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第3章 帝都潜入作戦
閑話5 ブリーダ(オムカ王国騎馬隊隊長)
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遠くで太鼓の音が鳴っている。
敵が渡河を始めたのだろう。
戦場の音を遠くに聞きながらも、何もしていない自分が悔しいと思う。騎馬隊がいても船上の敵と戦えるわけはないのだから、しかたないとはいえ、だ。
それにここから離れるわけにはいかない。
昨日は結局、何事もなく日暮れとなったが、今日か明日には別動隊が来る可能性が高いと軍師殿は言っていた。
「今日、来るっすかね」
できるなら早く来て欲しい。
やはり味方が戦っているのを黙って見ているのは辛い。
けど自分たちがしっかり役目を果たさなければこの戦、負ける。そしてその負けは、オムカ王国滅亡に直結するほどの影響力を持っているのだ。
父親、そして爺が夢見た世界。
独立したオムカ王国。それを守りたいという思いは、多分誰にも負けないと思う。
だから太鼓の音を背にして、川の上流を見張る。あまり川に近づきすぎると対岸から見られてしまうから、少し離れた位置で馬を走らせる。
馬は適度に走らせておかないと、すぐに走れなくなってしまう。人間も一緒だ。だからこうして調練と偵察をかけて川岸を走っている。
「隊長、本当に私たちはここにいて良いのですか」
副長のアイザが馬を寄せて聞いてきた。
年は自分の少し下だから20前の女性。それでも副長という立場にいられるのは、爺が死ぬ前から色々と気を利かして鍛えたらしく、隊をまとめる力はそれなりにあったからだ。
しかも爺の余計なお世話というか、何かとアイザを勧めてくるのには辟易としていた。見た目も悪くはないと思っているが、物静かな佇まいの中にたまに鋭い一言が紛れ込んだりするので、若干苦手だったりする。
「まぁ軍師殿がそう言ってるっすからねぇ」
「……幼女趣味が」
「な、なんすか!? じ、自分は別にそういうわけじゃないっすから!」
「はぁ……子供に殴られてそれを嬉しがっている被虐趣味でもありますからね」
「それも語弊があるっすぅぅ!」
アイザに構っていたところに、部下の叫びが重なった。
「隊長! 1時方向の林に旗!」
示された方を見ると、確かに数百メートル先の林にオムカの青い旗が翻っているように見える。
あれはクルレーンが敵を発見したという合図。
さすが軍師殿。予測は的中。
それを疑って信じなかったアイザを笑ってやろうと思ったっすが――
「隊長、いつまでふざけてるんですか、行きますよ」
「なんすか、その手のひら返しは……」
「ほら、急ぎますよ。早くしてください」
うぅ……これだから苦手っす。
とはいえこれは急を要する案件。
「ブリーダ隊、行くっすよ!」
先頭を切って走り出す。
それに続く馬群が響かす馬蹄の音は大地を揺るがすほどの大音量。
林が目前に迫る。
その時、林の向こうに集団を見つけたのと、轟音が連続して響いたのは同時。
「始まったっす!」
「隊長」
「分かってるっす!」
林を迂回するように動く。
すると林と川に挟まれた位置に敵が1万――いや6、7千か――の敵が見える。
敵は全て歩兵。だが林から放たれる間断ない銃撃に対し、盾のようなものを掲げて備えている。
それはつまり、こちらへの備えができていないということだ。
揺るがす馬蹄の音も、轟く銃声と鉄砲隊に対する警戒でこちらに気づくのが遅れた。
だから行ける。
3倍の敵でも問題ない。
「全軍、突っ込むっす!」
アテナイに足で伝える。
それに応えるように、アテナイは速度を上げた。
剣を抜き放つ。敵がこちらに気づく。その顔が引きつっている。鉄砲隊に不意打ちされた上に、騎馬隊に横槍を入れられるのだから恐怖は倍増だ。
けど手加減はできない。1人逃せば、その1人がオムカの仲間を殺すだろうから。
突っ込む。蹴散らした。右に左に剣で斬り捨てる。アテナイも怯んだ敵兵を踏み潰す。敵の声。態勢を立て直そうとやっきになっている。
そちらに走る。いや、アテナイが勝手に向かった。声を枯らして叱咤する隊長格の男。その顔がこちらに向き、驚愕に目が見開かれる。その顔に向かって剣を叩きこんだ。
手ごたえ、ありっす。
それが油断になった。
「隊長!」
声。誰だ。アイザ。いや、敵だ。横。槍。間に合わない。
――閃光。
敵が倒れた。その向こうに血に濡れた剣を構えるアイザがいた。
「油断ですよ、隊長」
「油断じゃないっす。避けられたっす」
「…………負け惜しみを」
「さぁ、断ち割るっすよ!」
速度を再び上げ、歩兵を断ち割った。
そこにさらに鉄砲隊が射撃を放つ。
旋回しながら敵に狙いを定める。
もう一撃で敵は潰走するはず、そう思った時だ。
「隊長、6時方向に馬群!」
6時……背後!?
歩兵にぶつかるのを瞬時に諦め、そのまま大回りして背後に馬を向けた。
なるほど。
確かに向こうから土煙があがっている。
味方か、と一瞬思ったけどこんなところに味方がいるわけない。そもそも自分たち以外の騎馬隊は、軍師殿の直轄ぐらいしかいないし、あの土煙に見えるほどの数はない。
つまり敵。およそ3千。
敵の位置的に、おそらくクルレーンの部隊を強襲するための援護部隊だったのだろう。
「来るっすよ、戦闘態勢――」
速い。
遠くに見えた馬群が、もうすぐそこにいた。
舌打ちしてアテナイに伝える。走り出す。敵。先頭にマントの小柄。少女? いや、躊躇うな。
はせ違った。
手ごたえは、ない。相手の剣も空を切った。どちらが方向を変えたのか、臆したのかは分からない。分かる必要もない。
分かったのは2つ。
この敵は強いということ。そしてこの敵を軍師殿の元へ行かせてはいけないということ。
「気張るっすよ!」
部下に声をかけると、無言で圧が返ってくる。
それに押されるようにして、再びアテナイを走らせた。
敵が渡河を始めたのだろう。
戦場の音を遠くに聞きながらも、何もしていない自分が悔しいと思う。騎馬隊がいても船上の敵と戦えるわけはないのだから、しかたないとはいえ、だ。
それにここから離れるわけにはいかない。
昨日は結局、何事もなく日暮れとなったが、今日か明日には別動隊が来る可能性が高いと軍師殿は言っていた。
「今日、来るっすかね」
できるなら早く来て欲しい。
やはり味方が戦っているのを黙って見ているのは辛い。
けど自分たちがしっかり役目を果たさなければこの戦、負ける。そしてその負けは、オムカ王国滅亡に直結するほどの影響力を持っているのだ。
父親、そして爺が夢見た世界。
独立したオムカ王国。それを守りたいという思いは、多分誰にも負けないと思う。
だから太鼓の音を背にして、川の上流を見張る。あまり川に近づきすぎると対岸から見られてしまうから、少し離れた位置で馬を走らせる。
馬は適度に走らせておかないと、すぐに走れなくなってしまう。人間も一緒だ。だからこうして調練と偵察をかけて川岸を走っている。
「隊長、本当に私たちはここにいて良いのですか」
副長のアイザが馬を寄せて聞いてきた。
年は自分の少し下だから20前の女性。それでも副長という立場にいられるのは、爺が死ぬ前から色々と気を利かして鍛えたらしく、隊をまとめる力はそれなりにあったからだ。
しかも爺の余計なお世話というか、何かとアイザを勧めてくるのには辟易としていた。見た目も悪くはないと思っているが、物静かな佇まいの中にたまに鋭い一言が紛れ込んだりするので、若干苦手だったりする。
「まぁ軍師殿がそう言ってるっすからねぇ」
「……幼女趣味が」
「な、なんすか!? じ、自分は別にそういうわけじゃないっすから!」
「はぁ……子供に殴られてそれを嬉しがっている被虐趣味でもありますからね」
「それも語弊があるっすぅぅ!」
アイザに構っていたところに、部下の叫びが重なった。
「隊長! 1時方向の林に旗!」
示された方を見ると、確かに数百メートル先の林にオムカの青い旗が翻っているように見える。
あれはクルレーンが敵を発見したという合図。
さすが軍師殿。予測は的中。
それを疑って信じなかったアイザを笑ってやろうと思ったっすが――
「隊長、いつまでふざけてるんですか、行きますよ」
「なんすか、その手のひら返しは……」
「ほら、急ぎますよ。早くしてください」
うぅ……これだから苦手っす。
とはいえこれは急を要する案件。
「ブリーダ隊、行くっすよ!」
先頭を切って走り出す。
それに続く馬群が響かす馬蹄の音は大地を揺るがすほどの大音量。
林が目前に迫る。
その時、林の向こうに集団を見つけたのと、轟音が連続して響いたのは同時。
「始まったっす!」
「隊長」
「分かってるっす!」
林を迂回するように動く。
すると林と川に挟まれた位置に敵が1万――いや6、7千か――の敵が見える。
敵は全て歩兵。だが林から放たれる間断ない銃撃に対し、盾のようなものを掲げて備えている。
それはつまり、こちらへの備えができていないということだ。
揺るがす馬蹄の音も、轟く銃声と鉄砲隊に対する警戒でこちらに気づくのが遅れた。
だから行ける。
3倍の敵でも問題ない。
「全軍、突っ込むっす!」
アテナイに足で伝える。
それに応えるように、アテナイは速度を上げた。
剣を抜き放つ。敵がこちらに気づく。その顔が引きつっている。鉄砲隊に不意打ちされた上に、騎馬隊に横槍を入れられるのだから恐怖は倍増だ。
けど手加減はできない。1人逃せば、その1人がオムカの仲間を殺すだろうから。
突っ込む。蹴散らした。右に左に剣で斬り捨てる。アテナイも怯んだ敵兵を踏み潰す。敵の声。態勢を立て直そうとやっきになっている。
そちらに走る。いや、アテナイが勝手に向かった。声を枯らして叱咤する隊長格の男。その顔がこちらに向き、驚愕に目が見開かれる。その顔に向かって剣を叩きこんだ。
手ごたえ、ありっす。
それが油断になった。
「隊長!」
声。誰だ。アイザ。いや、敵だ。横。槍。間に合わない。
――閃光。
敵が倒れた。その向こうに血に濡れた剣を構えるアイザがいた。
「油断ですよ、隊長」
「油断じゃないっす。避けられたっす」
「…………負け惜しみを」
「さぁ、断ち割るっすよ!」
速度を再び上げ、歩兵を断ち割った。
そこにさらに鉄砲隊が射撃を放つ。
旋回しながら敵に狙いを定める。
もう一撃で敵は潰走するはず、そう思った時だ。
「隊長、6時方向に馬群!」
6時……背後!?
歩兵にぶつかるのを瞬時に諦め、そのまま大回りして背後に馬を向けた。
なるほど。
確かに向こうから土煙があがっている。
味方か、と一瞬思ったけどこんなところに味方がいるわけない。そもそも自分たち以外の騎馬隊は、軍師殿の直轄ぐらいしかいないし、あの土煙に見えるほどの数はない。
つまり敵。およそ3千。
敵の位置的に、おそらくクルレーンの部隊を強襲するための援護部隊だったのだろう。
「来るっすよ、戦闘態勢――」
速い。
遠くに見えた馬群が、もうすぐそこにいた。
舌打ちしてアテナイに伝える。走り出す。敵。先頭にマントの小柄。少女? いや、躊躇うな。
はせ違った。
手ごたえは、ない。相手の剣も空を切った。どちらが方向を変えたのか、臆したのかは分からない。分かる必要もない。
分かったのは2つ。
この敵は強いということ。そしてこの敵を軍師殿の元へ行かせてはいけないということ。
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