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第3章 帝都潜入作戦
閑話6 長浜杏(エイン帝国大将軍)
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敵に蹂躙される味方を見て思う。
あーもー、なんで先に始めるかな。
功を焦ったかなんだか知らないけど、困るんだよねぇ、予定を乱されると。
てかあの張人きゅん、可愛い顔してえぐい事するよね。
側面攻撃の2段目を僕様にやらせるなんて。
まぁいいや。
まだ壊滅していないだけマシだろうから。
「救援行くよ」
部下の騎馬隊3千に声をかける。
これは自分直属の部隊で、北方戦線で戦っていた時も離れなかった精鋭だ。
走り出す。
すぐに戦場が見えてくる。
歩兵7千。それが騎馬隊に真っ二つにされて、林の中からの鉄砲隊の射撃で次々に崩されている。念のために持たせた鉄盾がなければ今頃全滅していただろう。
指で後ろに続く部下に指示を出す。相手も馬蹄の音で接近に気づいているはずだ。
だから速度を上げて突っ込んだ。剣を抜く。相手も面食らったようだが、すぐにこちらの意図を読み向かってくる。
すれ違った。
「ちっ、惜しいなぁ」
相手の馬が反射的に道をずらした。
主を守ったということだろう。
それでもいい。
「それじゃあもうちょっと付き合ってもらおうかなぁ……『神算鬼謀』、発動」
途端、周囲の明度が下がる。
黒いフィルターがかかったような視界。
そこには普通ではありえない、無数の矢印が見える。
人がそれぞれに動こうとする意志の方向、注意の向き先だ。
1人の場合は、向き先と注意の方向は必ずしも一定ではないが、軍という集団となり戦場に降り立った途端、1つの生き物のように方向性が統一される。
だから相手の行動する方向が予測できる。
そして何に気を配っているかが分かる。
スキル『神算鬼謀』。
その効果は張人きゅんに言った説明は、半分本当で半分嘘だった。
戦の数手先まで見えると言ったがそれは正確ではない。軍の持つ方向性を見て、分析して、そこに僕様の天才的な閃きと洞察力が加わって、10手先の行動が見えるように装っているだけだ。
あの時も張人きゅんは上流に矢印が向いていたし、敵からも左右に対する警戒の矢印も見えた。それで張人きゅんの戦術が分かったし、そうなった時の敵の対処法も見えた。
だから実際に手数を読むのは間違ってない。
それが全部じゃないだけで。
本当のスキル効果を説明してあげる必要は、いくら仲間だろうと上官だろうとないのだ。
今も敵対する騎馬隊は自分の前を遮ろうとしているのが分かるし、背後の味方歩兵はとにかく逃げようとしているのが分かる。
鉄砲隊はこちらに注意を払っていないが当然だろう。向かってくるならまだしも駆ける馬に当てるのは至難の業で、交戦中の今は味方に当たる可能性があるから。
だから当面の敵は目の前の騎馬隊のみで問題ない。
「さって、じゃあ殺そうかな」
先頭で走る。
それを追うよう部下にはしつけてあるから、突然の方向転換でもそれを見失うことはない。
敵は迂回しながら突っ込むつもりだ。
ならばこちらはその前に敵の横腹に突っ込む動きをすればいい。
馬を左に旋回させる。すると相手は少し驚いたように進路をずらした。
だが遅い。敵の中腹を打ち砕くように突破した。敵が前後に別れる。
こうなっては後は各個撃破の的だ。
相手はそもそもこちらより数が少ない。さらにその半分になれば戦力差は3倍ほどになる。
狙い目は後方。指揮官のいない方だ。
後方の部隊は混乱しているようで、矢印が無数に右往左往している。それは完全に統率を失った状態。一番軍のもろいところ。
もらっちゃうよぉ。
「大将軍!」
呼びかけにハッとした。
後ろ。
一本の太い矢印がこちらに向かってくる。
方向転換。
後ろから迫ってくる騎馬隊に並走するように。相手は後方の部隊を吸収すると、こちらに並んで走る。
なかなかやる相手じゃん。
敵の矢印がこちらに向いた。
手を挙げる。それで部下の半数が離脱。さらに自分は速度を落とす。
相手は自分と部下の2部隊の間に突っ込む形になる。
それを嫌って敵の矢印はさらに方向を変えた。
こちらから逃げる方へ。
ならばと再び離脱した部下を呼び戻して3千で追う。すると相手の矢印はぐるんとこちらに向きを変えた。その意味を理解するのに数瞬かかる。隙が出来た。
「ちっ!」
敵の先頭が小さく左回りに旋回して突っ込んでくる。
このままなら正面衝突する。
ケリをつけるか……?
一瞬迷い、一瞬で判断した。
馬首を右へ。相手と再びすれ違う形で激突空域を回避した。
馬の足を緩めて敵と距離を持って対峙する。
おそらく向こうの指揮官も舌打ちしているだろう。
なかなかやる相手だ。
これほどの敵、北にはいなかった。
北は馬の質が良かった。
だからなのか、あまり戦術というものを考えない。馬の速さと強さがそのまま勝負を決するみたいな脳筋の考えだったから、翻弄して罠にはめるのが楽勝だった。
だがここは違う。
「ふふっ、こりゃ堂島元帥に感謝しなくっちゃ」
身をひりつかせるような勝負。
それをこんなところで出来るとは思っていなかった。
なにせオムカ王国は弱小だったのだ。
それがたった1年でここまでのものを作り上げたのだから、大したものだ。
「ま、でも今日は……いや、今回はこれまで、かな」
歩兵が鉄砲隊から逃げ切り、渡河地点の近くまで移動していた。見事に奇襲を退けられたわけだからこれ以上の戦闘は無意味だった。
ただこちらもすぐには撤退しない。
ここに騎馬隊と鉄砲隊を釘付けにすることが、張人きゅんにとって望むべき戦果になるからだ。
おそらく最大の攻撃力を持つこの2つの部隊なしに、ジャンヌ・ダルクと名乗るプレイヤーはどうやって張人きゅんに勝つつもりなのか。
まず第一の矢は防いだ。
続く下流からの二の矢、そして張人きゅんが急遽考え出した三の矢。
さてさて、どう対応するのか、しっかり見させてもらおうかな。
あーもー、なんで先に始めるかな。
功を焦ったかなんだか知らないけど、困るんだよねぇ、予定を乱されると。
てかあの張人きゅん、可愛い顔してえぐい事するよね。
側面攻撃の2段目を僕様にやらせるなんて。
まぁいいや。
まだ壊滅していないだけマシだろうから。
「救援行くよ」
部下の騎馬隊3千に声をかける。
これは自分直属の部隊で、北方戦線で戦っていた時も離れなかった精鋭だ。
走り出す。
すぐに戦場が見えてくる。
歩兵7千。それが騎馬隊に真っ二つにされて、林の中からの鉄砲隊の射撃で次々に崩されている。念のために持たせた鉄盾がなければ今頃全滅していただろう。
指で後ろに続く部下に指示を出す。相手も馬蹄の音で接近に気づいているはずだ。
だから速度を上げて突っ込んだ。剣を抜く。相手も面食らったようだが、すぐにこちらの意図を読み向かってくる。
すれ違った。
「ちっ、惜しいなぁ」
相手の馬が反射的に道をずらした。
主を守ったということだろう。
それでもいい。
「それじゃあもうちょっと付き合ってもらおうかなぁ……『神算鬼謀』、発動」
途端、周囲の明度が下がる。
黒いフィルターがかかったような視界。
そこには普通ではありえない、無数の矢印が見える。
人がそれぞれに動こうとする意志の方向、注意の向き先だ。
1人の場合は、向き先と注意の方向は必ずしも一定ではないが、軍という集団となり戦場に降り立った途端、1つの生き物のように方向性が統一される。
だから相手の行動する方向が予測できる。
そして何に気を配っているかが分かる。
スキル『神算鬼謀』。
その効果は張人きゅんに言った説明は、半分本当で半分嘘だった。
戦の数手先まで見えると言ったがそれは正確ではない。軍の持つ方向性を見て、分析して、そこに僕様の天才的な閃きと洞察力が加わって、10手先の行動が見えるように装っているだけだ。
あの時も張人きゅんは上流に矢印が向いていたし、敵からも左右に対する警戒の矢印も見えた。それで張人きゅんの戦術が分かったし、そうなった時の敵の対処法も見えた。
だから実際に手数を読むのは間違ってない。
それが全部じゃないだけで。
本当のスキル効果を説明してあげる必要は、いくら仲間だろうと上官だろうとないのだ。
今も敵対する騎馬隊は自分の前を遮ろうとしているのが分かるし、背後の味方歩兵はとにかく逃げようとしているのが分かる。
鉄砲隊はこちらに注意を払っていないが当然だろう。向かってくるならまだしも駆ける馬に当てるのは至難の業で、交戦中の今は味方に当たる可能性があるから。
だから当面の敵は目の前の騎馬隊のみで問題ない。
「さって、じゃあ殺そうかな」
先頭で走る。
それを追うよう部下にはしつけてあるから、突然の方向転換でもそれを見失うことはない。
敵は迂回しながら突っ込むつもりだ。
ならばこちらはその前に敵の横腹に突っ込む動きをすればいい。
馬を左に旋回させる。すると相手は少し驚いたように進路をずらした。
だが遅い。敵の中腹を打ち砕くように突破した。敵が前後に別れる。
こうなっては後は各個撃破の的だ。
相手はそもそもこちらより数が少ない。さらにその半分になれば戦力差は3倍ほどになる。
狙い目は後方。指揮官のいない方だ。
後方の部隊は混乱しているようで、矢印が無数に右往左往している。それは完全に統率を失った状態。一番軍のもろいところ。
もらっちゃうよぉ。
「大将軍!」
呼びかけにハッとした。
後ろ。
一本の太い矢印がこちらに向かってくる。
方向転換。
後ろから迫ってくる騎馬隊に並走するように。相手は後方の部隊を吸収すると、こちらに並んで走る。
なかなかやる相手じゃん。
敵の矢印がこちらに向いた。
手を挙げる。それで部下の半数が離脱。さらに自分は速度を落とす。
相手は自分と部下の2部隊の間に突っ込む形になる。
それを嫌って敵の矢印はさらに方向を変えた。
こちらから逃げる方へ。
ならばと再び離脱した部下を呼び戻して3千で追う。すると相手の矢印はぐるんとこちらに向きを変えた。その意味を理解するのに数瞬かかる。隙が出来た。
「ちっ!」
敵の先頭が小さく左回りに旋回して突っ込んでくる。
このままなら正面衝突する。
ケリをつけるか……?
一瞬迷い、一瞬で判断した。
馬首を右へ。相手と再びすれ違う形で激突空域を回避した。
馬の足を緩めて敵と距離を持って対峙する。
おそらく向こうの指揮官も舌打ちしているだろう。
なかなかやる相手だ。
これほどの敵、北にはいなかった。
北は馬の質が良かった。
だからなのか、あまり戦術というものを考えない。馬の速さと強さがそのまま勝負を決するみたいな脳筋の考えだったから、翻弄して罠にはめるのが楽勝だった。
だがここは違う。
「ふふっ、こりゃ堂島元帥に感謝しなくっちゃ」
身をひりつかせるような勝負。
それをこんなところで出来るとは思っていなかった。
なにせオムカ王国は弱小だったのだ。
それがたった1年でここまでのものを作り上げたのだから、大したものだ。
「ま、でも今日は……いや、今回はこれまで、かな」
歩兵が鉄砲隊から逃げ切り、渡河地点の近くまで移動していた。見事に奇襲を退けられたわけだからこれ以上の戦闘は無意味だった。
ただこちらもすぐには撤退しない。
ここに騎馬隊と鉄砲隊を釘付けにすることが、張人きゅんにとって望むべき戦果になるからだ。
おそらく最大の攻撃力を持つこの2つの部隊なしに、ジャンヌ・ダルクと名乗るプレイヤーはどうやって張人きゅんに勝つつもりなのか。
まず第一の矢は防いだ。
続く下流からの二の矢、そして張人きゅんが急遽考え出した三の矢。
さてさて、どう対応するのか、しっかり見させてもらおうかな。
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