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第3章 帝都潜入作戦
第41話 激突戦域
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翌早朝。
怪我人を即席の馬車で後方に護送していると、斥候隊が戻ってきた。
「敵、進軍開始! まっすぐにこちらに向かってきます! 数はおよそ5万。陣形は魚鱗1つです!」
「来たか……」
怪我人はまだ道半ばだ。
ここで退けば、犠牲は大きくなる。
やはり、一度ぶつかって時間を稼ぐしかないか。
それより気になるのは敵の陣形だ。
魚鱗が1つ。昨日は2手に別れていたのがどうして今はまとまっているのか。
単純に考えれば、指揮する人間がいなくなったか。ありうるとすれば、昨日の砦の仕掛けがその指揮官を巻き込んだということ。
だがそれはあまりに都合の良すぎる考えだ。
常に最悪の想定をするべきだから、その考えは捨てた方がいい。
となると最初は1つにまとまって、チャンスを見て軍を割る。
それが一番考えられそうなものだ。
だからそれを念頭に置いて、だけど捉われすぎずにいこう。
本陣へ向かう。
そこにはすでにハワードの爺さん、ブリーダ、クロエが集まっていた。
「良いのか、ジャンヌ」
ハワードの爺さんが真面目くさった顔で聞いてくる。
良いか悪いか。
もちろん悪いに決まってる。
死んで来いなんて、やっぱり言えたものじゃないし、言っていいものじゃない。
だから俺はブリーダにこう言うんだ。
「頼んだ」
「頼まれたっす」
二ッとブリーダは笑って駆けて行った。
「隊長殿、逃げるのですか……?」
クロエが落ち着いた声で聴いてくる。
「いや、一度はぶつかる。今から逃げても、怪我人が追い付かれる。1時間だ。1時間戦ったら、そのまま一気にウォンリバーまで退く」
「そうじゃのぅ。それが今できることじゃて」
「分かりました。では私は隊長殿を守ります」
「あぁ、よろしく頼む」
守るなとは言えない。
彼女のやる気をそぐことになるし、何よりこの土壇場で士気を下げるのは彼女にとってよくない未来を与えかねない。
それに先日のように本陣が襲われないとは言い切れないのだ。
陣から外に出て対峙する。
約5万。あれだけ戦ったのに、まだ5万もいるとか詐欺なんじゃないかと思う。
敵が近づく。
あと少しで鉄砲の射程に入る。
だがこちらに鉄砲はない。
クルレーンには怪我人の護衛もかねて先に南下してもらっている。
弾数を節約するためにはそうするしかなかったし、いざ潰走となった時の要として温存しておきたかった。それに鉄砲隊は最後の最後に決め手になる。そう信じていた。
だから相手が射程のギリギリのところで止まった瞬間が狙い目だった。
そこで一気に攻めかかり、相手が態勢を整えるその隙に後退。
それを繰り返して、なんとか時間を稼ごうというのが今回の方針だ。
「よし、全軍――」
だから俺は旗をあげて、ハワードの爺さんに合図を送ろうとしたが、
「え?」
敵が止まらない。
そのままぶつかってきた。
迂闊。
敵がこちらの都合通り待ってくれるなんて、甘いにもほどがある。
完全に機先を制された。
今回は馬防柵もなければ、撤退に重い鉄盾も捨ててきてしまっているから、数の圧力をガチに受けることになるのだ。
「くっ! 耐えろ!」
前衛はガッチリ組み合ってしまっている。
これでは離脱できないから、なんとか耐えるしかないのだ。
ブリーダが走り回り、歩兵に介入しようとするが相手の騎馬隊1万に遮られて上手く動けていない。
正直、2つに分かれていた昨日の方が楽だった。
2手に分かれるということは、どこかに必ず隙が出るのだ。だが今は、5万が一丸となってこちらを押しつぶそうとしてくるから、まったくつけ入る隙がない。
互角の戦いも、時間が経てば物量の差でこちらが負ける。
前衛では疲労した兵を後ろに下げ、次の隊がぶつかり、また時間が来たら交代する形でなんとか耐えている。だがその速度も量も、相手の方に軍配があがる。
こちらの交代のタイミングにつけ入れられた。
そこからぐいぐいと押し込まれる。
合わない鍵穴に鍵をねじり込んでこじ開けようとするような強引さに、歯ぎしりをするばかりだ。
「伏兵!」
旗を振る。
そしてそれをちゃんと見たのか、騎馬隊のいない方の敵の背後からわらわらと兵が出てくる。
ゴードンの部隊だ。
伏兵として、近くの茂みに隠れて背後を襲えとしか言っていない。
だから後はゴードンに任せたという形になるのだが……。
騎馬隊が動いた。おそらく、敵の総大将だろう。
それだけでゴードンの部隊は恐慌し、一撃で粉砕されてバラバラに逃げ去っていった。
くそ、失敗だ。
この状況でも伏兵に気を配ってる。当然か。
ただ今日の敵はこれまでと何かが違う気がする。
最初に対峙した時は堅実さが見えた。
連環馬でしのいだ後は慎重さが見えた。
一気に本陣を突いた時は果断さが見えた。
砦にすぐに入ることもしない用心深さも見えた。
変幻自在の動きをする敵で、侮りがたいと感じた。
だが今日。
真正面から向かって来て、息をつく暇もなく攻めかかったのは狡猾に思える。
そこからどう来るか目を凝らしていたが、ひたむきに押すしかなかった。兵力差がある以上、これは最も効果的なことなのだが、どこか猪突な感じがしてしまうのはなぜだろう。どこか焦りというか、怒りを覚えているような……。
戦闘開始から30分は過ぎた。
あと半分。
それをどこまで耐えられるか。
いや、そもそも耐えた後があるのか。
ここまでがっちり組み合ったら、離れることも逃げることも何もできない。
どこかに勝機があるとしたら、外部からの介入。
だがブリーダは騎馬隊にかかりきりだし、ゴードンは呆気なく敗れ去った。
だとすると後は――
「隊長どーの!」
抱き着かれた。誰に。
揉まれた。何を。
息を吹かれた。どこに。
「クロエ、何やってんだ!」
振り払おうともがく。だが悲しきかな腕力1。
格闘大会に優勝したクロエに敵うはずがない。
なにより、クロエの言葉が、俺の頭を一瞬停止させる。
「落ち着いてください。隊長殿。そんなんじゃ、リナさんを助けられませんよ」
「え――」
なんでお前がその名を。
どこでその名前を聞いた。
「すみません。関所を抜けた日の、イッガーとの話を聞きました」
あの時……か。
部屋で寝てると思ったら……迂闊。
「あれから色々考えました。やっぱりザインを殺したのは許せませんけど。何か事情があるんだなって」
「クロエ……」
「だから少しずつ飲み込んでいきたいと思います。なので隊長は諦めないでください。いつまでも、冷静で頭良くて果断で仲間思いで素敵で美しくて可憐でえっちくてえげつなくて極悪でちょっと引くくらいの隊長殿でいてください」
なんか酷い評価が混じってる気がしたけど……。
そう、か。そうなのか。里奈のことを、この世界の人間がそう思ってくれるのは、ありがたい。あんなことがあったのに、本当にこいつの能天気……いや、実直さには救われる。
「分かった。そうだな。少し、落ち着く」
「はい!」
とはいえどうするかだ。
この間にも前衛は押されに押されて今にも潰走しそうだ。
これを耐える策は……。
「隊長殿。ブリーダさんが待ってます。隊長の決断を」
ブリーダ?
左に視線を向ける。
騎馬隊が走り回る土煙だけが見えた。
そこにブリーダの意思は感じられない。
けど、クロエは感じ取ったのだろうか。
ブリーダの苛立ちというか期待というか。
後は、俺の覚悟だけだと。
小さく深呼吸。
やるしか、生き延びる道はない。
「分かった。分かったから、放してくれ」
「んん。もうちょっとだけ。ここ何日も隊長分を補給してなかったから辛くて。あぁ隊長殿の柔らかさ、何日もお風呂入ってない汗が混じった香り……ぐゃ!」
煌夜は良いことを教えてくれた。
どんな強い相手でも顎を打たれると弱いということを。
ったく。
ちょっとマシなこと言い始めたと思ったらこれだ。
師匠といい弟子といい、どいつもこいつも……。
いや。だからか。
こんな時でも、肩の力が抜けるくらいのことをしてくれるから、俺はこいつらと一緒にいるのか。
そんな気がした。
「よし、やるぞ」
決めたら迷わない。
ずるずるとしていたら、その体力すらもなくなってしまうから。
「鉦、鳴らせ!」
鉦が打ち鳴らされる。
それは総攻撃の合図。
力の限りひたすら攻めて攻めて攻め立てる。
一瞬、押し返す。
一瞬だけだ。
そこで一歩退く。
再突撃のための空隙。
敵は更なる攻撃が来ると身構える。身構えてしまう。
だから――
「鉦、連打! 全軍――退却!」
敵に背を向けて一気に走り出す。
腐っても1万人を超える人数だ。敵とがっつり組み合った状態で一気に退却しようとしたらそれこそ被害が大きい。
だからこそ一度だけ攻めに攻める。
その猛攻でできた隙間。
そこから、一斉に後ろに向かって走るのだ。
敵も一瞬、呆気にとられるだろう。
その一瞬が勝機。
その間にどれだけ駆けられるか。すべてはそれ。
一応、1千人規模を指揮する小隊長にはそれを伝えていたから、大きな混乱は起こらず全員が南を目指してひた駆ける。それに負傷者は先に出していたから、今は置いて行かれることはない。
背後から鯨波。
敵の追撃が始まったのだ。
そこへ、ブリーダが突っ込んだ。
歩兵の足が一瞬止まる。
止めるのは一瞬。ブリーダもこちらと共に走る。
敵の騎馬隊が追いかけてくるからだ。
こんな無様な策しか思いつかない自分が情けない。
いや、策にすらならない。ただひたすら逃げて、後は全部ブリーダ任せなのだ。
こんなことしかできない自分は軍師失格だ。
いや、人間として失格している。
人の命を吸って生きる人でなし。
この世界に争いをもたらす極悪人。
つい最近、言われた言葉。
そう思うと、俺は生きてはいけない存在なのかもしれない。
――それでも。
それでも皆が俺を信じて、頼ってくれるなら。
たとえなんと言われようと、後ろ指を指されようと、生き延びて、そして皆を守り続けたい。
そう思うから、死ねない。
そして、死ぬまで考え続けてやる。
だから俺は皆の無事を祈りながら、
ブリーダのことを祈りながら、
歩兵に交じって馬で逃げること――それだけを密かに恥じた。
怪我人を即席の馬車で後方に護送していると、斥候隊が戻ってきた。
「敵、進軍開始! まっすぐにこちらに向かってきます! 数はおよそ5万。陣形は魚鱗1つです!」
「来たか……」
怪我人はまだ道半ばだ。
ここで退けば、犠牲は大きくなる。
やはり、一度ぶつかって時間を稼ぐしかないか。
それより気になるのは敵の陣形だ。
魚鱗が1つ。昨日は2手に別れていたのがどうして今はまとまっているのか。
単純に考えれば、指揮する人間がいなくなったか。ありうるとすれば、昨日の砦の仕掛けがその指揮官を巻き込んだということ。
だがそれはあまりに都合の良すぎる考えだ。
常に最悪の想定をするべきだから、その考えは捨てた方がいい。
となると最初は1つにまとまって、チャンスを見て軍を割る。
それが一番考えられそうなものだ。
だからそれを念頭に置いて、だけど捉われすぎずにいこう。
本陣へ向かう。
そこにはすでにハワードの爺さん、ブリーダ、クロエが集まっていた。
「良いのか、ジャンヌ」
ハワードの爺さんが真面目くさった顔で聞いてくる。
良いか悪いか。
もちろん悪いに決まってる。
死んで来いなんて、やっぱり言えたものじゃないし、言っていいものじゃない。
だから俺はブリーダにこう言うんだ。
「頼んだ」
「頼まれたっす」
二ッとブリーダは笑って駆けて行った。
「隊長殿、逃げるのですか……?」
クロエが落ち着いた声で聴いてくる。
「いや、一度はぶつかる。今から逃げても、怪我人が追い付かれる。1時間だ。1時間戦ったら、そのまま一気にウォンリバーまで退く」
「そうじゃのぅ。それが今できることじゃて」
「分かりました。では私は隊長殿を守ります」
「あぁ、よろしく頼む」
守るなとは言えない。
彼女のやる気をそぐことになるし、何よりこの土壇場で士気を下げるのは彼女にとってよくない未来を与えかねない。
それに先日のように本陣が襲われないとは言い切れないのだ。
陣から外に出て対峙する。
約5万。あれだけ戦ったのに、まだ5万もいるとか詐欺なんじゃないかと思う。
敵が近づく。
あと少しで鉄砲の射程に入る。
だがこちらに鉄砲はない。
クルレーンには怪我人の護衛もかねて先に南下してもらっている。
弾数を節約するためにはそうするしかなかったし、いざ潰走となった時の要として温存しておきたかった。それに鉄砲隊は最後の最後に決め手になる。そう信じていた。
だから相手が射程のギリギリのところで止まった瞬間が狙い目だった。
そこで一気に攻めかかり、相手が態勢を整えるその隙に後退。
それを繰り返して、なんとか時間を稼ごうというのが今回の方針だ。
「よし、全軍――」
だから俺は旗をあげて、ハワードの爺さんに合図を送ろうとしたが、
「え?」
敵が止まらない。
そのままぶつかってきた。
迂闊。
敵がこちらの都合通り待ってくれるなんて、甘いにもほどがある。
完全に機先を制された。
今回は馬防柵もなければ、撤退に重い鉄盾も捨ててきてしまっているから、数の圧力をガチに受けることになるのだ。
「くっ! 耐えろ!」
前衛はガッチリ組み合ってしまっている。
これでは離脱できないから、なんとか耐えるしかないのだ。
ブリーダが走り回り、歩兵に介入しようとするが相手の騎馬隊1万に遮られて上手く動けていない。
正直、2つに分かれていた昨日の方が楽だった。
2手に分かれるということは、どこかに必ず隙が出るのだ。だが今は、5万が一丸となってこちらを押しつぶそうとしてくるから、まったくつけ入る隙がない。
互角の戦いも、時間が経てば物量の差でこちらが負ける。
前衛では疲労した兵を後ろに下げ、次の隊がぶつかり、また時間が来たら交代する形でなんとか耐えている。だがその速度も量も、相手の方に軍配があがる。
こちらの交代のタイミングにつけ入れられた。
そこからぐいぐいと押し込まれる。
合わない鍵穴に鍵をねじり込んでこじ開けようとするような強引さに、歯ぎしりをするばかりだ。
「伏兵!」
旗を振る。
そしてそれをちゃんと見たのか、騎馬隊のいない方の敵の背後からわらわらと兵が出てくる。
ゴードンの部隊だ。
伏兵として、近くの茂みに隠れて背後を襲えとしか言っていない。
だから後はゴードンに任せたという形になるのだが……。
騎馬隊が動いた。おそらく、敵の総大将だろう。
それだけでゴードンの部隊は恐慌し、一撃で粉砕されてバラバラに逃げ去っていった。
くそ、失敗だ。
この状況でも伏兵に気を配ってる。当然か。
ただ今日の敵はこれまでと何かが違う気がする。
最初に対峙した時は堅実さが見えた。
連環馬でしのいだ後は慎重さが見えた。
一気に本陣を突いた時は果断さが見えた。
砦にすぐに入ることもしない用心深さも見えた。
変幻自在の動きをする敵で、侮りがたいと感じた。
だが今日。
真正面から向かって来て、息をつく暇もなく攻めかかったのは狡猾に思える。
そこからどう来るか目を凝らしていたが、ひたむきに押すしかなかった。兵力差がある以上、これは最も効果的なことなのだが、どこか猪突な感じがしてしまうのはなぜだろう。どこか焦りというか、怒りを覚えているような……。
戦闘開始から30分は過ぎた。
あと半分。
それをどこまで耐えられるか。
いや、そもそも耐えた後があるのか。
ここまでがっちり組み合ったら、離れることも逃げることも何もできない。
どこかに勝機があるとしたら、外部からの介入。
だがブリーダは騎馬隊にかかりきりだし、ゴードンは呆気なく敗れ去った。
だとすると後は――
「隊長どーの!」
抱き着かれた。誰に。
揉まれた。何を。
息を吹かれた。どこに。
「クロエ、何やってんだ!」
振り払おうともがく。だが悲しきかな腕力1。
格闘大会に優勝したクロエに敵うはずがない。
なにより、クロエの言葉が、俺の頭を一瞬停止させる。
「落ち着いてください。隊長殿。そんなんじゃ、リナさんを助けられませんよ」
「え――」
なんでお前がその名を。
どこでその名前を聞いた。
「すみません。関所を抜けた日の、イッガーとの話を聞きました」
あの時……か。
部屋で寝てると思ったら……迂闊。
「あれから色々考えました。やっぱりザインを殺したのは許せませんけど。何か事情があるんだなって」
「クロエ……」
「だから少しずつ飲み込んでいきたいと思います。なので隊長は諦めないでください。いつまでも、冷静で頭良くて果断で仲間思いで素敵で美しくて可憐でえっちくてえげつなくて極悪でちょっと引くくらいの隊長殿でいてください」
なんか酷い評価が混じってる気がしたけど……。
そう、か。そうなのか。里奈のことを、この世界の人間がそう思ってくれるのは、ありがたい。あんなことがあったのに、本当にこいつの能天気……いや、実直さには救われる。
「分かった。そうだな。少し、落ち着く」
「はい!」
とはいえどうするかだ。
この間にも前衛は押されに押されて今にも潰走しそうだ。
これを耐える策は……。
「隊長殿。ブリーダさんが待ってます。隊長の決断を」
ブリーダ?
左に視線を向ける。
騎馬隊が走り回る土煙だけが見えた。
そこにブリーダの意思は感じられない。
けど、クロエは感じ取ったのだろうか。
ブリーダの苛立ちというか期待というか。
後は、俺の覚悟だけだと。
小さく深呼吸。
やるしか、生き延びる道はない。
「分かった。分かったから、放してくれ」
「んん。もうちょっとだけ。ここ何日も隊長分を補給してなかったから辛くて。あぁ隊長殿の柔らかさ、何日もお風呂入ってない汗が混じった香り……ぐゃ!」
煌夜は良いことを教えてくれた。
どんな強い相手でも顎を打たれると弱いということを。
ったく。
ちょっとマシなこと言い始めたと思ったらこれだ。
師匠といい弟子といい、どいつもこいつも……。
いや。だからか。
こんな時でも、肩の力が抜けるくらいのことをしてくれるから、俺はこいつらと一緒にいるのか。
そんな気がした。
「よし、やるぞ」
決めたら迷わない。
ずるずるとしていたら、その体力すらもなくなってしまうから。
「鉦、鳴らせ!」
鉦が打ち鳴らされる。
それは総攻撃の合図。
力の限りひたすら攻めて攻めて攻め立てる。
一瞬、押し返す。
一瞬だけだ。
そこで一歩退く。
再突撃のための空隙。
敵は更なる攻撃が来ると身構える。身構えてしまう。
だから――
「鉦、連打! 全軍――退却!」
敵に背を向けて一気に走り出す。
腐っても1万人を超える人数だ。敵とがっつり組み合った状態で一気に退却しようとしたらそれこそ被害が大きい。
だからこそ一度だけ攻めに攻める。
その猛攻でできた隙間。
そこから、一斉に後ろに向かって走るのだ。
敵も一瞬、呆気にとられるだろう。
その一瞬が勝機。
その間にどれだけ駆けられるか。すべてはそれ。
一応、1千人規模を指揮する小隊長にはそれを伝えていたから、大きな混乱は起こらず全員が南を目指してひた駆ける。それに負傷者は先に出していたから、今は置いて行かれることはない。
背後から鯨波。
敵の追撃が始まったのだ。
そこへ、ブリーダが突っ込んだ。
歩兵の足が一瞬止まる。
止めるのは一瞬。ブリーダもこちらと共に走る。
敵の騎馬隊が追いかけてくるからだ。
こんな無様な策しか思いつかない自分が情けない。
いや、策にすらならない。ただひたすら逃げて、後は全部ブリーダ任せなのだ。
こんなことしかできない自分は軍師失格だ。
いや、人間として失格している。
人の命を吸って生きる人でなし。
この世界に争いをもたらす極悪人。
つい最近、言われた言葉。
そう思うと、俺は生きてはいけない存在なのかもしれない。
――それでも。
それでも皆が俺を信じて、頼ってくれるなら。
たとえなんと言われようと、後ろ指を指されようと、生き延びて、そして皆を守り続けたい。
そう思うから、死ねない。
そして、死ぬまで考え続けてやる。
だから俺は皆の無事を祈りながら、
ブリーダのことを祈りながら、
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そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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