知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

閑話29 五十嵐央太(オムカ王国諜報部隊長)

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 スキルの長時間発動は疲れる。
 しかもこんな油まみれの場所だから、疲労度は倍増。

 今朝、隊長の命令で広場に油を撒いて焼いた。
 竜胆は嬉々として、

『キャンプファイヤー! これぞ正義ジャスティスの炎です!』

 とか盛り上がっていた。
 大丈夫かな、あの子。色んな意味で。

 焼いたのは広場や建物といったもので、砦自体は多少燃えた程度。
 そしてその“後に”砦全体に油を撒いた。

 時間が経って油が染み込めば、誰もが『油で何かを燃やしたので、砦に油の臭いが充満している』と思うだろう。
 本当に怖いほどに人を食った策を考えるものだ。

 そのようにした準備をした後に、自分はこの臭いの充満する砦に残った。
 ジャンヌ隊長は、今日の夕方には敵の軍がくるかもしれないと言っていたが、まさしく陽が暮れた辺りでがやがやと人の声が聞こえるようになった。

 何かを探っているようで、近くに兵が来たけどスキルのおかげで気づかれることはなかった。

 正直ここに残って着火する役なんてものは、危険極まりない役目で、捕まったり殺されたりしても文句はない役回りだ。
 けど、自分はそれに志願した。

 帝都を脱出した時、少しだけジャンヌ隊長と話した。
 その中で、自分を選んで打ち明けてくれたことが、これ以上なく嬉しくて、だから協力を申し出たわけで、もう、なんというか、頑張ろうと思ったのだ。

 今回の戦は、兵力差からしてこれ以上ない激戦になると聞いた。
 だからせめて、戦闘では役立たずな自分でも、何かの役に立ちたかった。
 ただそれによって、何がどうなるかは考えなかった。
 考えようとは思わなかった。

「――――」

 砦の門が開き、再び誰かが来た。
 今度は多い。人の声で分かる。
 ガチャガチャと鎧の音もする。

 敵。それがどれだけ来たか。
 せめて敵の総大将が来れば。
 そう思った時に、声が聞こえた。

「ユイン将軍! 捜索を開始します!」

 将軍クラス。
 ならやるか。

 動く。
 南門の付近。そこに持っていた壺を置く。
 自分のスキル『存在改竄シュレーディンガー』は、身に着けたものの存在確率も変えてしまうらしい。
 だから服とか着ていてもバレないわけで。それで今回、いくつかの壺とロープを持っていた。

 壺の中は火薬。そしてロープは油を染み込ませてあり導火線になる。
 その2つを組み合わせて、砦の壁際を走る。
 置けた。3つ。ここが限度。あとは各所に置いてある、偽装した火薬に引火してくれるのを祈るだけだ。

「なんだ、これは?」

 壺が見つかった。
 自分から離れた壺は見えるようになるのだ。急げ。

 持っていた壺をすべて置いて、導火線に火をつける。
 火打石とかほぼ使ったことない。けど今はやるしかない。け、け、け!

「何者だ!」

 しまった、見つかった。
 気持ちが焦る。
 火花が散った。火。導火線についた。放り投げる。

「弓、射ろ!」

 逃げる。南門はすぐそこだ。

 矢が来た。
 再び気配は消している。
 けどそこにいるという事実は消せない。
 もとよりそこまで走るのは早くなかった。しかも体力もない。
 だからジャンヌ隊にいても足手まといだった。

 周囲に矢がつき立つ。

 肩。衝撃が来た。
 それでも走る。
 歯を食いしばり、痛みを堪えながら。

 もう一本来た。どこに刺さったのかは分からない。
 けど、走る。
 死んでも走る。

 背後で爆発。
 風が背中を押し、更に加速させる。

 ジャンヌ隊長のあの寂し気な表情。
 親しい友人が敵にいて、バーサーカーになり、そして部下を失った。
 その心痛を思えば、こんな痛みなど。

 それに彼女は優しい。
 だから、きっと自分が死んだらまた悲しむ。

 自分なんかのために誰かが泣く。
 それは嬉しいことでもあり、同時に死んでたまるかという思いにもなる。

 だから、生きる。
 生きて、生きて、生き切ってやる。

 背中に炎を受けながら、暮れなずむ原野をひたすらに走り続けた。
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