知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
244 / 627
第3章 帝都潜入作戦

第32話 ――離別

しおりを挟む
「断固、断る!」

 言い切った。
 そのうえでさらに畳みかける。

「交渉は決裂だ。いや、交渉にすらならない。この世界を壊す? 女神を殺す? ふざけんな。この世界で生きてるたくさんの命、勝手に終わらせてたまるか!」

「…………」

 途端、目の前の男の雰囲気が変わった。
 人の好い教皇様から、帝国のプレイヤーを束ねる非道のそれに。

「良い啖呵たんかですが、どうするのです? 救援に来たお仲間は全滅。これまで何もしかけてこないということは、貴方のスキルも戦闘タイプではない。パラメータも筋力には振っていなさそうですし」

 確かに勝算はない。
 俺はこの男に物理的に絶対勝てない。

「そしてもう1つ。仁藤さん。残り時間はいくつですか?」

『あと10分だよ。さっさと出ないとあんたも、あの女も、あとキッドの奴もヤバイんじゃないか?」

「いえ、充分です。ありがとうございます」

 にこりと笑う。
 人の生き死にを、まるで明日の天気を話すようにこの男は喋ってみせる。
 狂ってる。
 はっきりとその狂気が感じられて、俺は少しゾッとした。

「さて、ジャンヌ・ダルク。ええ、ジャンヌ・ダルクと呼びましょうか。ラストチャンスを与えましょう。この状況を理解した上でも断るのですか? さらに言えば、あなたがはいと言わない限り、ここにいるお仲間は死んでしまうのですよ? そこも踏まえて、ファイナルアンサーをいただきましょうか」

 答え。俺の答え。

 そんなの決まってる。
 だが、本当にそれでいいのか?
 ここは嘘をついてでも受け入れるべきじゃないのか?

 迷いが生まれる。

 てゆうかそうだ。
 嘘なんてこれまで腐るほど吐いてきたのに、どうしてここでその考えが出なかったのだろう。
 嘘ついて従って、隙をみて逃げ出す方がまだ死のリスクはないのに。

 きっとこれは、俺のプライドの問題。
 いや、それより大きな意志の問題。

 ここで世界を切り捨てることをよしとしてしまったら、これまで会ってきた人たち、これまで死んでしまった人たちに顔向けができない。
 たとえ嘘でも、その想いはきっと変わらないから。

 だから頷けない。
 断固としてこの男と敵対するしかない。
 その果てにあるのが死だとしても。

 だから俺は――

「断固、お断わりだ」

「……残念です」

 煌夜が立ち上がる。
 その顔には、もうなんら表情というものが浮かんでいなかった。

「それでは残念ですが、お仲間と一緒にこの世界と共に滅びてもらいましょう。私は里奈さんとキッドさんを迎えにいかねば」

 踵を返そうとする煌夜。
 その右腕をつかんだ。

「……なんのつもりです?」

「逃が……さない。お前、も、一緒……だ」

 喉に首輪が喰い込んでいる。苦しい。
 距離的に限界。だが、捕まえた。

「心中するつもりですか。貴方のような美少女……いえ、おかしいですね美少年と言いなおしましょう。それと心中するというのも悪くはありませんが、お断わりです。これが天才軍師最期の策とは哀しいですね」

「うる……さい」

「放しなさい」

 顔面に衝撃が来た。
 殴られた。
 そう思ったのは煌夜の左拳が見えた後だ。

「断、わる」

「生憎私はフェミニストではありません。男女平等なのです。ですので手加減は……いえ、そういえば貴方は男でしたね。では加減は要りませんね」

 衝撃が来た。連続で。
 顔だけじゃない。肩、胸、腹、まんべんなく打たれる。

 それでも手を放さなかった。
 いや、俺の筋力じゃ振りほどかれて終わりだろう。
 もしかしたらこの赤星煌夜は、俺を殴って遊んでいるのだろうか。
 はっ、とんだサディストもいたもんだ。

 天才軍師最期の策か。
 はっ、まさかこんな肉弾戦をするなんて、な。
 けど、ここまでしないと今倒れている皆に、ザインに申し訳が立たない。
 上に立つ者が体を張る。そうでもしないと、他の人はついてこない。それが俺の永遠の理論だ。

「ここまで打たれて放さないのは見上げたものですが、そろそろ時間切れです。では――死になさい」

 意識が朦朧もうろうとする。喉が苦しい。
 このまま倒れて眠ればさぞかし気持ちいいだろう。

 けど、それでも放さない。
 それが俺の意地。

 そして煌夜が左手を振り上げ――

「……っ!」

 破壊の音がした。
 痛みは来ない。

 俺じゃない。横。
 破壊の音はガラスの割れる音。

 そして、その化身が室内に踊り込んだ。

「明彦くん!」

 里奈!?

 まさか、どうして。
 いや、それよりもなんでここに!?

「これは里奈さん。お迎えの手間が省けました。さぁ、ここを一緒に出ましょう」

「……お断わりよ」

「なんですって?」

 思考が一瞬止まる。
 里奈がこちらを見て、少しほほ笑んだ気がした。

 里奈の手が動く。
 風を感じた。
 次の瞬間、俺の首につけられた首輪。その鎖が刀で両断されていた。

「げほっ……げほっ!」

 喉の圧迫から解放される。
 そして俺の目の前から煌夜の姿が消えた。
 圧倒的な力で腕を引きはがされた。
 どうやら里奈が煌夜を蹴り飛ばしたらしい。

「ごめんなさい、貴方は逃げて」

「でも、里奈……」

「私は、やらなくちゃいけないことがあるから」

 それが何か聞く前に、里奈は動いた。
 煌夜は蹴りをガードしていた。だが衝撃は殺せなかったようで、たたらをふんでいる。
 そこに向かって、刀を全力でたたきつけた。

 それを煌夜は一歩バックステップすることで回避した。

「どうして私のスキルを破ったかは知りません。ですが……いいのですか。あんたの大事な人の前で、そのようなことをして」

「もういいの。分かったから。明彦くんの邪魔はしない。そして、それを排除するのが私の最後の仕事」

 里奈。どういうことだ。
 何を言っている。

「隊長殿……」

 ふと、横から声。クロエが頭を押さえながら近づいていた。

「クロエ、無事だったか」

「よくわかりませんが、ここは行きましょう。あれがあの男を抑えている今しかありません」

「でも――」

「お願い、行って明彦くん。これが……これが私の罪滅ぼしだから……これ以上誰かが死ぬ前に」

「……っ!」

「隊長殿!」

「先に、行け! 皆を!」

 クロエに怒鳴る。が、喉のせいで小声にしかならない。
 それでもまだ里奈と話し終えていないから。

「大丈夫ですー、自分が運びます」

 ルックが怪我をおしてイッガーとマールを運んでいた。
 竜胆はクロエが背負っている。

「ならいけ!」

「いえ、隊長殿が最初です」

「でも里奈が」

「盛り上がってるところ悪いですけど、させません」

 声。右。煌夜。拳が来る。
 そこを里奈が遮る。刀。空を斬った。

「里奈さん……いい加減にしてほしいのですが?」

「もういいの。あんたも、私も邪魔者。だから私と一緒に、死んで」

「里奈!」

 まさか里奈がそんなことを言うなんて思わず、里奈に向かう。
 その時、腹に衝撃が来た。

「あ……里奈」

 里奈が刀の鞘で俺の腹を突いたのだ。
 息ができなくなる。

「そこの人。お願い。彼を……外へ」

「……貴女には恨みしかないですけど。今だけは感謝します」

 視点が上がる。
 クロエに担がれた。
 抗議しようにも声が出ない。動けない。

 里奈が遠ざかっていく。
 悲壮に満ちた顔でこちらを見つめる里奈。
 あぁ、なんでこんなことに。
 せっかく出会えたのに。
 せっかくやり直せると思ったのに。
 なんでこんなことになったのか。

「里奈ーーー!」

 喉と腹の痛みを抑えて叫ぶ。
 そして視界がゆがむ。
 いや、世界がゆがむ。

 里奈たちのいる景色が小さくなっていく。
 そしてその姿が消える刹那。
 里奈はこちらに向いて笑った。そんな気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...