知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第40話 死なんと戦えば

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 イッガーがやってくれた。
 正直、賭けの要素が強く、うまくいく可能性は3割あるかどうかだった。

 けど結果は凄いものだった。
 砦は爆発し、大炎上した。

 それを呆然と見つめる敵、そこにブリーダが襲い掛かったのだ。

 敵はなんとか組織立った抵抗をしようとしたが、突然の爆発にうろたえた様子でブリーダの隊にいいように突き崩された。
 ようやく防御態勢を整えた時には、ブリーダは部隊をまとめて帰陣しているところだった。

 ただイッガーが重傷を負った。

「へ、へへ……やって、やりました……自分、なんかが」

「お前なんかじゃない。お前は立派だ。本当に助かった。ありがとう。だから今は休んでくれ……」

 傷ついて運ばれていく彼にはそうとしか言えなかった。危険を承知で送り込んだんだ。死んでいてもおかしくなかった。
 だから胸が痛み、そう言って送ることしかできなかった自分が情けなかった。

 今、彼は応急処置を受けてヨジョー城へと移されている。とにかく無事を祈るしかない。

「すごいっすね。あの炎はちょっとやそっとじゃ消えないっすよ」

「ご苦労様、ブリーダ」

「そんな苦労するほどじゃないっすけどね。ちょっと出かけて弓を引っかけただけっすから」

「それでも制止を聞かずに、2度ほど突っ込みましたが」

 冷めた様子で呟くのは緑色の髪をした少女。
 ブリーダが慌てたようにうろたえる。

「あ! アイザ、しーっす!」

「失礼しました。そういうことは責任者にしっかり報告するよう、しつけられましたので」

じいめ……余計なことを」

「えっと、ブリーダ、その人は?」

「あ、えっと、その、うちの副官っす」

「初めまして、ジャンヌ軍師殿。アイザと申します」

「あ、よろしく」

 手を出した。
 握手のつもりだったけど、それを無視して俺の方を見てくる。

「…………」

 え、てかめっちゃ睨まれてるんだけど。怖いんだけど。
 俺、何かした?

「ぶ、ブリーダ……」

「アイザ! 初対面でそんな睨んじゃダメっす!」

「失礼しました。この子供ガキ――いえ、女性のどこに魅力があるのか見ておりました。他意はありません」

 他意はありませんとか言ってるけど、なんか滅茶苦茶失礼なこと言わなかった?

「あー、もう! 報告は終わったから早く戻るっす!」

「分かりました。それでは先に行っています、幼女趣味ロリコン隊長」

 深々とお辞儀をして去っていくアイザに、俺は苦笑するしかなかった。

「……なかなか強烈な副官だな」

「あー、すまねぇっす。悪気は多分ねっす」

 それはそれで問題だと思うんだが……。

「とりあえずお疲れ様、だな」

「っす。明日は少し楽になるっすかねぇ……」

「どうだろうな。被害がどれくらいになるかによると思うぞ」

「そういえばウィット、でしたっすか。まだ帰ってこないっすか?」

「一応1日分の兵糧は持たせたから、今日は帰ってこないかもな」

「っすか」

 あいつら、無事なのか。
 自分で行かせておいてだけど、こうも離れると心配になる。あっちは敵地のど真ん中なのだ。

「おう、2人ともここにおったか」

 ハワードの爺さんだ。
 緊張感もなく、ただの散歩みたいな感じで歩いてくる。

「なんか用か?」

「冷たいのぅ。ごほっ。用がなくちゃ来ちゃいかんのか?」

「別に、だけど手短にな。今日は疲れたから早く寝たいんだ。あ、ちなみに一緒に寝るとかそういうネタはもういいから」

「先回りするとは、更にできるようになったのぅ」

「爺さんがワンパターンすぎんだよ」

 ったく。本当に緊張感がない爺さんだ。

「それはそうと、ここからあと10キロくらいかウォンリバーまで」

「もう少しあるかのぅ。今のうちにもう少し下がっておくか?」

「……だめだ。これから暗くなるし、怪我人はそれに耐えられない」

「しかし、そうなると明日。もう一戦はすることになるぞ?」

「しょうがないだろ。それとも怪我人を捨てていけと?」

「そうは言っておらん。ただ、覚悟が出来ているのかと思ってな」

「覚悟?」

「人を死なせる覚悟じゃよ」

「っ!」

 いや、分かっている。
 明日。相手はしゃにむにかかってくるだろう。
 怪我人を守りながらさらに南下するとすれば、今日以上の犠牲は覚悟しなければならない。

 けど、ようやく分かりかけてきた、勝利への道しるべ。それにはウォンリバーまで下がらないと無理だった。
 だから、明日はきっと地獄を見る。それは分かっていた。

「ああ。犠牲は少なくする」

「お主はまだそうやって無理をする。前も言ったじゃろ。死んで来い、くらいの方が軍人にはいいんじゃよ」

「でも……そんなこと、気軽に言えるわけないだろ」

「当然じゃ。だから気軽に言う前に、必死で悩み、何度も試行し、頭が破裂するほどに考え抜くのじゃよ。その上で言ってやるのじゃ。死んで来いと。気軽にの。そこまで考え、思い悩んでくれたなら、、受け取る相手も快く頷いてくれるじゃろ。もちろん、お互いが深く信頼し合っていることが大前提じゃがな」

「信頼、か……」

「それにあまり重く考えん方がいいぞ? 死んでこいと言われても、意外と生還するもんじゃて」

「死なんと戦えば生き、生きんと戦えば必ず死するものなり、か」

 戦場では死のうと思えば意外と生き残り、生きて帰ろうと考えれば死ぬものだ、という意味の言葉。
 上杉謙信うえすぎけんしんが語ったと言われる有名な言葉だ。

「ん、なんじゃその言葉は。だが、そうじゃのぅ。死のうと思って必死に戦えば、逆に生き延びる。真理だのぅ」

「なんかいい言葉っすね。ちょっとじーんと来ました」

 じーんと来るような言葉だったのか。
 いや、戦人いくさびと同士の何か波長みたいなのがあるのかもしれない。覚悟を決める意味でいい言葉だと思うけど、少なくとも俺はじーんと来た覚えはなかった。

「明日の戦は、退く戦になるんすか?」

「そうだな。できればウォンリバーまでさがりたい。そこでなら、おそらく勝ち目がある」

「っすか……」

 ブリーダは何かを考え込むようにして、

「明日は自分を殿軍でんぐんに置いてもらえないっすか」

「馬鹿な。3千に対して5万だぞ一気につぶされるだけだ!」

「けど騎馬隊だから逃げ回れるっす。適度に攻撃して、適度に逃げて。皆が退くのを援護するっす」

「相手にはまだ騎馬隊がいるんだぞ」

「ジャンヌ」

「なんだよ、爺さん」

「言ったじゃろ。死んで来いと命令してみろと」

「でも……」

 思い出すのは去年。オムカの独立戦争の時。
 同じ言葉を思い出して死んで来いと命令した人物がいる。
 そしてその人物は死に、そして文字通り蘇ったのだ。

「言ったんだ。俺は、サカキに。けど、あいつは死んだ。一度、間違いなく死んだんだ」

「ははっ! 師団長殿は生き返ったんすか。でも、あの人らしいっす」

「そうじゃのぅ。あいつは殺しても死なんだろう」

「ちゃかすなよ。でも本当に怖かったんだ。サカキがやられた時、自分のせいで死んだと思った。だから、そんなことをもう一度言えなんて……」

「なら、なおさら自分に命ずるしかないっすね」

「……?」

 意味が分からなかった。
 その流れでどうしてそんな言葉につながるのか。

 だがブリーダは自信満々に、笑みを浮かべて言い放った。

「自分が死なずに戻ってくるからっす。そうすれば、軍師殿はもうそのことに悩まなくていいっすよね?」

「ぶはっ……ごほっ、ごほっ! そりゃその通りじゃ! はっは! 一本取られたのぅ、ジャンヌ」

「全然上手くない! てかどこから来るんだ、その自信は!」

「そりゃ死なんとすれば生き、っす。それに……軍師殿には恩返しがしたいっす」

「は? 恩返し?」

「そうっす。軍師殿は自分たちの夢を叶えてくれたっす。オムカ独立という夢を。だから今度は、こっちがお返しする番っす」

「ブリーダ……」

 ダメだ。そう言えればどれだけ楽か。
 あぁ、どうして俺のスキルは、パラメータは戦えるようになっていないんだ。
 こうして見送ることしかできないなんて。

 呼吸にして3つ。
 覚悟。人を死なせて生きる覚悟。
 そんなもの。ない方がいいに決まっている。
 だったら人を生かして生きる覚悟を決めた方がマシだ。

 だから言った。

「分かった。死んで来い。そして、帰って来い、ブリーダ」

「っす。了解っす!」

 ブリーダの笑み。
 サカキのそれと被った。
 本当に軍人ってやつは……度し難い馬鹿ばっかだ。

「あー、そうそう、ジャンヌよ」

「ん、なんだよ爺さん」

「さっきクルレーンが言っておったわ。あと弾は数発ずつしかないと。使いどころを考えんとのぅ」

「……いや、この流れでそれ言う?」

 てかそりゃそうだよな。
 ヨジョー地方に侵攻してから今まで、ひたすら撃ちまくってきたんだ。まだ国産化に目途がついたくらいの時期にそれだけ撃ち続ければ、そりゃ弾も尽きる。

「なんかお主とブリーダが良い感じになってたのが気に食わなくての」

「嫉妬かよ! てかお前が言えって言ったんだろ!」

「それとこれとは話が別じゃー。嫌なものは嫌なんじゃー」

「我がままか!」

 てかこんなのが国の柱石?
 腐ってボロボロの家にどれだけ未来があるのか……。

 それでも少し肩の荷が下りた。
 本当に、この爺さんは……いや、今は考えまい。

 とにかく明日。
 皆で生きて勝つ。生きて王都に戻る。
 死なんと戦って生きるんだ。
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