木箱の中に消えた。

「帰して! オムカに帰る! 隊長殿にこんな姿見られたなんて、もうお嫁にいけない! てか死ぬ! ドスガの軍に突っ込んで死んでやるー!」

「待て待て待て待て! クロエ。見てない。何も見てないから! 死ぬとか言うな! てかイッガー! なに自分は関係ありませんって顔で突っ立ってる!? もしかしてお前、よくわからないけど笑ってないか!?」

 一瞬にしてカオスとなったこの空気を、なんとか終息させるのに10分はかかった。

 ……はぁ、なんでこうなった。

「取り乱してすみませんでした、隊長殿」

「いや、いいんだ。とにかく無事で何よりだ」

「……無事かどうかわかりませんが。いえ、いいでしょう! 隊長殿の役に立てるのであれば、自分は恥をも飲み干す覚悟です! というかウィットの悔しがる顔を思い出して憂さ晴らししてやりますとも!」

 あぁ、クロエがどんどん歪んでいく……。
 前はあんなにいい子だった――わけじゃなかったな。最初からこんなもんか。

「イッガーも、ちゃんと連れてきてくれて感謝するよ」

「いえ……ちょっと重かったですけど」

「イッガーーーー!! 殺す! 隊長殿! この失礼鉄面皮は殺しても構いませんね!?」

「構うからやめてくれ。イッガー。それよりどうなった? スーン王国は」

「あ、はぁ……国王にちょっとお願いしたら快く兵を出してくれました。約3千です。……出発を見届けて馬を飛ばしたので、今頃はフィルフ王国についているかと」

 さすがイッガーだ。
 どうお願いしたかはちょっと気になるけど、今大事なのはスーンが味方したということ。

「クロエ、軍の方は?」

「あ、はい。ワーンス王国は完全にこちらの味方です。あのタキという隊長が今は軍をまとめて、一緒にフィルフ王国まで出向きました。ジーン師団長殿とも再会できましたし。そこで3軍が駐留することになりましたけど、どの国もドスガ許すまじって感じで、凄い殺気立ってますよ」

 ジルも無事だったか。
 その言葉を聞くだけでほっとした。

 これも全部カルキュールが作った流れだ。
 これを保ったまま、なんとか南郡平定までもっていきたいものだ。

「しかし、戦えますか。……女王を人質に取られてますよね」

 イッガーがピンポイントで鋭い指摘をする。

 そう、今のままではオムカは戦えない。
 マリアがここで人質に取られている以上、オムカが参戦すればマリアの命が危険だ。

 だが参戦できなければ勝ち目はかなり薄い。

 ドスガ軍は総勢1万より多い。
 ワーンス軍が2千弱、スーン軍が2千、フィルフ軍が1千となると、ドスガ軍の半分にも満たない。
 いまだに報告のないトロンを入れたとしても、6千から少し減ったオムカ軍5千が参戦しない限り、ドスガ軍には兵力で勝てないのだ。

「それについては――っと、来たか」

 ドアをノックする音。
 会話を聞いていたんじゃないか、と思うほどベストタイミングだ。

「開いている。入ってくれ」

 言葉に反応し、ドアが開く。

「おやおや、これは来客中でしたか」

 マツナガは少しおどけたように肩をすくめてみせる。
 だがそれが逆にわざとらしい。

「どちらかといえば招かれざる客がお前だよ」

「これは手厳しいですね。これほど貴女に尽くそうとしている人はこの国にはいないというのに」

 微笑を浮かべたまま、そんなことを言ってのけるマツナガ。
 よくもそんな台詞が吐けるもんだ。

「隊長殿。なんですか、この胡散臭い人は。きっと隊長殿に害をなします。殴り殺していいですか? 私の双鞭そうべんが火を吹いちゃっていいですか?」」

「いいわけないだろ。最近物騒だぞ、お前」

「がーーん!」

 俺の言葉にショックを受けたのか、クロエはふらふらと部屋の隅へいくと、そのまましゃがみ込んでいじけてしまった。
 可愛そうだけど面倒だから今は放っておこう。

「この人はドスガ王国の宰相マツナガだ。そしてこちらがイッガー。オムカの諜報部隊を担ってもらっている」

「……よろしくです」

「ほぅ、諜報部隊とは。さすが素晴らしいものをお持ちで。よろしくお願いします」

 無表情男と、うさんくささMAX男の対面。
 いったいどんな会話が繰り広げられるのか。

「…………」

「…………」

 はい! やっぱり何も進展しなかった! 次、次!

「それで? 腹は決まったのか?」

「ええ、3つの意味で滞りなく。私はドスガ王国から離反を決意し、ドスガ王は出陣を決意しました。そしてオムカ王国の王女は、西の塔に幽閉されることに」

「そうか」

 先日、マツナガが俺を訪れた時に、離反の申し出を受けた。
 というのも、

『オムカの宰相を殺したことでドスガ王国は終わりました。つきましてはわたしの寝返りを受諾いただきたく』

 徹頭徹尾、自分のことしかない最低な発言だったが、俺にとっては願ってもない話だ。
 だからといって、はいそうですか、と頷くことはできない。

 それが嘘で、こちらを嵌めるための罠である可能性もあるからだ。
 だからこそ俺は2つの条件をつけたわけだが――

「隊長殿、今、女王様を幽閉という言葉が聞こえましたが……やっぱりこの男。敵ですね!」

 クロエが復活して、殺気をみなぎらせてマツナガを睨んだ。

「クロエ。気持ちはわかるが、抑えてくれ。これは俺が指示したことなんだよ」

「隊長殿が? え、ちょっと意味が分からないです」

 クロエの頭にクエスチョンマークが乱立している。
 対してイッガーはなるほど、と相槌をうつ。

「あー、こういうことですか……。オムカが本腰入れて戦闘に介入するためには、女王の安全が必須。そのためまずはドスガ王を戦陣に立たせて、更に簡単に殺させないよう守るために幽閉したと」

「さっすがイッガー。話が早い」

 満点の回答に、指を鳴らす。

「えっと……いや、やっぱわかんないです。つまり女王様は自分から閉じ込められるわけです?」

「クロエはもう少し戦略を学ぼうな?」

「うぅ……お勉強嫌いです」

 そういう問題でもないんだけどな。
 まぁ今はいいや。

「それにしてもマツナガ、よくそんな条件飲ませたな?」

「ええ、思ったより簡単でした。あのジョーショーが決戦を望んでましてね。王に言うわけです。この機会に出そろった反乱分子を殲滅してやりましょう! ってね。王もそれに乗り気でしたので一押しすればすぐに出陣を決めましたよ」

「ジョーショー。カルキュールを殺した奴か」

「ええ、正直あの御仁を舐めていました。今では王に取り入り、ひそかにわたしを排斥しようと企んでいるようで。宰相の暗殺の件もあの御仁が勝手に進めてました。わたしはそれに猛反対したのですが、そのせいで王には睨まれてしまい。ははは、このままではわたしは王に消されてしまいますね」

「えっと、ざまぁみろって感想を言えばいいのか?」

「これは手厳しい。それで後は簡単です。わたしは『大王が留守の間、女王を奪還しようと王宮に忍び込む輩がいるかもしれません。今のうちに女王を処刑すべきでは』と提案したわけです。するとジョーショーはわたしへの反感から、そしてオムカ軍への恐怖から、殺すのではなくむしろ幽閉すべきだと主張しましてね。王もそれを快諾なされました。ええ、わたしは何も女王を幽閉しようだなんて言っておりませんとも。提案したのはジョーショー、決めたのは王です」

「隊長殿、この男。最低ですか?」

「クロエ。思っても言葉には出すなよ。こんなでも一応、一国の宰相だからな?」

 それにしてもこいつ、やり方がえぐい。発言力の落ちた自分の提案を呑ませるのではなく、他人の意見を引きだしてそれを承諾させている。つまり自分が責任を取らされることのない方法で、自分の意見を通した。

 人の心理をこれでもかと突いた、高等技術だ。
 あるいは何かのスキルを使っているのだろうか?

「そういうわけで、ドスガ王は出陣。オムカ女王は西の塔で監禁という状況ができたわけです。しかし、それで勝てますか? ドスガ軍はあの鉄砲傭兵を入れた1万3千。それに対し、そちらの連合軍は多くて1万と2千くらいでしょう。数でも質でも劣っていると思いますが?」

「いやいや、ここにいるのを誰だと思ってるんですか。オムカ国最強の軍師の隊長殿ですよ? そんな戦力差、一撃でバーンとやってくれますよ!」

 クロエが自信満々に言い放つ。
 俺のことを過剰に持ち上げてくれるのはありがたいが、話はそう簡単に進まない。

「あぁ、言い忘れましたが。出陣に先だって、ジャンヌ・ダルクに出頭命令が出ています。もちろん、抜け出して敵に合流しないよう王が打った手ですが。なので、この後にわたしと共に王宮に来てもらいます」

「えぇーーーー」

 打って変わってクロエがこの世の終わりのような表情をする。
 分かりやすいなぁ、こいつは。

「大丈夫だ、それについては手がある。そのためにクロエに来てもらったんだからな」

「わ、私ですか!?」

「それとイッガー、お前にもあと2つ頼みがある」

「あ、はい。何でもどうぞ」

「それからマツナガ……お前にも」

「ふっふっふ、いやいや。楽しませてくれますね。この状況で天才軍師は何を見せてくれるのか。特等席で見せてもらいましょう」

 この期に及んでその態度。本当に大物だ、こいつ。

 だがこれからやろうとしているのは、マツナガの協力なくして成立しない策だ。
 そしてかなりの危険性をはらんだ策。

 小さく深呼吸。
 本当に問題ないか。今さら問う。
 カルキュールの顔が頭にちらつく。
 そしてマリアの顔。

 問題ないかどうかじゃない。
 やるしかないんだ。

 だから俺は言い放つ。

「これからの24時間が勝負だ。頼んだよ、皆」
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