知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第31話 隠れ里へ

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 キツい。
 いくら呼吸を吸っても酸素が体を巡った気がしない。
 足はプルプル震えて、生まれたての小鹿のようだ。
 自分の旗を杖がわりにして、しがみつくように一歩一歩、歩を進めていく。

 お日様はもう頭上にあって、遠慮なく体力を奪ってくる。
 しかも標高も上がっているので、空気も気持ち薄い。なにより、森や山道を登っている以上、馬に乗るのは難しくここまで自分の足で歩いているというのがもう辛い。

 鎧が重い。ブーツも重い。頭も重い。
 元々前線で戦う人間じゃないから、鎧もかなり軽量化しているのだけど、今の俺の体にははっきりいって体力を奪う邪魔者でしかない。
 けど捨てられない。
 これが命をつなぐ可能性があるからだ。

 てか、あんだけ(?)体力トレーニングをしたのがまったく無意味だったのが悲しい限りだ。なんていうか、マジで倒れる5秒前という感じ。

「一度、休みましょうか。ここなら人数分のスペースも確保できますし、火を起こしても大丈夫でしょう」

 そんな俺を心配したのか、センドがそう切り出してくれた。
 だが俺1人のために行軍を遅れさせるわけにはいかないだろう。

「いや……はぁ……はぁ、このまま、行こう……ちな……みに、あと……どれ、くらい?」

「あと2時間ほどです」

 婉曲えんきょく表現も何もないヴィレスの単刀直入な言葉に、目の前がくらっとなりそうだった。
 いや、いける。あと2時間。

「だ、大丈夫……や、やれる……さ」

「いや、絶対無理だろジャンヌちゃん」

 サカキのツッコミに、ヴィレスが小さくため息をついた。

「……一度、休みましょうか。我が軍も朝から戦いっぱなしですので」

 そうは言うものの、ビンゴ兵は元気だ。
 言ってしまえばここは彼らの庭。山岳地帯の行軍にも慣れているのだろう。どちらかというと、半徹夜で動き続けたオムカ軍の方が動きが鈍い。

 つまりあからさまに気を使われているのだが、もうこの際しょうがない。
 ここで無理して怪我でもしたら目も当てられない。そう自分に言い訳した。

「分かった。ご厚意に甘えて休憩を取らせてもらうよ」

 俺とヴィレスが休憩の号令をかけると、ホッとしたような空気が流れた。
 特にオムカ軍の方は倒れ込むようにして、その場で膝をつくものが多い。

 水分を取ることと、休むなら木陰にするよう指示して回るのはサカキとクロエだ。
 この2人は特段疲れ切った様子はない。体力お化けめ。

 ヴィレス、センドらビンゴ組と、俺、里奈、竜胆が車座になって座る。
 サカキとクロエたち、それにクルレーンはそれぞれの部隊の管理のためここにはいない。

 はぁ、しかしよくもまぁこんなところにまで来たものだ。
 それなりの高度から見えるのは、眼下を埋め尽くす森の緑と草原の緑。こんな大自然、元の世界でもそうそうお目にかかれるものじゃない。改めて自分が異世界にいるのだと実感する。

 その中で一筋の黒い煙が昇っているのが見える。
 あそこから登って来たのだと思うと、よくもやって来たと改めて思う。

 3時間ほど前。
 砦を包む炎は、消える気配もなかった。
 おそらく油でもいたのだろう。

 もうもうと立ち昇る黒色の煙は、狼煙のろしのように天高く上がっている。この分かりすぎるほど明確な合図を目指し、帝国軍は各地の砦から間違いなく急行してきているだろう。

 ぐずぐずしていれば、万を超える敵が四方八方からやってきて袋叩きに遭うのは目に見えている。
 だからこそ、ヴィレスの勧めに従って彼らの潜む村に向かうことになった。

 ヴィレスの先導で、俺たちは燃える砦から北にある森の中へと入っていった。そこはほぼ道というものがなく、草を踏みしめ、枝を切り落としながら進むようなものだった。
 生い茂る木々により、陽の光は遮られるから視界は悪い。さらにそこらを飛び回る虫に辟易へきえきとしながらも、それでも進まないと命がないのだから誰もが足元に注意しながら黙って進んでいく。

 もう完全に隠れ里というか秘境だ。

 一応、道案内を兼ねたヴィレスの軍が前に立ち、道を作りながら進んでいるから後続の俺たちはその後を進むだけでいい。
 とはいえ不安はあった。

 道を開きながら2千以上の人間が進もうというのだから、痕跡こんせきは必ず残る。
 それを追って敵も追撃してくるだろう。そうでなくても、俺たちの行軍の跡をつけて本拠地とも言われるその村を発見されればひとたまりもない。

 そうは思っていたのだが、とにかくその場から離れるのに必死で聞く暇がなかった。
 こうして森を抜けて、山道を歩くようになってようやく聞く機会を得たというところだ。

「あぁ、それなら心配ありません」

 俺の疑問を聞いたヴィレスは顔色を変えずにそう答えた。

「実はかなり遠回りをしているんです。それに森を抜けた後は山道ですから。いくつかの分かれ道で偽装をほどこしているので、そうそう分かりませんよ」

 なるほど。一応考えられてはいるわけだ。
 そうでもなくちゃ、この数か月帝国の目から逃げて潜伏なんてできなかっただろうし。

 同盟軍の頼もしい言動に胸をなでおろしていると、急に遠くで怒声が聞こえてきた。

「なんだ?」

 2千人以上の人間が集まれば些細ささいなことで争いが生じる。ただでさえ疲れているのに、去年までは敵国だった人間が一か所にいるのだ。だからひょんなことで言い合いになったのだろうとその時は思った。

「あれは……我が軍の方ですね」

 センドが立ち上がり、騒ぎの方を眺めるようにしてそう言った。

「あぁ、おそらくあの者でしょう。すみません、ちょっとしずめてきます」

「そんな人物が我が軍にいるのですか?」

 センドがヴィレスを非難するように声を尖らせた。
 どうもビンゴ軍というのは規律が重要視されていて、喧嘩沙汰など論外なのだろう。その割には、あのやる気のないだらけた空気の喜志田が、上層部にいるのは不思議だ。

「いや、それが我が軍の者ではなく……」

「軍人ではない?」

「ええ民間人のようで。もともと我らは敵の輸送部隊を襲うために山を下りたのですが、その途上で見つけ保護したのです。どうやらビンゴでもオムカでも帝国でもない、別のところから来たと言っているのですが……」

 別のところ、という言葉に耳が反応した。

「その保護した人物って、どんな格好?」

 急に俺が食いついたので、センドは少し驚いた様子だったが、ヴィレスは淡々と応えてくれた。

「そうですね。少し風変りという風でした。男性の方は黒一色の礼服のようなものを見に包んでいました。身長はジャンヌ殿より少し大きいくらいの小柄で、あまり鍛えたようには見えません。年のころは10代半ばでしょう。女性の方は――」

「ちょっと待ってくれ。複数いたのか!?」

「はい。男性と女性の2人になります」

 それが何か問題でも、と言わんばかりの受け答えに、俺は何も言う気が起きずに先を促した。

「女性の方は、20前後でしょう。かなり長身です。ただ格好がまた……その、奇天烈きてれつといいますか、胸元を布で巻いただけの上にマントを羽織っているだけでした」

 ヴィレスが初めて感情のようなものを見せた気がする。
 少しの恥じらい。

 それはきっとその女性の格好によるものだろう。
 胸元を布で巻いただけ?
 そのうえにマント?

 なんか聞き覚えがあるような、ないような……。

「あぁ、そういえばそのマント。背中に何か文字が書いてありました。我々とは違った文字体系のようで我々には読めませんでしたが。なんでもその女性いわく、『テンカムソウヨロシク』と読むようで。私には残念ながら意味は分かりません」

 はい、決定。その人プレイヤー。
 え、てかマジ?

「あ、明彦くん……それって……」

「先輩、テンカムソーってなんですか?」

 あぁ、里奈も同じことを考えてるようだ。
 ただその表情は若干引きつっている。俺も多分そうだろう。
 竜胆は多分、何も分かってない。

 ……うわぁ、会いたくねぇ!
 なんてこと言ってられないのよ、立場的にね。

 しょうがねぇなぁ。

「……多分、俺なら分かる、というか同郷だ」

「ほぅ、そうなのですか。ではすみませんが一緒に来てもらえませんか。どうも我々とは少し考え方が違うようで……」

「構わないよ。はぁ……」

 いや、これはチャンスだ。
 あの女神が言っていた新参のプレイヤー。その2人に接触できるというのだから。

 気が重いのは確かだけど、ここで彼女らが帝国に走るのは阻止したいところ。
 だから前向きにとらえよう。

「里奈と竜胆はここで待っててくれ」

 里奈を危険な目に遭わせたくないし、竜胆がいると若干話がこじれそうだから置いていくことにした。

「うん、頑張ってね」

「はい! 何かあっても骨は拾います! 存分に正義ジャスティスしてきてください!」

 縁起でもないことを言う竜胆に嘆息しながらも、俺はヴィレスの案内で騒ぎの元へと向かうことになった
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