知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
166 / 627
第2章 南郡平定戦

第59話 女神フィーバー

しおりを挟む
「はいはーい。元気してるー?」

 またか……。
 今この世界に頭があれば、間違いなく抱えてみせるのだけど、残念ながら抱える頭がないのでこの責め苦にどうやって耐えようか熟慮が必要だ。
 無視しようかな。

「うわー、最近アッキーの塩対応が加速してるんですけど」

「そりゃあな。これから最終決戦だってのに、お前の顔を見ればやる気も失せる」

「ひどい! 前のアッキーはあんなに激しかったのに! どうしてこんなになっちゃったの!? アッキーにとって私は何なの!?」

「ただの他人。むしろ宿敵」

「うわ、普通に引くわー。それ、実際に言ったら刺される奴だからね」

 当然お前以外には言わねーよ。
 てか言うタイミングがねーよ。

「はぁ……せっかく心配して見に来たってのに」

「また出番がどうとか意味わかんないこと考えてるだろ」

「べ、別に!? 私ほどの徳を積んだ女神なら、出番がなかったら自分で作るだけだし! はい、というわけで作りましたー。これが私の出番でーす!」

 ダメだ。言っている意味が全然分からん。
 というかこいつとの会話、時間の無駄なんだけど。

「残念でしたー。ここは時間という概念はありませーん」

 なんだろう。このイラっとする感情。
 あのマツナガとは別の次元で最低だな、こいつ。

「それひどくない? さすがの私もあれほどじゃないって!」

 こいつにそれほどって言われるマツナガも大概だな。
 ニーアといい、自称女神にそう言わせるなんて。

「だから自称じゃねぇっつーの」

 だから心の中に……はぁ、もういいや。

「てかアッキーもよくやるねぇ。まさかあの宰相さんがあそこまでアッキーに味方するなんて」

「別に俺に味方したわけじゃないだろ。あいつはいつだってマリアだけの味方だよ」

「ふーん。ま、いいけど。で、どうする? パラメータ100ボーナスでもやっとく? 本当はノルマまだ達成してないけど、特別に発動する権利あげるよ?」

 パラメータ100ボーナス。
 確か、因果律をゆがめて望んだ通りの策を発現させるもの。
 そしてそれは死者の蘇生も可能とするとか。

「はい、よくできましたー。ちゃんと覚えてて偉いねぇ」

「うるせ。でも、カルキュールはそれで生き返るのか?」

「そりゃそうだよ。ただ考えてね。ここで使っちゃったら次はもうないから。敵に囲まれて絶体絶命だったり、王都陥落直前まで行ってももう使えないからね。それから因果律を変えると言っても運命率は変えられない。つまり宰相さんが実は生きてて真の力に目覚めて無双して女王を助けて脱出する、なんてありえないことはできないんだよ。そもそも他のプレイヤーに不公平だし」

 死者が蘇生すること自体がありえないが。
 サカキの時は、もともと援軍が近くに来ていたということもあって、それが叶ったというだけということか。

 ただ……俺の心には迷いが生じる。

「え、悩むの? それってつまり宰相さんがアッキーにとってどうでもいい存在だってことだよね? サカキくんの時は即決だったのに。うわー、アッキーひど、冷血、極悪。命は平等だとか言って最終的には自分で順位つけるとかないわー」

「誰もそんなこと言ってねーよ。勝手に非道人間にするな!」

「あははー、メンゴメンゴ。冗談だって。で? 本当にどうする? 今なら出血大サービスで、生き返った宰相さんをちょっとだけイケメン、もといイケオジにしちゃうよ?」

 確かに、死者を生き返らせる。
 そんなことが出来たらどれだけいいか。

 けどカルキュールの死にざまを見て思った。

「…………俺はそのパラメータ100ボーナスがあったとしても、死者を蘇らせるなんてことはもうしないよ」

「へぇ、そりゃまたどうして?」

「どうしてって……そりゃ、なんつーか。カルキュールは、精いっぱい生きて死んだ。いや彼だけじゃない。死んでいった名もなき兵たちも、俺が殺した相手も、それぞれこの時代を精いっぱい生きて死んだ。そして俺はその想いを受けてここにいる。だから俺の都合で、勝手に蘇らせるってのは、どこかいけない感じがする」

「うわー、それって究極の自己満足じゃん? 気持ちに整理がついたから死んでて構いませんってことだよね? 死んだ人はやっぱり生き返りたいと思うんじゃないの?」

「お前、何が言いたいんだよ」

「うふふ、別にー。ただアッキーが私の言葉でうろうろするのを見たいだけ」

 本当に最低だ。時間の無駄だ。ストレッサーだ。
 大体こいつがサービスみたいな感じで言い出すとろくなことがない。

「えー、アッキーいけずー。ま、いいや。アッキーにそのつもりがないなら、この話はおしまい! それでさー、アッキー」

 まだ続くのか?
 もう帰ってくれないかな?
 本当に井戸端のおばちゃんって感じだよ。

「うわ、おばちゃんとかひどくない? 私はまだピッチピチの3千歳ですー!」

「黙れ年増」

「それにしても増えたよね。アッキーの周りに。プレイヤーがさ」

「聞けよ。……はぁ、ったく。望んだ展開じゃないけどな」

「でもアッキー的にはしてやったりでしょ? みんなで元の世界に帰ろうっていうんだから」

 そりゃあそうなんだけど。
 なんだか、こいつに言われるのはムカつく。

「相変わらず口が悪いねぇ。皆の前ではあんなかわい子しいなのに。あっ、でもそのせいで今のピンチなんだっけ? 舌禍ぜっか事件なんだよね」

「うるさい。もう分かったから出てけよ」

「えー、出てけとかアッキーひどい、極悪、差別、亭主関白ー」

「だから人聞きの悪いことを言うな。てか本当に帰ってくれない? これから大変なんだよ」

「そうだね。これからが南軍攻略編のクライマックスだもんね。アッキー、勝算のほどは?」

「誰がお前に言うもんか」

「うわー、アッキーが冷たい。でも分かっちゃうんだよなー、これまでアッキーのこと、ずっと見てたから」

 はいはい、こいつの盗撮盗聴ストーカー疑惑についてはもう何も言わないよ。

「違うよ。アッキーが気になってたから、ずっと見てたんだよ。ずっと、ずっと頑張ってるのを見てたんだよ」

「そ、それってどういう……」

 不意に真面目でしおらしいトーンでそう言われると、俺もなんて返したらいいか分からなくなる。

 だが俺はまだこの自称女神のことを分かっていなかった。

「はい、アウトー! 騙されてやんのー。ぷぷー、ちょっと色目遣ったらどぎまぎしちゃって。かーわーいー」

「お前もう消えろよ!」

「いやですー。でもあれだよね。アッキー彼女いたよね? あのなんとかって子」

 なんとかって全く分かってないじゃないか。

「別に。里奈はただの友達だよ」

「へぇー、ふーん、ほぉー。本当に?」

「本当だよ。てかお前ゴシップ好きだろ」

「うん、大好き」

 即答かよ。
 本当に女神か?
 あー、いや。女神ってそういうもんか。トロイア戦争引き起こしちゃうくらいだもんな。

「でもあれだよね。里奈ちゃんって、あのエイン帝国にいる――――――あっ」

「……おい、ちょっと待て。今なんて言った?」

 今、とても聞き捨てならないことを言った気がする。
 エイン帝国にいる?
 誰が?
 里奈が?
 なんで?
 なんで、この世界にいる?

 それは1つの事実を浮上させる。
 この世界は元の世界からしたら死後の世界。
 つまり彼女も――

「いやいや、ごめんごめん。勘違いだった。いやー、ちょっと最近勘違いが多くてさー。だから聞かなかったことにして?」

「できるか! お前、いい加減にしろよ! それより里奈がここにいるってのはどういうことだ!? しかもエイン帝国!? まさか捕まってるとか!? いや、それより危ない目にあってるかもしれない。くそ、なんで……里奈……」

「うーん、これだけの妄想力。さすが非モテは違う」

「なに物知り顔して言ってんだよ! 教えろ! 里奈は!? 里奈はいったいどこにいるんだ!」

「ちなみに聞いとくけど、それ知ってどうするつもり?」

「もちろん助けに行く! 今の俺ならそれが出来る!」

「南郡は? てか女王はどうするの?」

「そんなもん後回しだ! とにかく今は里奈を――」

「はぁ……ちょっとは成長したと思ったけど。全然ダメだね。てか重症化してる? しょうがないか」

「おい、待て。そのハンマーは……やめろ。俺は忘れるわけにはいかないんだ!」

「だめだめ。これを覚えて戻ったら、絶対アッキーは後悔する。というか酷い事をする。だから今のこれは忘れておいた方がいい。これは親切心だよ?」

 記憶をなくすハンマー。
 それで目覚めれば、ここで得た情報はきれいさっぱり忘れてしまう代物。

 だがそんなことさせるか。
 里奈の情報。
 さすがに衝撃的だったけど、この世界にいるのであれば、全土統一なんてどうでもいい。元の世界に戻るなんてこともどうでもいい。里奈を助けて、どこか安全な場所で暮らせればそれでいいんだ。

「あぁだから嫌だったんだよ。そのモチベーションが。しょうがないよね。あ、そうそう。南郡攻略を頑張るのはいいけど、くれぐれも足元をすくわれないようにね。アッキー。あんまり良い運命じゃなさそうだから、これは覚えて帰ってほしかったけど、まぁしょうがないか。自業自得だもんね」

 何が自業自得だ。
 お前が口を滑らせたのが原因じゃないか!

「はい、というわけでデリートデリート! それじゃアッキー、頑張ってねー」

 軽いノリとは裏腹に、思いっきりハンマーを振りかぶった自称女神は、フルスイングでそれを振り下ろして――

「やめろ、やめてくれ!」

 瞬間、意識は途絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...