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第4章 ジャンヌの西進
第30話 ジャンヌの誤算
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「お助けいただきありがとうございます。また、高名なジャンヌ・ダルク殿にお会いできて光栄です。私はヴィレス・ヴィーン。ビンゴ王国第3歩兵団長をやっておりました」
そう言って頭を下げたのは、短く髪を刈り揃え、眉間にしわの寄ったいかめしい顔つきをした30代の真面目そうな男。逃げていたビンゴ軍をまとめていた男をセンドが紹介してくれたのだ。
相手が警戒していたらどうしようと思ったが、そこはセンドが取りなしてくれたようだ。
それでもその顔つきは変わらず、
感謝していると言っても、怒っているようにしか見えない。
「失礼。生来このような顔つきゆえ。これでも最大限に感謝を表しているのですが……」
そんな俺の戸惑いを感じたのか、ヴィレスはそう言って再び頭を下げた。
どうやら顔に似合わず礼儀正しい男らしい。いや、顔に似合って、なのか?
ヴィレスが率いる軍は、やはりビンゴ王国軍の残党だった。
もちろんそんな言い方をすれば気分を害するのは確実なので言わないが。
兵力は歩兵2千。
追ってきた帝国軍は5千ほどということだったが、奇襲に挟み撃ちという状況がハマったので簡単に討ち破れた。
ともかくここで2千の増強はデカい。
時間もないことだし、さっそく俺は共闘を持ち掛けた。
「これから俺たちはこの先にある砦を攻略しに行く。できれば協力してもらえると嬉しい」
ヴィレスは歩兵団長をやっているとはいえ、立場的にはあまり高くない。そのことを気にしているようで、俺に対しては敬語ではなく好き勝手に言ってくれということだった。
俺もそっちの方が楽なので、遠慮なくため口をきく。
「それはもう。しかしあのような砦を落としてどうなさるおつもりですか?」
「ジャンヌ殿はそこを旗頭にしようというのだ、ヴィレス殿。あなたたちのような各地に潜む同志たちを糾合するために」
俺が何か答える前にセンドが答えた。
本当は違うんだけど、まぁいいや。
どうやらこの2人。同じ軍とはいえあまり接点はなかったようだ。どうも態度がよそよそしい。
ヴィレスはバリバリ前衛の実働部隊。センドは喜志田付きの後方支援やら作戦立案をなどをやる上級将校というのだから関りがないというのも仕方ないだろう。
「そう、ですか……それなら、いや、確かにあの砦を落とせるのであれば落としておきたい。お手伝いいたします」
ヴィレスが何かを言おうとして口をつぐんだように思えた。
まぁ、色々そっちの都合もあるのだろう。
そういうわけで2千500に増えた俺たち反帝国連合ともいう部隊は、進路を再び西にとった。
見知らぬ軍といきなり共闘、というのに不安があったが、文句を言っている時間はない。
逃げた帝国軍が味方を引き連れてやってくる前に砦を落とす必要があるのだ。
それが全員分かっているからか、並みならぬ闘志が沸き立っているように思えた。
――が、その闘士は空振りに終わった。
「こいつぁ……」
サカキが呆然と立ち尽くす。
その顔が赤い。
もちろん、怒っているわけでも酒を飲んで酔っているわけではない。
なぜなら俺を含む全員がそうだからだ。
2千500が呆然と立ち尽くし、燃え盛る炎に顔を照らされているのだ。
そう、燃えていた。
俺たちが目指す砦が、ごうごうと音を立てて火を噴いている。
「やられましたね」
ヴィレスがいかめしい顔を、さらにいかめしくして呟く。
だがまったくもってその通り。
俺の策を読んだのか、それともたまたまか。
この一手はかなり効果的なダメージを俺に与えた。
確保すべき拠点を焼かれ、そしてこれを目印として敵がわんさかやってくるに違いない。
これで俺たちは、敵の領土の中で寄るべき場所を失った。放浪して機会をうかがうこともできるが、いつまでも野営を続けられるものでもない。
早いうちに拠点を確保しないと、心も体も次第に弱っていくしかないのだ。
そうなったら一網打尽にされるか、その前にオムカに逃げるしかなく、そうなったらビンゴ侵攻の機会なんて二度と来ないだろうから、オムカはもう滅びるしかないということになる。
「明彦くん、大丈夫?」
里奈が俺の表情を見て心配してくれたようだ。
本来なら呼び名を訂正するところだが、今の俺にはそんな余裕はない。
「あぁ……大丈夫だ。すぐになんとかする」
なんとかすると言ってもどうする。
西と南からは帝国軍が迫っているし、それをすり抜けて他の砦を襲うにも、今頃防備は固められているだろう。北は深い森で、『古の魔導書』をもってしても迷いそうなほど。
となると残すは東……すなわち退却だ。
だがそれはすなわち亡国への道。
ならばもはや乾坤一擲の大勝負に出るしかないのか。
俺がそんな答えのない思考の迷宮に囚われていると、傍に近づいてきた人物がいた。
顔をあげるとヴィレスがいた。
この状況下でも彼は表情を変えずに、
「こうなったら仕方ありませんね。どうですか、あなたたちも村に来ませんか?」
村?
なんのことだ?
「隊長、それは――」
ヴィレスの言葉に彼の副官らしき男が反論する。
だがヴィレスはそれに首を振って応える。
「助けられたのを忘れたか? この者たちは共に帝国に抗う同志。それを捨てて、王国再興の目的は成らぬと知れ」
「……はっ」
「私とて、ビンゴ国民の手でのみで成しえたいのだ。だが面子にこだわって大義を忘れてはならん」
「……お言葉、胸にしみました」
なんかいい話っぽくなってるけど、聞いている側は何が何やら分からないんだが?
「あのー」
「あぁ、失礼。他の者にもしかと言い聞かせますので」
「いや、それはいいんだけど。村とは?」
「これはまたもや失礼いたしました。村とは我々が住処。すなわち我々王国再興を願う同志たちが集まった、反帝国の集まる本拠地です」
そう言って頭を下げたのは、短く髪を刈り揃え、眉間にしわの寄ったいかめしい顔つきをした30代の真面目そうな男。逃げていたビンゴ軍をまとめていた男をセンドが紹介してくれたのだ。
相手が警戒していたらどうしようと思ったが、そこはセンドが取りなしてくれたようだ。
それでもその顔つきは変わらず、
感謝していると言っても、怒っているようにしか見えない。
「失礼。生来このような顔つきゆえ。これでも最大限に感謝を表しているのですが……」
そんな俺の戸惑いを感じたのか、ヴィレスはそう言って再び頭を下げた。
どうやら顔に似合わず礼儀正しい男らしい。いや、顔に似合って、なのか?
ヴィレスが率いる軍は、やはりビンゴ王国軍の残党だった。
もちろんそんな言い方をすれば気分を害するのは確実なので言わないが。
兵力は歩兵2千。
追ってきた帝国軍は5千ほどということだったが、奇襲に挟み撃ちという状況がハマったので簡単に討ち破れた。
ともかくここで2千の増強はデカい。
時間もないことだし、さっそく俺は共闘を持ち掛けた。
「これから俺たちはこの先にある砦を攻略しに行く。できれば協力してもらえると嬉しい」
ヴィレスは歩兵団長をやっているとはいえ、立場的にはあまり高くない。そのことを気にしているようで、俺に対しては敬語ではなく好き勝手に言ってくれということだった。
俺もそっちの方が楽なので、遠慮なくため口をきく。
「それはもう。しかしあのような砦を落としてどうなさるおつもりですか?」
「ジャンヌ殿はそこを旗頭にしようというのだ、ヴィレス殿。あなたたちのような各地に潜む同志たちを糾合するために」
俺が何か答える前にセンドが答えた。
本当は違うんだけど、まぁいいや。
どうやらこの2人。同じ軍とはいえあまり接点はなかったようだ。どうも態度がよそよそしい。
ヴィレスはバリバリ前衛の実働部隊。センドは喜志田付きの後方支援やら作戦立案をなどをやる上級将校というのだから関りがないというのも仕方ないだろう。
「そう、ですか……それなら、いや、確かにあの砦を落とせるのであれば落としておきたい。お手伝いいたします」
ヴィレスが何かを言おうとして口をつぐんだように思えた。
まぁ、色々そっちの都合もあるのだろう。
そういうわけで2千500に増えた俺たち反帝国連合ともいう部隊は、進路を再び西にとった。
見知らぬ軍といきなり共闘、というのに不安があったが、文句を言っている時間はない。
逃げた帝国軍が味方を引き連れてやってくる前に砦を落とす必要があるのだ。
それが全員分かっているからか、並みならぬ闘志が沸き立っているように思えた。
――が、その闘士は空振りに終わった。
「こいつぁ……」
サカキが呆然と立ち尽くす。
その顔が赤い。
もちろん、怒っているわけでも酒を飲んで酔っているわけではない。
なぜなら俺を含む全員がそうだからだ。
2千500が呆然と立ち尽くし、燃え盛る炎に顔を照らされているのだ。
そう、燃えていた。
俺たちが目指す砦が、ごうごうと音を立てて火を噴いている。
「やられましたね」
ヴィレスがいかめしい顔を、さらにいかめしくして呟く。
だがまったくもってその通り。
俺の策を読んだのか、それともたまたまか。
この一手はかなり効果的なダメージを俺に与えた。
確保すべき拠点を焼かれ、そしてこれを目印として敵がわんさかやってくるに違いない。
これで俺たちは、敵の領土の中で寄るべき場所を失った。放浪して機会をうかがうこともできるが、いつまでも野営を続けられるものでもない。
早いうちに拠点を確保しないと、心も体も次第に弱っていくしかないのだ。
そうなったら一網打尽にされるか、その前にオムカに逃げるしかなく、そうなったらビンゴ侵攻の機会なんて二度と来ないだろうから、オムカはもう滅びるしかないということになる。
「明彦くん、大丈夫?」
里奈が俺の表情を見て心配してくれたようだ。
本来なら呼び名を訂正するところだが、今の俺にはそんな余裕はない。
「あぁ……大丈夫だ。すぐになんとかする」
なんとかすると言ってもどうする。
西と南からは帝国軍が迫っているし、それをすり抜けて他の砦を襲うにも、今頃防備は固められているだろう。北は深い森で、『古の魔導書』をもってしても迷いそうなほど。
となると残すは東……すなわち退却だ。
だがそれはすなわち亡国への道。
ならばもはや乾坤一擲の大勝負に出るしかないのか。
俺がそんな答えのない思考の迷宮に囚われていると、傍に近づいてきた人物がいた。
顔をあげるとヴィレスがいた。
この状況下でも彼は表情を変えずに、
「こうなったら仕方ありませんね。どうですか、あなたたちも村に来ませんか?」
村?
なんのことだ?
「隊長、それは――」
ヴィレスの言葉に彼の副官らしき男が反論する。
だがヴィレスはそれに首を振って応える。
「助けられたのを忘れたか? この者たちは共に帝国に抗う同志。それを捨てて、王国再興の目的は成らぬと知れ」
「……はっ」
「私とて、ビンゴ国民の手でのみで成しえたいのだ。だが面子にこだわって大義を忘れてはならん」
「……お言葉、胸にしみました」
なんかいい話っぽくなってるけど、聞いている側は何が何やら分からないんだが?
「あのー」
「あぁ、失礼。他の者にもしかと言い聞かせますので」
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