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第3章 帝都潜入作戦
閑話27 長浜杏(エイン帝国大将軍)
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今が機だった。
鉄盾と鉄砲隊の使い方、それから騎馬隊の封じ方などで面をくらったところはあったけど、戦局を逆転させるほどのものではない。
元の戦力差があるから、というのもあるけど、まぁそこはそれも含めて実力ということで。
「じゃあ、出ようか。ジャンヌ・ダルクちゃんを、捕まえに」
本陣にいる5千のうち3千騎を引き連れて出る。
やはりこの数が一番しっくりくる。一挙手一投足が自分の手足のように動くのだ。
だから行く。
歩兵を左回りに迂回するようにして敵の右翼へ。相手は正面とこちらの右翼に注視しているから、そちらの警戒は緩い。スキル『神算鬼謀』による意思の方向性からしてもそれは良く見えた。
まぁそこをケアするほどの兵力がないわけだけど。
敵の本陣が見えた。
その時、敵に反応があった。わずかに本陣にいる兵力をこちら、いや、回り込んで正面の左に向けさせる動き。
狙いは良い。
けど、遅いね。
走り出す。
敵に動揺が見える。矢印が色んな方向に向かっていて収拾がついていない。
突っ込んだ。
もろい壁を槍でつついたように簡単に中に入れた。
そのまま一直線。
本陣のさらに中央。
オムカ国旗がたなびく、敵の中心部。
軍師ならばそこだろう。そうでなくても総大将を討ち取ればそれで戦は終わる。
抜き放った剣で歩兵を斬りあげる。
近い。見えた。巨体。おそらくオムカ国軍の総司令官と言われるハワードだろう。
その横。ハワードに比べたら小人のような金髪の少女。兜もかぶってないし、胸当てくらいの軽装。
顔。はっきりとした。あの時、見た顔。お菓子をあげた相手。
抵抗はまだ少ない。行けるはずだ。部下には殺すなとは言ってあるけど、まぁ戦場だし。万が一間違って死んじゃったら、うん、死体を持って帰ろう。それで凍らせて飾る。僕様の中で永遠に生きるのだ。
そう思うと笑みが浮かぶ。
行ける。
だがその時。
白髪の老人から大音声が響いた。
「その雑魚どもをひねりつぶせ!」
はぁ? 雑魚?
ちょっといらっと来たんだけど。
「大将軍様!」
矢印が来た。
剣を振る。衝撃。弾いた。矢だ。あの爺さん、一直線に僕様を狙って来やがった。
「にゃろう……」
さらに速度をあげようとするが、その前に部下が出た。
「大将軍様は少し下がって!」
お預けをくらったみたいで嫌だったけど、部下が言うことも正論だからしょうがない。
左右からの締め付けも激しくなってくる。
本陣になだれ込んだ。
老人が剣を取り振るう。それで2人が倒された。あの爺さん、無敵かよ!
それよりジャンヌ・ダルクは……。そちらに視線を向ける。ジャンヌ・ダルクは後方、といってもまだ射程距離内に留まっていた。その前に立ちふさがる1人の少女。
それがまたヤバイ。
矢印が四方八方に飛んでいる。それほど周囲に気を配っているということ。そんなことを人間で出来るのか、という思いがあった。だが現に少女は八面六臂の働きで、こちらの騎馬隊を次々と倒していく。
あの女……見覚えがある。
ジャンヌ・ダルクを奪回に来た中の1人。あの仁藤の遊びでTレックスを1人で打ち倒した変態。
それがジャンヌ・ダルクを守っているとなると、難しいか。
せめて一矢。そう思い、弓を取って矢をつがえる。放った。それすらも、断ち割られた。
化け物め。
歩兵の締め付けが激しくなってきた。
このままだと取り囲まれて全滅する。
「離脱する!」
号令をかけ、まだ矢印が定まっていない方へと向かって駆ける。
「逃がすか!」「よせクロエ!」
背後から声。
あの少女とジャンヌ・ダルクか。
なかなか良い相手じゃないか。後ろ髪を引かれる思いだったけど、それなりの戦果をあげたことで満足した。結果としてすり抜けただけだから、お互いそれほど損害はない。
けれでも背後の本陣が襲われ、敵に動揺が見えたのは明らか。味方の歩兵が押し返している。
このまま歩兵に横撃を食らわせれば、全軍潰走になるだろう。
そう思い、少し距離をとって全体を眺めていると、
「なに、あれ?」
味方の陣の後方。
茂みからぽつぽつと人影が見えた。
それは急速に膨れ上がり、虫の群体ように1つの塊となった。その塊は一つの方向性を持った矢印を生み出している。味方の歩兵へ、だ。
伏兵?
そんな馬鹿な。
相手にそんな兵力はもうないはず。
ならどうして?
だが両眼が捉えた現実は、確かに敵を視認している。
「なんだっての!」
激昂して駆けだす。
だが遅い。
敵の伏兵が味方の後方を襲った。
挟撃の形になった。
どんなに優勢でも背後に敵を持つ以上、動きは鈍る。
そしてその隙をあのジャンヌ・ダルクは逃さないだろう。
ユインがなんとか立て直そうとしているのが分かる。
そして後ろの敵は放っておいて、ひたすらに前に進もうとしている。
「さすがユイン!」
背後の敵は多くて2千ほど。
それもがむしゃらに突き進もうとしているだけだから、脅威としては低い。
後ろの敵に気を取られ、オムカ軍に逆襲の機会を与えてしまえばせっかくの勝機が無に帰す。
あとは僕様が後ろの2千をぶちのめせばそれで終わる。
だから駆けた。
敵。1千ほどが2つに分かれている。
その部隊は、服装も武器もまちまちの軍。
しかもただ集まっているといった風で、陣形も隊列もない。
素人か。
そんな奴らに僕様の戦を邪魔されると思うと腹が立った。
だから一撃で決める。
そう思い、敵の一角に狙いをつけたが――
「なに!?」
敵が散った。
まだ接敵していない。
それより前に、散った。
逃げ散った。
呆気ない。
何の恥も外聞もなく、騎馬隊の足音だけを聞いて逃げたようなものだ。
どこか肩透かしをくらったようで、そんなことのためにここまで駆けてきた自分が馬鹿にされたように思えて、更に苛立ちが増す。
だが、その苛立ちを吹き飛ばすほどの光景を見て、ゾッとした。
散った敵が集まってくる。
だが1千とか2千とかではない。
数十の単位で集まり、そして再び味方を背後から襲うのだ。
「なんなんだよ!」
こんなのありえない。
帝国軍も、北の異民族も、ビンゴ王国もシータ王国にもこんなやり方をする者はいない。
普通、軍は数だ。
数が合わさって、力を合わせることで1足す1が10にも100にもなる。
だがこいつらは違う。
それぞれが独立した個々で、近くにいたから、同じ方向を目指していたから一緒にいる。そんな程度のものだ。
しかしそれがやっかいなのだ。
僕様の騎馬隊3千というのは、それだけで1万の歩兵にも勝る強力さを持っていると自負している。だが逆に言えば、こういうことには向いていないのだ。
数十の小さなまとまりを、1つ1つプチプチと潰していく細かい作業に。
さらに言えば、数十でまとまっているから、味方とがっちり組み合っていることになる。
そこに騎馬隊で突っ込んだら味方も犠牲になる。
なら数百に別れて各個撃破すればいいと思うが、そもそもそれを任せられる部隊長がうちにはほとんどいない。
それに、こっちが細かく分かれたら、それこそ相手は1千とかにまとまってこちらの騎馬を狩る動きに出る可能性がある。
まだ勝負も決まっていないこんなところで、精鋭を失うわけにはいかないのだ。
そうなると、この伏兵はある意味でこちらの反撃を封じる最強の矛だ。
これを事前に準備していたとするなら、あのジャンヌ・ダルクの認識を改めないとね。
ここまで、か。
「撤退の鉦を鳴らせ!」
ユインなら敵を思いっきり押して、一瞬の空隙で後退するくらいのことはできる。
背後を襲った伏兵も、さすがに全軍が向かってくるとすれば、それこそバラバラになって逃げ去るだろう。
惜しいところまでいったけど、今日はここまで。
続きは明日。
それでもまだこちらに優位はある。
だから明日にもジャンヌ・ダルクを捕まえられるかもしれない。楽しみだ。
鉄盾と鉄砲隊の使い方、それから騎馬隊の封じ方などで面をくらったところはあったけど、戦局を逆転させるほどのものではない。
元の戦力差があるから、というのもあるけど、まぁそこはそれも含めて実力ということで。
「じゃあ、出ようか。ジャンヌ・ダルクちゃんを、捕まえに」
本陣にいる5千のうち3千騎を引き連れて出る。
やはりこの数が一番しっくりくる。一挙手一投足が自分の手足のように動くのだ。
だから行く。
歩兵を左回りに迂回するようにして敵の右翼へ。相手は正面とこちらの右翼に注視しているから、そちらの警戒は緩い。スキル『神算鬼謀』による意思の方向性からしてもそれは良く見えた。
まぁそこをケアするほどの兵力がないわけだけど。
敵の本陣が見えた。
その時、敵に反応があった。わずかに本陣にいる兵力をこちら、いや、回り込んで正面の左に向けさせる動き。
狙いは良い。
けど、遅いね。
走り出す。
敵に動揺が見える。矢印が色んな方向に向かっていて収拾がついていない。
突っ込んだ。
もろい壁を槍でつついたように簡単に中に入れた。
そのまま一直線。
本陣のさらに中央。
オムカ国旗がたなびく、敵の中心部。
軍師ならばそこだろう。そうでなくても総大将を討ち取ればそれで戦は終わる。
抜き放った剣で歩兵を斬りあげる。
近い。見えた。巨体。おそらくオムカ国軍の総司令官と言われるハワードだろう。
その横。ハワードに比べたら小人のような金髪の少女。兜もかぶってないし、胸当てくらいの軽装。
顔。はっきりとした。あの時、見た顔。お菓子をあげた相手。
抵抗はまだ少ない。行けるはずだ。部下には殺すなとは言ってあるけど、まぁ戦場だし。万が一間違って死んじゃったら、うん、死体を持って帰ろう。それで凍らせて飾る。僕様の中で永遠に生きるのだ。
そう思うと笑みが浮かぶ。
行ける。
だがその時。
白髪の老人から大音声が響いた。
「その雑魚どもをひねりつぶせ!」
はぁ? 雑魚?
ちょっといらっと来たんだけど。
「大将軍様!」
矢印が来た。
剣を振る。衝撃。弾いた。矢だ。あの爺さん、一直線に僕様を狙って来やがった。
「にゃろう……」
さらに速度をあげようとするが、その前に部下が出た。
「大将軍様は少し下がって!」
お預けをくらったみたいで嫌だったけど、部下が言うことも正論だからしょうがない。
左右からの締め付けも激しくなってくる。
本陣になだれ込んだ。
老人が剣を取り振るう。それで2人が倒された。あの爺さん、無敵かよ!
それよりジャンヌ・ダルクは……。そちらに視線を向ける。ジャンヌ・ダルクは後方、といってもまだ射程距離内に留まっていた。その前に立ちふさがる1人の少女。
それがまたヤバイ。
矢印が四方八方に飛んでいる。それほど周囲に気を配っているということ。そんなことを人間で出来るのか、という思いがあった。だが現に少女は八面六臂の働きで、こちらの騎馬隊を次々と倒していく。
あの女……見覚えがある。
ジャンヌ・ダルクを奪回に来た中の1人。あの仁藤の遊びでTレックスを1人で打ち倒した変態。
それがジャンヌ・ダルクを守っているとなると、難しいか。
せめて一矢。そう思い、弓を取って矢をつがえる。放った。それすらも、断ち割られた。
化け物め。
歩兵の締め付けが激しくなってきた。
このままだと取り囲まれて全滅する。
「離脱する!」
号令をかけ、まだ矢印が定まっていない方へと向かって駆ける。
「逃がすか!」「よせクロエ!」
背後から声。
あの少女とジャンヌ・ダルクか。
なかなか良い相手じゃないか。後ろ髪を引かれる思いだったけど、それなりの戦果をあげたことで満足した。結果としてすり抜けただけだから、お互いそれほど損害はない。
けれでも背後の本陣が襲われ、敵に動揺が見えたのは明らか。味方の歩兵が押し返している。
このまま歩兵に横撃を食らわせれば、全軍潰走になるだろう。
そう思い、少し距離をとって全体を眺めていると、
「なに、あれ?」
味方の陣の後方。
茂みからぽつぽつと人影が見えた。
それは急速に膨れ上がり、虫の群体ように1つの塊となった。その塊は一つの方向性を持った矢印を生み出している。味方の歩兵へ、だ。
伏兵?
そんな馬鹿な。
相手にそんな兵力はもうないはず。
ならどうして?
だが両眼が捉えた現実は、確かに敵を視認している。
「なんだっての!」
激昂して駆けだす。
だが遅い。
敵の伏兵が味方の後方を襲った。
挟撃の形になった。
どんなに優勢でも背後に敵を持つ以上、動きは鈍る。
そしてその隙をあのジャンヌ・ダルクは逃さないだろう。
ユインがなんとか立て直そうとしているのが分かる。
そして後ろの敵は放っておいて、ひたすらに前に進もうとしている。
「さすがユイン!」
背後の敵は多くて2千ほど。
それもがむしゃらに突き進もうとしているだけだから、脅威としては低い。
後ろの敵に気を取られ、オムカ軍に逆襲の機会を与えてしまえばせっかくの勝機が無に帰す。
あとは僕様が後ろの2千をぶちのめせばそれで終わる。
だから駆けた。
敵。1千ほどが2つに分かれている。
その部隊は、服装も武器もまちまちの軍。
しかもただ集まっているといった風で、陣形も隊列もない。
素人か。
そんな奴らに僕様の戦を邪魔されると思うと腹が立った。
だから一撃で決める。
そう思い、敵の一角に狙いをつけたが――
「なに!?」
敵が散った。
まだ接敵していない。
それより前に、散った。
逃げ散った。
呆気ない。
何の恥も外聞もなく、騎馬隊の足音だけを聞いて逃げたようなものだ。
どこか肩透かしをくらったようで、そんなことのためにここまで駆けてきた自分が馬鹿にされたように思えて、更に苛立ちが増す。
だが、その苛立ちを吹き飛ばすほどの光景を見て、ゾッとした。
散った敵が集まってくる。
だが1千とか2千とかではない。
数十の単位で集まり、そして再び味方を背後から襲うのだ。
「なんなんだよ!」
こんなのありえない。
帝国軍も、北の異民族も、ビンゴ王国もシータ王国にもこんなやり方をする者はいない。
普通、軍は数だ。
数が合わさって、力を合わせることで1足す1が10にも100にもなる。
だがこいつらは違う。
それぞれが独立した個々で、近くにいたから、同じ方向を目指していたから一緒にいる。そんな程度のものだ。
しかしそれがやっかいなのだ。
僕様の騎馬隊3千というのは、それだけで1万の歩兵にも勝る強力さを持っていると自負している。だが逆に言えば、こういうことには向いていないのだ。
数十の小さなまとまりを、1つ1つプチプチと潰していく細かい作業に。
さらに言えば、数十でまとまっているから、味方とがっちり組み合っていることになる。
そこに騎馬隊で突っ込んだら味方も犠牲になる。
なら数百に別れて各個撃破すればいいと思うが、そもそもそれを任せられる部隊長がうちにはほとんどいない。
それに、こっちが細かく分かれたら、それこそ相手は1千とかにまとまってこちらの騎馬を狩る動きに出る可能性がある。
まだ勝負も決まっていないこんなところで、精鋭を失うわけにはいかないのだ。
そうなると、この伏兵はある意味でこちらの反撃を封じる最強の矛だ。
これを事前に準備していたとするなら、あのジャンヌ・ダルクの認識を改めないとね。
ここまで、か。
「撤退の鉦を鳴らせ!」
ユインなら敵を思いっきり押して、一瞬の空隙で後退するくらいのことはできる。
背後を襲った伏兵も、さすがに全軍が向かってくるとすれば、それこそバラバラになって逃げ去るだろう。
惜しいところまでいったけど、今日はここまで。
続きは明日。
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