知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第8話 北伐

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 大運動会の熱気が落ち着いて間もない月末。
 オムカは兵を出した。

 とりあえず王都にあるものは全部出し切っての出兵で、南郡からは兵の代わりに兵糧と軍資金の援助を受けた。
 これで向こう2か月はなんとか持つ。その間に税を徴収しつつ、秋の収穫を待てばなんとかなりそうだ。

 北上する軍は1万3千。
 兵糧的にそれが限度なのと、王都はもちろん、ビンゴ王国から返してもらった砦の守備隊を考えるとそれが最適。隣接した敵国がないとはいえ、ゲームと違って全兵力を出すわけにはいかない。超迂回ルートで敵が攻撃してくるかもしれないし、賊徒への備えや治安維持にも残す兵は必要なのだ。

 ただ今回はいつもと少し違う。
 鉄砲隊1千の編成がついに完成したのだ。

 これまで100丁くらいしかない鉄砲だったが、シータから九神の伝言と共にようやく届いたのだ。

『とりあえず約束分。うちの工房で超特急で作らせた新作だから。急いでも質はこれまでより上だから安心して使うといい。あとサービスで新作の銃も200くらい持ってきたから』

 もちろんタダではない。
 同盟国とはいえ、そこまでお人よしではないのだ。

 とはいえ億を超える請求額をすぐに払えるわけがない。
 だから代案が用意された。

『うちと、おたくの南郡。その通商ルートを確立するための、交易許可証と向こう1年間の関税撤廃。それで手を打とうじゃないか』

 九神の提案にマリア(と一応マツナガ)の許可を得て即断した。
 将来的な十億より、今の現実的な1億が今のオムカには必要なのだ。

 というわけで商談は成立。
 晴れてオムカ王国にも鉄砲隊が誕生することになった。

「クルレーン、鉄砲隊はどうだ?」

 行軍の最中、俺は新生鉄砲隊の隊長クルレーンに話しかけてみた。
 ドスガ王国に従っていた、傭兵部隊の隊長だった男だ。

 あの最終決戦の際、鉄砲が使えなくなって潰走かいそうしたところを捕縛。
 多数の死者を生み出した張本人であることから、死刑を望む声が多かったが、俺がかけあって無罪とした。鉄砲隊を引き抜けないかとか、せめて鉄砲隊を鍛える講師にできないかとか思惑はあったけど、単純にもう南郡の平定はあの戦で終わったのだから無駄な死者を出したくなかったからだ。

 そして折を見て金額交渉をしようと使いを送ったところ、驚いたことに本人が来た。
 しかも部下を100名ほど連れて。

『ジャンヌ殿には命の貸しがある。向こう2年、鉄砲隊の育成および戦場での働き、さらには要人の警護など我々にやらせてもらおう』

 少し気だるそうに言ってきたのだ。

 まさに棚からぼたもち。
 信義に厚いと『古の魔導書エンシェントマジックブック』にはあったけど、本当みたいだ。
 ともかく、こうしてオムカ王国は精強な鉄砲隊を手に入れることができたわけだ。

「そうだな。この数か月、徹底的に仕込んだから、仕上がりは上々か」

 クルレーンは30代中頃の昔気質の職人という雰囲気だ。顔のほりも深く、無精ひげを生やしているところも渋い感じ。寡黙なようだが、仕事関連のことになるとよく話す。オムカにはいなかったタイプの人間だった。

「ただなにより鉄砲が素晴らしいな。この銃、何が違うか分かるか?」

 クルレーンのぶっきらぼうな言い方にも、もう慣れた。
 だから普通に聞き返す。

「いや、俺もそんなに詳しくないから」

「このからくり部分。特に火皿のところだな。ここが湿気たら火薬がダメになってしまう。だからこそここが唯一の鉄砲の弱点だ。それがかなり改良されている。銃の上部ではなく下部につけられ、屋根のような形で水が入るのを防いでる。つまり水に強いということだ。ジャンヌ殿にやられたあの水を爆発させるやり方は防げないかもだが、雨にはめっぽう強くなった」

「はぁ……」

「さらにこの最新式の銃はすさまじい。何よりこの後装式というのは革命だ。わざわざ1回撃ったら弾を込め直す必要がないのだから。ただ最大2発しか装填できない点と、火薬と弾丸が一緒になった専用の銃弾が必要だから、あまり無茶はできんがね。これが量産された暁には、帝国軍が1万来ようが、1000で容易に撃退可能と俺はみている」

「へぇ……」

「この銃は是非国内で量産できる体制を整えるべきだ。今、知り合いの鍛冶師に頼んで分解、構造を調べてもらってるから、いずれは作れるようになるだろうな。あと問題は銃弾。こちらがなかなか難しい。シータ王国から設計図がもらえれば楽だが……」

「ほぉ……」

 本当によくしゃべるなぁ。
 てゆうか要はこれが南郡で戦った時にあったら、俺たち勝てなかったってこと?
 危なー。

「と、とにかく。俺の指揮下とはいえ、実際の戦闘は任せるから」

「ああ、敵に我々の力を思い知らせてやるさ」

 その敵と出会ったのは昼過ぎだった。

 オムカ王都北部にある砦。
 そこにはあの尾田張人とかいう奴が、『収乱斬獲祭ハーヴェスト・カーニバル・カニバリズム』の狂戦士と共にいるはずで、俺たちの接近を察知してか、砦の前で陣を敷いていた。

 およそ2万。
 数の上では勝負になるレベルだが、地の利はあちらにある。そこそこ頑丈な、石造りの砦だ。そこに逃げ込まれたらこちらは相当の被害を覚悟しないといけなくなるだろう。
 それに相手は援軍も遠からず来るはずだ。
 今回の俺たちの目的は、ここの2万の足止めと援軍を呼び寄せ、ビンゴとシータの援護をすること。

 いきなりあの男相手に勝てるとは思っていない。
 じっくりと機を読んで、勝負に出るつもりだった。

 だからとりあえず対峙を続けて隙を見つけるためにジルたちと話し合おうと思った矢先だ。

「敵、前進!」

 まさか。
 目を疑った。だが確かに敵が陣を組んでこちらに向かってくる。

 あるいは誘いか。
 しばらく目をこらす。どこかで止まる。そう思ったからだ。

 だが止まらない。

 陣形は魚鱗ぎょりんの陣。
 攻撃力に優れ、本来は兵力が少ない方が使う陣形だが、大軍で使っても十分に効果のある陣形だ。
 大軍に兵法なし。
 数で大幅に勝っているのなら、下手な奇策をするより真っ向勝負したら勝てるということ。何より正面以外の場所からの攻撃や包囲に弱いという点が弱点があるが、大軍ならばそれにも対応可能だ。

 が、今そこまでの兵力差というほどではないのが気にかかる。

 相手を見る。
 速度重視のためか軽装で、防御は一応弓対策の木の盾くらいのようだ。

 対するこちらは持久戦の構えでいたから満足な陣形も取れていない。
 至急、防御態勢か後退を指示するしかない。

 ――今までならば。

「クルレーン! 早速出番だ! 近づいてくる敵にぶっ放せ!」

「承知!」

「伝令! ジルとサカキとブリーダに、鉄砲隊の斉射後、それぞれが攻撃を始めさせろ! 徹底的に潰すぞ!」

 俺たちだってここ数か月、十分ではないけれど準備してきた。
 その嚆矢こうしが鉄砲隊。それに各隊の連携もみっちりやっている。敵の数が多い場合の想定も練りに練ってきた。

 だから勝つ。

 向こうが攻めて来たということは、先に挙げた地の利を放棄したことに他ならない。しかも動くということは、どこかに隙ができるということ。そこを突けばこの兵力差、なんとでもなる。

 援軍を待たれると厄介だったが、その前に出てきたならこのチャンスを逃すべきではない。

 敵が近づいてくる。こちらは慌ただしく動いているように見えるだろう。それで不用意に近づいてくれれば御の字だ。

 敵との距離が縮まる。
 クルレーンはまだ撃たない。
 そこら辺の呼吸は全部クルレーンに任せた。俺はその後の処理に思考を費やすだけだ。

 敵が近づく。
 もうすぐ先頭の顔もはっきり見えそうだ。
 まだか。

 じりじりと時間だけが過ぎ、まさかクルレーンは裏切るつもりなのか、という疑念が頭をよぎった刹那、

「放てぇ!」

 クルレーンの大音声。
 同時に火ぶたが切られ、1千もの鉄砲から同時に弾が飛び出した。それが前進する敵にぶつかり、木の盾を破砕して、前列を広域に渡って血しぶきを舞わせた。

 後で聞くことによると、クルレーンは部隊を3つに分けたらしい。
 真正面から鉄砲を撃ったところで、命中精度の悪い火縄銃のことだ。当たらないことも多いだろう。
 しかも相手は魚鱗の陣。つまり三角形の頂点が先頭に来るのだ。そこに鉄砲を撃ったとしても当たる面積はかなり小さい。

 鉄砲を撃ったら弾を込め終わった鉄砲に取り変えながら撃つ、いわゆる三段撃ち(実際はなかったとされているが、鉄砲の交代して撃つことはあったとされる)も有効だが、敵の接近速度を見る限り有効ではない。

 そう見たクルレーンは正面に200、少し離れて左右に400ずつを展開。
 そこで敵の前衛に交代で2連射させた。
 つまり魚鱗の三角形の頂点に対し小規模な翼包囲よくほうい(翼のように部隊を広げ敵を正面左右から包囲攻撃すること)を仕掛けたのだ。

 これは何が違うかというと、三角形の頂点に対して正面に加え斜め左右から射撃を加えることで、普通に正面から射撃する時の3倍以上の効果をあげることになるのだ。
 つまり斜め左右から射撃された弾は、正面から射撃しては当たりづらい側面の兵を倒すことになり、それが外れたとしても前進してくる敵の誰かしらには命中することになるのだ。

 鉄砲隊の奇襲という点もあるが、横撃という魚鱗の陣の弱点を無理やり作り出し、局所的な勝利を収めることに成功したわけだ。
 さんざん俺たちを苦しめた傭兵の鉄砲隊の面目躍如だった。

「全軍、突撃!」

 敵の前衛が混乱したタイミングを狙って、俺はオムカの旗を大きく振った。
 それに合わせたようにジル、サカキ、ブリーダの隊が敵に逆襲を始める。

 鉄砲隊があると思わず、しかも混乱していると思った敵は、いざ攻められるともろかった。
 さんざんに打ち破られ、ほうほうのていで逃げ出した時には、1万5千ほどに減っていた。

 大勝利だ。

 しかも敵は砦を放棄したらしく、そのまま北へと逃げ出したという。

 呆気ない。
 これがあの尾田張人の軍なのか? あれだけ偉そうなこと言って、宣戦布告していった奴の本気なのか?

「やったなジャンヌちゃん! 大勝利だ!」

「っすね。あの鉄砲隊をって思いましたけど、ここまで凄いとは」

 ジルとサカキ、ブリーダが戦後処理を終えたところでやってきた。

「しかも敵さんは砦を放棄して逃げてったんだろ? さっさと入ろうぜ。そろそろ陽も暮れるしよ」

「いや、待つんだサカキ。どうもおかしい」

 陽気な笑みを浮かべるサカキとブリーダに反して、俺は難しい表情で答える。

「へ? なんで?」

「呆気なさすぎると考えているですよ、ジャンヌ様は」

「いや、ジーン。それは帝国軍の奴らが腑抜けだから……」

 それはそうなのかもしれない。
 そうだとしても、砦を放棄する必要はないのだ。

「決死隊をつのれないか? 100でいい」

「決死隊、ですか?」

「あの砦、もしかしたら罠かもしれない」

「わなぁ!?」

 俺は説明した。
 敵が放棄した砦に何かしらの罠を仕掛け、それを包囲するなり逃げ出そうとした俺たちを殲滅するなりする可能性があると。

 まぁ帝国軍相手とドスガ軍相手にさんざん俺がやったのと似たようなものだ。

「ふぅむ……確かにそれはあり得ないことではないですが」

「罠なんかねーよ。だってあいつら見たろ? あの負け方、演技じゃないって」

「っすね。確かにあの負けっぷりはわざとじゃないっす。ならあの砦を調査して――ああ、だから決死隊っすか」

「そういうこと」

 3人の合意を得た俺は、決死隊を砦に送り込み、徹底的に調べさせた。
 その間も、逃げた1万の行方や、他に敵がいないかを調べるため四方八方に偵察を出させた。

 だが、そのどれも空振りに終わった。

「砦には何もなし。逃げた1万はヨジョーの城へ向かっている気配? しかもそのヨジョー城に残った兵はすでに船に乗った逃げた形跡がある?」

 ヨジョー城とは、オムカ王都バーベルの北にある地方にある城だ。
 かなりの人口をようする城で、オムカ攻略の後方支援基地ともいえる要所だ。

「あぁ、ジャンヌちゃん。しかもここ数キロ以内に見える敵兵はいないって話だ」

 全然分からない。
 敵の目的はなんだ? これは完全にオムカ王都およびヨジョー地方を放棄したとしか思えない。

 それとも本気なのか?
 本気で引き上げたのか?

 あるいは――それほど各戦線が切羽詰まっているということか。
 ビンゴとシータの攻勢が激しく、さらにオムカまで北上してきたから戦線を縮小して、俺たちの補給路を伸ばさせて各個に撃破を狙っているということもありうる。

 ただどうも解せない。
 あれほど自信満々に宣戦布告してきた尾田張人の様子を見ると、こんなことにすら手を打っていないはずがない。
 それとも俺の過大評価だったのか。

「ジャンヌ様、いかがしますか。そろそろ夜になりますが」

 ジルが聞いてくる。
 いや、そうだ。今は考えても仕方ない。
 わずかとはいえしっかり戦った味方を休ませるのは俺の仕事だ。

「分かった。砦に入ろう」

 だがその時、俺は――いや、俺たちは敵の巧妙かつ奇妙な罠にずっぽりとはまっていることに気づけなかった。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。
いよいよ帝国戦開始です。新たな仲間と共に幸先の良いスタートを切ったが……。この後の展開にご期待ください。

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