知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話5 玖門竜胆(オムカ王国客将)

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 立てこもっていた人たちが降伏してきて、城内が慌ただしくなってきたころ。
 怪我をして力仕事が無理な私には何もやることがない。

 ちなみに右肩は肩の肉を少しえぐられて出血はあったものの、そこまで大事じゃないみたいだった。
 とはいえしばらくは安静で、今は肩をつっていてあまり動かせない。

 ま、1週間もすれば治るんじゃないですかね。
 根拠もないけどそう思う。

 もともと、怪我には強い方だった。
 小学生の頃。どちらかというと、外に出て走り回るのが好きなタイプで、よく男友達と外で遊び回って傷だらけで帰ってくるのが日常だった。

 警察官の父親と弁護士の母親。
 両親もそちらの方が好ましかったらしく、それで怒られた記憶はない。

 だから傷には慣れているつもりだった。

 まぁ鉄砲で撃たれるなんてことは想定してなかったですけど!
 とってもとっても痛くて怖かったのです!

 それでも先輩を守れたのは良かったと思った。
 この世界に来て、右も左も分からなかったし、怖い目にも遭った。どこでなにをどうやって暮らせばいいか分からなかったし、先に見通しもなく、もしかしたらこのまま野たれ死ぬと思ったことも一切ではなかった。

 だからところどころで正義ジャスティスを執行しながらあてもない旅をしていた時に、先輩と出会った。
 お友達を守るため、お友達のお父さんを救うため、ひたむきに頑張るまさに正義ジャスティスの化身。
 正義ジャスティスに溢れた大好きなお父さんと、格好いいお母さんをミックスしたような先輩。

 そんな先輩に憧れた。

 だからノリであんなことを言ったけど、本当はそれで死んでも本望だったと思う。

「まぁ、生きて帰るに越したことはないですけど!」

 そんな先輩は、かなり決まりが悪そうな顔で、怪我人は先に帰ってろと言われましたが断固ノーしてやりました。
 せっかくだし、一緒にいたいし、それに一人になるのは……ちょっと寂しいです。

 というわけでせっかくなので外を見回ろうと思い、門を出たところで人影を見つけました。
 夜空に浮かぶまん丸のお月様と城壁にある松明の明かりで照らされているのは、体育座りをした雫ちゃんだ。

 何をしているのか気になったので、近づいて声をかけてみた。

「雫ちゃんどうしたんですか?」

「…………」

 何やら一心不乱に作業をしているようで……折り紙?
 懐かしいですねぇ。
 外で遊ぶのが多かった私でも、折り紙くらいは記憶にあります。

 いつか、初めて蟹を食べてその美味しさを知った後のこと。
 折り紙で蟹を作って、

『カニさんつくったの。お母さん、焼いて晩御飯にするのです!』

 お母さんには涙を流して「ごめんね」と謝られましたが。あれはなんだったのでしょう?

 見れば雫ちゃんが折っているのは鶴のようです。
 地面の草の上にはすでに何羽もの鶴が折られていて、何時間もそうやっていたのが分かりました。

 どうやらアンニュイな感じらしいです。
 こうなったら友達として隣に座ってやりましょう!
 おお、ここは都会と違って星がきれいですねぇ。

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

「……………………なに?」

 お、ようやく雫ちゃんが話してくれました。
 少し不機嫌そうなのは、折り紙で疲れちゃったからですかね。

「いや、雫ちゃんと一緒にお空のお星さまを眺めようと思いまして」

「同情してるの?」

「ふぇ?」

 私が雫ちゃんを同情?
 私、そんなことしてましたっけ?

「いいの。雫が勝手に落ち込んでるだけだから」

「なんと、落ち込んでいたんですか!? どうしたんです? 何が起こったんです? さぁ、正義ジャスティスの使者の竜胆に話してみてください!」

「……なんであんたに」

「それは友達だからです! 辛い事があったら、哀しいことがあったら、それを友達に話すととっても気持ちが楽になります! 独りで抱え込んじゃダメです!」

「…………友達? あんたが?」

「えぅ、昨日の友達発言は嘘だったのですか……」

「あぁ……そういえば、そうだった、かも」

「かもじゃありません! 竜胆と雫ちゃんは友達です、親友です、マブダチです、ベストマッチフレンドです!」

「…………意味が分からないけど、まぁいいや。話さないけど」

「なんでですかー! 気になる! 気になったら! 気になる時! 気になります! 竜胆はもったいぶられるのが大嫌いなのです!」

「別にいいよ。誰に話すわけでもないし」

「むむー、いや、待ってください。もしかしたら……来ました、恋バナセンサーが! もしかして話っていうのは恋バナですか? 雫ちゃん、フラれたんですか!?」

「あんた、デリカシーないって言われない?」

「言われません! 言われたとしても忘れました! そんな横文字に縛られるのは正義ジャスティスじゃありませんから!」

「そのジャスティスは横文字じゃないの……」

「お、初めて突っ込んでくれましたね! そうです、その調子でどんどん吐き出しちゃいましょう!」

「…………めんどくさ」

「はい! めんどくさいと言われても、嫌われても友達は見捨てません! それが私の正義ジャスティスですから!」

「………………」

 雫ちゃんはまた押し黙ってしまった。
 けどそれは今までとは違う。
 かたくなに口を閉ざすのではなく、どう話そうか、とっかかりを探しているような沈黙に思えた。

 やがて――

「好きだった、のかも」

 キター!
 恋バナセンサーは今日も絶好調です!

「相手は誰です? どんな殿方ですか? どこが好きだったんですか? 出会ったきっかけは?」

「……時雨」

 えっと、シグレさん、シグレさん……って誰でしたっけ?
 いえ、覚えてます。きっと覚えてます。
 最近聞いた名前ですから。
 えっとあれは……確か………………………………………………………………あ。

「死んじゃったから」

 あーーーーーーーーーーーやっちゃいました。
 特大級の地雷を踏み抜いちゃいました。

 てかそうですよね。
 この状況でフラれるとかそういう話、するわけないですよね。
 あるとしたら一方的な別れ。
 ううん、この世界まだ慣れないですねぇ。

「そ、そうですかぁ……」

「だから同情は要らない」

 そう切り捨てる雫ちゃんは、強がっているように思える。
 うぅ、先輩もこんな感じの小動物感あって可愛いですけど、雫ちゃんはどこか違います。プライド高いけどかまってちゃんな猫ちゃんみたいで。

 でも、これは違うと思う。
 さすがに死別系の恋バナにはあまり経験はないですけど、ここで退いたら雫ちゃんは悲しいまま。そんなの、私の正義ジャスティスに反します。

 だから遠慮なく踏み込みます。

「どんな人だったんですか? そのシグレさんというのは?」

「馬鹿? なんであんたにそんなこと……」

「残念ですけど私はその方を知らないので。どんな人だったのかぁと知りたくなっただけです」

「……時雨は。うん、優しかった。と思う。この世界に来て……右も左も分からないままの時。色々と世話を焼いてくれた」

「あぁ、分かります。この世界に来てすぐって心細いですよねぇ」

「そう、か。あんたも、同じ」

「ま、それで出会ったのが先輩だったわけですけど」

「…………それは、ご愁傷様」

「え、何がですか?」

「別にいい。それで、時雨の家に泊まりながら、今後のことを一緒に考えたり」

「お泊り!? いえ、1つ屋根の下!?」

「そういうのじゃない。けど、軍に入ったのは、スキルがあったのもあるけど……一番は……」

「シグレさんが一緒にいたから、ですか」

「…………」

 雫ちゃんが少し顔を背けて小さく頷いた――ような気がした。
 わぁ、何この可愛い生物。きっと今、雫ちゃんの顔は真っ赤に違いありません。夜なので見えないのが残念です。

「それで戦場に出て。最初は怖かったけど、次第に慣れて。いつの間にか、部隊の隊長になって。四峰っていうのになって」

「あぁ、軍のトップってことですよね。それは嬉しかったでしょう」

「別に、地位とかどうでもいいし」

「違いますよぅ。シグレさんと同じところに並べたってことですよ」

「…………そう、だったのかも」

 あーーーーーー可愛い可愛い!
 雫ちゃん、なんて純真で健気で純情なんでしょう。こんな恋バナ、元の世界でもそうそうお目にかかれませんよ!

「それでそれで?」

「それでもなにも……それで終わり」

 むー、そこまでですか。
 ま、仕方ないですね。
 好きだったかもレベルですから、告白とかはなかったのでしょう。残念。

「時雨は、何も話してくれなかった。何でこんなことしたのか。何でこんな風になっちゃったのか。何でそんなこと思ったのか。何も……私には、何も……きっと信用してくれなかったってことなのかも」

 うーん。なるほど。
 でもそれはなんとなくわかる気がします。

「危険に巻き込みたくなかったんじゃないですか?」

「え?」

「シグレさんって、裏切りをしたってことですよね。それはとても危ないから、雫ちゃんを巻き込みたくないから、何も言わなかったんじゃないですかね」

 多分。きっと。妄想かもしれないけど。願望かもしれないけど。
 そうであるような気がした。
 そうであったらいいな。

 でも、そう思ってもいいんじゃないかな?
 そう思うことで救われるなら、それが真実でも誰も損しないわけで。

「…………馬鹿」

「へぅ、ごめんなさい」

「違う。馬鹿は……あいつ」

 雫ちゃんが俯く。
 鼻をすする音がした。

 それだけで、自分は雫ちゃんがもっと好きになるのを感じた。

「先輩から聞いたことがあります。悲しい時には、ちゃんと泣いてあげるんだって。そうしないと、天国に行った人は残してきた人に安心できないんだって」

「…………うん」

 雫ちゃんは相変わらず俯いたまま、小さく嗚咽を噛み殺そうとしている。
 手元に持った折り紙がくしゃっと軽い音を立てて潰れた。

 あぁ、もしかしたらその鶴は、その人のために折られたものだったのかもですね。

 今日は彼女の気が済むまでここにいましょう。
 夜空に浮かぶ、まん丸のお月様を見ながらそう思いました。
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