知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
245 / 627
第3章 帝都潜入作戦

閑話22 クロエ・ハミニス(オムカ王国ジャンヌ隊副隊長)

しおりを挟む
 気づくと室内にいた。
 灯りひとつないものの、窓から差し込む月光によって視界は確保されている。
 高い天井。多くの椅子。何かの壇。
 奥には大きな扉があり、そこが出入口なのだろう。

「皆……いる?」

 隊長殿は私にしがみつくようにしている。
 一方的に殴られていたせいか、体に力がない。それを止められなかった自分が悔しいし、あの男には憎しみしかない。
 けど今は密着してその暖かさを感じられている。それを幸福と感じつつも、他の皆が気になった。

「一応、無事かなー」

 ルックはいる。けど怪我をしていて、呼吸が荒い。

「う……ここ、どこです?」

 リンドーが気づいた。声の調子から大丈夫みたい。

「……ここは、教会?」

 イッガーも無事だ。この建物を知っているのだろうか。

「…………ザインは?」

 マールが呟くように言う。
 それに、すぐには答えられなかった。

「ねぇ、ザインは!? どこ!? あいつは……」

 まさかマールがこれほど取り乱すとは思わず、絶句してその姿を見るしかなかった。

「マールさん……」

「あーうー……マール、ザインは……」

「どこ行ったの!? みんな一緒なんでしょ! だから――」

「マール」

 呼び止める。このままどこか行ってしまいそうな、そんな不吉な予感がして。
 そして、現実を直視させる。それが彼女のためと思って言った。

「ザインは死んだ」

「…………嘘、よ」

「嘘じゃない。私が見た。ザインは……死んだの」

「…………嘘、よ。だって……あいつ……殺しても、死なないような奴でしょ……」

「マール……」

「あいつに、何もしてやれなかった! 知ってたよ。私に好意もってかもって。でも自意識過剰かもしれないと思ってたし、そんなことしてる場合じゃなかったし、何より――どうしていいか、分かんなかったし……だから、気にしないふりして……冷たく当たって……」

 止まらない。
 涙と共に、吐き出される懺悔の叫び。

「ホント馬鹿だ、私。あいつ……なんでこんな私を……もう、嫌。死んじゃいたい……」

 絶望に身を沈めてうなだれたマール。
 自分だって仲間が死んだ。悲しい。
 けど、それを言ってられない。状況が許さない。だからマールを立たせなくちゃ。

 そう思って、声をかける。

「マール。ザインは満足して逝ったよ。好きな人を守れた、そう言って」

 伝えるなって言われたと思うけど、ここで伝えなきゃ彼女がダメになる。
 きっと彼なら分かってくれるだろう。
 そう思ってザインの言葉を伝えた。

「だからマールは立たなきゃ。泣くのはいい、悲しんでもいい。けど、それはしっかり生き切った後にして。正直、今は危険な状態なの。しっかり者のマールがいなきゃ、ここで皆死んじゃう。だからお願い、立って……」

 しばらくマールの嗚咽おえつだけが聞こえる。
 けどそれも収まったらしく、ひとつ大きく鼻をすすると、

「……分かった。ありがとう、クロエ」

 涙と鼻水で酷い顔だったけど、マールの表情からどこか悲壮感は鳴りを潜めていた。

「行こう。あいつの遺志に応えるために」

「うん……」

「とりあえずここを出ようか。場所が分かればいいんだけど……」

「きっと、教会。パルルカ教の」

 タイミングをはかったように、イッガーが会話に入ってきた。

「知ってるの、イッガー?」

「帝都の地図は、大体……入ってる。ここからなら……いつもの宿舎、そんなに遠くない」

「いや、それはダメ」

 敵は私たちの住処を知っていた。だから今宿舎に戻れば、今度は敵に囲まれることになる。今は一刻も早く帝都から離れる必要があるのだ。

「そうね。敵に知られた場所に戻るのは危険。一刻も早く帝都を脱出した方がいいけど……」

 憔悴しきった様子のマールがちらっとルックを見る。
 ルックの肩と足は、千切った服で止血はしているけど無理に動かせば傷口が開くだろう。

「自分は、大丈夫。だからすぐ逃げよう」

 強がりを言っているのが分かる。
 けど、今はそうするしかない。

「そういえば隊長は? 隊長の意見も聞きたいわ」

 マールがこちらに視線を投げてくる。
 けど、私はどう答えたらいいのか。

「隊長殿は……」

「…………」

 さっきから一言も発しないし、視点も定まっていない。
 顔も腫れて、口元から血も見える。そんな魂の抜け殻みたいになっている隊長を見て、皆がごくりと唾を飲み込む。

「とりあえず隊長殿は私が背負っていく。ルックは……イッガー、肩をお願い。とにかくここを出て、馬があったら奪って逃げる」

 一応の方針は決まったものの、正直計画も何もない。
 出たとこ勝負といったところで、不安しかない。

 けど今は一秒でも早く、一歩でも遠く、帝都から離れるべきだ。

 建物の外に出る。
 季節は夏。生暖かい風が頬をなでる。

 そのまま私たちは宿舎とは逆の方向に向かった。
 少しでも追手をかく乱するためだ。

 けど、歩いて十数分が経ったころからルックの様子がおかしくなった。

「う……」

「酷い熱……これは危ないかもしれない」

 そうイッガーが判断を下す。

 とはいえこの街でどこに医者がいるかもわからないし、そこで治療していたら追手に捕まる。
 どうする……どうする……考える。
 考える、けど……何も浮かばない。

 すみません。やっぱりクロエはここまでです。
 だからお願いします。
 私たちに、道を示してください!

「隊長殿! 起きてください! 今、ピンチなんです。だから、助けて!」

「クロ……エ?」

 反応があった。
 けど、これはいつもの隊長殿じゃない。

「違う……里奈……俺は……」

 里奈。
 確かあの女の名前。
 ザインを殺した。
 その言葉で、ふつふつと胸の奥からある感情が湧いてきた。
 これまで隊長殿に抱いたことのない感情。
 抱くはずのなかった感情。

 ふざけるな。
 ザインが死んで、ルックが死にそうで、私たちも絶体絶命の危地にいるっていうのに。
 私たち以外のことを考えるなんて!

「起きて! 起きてよ!」

 隊長殿を揺り動かす。
 それでも反応はない。

 だから不敬だと、許されないことだと思っても私はそれをやめない。

「いや、起きろよ! ふざけるな! いつまで呆けてるんだ! あなたは……あなたは私たちの光なんだよ! オムカを守る星なんだよ!」

 いつか誰かが言った言葉。
 そうだ、サリナだ。
 彼女の死に際の言葉。

 隊長殿はオムカの光。
 そしてその時誓った。
 隊長殿は、オムカの国を守ると。

 だから――

「だから起きろ、ジャンヌ・ダルク!」

 大きく手を振りかぶり、平手打ちした。
 闇夜に響く、張り手の音。

 この一撃にあらゆる想いを込めた。願いを入れた。
 これでダメなら、もう……。

「いっ……つ……なんだよ、クロエ」

 焦点が合った。
 瞬きをしてこちらを見返す。いつもの隊長殿。

「隊長殿……」

「ん……あぁ」

 ゆっくり体を起こす。
 そしてマール、ルック、イッガー、リンドーと視線を動かしていく。

「……ザイン」

「隊長殿」

「ああ。分かってる。分かってるさ、クロエ。正直、まだ納得できてない。けど今は別だな。状況は大体理解できてる」

 そう言うと隊長殿はどこかからか一冊の本を取り出して、まじまじとそれを読む。

 月夜に照らされ、その御姿はとても美しい。
 あぁ、自分はなんてことをしてしまったのだろう。
 隊長殿に平手打ちなど……。これは万死に値する愚行。いやいや、まずはお仕置きからだ。隊長殿直々に鞭を振るって……あ! そういえばジャンヌとダルク! うぅー、帰ったら新調しないと。やっぱりその時はこないだ約束してもらった隊長殿に――

「クロエ!」

「あ、はい!」

 急に呼ばれてびっくりした。
 けど隊長殿は眉をひそめていて、

「ルックを運ぶ。手伝ってくれ」

「え、え?」

「病院が見つかった。そこで応急手当てする。マール、竜胆は馬を用意。病院の場所はここだから、この出口あたりにつけて。イッガー。お前はかく乱。各地に馬小屋があるはず。地図で言うとこの4箇所。マールたちはここで馬を奪うから、イッガーはこっちの3箇所にいる馬を刺激して暴れさせて。それに乗じて逃げる」

「了解!」

 方針が決まると皆の動きは速かった。
 すぐに自分とルック、そして隊長殿の3人だけになった。

「あ、あのー、隊長殿……」

「クロエ、手伝ってくれ。俺だけじゃ、運べないから……」

 隊長殿がルックを持ち上げようとするけど、さすがに無理だ。
 とりあえずルックの左腕の下に肩を入れて無理やり歩かせる。

「ううーすみませんー」

「いいんだ。俺を助けに来てくれたんだから。捕まった、俺が悪いんだ。ザインのことも……」

「隊長殿……」

「それからクロエ。お前もよくやってくれた。見てたよ。お前がみんなを連れてきたんだよな」

「え、見てたって……え!?」

「考えたり統率するのが苦手なお前が、率先してそういうことやってくれるの。なんか、とても嬉しかった。それに……マールだけじゃなく、俺も、立ち直らせてくれたから」

「そ、それは……その……すみません、ぶっちゃって」

「あぁ、効いたよ。すげー効いた。まだ目がちかちかする」

「……ごめんなさい」

「いや、いい。俺はまた判断を誤るところだった。確かに里奈は俺たちを逃がすために残った。それに……きっと辛い思いをしてる。でも生きてる。絶対。だから今だ。今は俺が生きなきゃ。それと、お前たち皆を。もう、誰も死なせたくない」

「隊長殿……」

「だからありがとう。クロエ。お前がいてくれてよかった。成長したな」

「隊長殿ぉ……」

 ヤバ、こんなこと言われて、泣きそう。

「今は行くぞ。まずは帝都から脱出だ」

「……はい!」

 なんだろう。
 ここまで生き生きとしている隊長殿は初めてだ。

 それ以上に今、自分は舞い上がってる。
 隊長殿に褒められた。
 それが嬉しくて嬉しくて。
 もっと生きたいって思っちゃう。

 よーし、頑張るぞ!
 そんな風に帝都の月に誓ってみるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

処理中です...