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第2章 南郡平定戦
第61話 タイムリミットは24時間
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草原を馬で駆ける。
11月の冷たい空気が、安物のローブの上から容赦なく体温を奪っていく。
王に率いられドスガ軍が王都を出たのが30分前。
イッガーの手引きで、俺は王都の外に出て馬を走らせている。
本来なら王宮に出頭しているはずなのだが、替え玉を使ってここにいる。
『それじゃあこれからジャンヌの顔をそこのクロエに写すさ。言っておくけど、これは24時間しか持たないさ。しかも気を失うと効果が切れるから眠ることも許されない非常に辛い作戦さ。それでもやるさ?』
『全力でやります! あぁ、また隊長殿と一緒になれるなんて……ええ、寝る暇なんてありませんとも! 24時間、隊長殿を感じさせていただきます! ああ、この作戦にクロエを選んでくれた隊長……感謝。大感謝です。ふはは、ざまぁイッガー!』
バレたら即命の危険という大役を、クロエに押し付けたことに罪悪感があったけど、先の言葉を聞いて霧散した。てか引いた。むしろやめたくなった。
いや、あれはクロエなりの強がりなんだな。俺に罪悪感を抱かせないための、彼女なりの気遣いなんだ。きっとそう。うん、そう思おう。
……そう思わないとさすがにないわー。
というわけで、クロエをミストのスキルを使って俺に変装させて王宮へと送った。
もちろんマツナガもそれは承知している。
つまりクロエの変装が解ける24時間がタイムリミット。それまでにドスガ軍を完全に撃破して、かつ王を捕らえることが完全勝利の道。王都に逃げられたらややこしいことになるから、この野戦が最後の機会。
前に一度勝っているから楽勝だ、とは考えない。
戦は1つたりとて同じ状況になるものはない。
今回は兵力からしても、戦場からしても、戦う理由からしても違う。
しかも前は散々じらしてから一気に決めたという下地がある。
今回はそんな暇もなく、真っ向からの力勝負を行うしかないのだ。
背後を襲う余力もないし、さすがにドスガ王も2度はないと警戒しているだろう。
さらに相手にはあいつがいる。
『私も出陣することになってしまいました。私は断ったんですが、内通を疑われては仕方ありません。死ぬのは嫌ですから本気で君たちをつぶしに行きますよ』
そう言ってマツナガは馬上の人になった。
それを差し引いても正直、かなり分の悪い賭けだ。
けど勝負をかけるチャンスはここしかない。ここを逃せば、もう勝ち目がないと言えるほどの状況なのだから。
だから駆ける。
可能なら戦端が開かれる前にたどり着きたい。
けどおそらく無理だろう。ドスガ軍に見つからないよう、かなり迂回してフィルフ王都に向かっているのだから。
ジルたちもドスガ軍の動向を察知しているはずだから、先手を打たれないよう軍を出すはずだ。
そうなると一度はぶつかる。
別れ際にサカキとブリーダに鉄砲の対策を伝えておいたが、どれだけあいつらが守ってくれるか。
祈りながら馬を走らせていると、前の方から遠くで大気を揺るがす爆音が聞こえた。
「始まった!」
鉄砲の音だ。
まだ遠い。当然だ。遠回りしているのだから。
時刻は昼を少し過ぎた時間。
それからも断続して鉄砲の音が鳴る。俺は馬の進路を変えた。もう回り込む必要はないから、一直線に戦場へ向かう。
「イッガー! 飛ばすぞ」
背後を振り返ると、黙々と馬を走らせるイッガーがいた。
俺の言葉に頷いたようだけど、馬の振動の見間違いだったかもしれない。
それでもいい。
俺は馬に鞭をくれて駆け足で走らせる。
10分ほどで前線にたどり着いた。
戦闘は終わっていた。
ぶつかり合いが起こったと思われる場所には、遠目で見ても分かるほどにいくつもの死体が転がっていた。
どちらの軍のものかは分からない。だが味方のものだとはなんとなく察しがついた。
歯をきつく噛み、再び馬を走らせる。
そしてさほど離れていない場所に、1万人以上がたむろす陣地を発見した。
2騎とはいえ、所属不明の騎兵が突如現れてこちらに向かってくるのだ。
陣地がにわかに騒がしくなった。
そこへ俺は馬に括り付けられたオムカの旗を取り出すと、それを広げて掲げてみせた。
イッガーに聞いたところ、クロエが持ってこさせたらしい。小憎らしいことをする。
その旗を見た陣地がさらにざわつき、やがて陣地から数騎が飛び出してきた。
遠目でも分かる。あの姿は、見間違うはずがない。
「ジャンヌ様!」
ジルの声が響いた。
懐かしい。
それもそうだ。1か月以上会っていなかったのだから。
「ジル!」
名前を呼んだ。
いてもたってもいられず、馬を加速させる。
相手も同様で、急速にその姿が大きくなっていく。
そしてその距離がほとんどゼロになった時、同時に止まった。
「よくも無事で……」
「ジャンヌ様の方こそ」
本当は何か色々語りたかったけど、言葉が出てこない。
少しやつれたか?
それも仕方ない。1か月近い籠城を行っていたんだ。
「わざわざ救援いただきありがとうございます」
「いや、それは。もともと俺の判断ミスだし。それに俺が助けたわけじゃない」
「いえ。それでも嬉しかったのです。ジャンヌ様は、私たちを決して見捨てはしないと。信じていましたから」
「ん……そうか」
なんだろう。この安心感は。
ジルならそれが分かってくれる。そう思っていた。それを言葉にされると、なんだかむずかゆくて、ぞくぞくして、とても嬉しい。
ワーンス王国でのあの言葉を思い出してしまう。
あるいはここでその返事をすべきではないのか。
そんな暴走した思いと感情が溢れていると、
「あのージャンヌちゃん? 俺たちもいるんだけど」
ジル以外の声にハッと目が覚める思いで周囲を見渡す。
すぐそばでサカキとブリーダが少し肩身が狭そうな様子でいた。
…………え、いたの?
そりゃそうだ。ジルが来てこの2人が来ないわけない。
なのに俺と来たらジルしか見えていなかったらしい。
さらに2人の前でもじもじと……乙女か!
もう俺って本当に男なんだっけ?
最近本当に自信なくなってきた。というか本当に超恥ずかしい。今すぐ逃げ出したい。
「あれ、ジャンヌちゃん? どうした、顔を真っ赤にして――」
「うるさい、サカキ黙れ!」
「えぇ……なんで俺怒られたの」
っと、さすがに八つ当たりすぎだ。
こほん、と小さく咳払いして、なるだけ平常心でサカキとブリーダに振り返る。
「嘘だ、冗談だよ。よく無事でいてくれた。それに、鉄砲は大丈夫だったんだな」
よし、動揺せずに言えたぞ。
「っす。軍師殿に言われた通り、木の枝と鉄板を組み合わせた盾のおかげで被害はそこまでではなかったっす」
「そうか、なんとかなったか。よかった」
正直不安だった。
竹束は戦国時代に使用された鉄砲に対する盾のようなものだ。
安価で入手しやすい竹を束ねただけのものだが、昔の鉄砲は貫通性能が低かったためそれで防ぐには十分だったのだ。とはいえ万能ではないし、この世界には竹がないということから代用品で作ったわけで、それに鉄の板を組み合わせるまでしたのだけど。
「まぁそれでも500近くの犠牲が出ちまった。やっぱ半端ねぇな、鉄砲って。ちょっと舐めてたわ」
「あぁ。これから戦闘の主役は鉄砲になるだろう」
うん、サカキにも鉄砲の強さが分かったのはこの圧倒的不利な状況で1つの収穫だ。
もちろん、この戦に勝った後の話だけど。
「とりあえず戻りましょうか。他の国の皆様と軍議を開かなければなりません」
ジルの提案に大きく頷く。
あぁその通りだ。
だからこれまで通り、普通に答えようとしたが、
「そ、そそそそうだな! ぎゅ、ぎゅんぎは大事だ――にゃ!」
あれ、おかしい。
普通に返答ができない。
てか口が回らない。
「ジャンヌ様?」
「にゃ、にゃんでもにゃ……いや、ちがっ、そにょ……」
あぁ、もう無理!
なんでか分からないけど、ジルと会話することがとてもハードルが高いように思えてしまう。
こないだまでこんなことなかったのに。
こんな思いを抱くことはなかったのに。
どうしてこうなった。
決まってる。
あの告白まがいのことをされたから。
その答えを言うのが怖くて、こうして動揺してしまっているのだ。
「俺、先、行く!」
もう単語しか喋れず、俺は先に馬を走らせた。
どうしたんだ、俺。
ここからが正念場だってのに。
こんな状態で戦えるのか?
とにかく切り替えろ。
俺の肩には数万の人間が乗っているんだ。
ここで判断を間違えられない。
マリアを助け出すまでは。絶対に。
11月の冷たい空気が、安物のローブの上から容赦なく体温を奪っていく。
王に率いられドスガ軍が王都を出たのが30分前。
イッガーの手引きで、俺は王都の外に出て馬を走らせている。
本来なら王宮に出頭しているはずなのだが、替え玉を使ってここにいる。
『それじゃあこれからジャンヌの顔をそこのクロエに写すさ。言っておくけど、これは24時間しか持たないさ。しかも気を失うと効果が切れるから眠ることも許されない非常に辛い作戦さ。それでもやるさ?』
『全力でやります! あぁ、また隊長殿と一緒になれるなんて……ええ、寝る暇なんてありませんとも! 24時間、隊長殿を感じさせていただきます! ああ、この作戦にクロエを選んでくれた隊長……感謝。大感謝です。ふはは、ざまぁイッガー!』
バレたら即命の危険という大役を、クロエに押し付けたことに罪悪感があったけど、先の言葉を聞いて霧散した。てか引いた。むしろやめたくなった。
いや、あれはクロエなりの強がりなんだな。俺に罪悪感を抱かせないための、彼女なりの気遣いなんだ。きっとそう。うん、そう思おう。
……そう思わないとさすがにないわー。
というわけで、クロエをミストのスキルを使って俺に変装させて王宮へと送った。
もちろんマツナガもそれは承知している。
つまりクロエの変装が解ける24時間がタイムリミット。それまでにドスガ軍を完全に撃破して、かつ王を捕らえることが完全勝利の道。王都に逃げられたらややこしいことになるから、この野戦が最後の機会。
前に一度勝っているから楽勝だ、とは考えない。
戦は1つたりとて同じ状況になるものはない。
今回は兵力からしても、戦場からしても、戦う理由からしても違う。
しかも前は散々じらしてから一気に決めたという下地がある。
今回はそんな暇もなく、真っ向からの力勝負を行うしかないのだ。
背後を襲う余力もないし、さすがにドスガ王も2度はないと警戒しているだろう。
さらに相手にはあいつがいる。
『私も出陣することになってしまいました。私は断ったんですが、内通を疑われては仕方ありません。死ぬのは嫌ですから本気で君たちをつぶしに行きますよ』
そう言ってマツナガは馬上の人になった。
それを差し引いても正直、かなり分の悪い賭けだ。
けど勝負をかけるチャンスはここしかない。ここを逃せば、もう勝ち目がないと言えるほどの状況なのだから。
だから駆ける。
可能なら戦端が開かれる前にたどり着きたい。
けどおそらく無理だろう。ドスガ軍に見つからないよう、かなり迂回してフィルフ王都に向かっているのだから。
ジルたちもドスガ軍の動向を察知しているはずだから、先手を打たれないよう軍を出すはずだ。
そうなると一度はぶつかる。
別れ際にサカキとブリーダに鉄砲の対策を伝えておいたが、どれだけあいつらが守ってくれるか。
祈りながら馬を走らせていると、前の方から遠くで大気を揺るがす爆音が聞こえた。
「始まった!」
鉄砲の音だ。
まだ遠い。当然だ。遠回りしているのだから。
時刻は昼を少し過ぎた時間。
それからも断続して鉄砲の音が鳴る。俺は馬の進路を変えた。もう回り込む必要はないから、一直線に戦場へ向かう。
「イッガー! 飛ばすぞ」
背後を振り返ると、黙々と馬を走らせるイッガーがいた。
俺の言葉に頷いたようだけど、馬の振動の見間違いだったかもしれない。
それでもいい。
俺は馬に鞭をくれて駆け足で走らせる。
10分ほどで前線にたどり着いた。
戦闘は終わっていた。
ぶつかり合いが起こったと思われる場所には、遠目で見ても分かるほどにいくつもの死体が転がっていた。
どちらの軍のものかは分からない。だが味方のものだとはなんとなく察しがついた。
歯をきつく噛み、再び馬を走らせる。
そしてさほど離れていない場所に、1万人以上がたむろす陣地を発見した。
2騎とはいえ、所属不明の騎兵が突如現れてこちらに向かってくるのだ。
陣地がにわかに騒がしくなった。
そこへ俺は馬に括り付けられたオムカの旗を取り出すと、それを広げて掲げてみせた。
イッガーに聞いたところ、クロエが持ってこさせたらしい。小憎らしいことをする。
その旗を見た陣地がさらにざわつき、やがて陣地から数騎が飛び出してきた。
遠目でも分かる。あの姿は、見間違うはずがない。
「ジャンヌ様!」
ジルの声が響いた。
懐かしい。
それもそうだ。1か月以上会っていなかったのだから。
「ジル!」
名前を呼んだ。
いてもたってもいられず、馬を加速させる。
相手も同様で、急速にその姿が大きくなっていく。
そしてその距離がほとんどゼロになった時、同時に止まった。
「よくも無事で……」
「ジャンヌ様の方こそ」
本当は何か色々語りたかったけど、言葉が出てこない。
少しやつれたか?
それも仕方ない。1か月近い籠城を行っていたんだ。
「わざわざ救援いただきありがとうございます」
「いや、それは。もともと俺の判断ミスだし。それに俺が助けたわけじゃない」
「いえ。それでも嬉しかったのです。ジャンヌ様は、私たちを決して見捨てはしないと。信じていましたから」
「ん……そうか」
なんだろう。この安心感は。
ジルならそれが分かってくれる。そう思っていた。それを言葉にされると、なんだかむずかゆくて、ぞくぞくして、とても嬉しい。
ワーンス王国でのあの言葉を思い出してしまう。
あるいはここでその返事をすべきではないのか。
そんな暴走した思いと感情が溢れていると、
「あのージャンヌちゃん? 俺たちもいるんだけど」
ジル以外の声にハッと目が覚める思いで周囲を見渡す。
すぐそばでサカキとブリーダが少し肩身が狭そうな様子でいた。
…………え、いたの?
そりゃそうだ。ジルが来てこの2人が来ないわけない。
なのに俺と来たらジルしか見えていなかったらしい。
さらに2人の前でもじもじと……乙女か!
もう俺って本当に男なんだっけ?
最近本当に自信なくなってきた。というか本当に超恥ずかしい。今すぐ逃げ出したい。
「あれ、ジャンヌちゃん? どうした、顔を真っ赤にして――」
「うるさい、サカキ黙れ!」
「えぇ……なんで俺怒られたの」
っと、さすがに八つ当たりすぎだ。
こほん、と小さく咳払いして、なるだけ平常心でサカキとブリーダに振り返る。
「嘘だ、冗談だよ。よく無事でいてくれた。それに、鉄砲は大丈夫だったんだな」
よし、動揺せずに言えたぞ。
「っす。軍師殿に言われた通り、木の枝と鉄板を組み合わせた盾のおかげで被害はそこまでではなかったっす」
「そうか、なんとかなったか。よかった」
正直不安だった。
竹束は戦国時代に使用された鉄砲に対する盾のようなものだ。
安価で入手しやすい竹を束ねただけのものだが、昔の鉄砲は貫通性能が低かったためそれで防ぐには十分だったのだ。とはいえ万能ではないし、この世界には竹がないということから代用品で作ったわけで、それに鉄の板を組み合わせるまでしたのだけど。
「まぁそれでも500近くの犠牲が出ちまった。やっぱ半端ねぇな、鉄砲って。ちょっと舐めてたわ」
「あぁ。これから戦闘の主役は鉄砲になるだろう」
うん、サカキにも鉄砲の強さが分かったのはこの圧倒的不利な状況で1つの収穫だ。
もちろん、この戦に勝った後の話だけど。
「とりあえず戻りましょうか。他の国の皆様と軍議を開かなければなりません」
ジルの提案に大きく頷く。
あぁその通りだ。
だからこれまで通り、普通に答えようとしたが、
「そ、そそそそうだな! ぎゅ、ぎゅんぎは大事だ――にゃ!」
あれ、おかしい。
普通に返答ができない。
てか口が回らない。
「ジャンヌ様?」
「にゃ、にゃんでもにゃ……いや、ちがっ、そにょ……」
あぁ、もう無理!
なんでか分からないけど、ジルと会話することがとてもハードルが高いように思えてしまう。
こないだまでこんなことなかったのに。
こんな思いを抱くことはなかったのに。
どうしてこうなった。
決まってる。
あの告白まがいのことをされたから。
その答えを言うのが怖くて、こうして動揺してしまっているのだ。
「俺、先、行く!」
もう単語しか喋れず、俺は先に馬を走らせた。
どうしたんだ、俺。
ここからが正念場だってのに。
こんな状態で戦えるのか?
とにかく切り替えろ。
俺の肩には数万の人間が乗っているんだ。
ここで判断を間違えられない。
マリアを助け出すまでは。絶対に。
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疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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