知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第31話 死闘、そして――

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 何が何だか分からなかった。

 何で里奈があそこにいるのか。
 何でザインが死んでいるのか。

 何もかもが分からなくて全ての意味が分からない。
 夢のようでどこか現実感がない。知力が99あろうとこの命題は解けない、そう思わせる現実に脳の処理が追いつかない。

「これが里奈くんの真実です。どうして私が彼女の記憶を操作する必要があったか、分かってくれましたか?」

 赤星煌夜が得意げに語る。

 何がそんなに嬉しいんだ。
 何をそんなに喜んでいるんだ。
 何でそんなに楽しそうなんだ。

「そしてこれこそが貴方たちを縛る策。いえ、ここに留める柵とでも言いましょうか。彼女は見ての通りです。そして彼女はその罪の重さに押しつぶされそうになっている。そんな彼女を守るために、彼女にはここにいてもらっているのです」

 分からないでもない。
収乱斬獲祭ハーヴェスト・カーニバル・カニバリズム』はこれまでどれほどの人間を殺してきたか。
 それが里奈が……あの優しい娘が、そんな現実に耐えられないのははっきりしている。

「もう少し、踏み込んだ話をしましょうか。私の真の目的について。それは彼女を救うためにもなると約束します。今なら少しは話を聞く。そんな気分になりませんか?」

 里奈を、救う。

 その言葉が俺の頭で反芻はんすうされる。
 あんなことになってしまった里奈。
 助けられるものなら助けてやりたいと思う。
 だから俺は――

「隊長殿!」

 その時だ。
 ドアが、勢いよく開いたのは。
 そこからぞろぞろと入ってくるのは見知った顔。

 クロエ、マール、ルック、イッガー、竜胆。
 1人……足りない。

「よく来ましたね。我が神のお導きでしょう」

 煌夜が俺に背を向けてクロエたちに相対する。

「貴様が――」

「悪です!」

 竜胆が飛び出す。
 両手を合わせて、

「スキル『九紋竜くもんりゅう』! 第一もん! かりゅ――」

 竜胆の体が床にたたきつけられた。
 煌夜が数歩近づき、右手の甲で打ち下ろすようにして、竜胆の頭部を殴打したのだ。

劈拳へきけん。昔、虎形拳こけいけんを通信教育でならいましてね。まぁほぼ独学で五行拳くらいしか学んでませんが……私は、強いですよ?」

 煌夜が構えを取る。
 左手を前に、右手をだらんと下げた状態。左半身で左足を前に出して重心は後ろ足という独特の構えだ。虎形拳こけいけんというのは聞いたことないが、名前とポーズからして中国拳法だろう。

「あんたが、ザインを!」

 マールが涙を隠そうともせず、挑みかかる。
 いつもの冷静な彼女とは違って、今では感情をむき出しにして襲いかかろうとする。だがそれは無謀そのものだ。マールの戦闘技能は皆と比べたら各段に劣る。しかも剣はザインに託してしまったのだから。

 リンドーと同様、跳びかかりざまを腹部に一撃を受けてそのまま崩れ去った。

「この――」

 クロエが前に出た。
 双鞭はない。だから素手で殴りかかる。

 それを煌夜はいとも簡単に払った。クロエの腕が弾かれる。
 そして無防備になったクロエの顔面に向かって、アッパーのように右手を突き出す。

「ちぃ!」

 クロエは超反応で顔をそらしてそれを避けた。
 だが煌夜の攻めは止まらない。突き出した右手を、今度は横薙ぎにクロエの顔面を狙う。それを一歩引くことでクロエは回避。だがそこに煌夜は踏み込み、右手の突きを腹に見舞う。だがそれをクロエは腕を交差させることで防いだ。

「っ!」

 クロエの顔がゆがむ。
 それほど派手な攻撃ではないが、顔をしかめるほどの威力。
 だがそれでクロエが止まった。

「がっ!」

 クロエの頭が後ろに弾けた。
 ボディに集中させてすぐに上の攻撃に対処できず、顎に拳がもろに入ったのだ。

「ふっ!」

 途端、煌夜が背後に振り返り腕を振る。
 衝撃。ガラス窓にたたきつけられたのはイッガーだ。気配を消して背後から襲おうとしたのだろうけど、それすらにもこの男は気づいて対応したのだ。

 全滅だ。
 ルックはすでに負傷して戦力にはならないから、戦える人間は全てこの男1人に倒された。

「さて、どこまでお話ししましたっけ」

 まるで何事もなかったかのように、カソック――そう、神父みたいな服の名前だ――を払うと再び椅子に腰を下ろして俺と対峙した。

「お前……」

「そうにらまないでください。これは正当防衛ですよ。ええ、そう……私の真の目的の話です。そして里奈くん。彼女がああなったのも、こうして苦しんでいるのも。元をたどれば元凶はあの女神にある。そうは思いませんか」

 全く思わない、とは言いづらい。
 里奈がこうなったのは、直接的にはこの男のせいだが、元をただせばあんなスキルをあげたあの女神のせいだし、パラメータ100ボーナスとかが原因だったとかも聞いた。
 だから元はと言えばあの女神のせい。でもここまで里奈をおかしくしてしまったのは、この目の前にいる男のせいだと言っても過言ではないだろう。

「そう――この世界はあの女神のおもちゃです」

 男は語る。
 この男がこの世界をどう思っているか。あの女神をどう考えているか。世界の仕組みをどう動かしたいか。俺たちの言動をどう受け止めているか。

 そして男は最後にこう締めた。

「私と一緒に――この世界を滅ぼしませんか?」

 一瞬、その言葉に含まれた圧に、気圧されそうになる。

「……世界を?」

「はい。この世界を滅ぼす。それが私の真の目的です」

「けど、どうやって……」

「女神を殺します」

「……!」

「この世界があの女神によって成り立っているのは分かりますよね。あの女神が好き勝手に作った世界なのですから。だからその創造主を殺せば、この世界は終わる」

「だとして、それがなんで里奈とつながる? 世界を滅ぼすって……」

「パルルカ教の言い伝えにあります。『世界が滅びし時、パルルカ様は異界の神官たちの力を得て、受肉を果たしこの世に顕現する。そして世界は幸福に包まれる』と。里奈さんもそれで救われます」

「……まさか本気で言っていないよな」

「ええ、本気です。この異界の神官。これはまさに私たちプレイヤーのことではありませんか?」

 こいつ、本気か?
 だとしたら狂信者のものと変わらない。

 それでも煌夜は嬉々として語り続ける。

「私は何度も、この文献を調べました。そしてたどり着いたのです。パルルカ様の受肉は過去数度、行われようとした。だが女神によって阻止された。それこそが、我らプレイヤーと女神との争い。そう、この争いは過去何度も行われたことのある戦いなのですよ」

 言われ、ハッとした。
 あまり、考えないようにしていたことだ。そして勝手に思い込んでいた。プレイヤーとはこの時代、ここにいる人たちだけなのだと。

 だがもし。これが最初じゃないとしたら?
 何十年も、何百年も前から同じことが繰り返されていたとしたら。
 オムカ王国建国の英雄、ジャンヌ・ダルクが俺と同じようにプレイヤーが名乗ったのだとしたら――

「そう。おもちゃの世界で、おもちゃの我々が、その創造主を気取るあの女神を討つのです。異界の神官というのが誰になるかはわかりません。ですから1人でも多くのプレイヤーが必要なのです。どうです、あの女神に復讐するために、共に戦おうではないですか」

 あの女神。
 そんなに嫌な奴だったか。
 ……確かに嫌な奴だ。
 一度ぶん殴りたいとは思っていた。

 けど、滅ぼすほど嫌な奴には思えない。
 あるいは、それは俺の甘さなのか。

 いや、正直あの女神のことは本当どうでもいい。
 それ以上に気になることがあるのだから。

「1つ、聞いていいか」

「なんなりと」

「ヨジョー地方の地震。お前のスキルが予知なら、知ってたはずだな。それを知ってて、俺たちを嵌めたのか?」

「私の『運命定めるデスティニーズ生命の系統樹・セフィロト』は厳密には予知能力ではないのですが……まぁ、そうですね。その通りです」

「オムカの先代国王が生きてると嘘を流して、俺たちを呼んだのか?」

「質問が増えましたが、いいでしょう。その通りです」

「パルルカ教とか起こして人々の信頼を集めたのも、その女神に復讐するための手段か?」

「はい、その通りです」

「クロエたちをここに連れ込んだのは、こいつらよりお前の方が強いから見切れ。そう俺に言いたいがためか?」

「はい、その通りです」

 あぁ、分かった。
 こいつが考えていること。そしてその基本構造。

「最後だ。この世界の人たちをどう思う?」

「ただの外野です。消耗品です。本の中の登場人物。ゲームで言えばNPCノン・プレイアブル・キャラクターといったところでしょう」

「…………そうかよ」

 こいつには自分しかない。
 すべてが自分中心で、それ以外にものは道具以下の価値しか認めていない。
 これで金もうけや世界征服にでも乗り出せばわかりやすい悪となるのだが、こいつは教皇として人々の信頼を集めているのだからたちが悪い。

 俺も人のことは言えないけど、それでもここまで割り切れるほどではないと確信している。

 だからこそ、俺はこいつを認めるわけにはいかない。
 俺を信じてここまでついてきてくれた人たち。
 俺を守って死んでしまった人たち。

 彼らを本の中の登場人物として切り捨てることなんて俺はできない。

 何より、俺の大切な仲間をこうも無残に傷つけておいて、黙っているなんていられるか!

 だから俺の答えはこうだ。

「断固、断る」
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