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第4章 ジャンヌの西進
第32話 Here comes a new player.
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そこはビンゴの兵が集まっている場所で、群衆が何かを囲んで騒いでいた。ただ俺の身長ではその中身は見えない。
「何をやっている!」
ヴィレスが雷を落とすと、騒ぎがピタリと止んだ。
「団長……またアイラが」
アイラ?
女性プレイヤーの名前か。
「あぁ、分かってる。とにかく散れ」
「はっ!」
規律正しく、騒いでいた兵たちが直立不動の姿勢を取ると、そのまま散らばっていく。
そして残されたのは2人の人物。
1人は立ってこちらをにらみつけてくる女性。
まぁなんというか、予想通りというか。
化粧っ気は少ないものの、白くて張りが良い肌は、線の細さも相まってどこか清楚な美しさを印象付ける。だが170以上あるだろう高い身長に、三白眼による鋭い眼光と眉間のしわ、そしてソバージュの茶髪の髪がどこか暴力的という相反する感情を想起させてしまう。
そして何よりその格好。いつの時代だとツッコミたくなるが、これが彼女らの正装なのだろう。
特攻服だっけか。
ひざ下まである上着を羽織り、上半身は胸元にさらしを巻いただけという挑発的なスタイル。下はロングパンツにブーツといういで立ちで、上も下もすべて赤で統一されている。
おまけに口元にはタバコのような何かを咥えて、さらに右手には肩に担ぐようにして木刀を持っているのだから完璧だ。
完全にヤンキーだった。レディースだった。
超怖い。こっち睨んできてる。完全文系な俺としては、こういった手合いとはまったくもって接点がなかったからどうしていいのか分からない。多分理系でも接点はないと思うけど。
うん、俺、今混乱してる。
さらにもう1人。男の方。
地面にうずくまる黒髪の少年は、おとなしそうな坊ちゃんといった風貌。
黒の礼服とか言ってたけど、あれ、学生服じゃね? 詰襟の。
てかこの配役。ハマりすぎだろ。
学校の校舎裏かと思ったわ。
顔は目立つからボディにしろよ!?
「貴様ら、何をしている!」
ヴィレスが上官としての威厳を振りまきながらも問いただす。
その後ろで小さくなっている軟弱軍師様は、今すぐ回れ右をして里奈たちのもとに帰りたかった。
「あ?」
レディースの女性が凄んだ様子でヴィレスに反論する。
高いながらもどすの効いた威圧感のある声に、体がすくみそうになる。
「てめぇには関係ねーだろ」
突き放すような女性の物言いに、ピキッとヴィレスの眉間にしわが寄った。
「関係ないわけがなかろう! 貴様らは我が軍に保護された身! 勝手な行動は慎んでもらう!」
「は? んでてめぇの言う事を聞かなきゃいけねーんだよ。てか保護とか、んなこと頼んでねぇっつーの」
「貴様……」
怒り心頭のヴィレスが一歩、前に出る。
さすがにそれ以上は俺も見ていられなかった。
ヴィレスに先回りするように、前に出る。
「あー、ちょっと待った。ヴィレスさん。落ち着いて」
「申し訳ありませんが、これは我が軍のこと。同郷とはいえ貴女には関係ありません」
「いや、だから少し話させてもらえないかな。彼女たちだって、きっと理由があったんだろうし。ね、同郷のよしみということで」
「…………分かりました。ただし、彼女の方に過失があるのなら、厳しく処分します」
怖いよ、この人も。
とはいえ一触即発の事態は避けられた。
いや、ここからの会話――というか結果次第で血をみることになりそうだけど……。
気が重い。
けどやらないわけにはいかない。
「やぁ、初めまして」
まずは当たり障りのない挨拶から。
それで心を開いていく。
「誰?」
うぅん。そう来るか。
てか俺ってそもそも友達少ない口下手人間だったよね。なんで説得できると思っちゃったんだろう。
いや、舌先三寸口八丁。
知力99の引き出しを開けば、きっと通じるものがあるはず。
大丈夫。竜胆の時だってなんとかなったんだ。今回もなんとかなる。
「俺はジャンヌ・ダルクって呼ばれてる……プレイヤーだ。君たちもプレイヤーだろ?」
とりあえずそれで反応を見る。
女性の方はあまり変化はないが、地面にしりもちをついている少年の方は明らかにこちらに反応した。それでも何かを言うわけじゃない。こちらを見て目を見開いている。よく見たら、その左頬が腫れている。もしかして殴られたのか?
「できれば君たちの名前を教えてくれないかな」
それでも俺は感情を殺して問いかける。
まずは名前を知る。
すべてはそこから始まる。
「なんでてめぇなんかに教えなくちゃいけねぇんだよ」
うわぁ、殴りたい、こいつ。いや、駄目だ。絶対負ける。てか殺される。
負ける勝負はしない。それが軍師というもの。
よし、こうなったら搦め手から行ってみよう。
「さっき呼ばれてたよね、アイラって。それが君の名前。合ってるかな?」
「うざ……」
うざいことした覚えはないんだけど!
いや、我慢だ。ここはもう一歩、踏み込んでみる。
「何が起きたのか、教えてくれるかな? 元の世界に戻るには必要なことなんだ」
元の世界に戻る、という言葉にアイラは反応を示した。
反応と言っても眉が少し動いたという程度のものだったが。
「てめぇには関係ねーだろ……」
そう吐き捨てると、彼女はペッと口に咥えたタバコのようなものを吐き出した。
どうやらそれはタバコではなく小さな木の棒のようだった。お前は岩鬼か。
「ジャンヌだかなんだか知らねーけど……あんまオレに構うな」
そう言い捨てて、アイラは踵を返すとそのまま去って行ってしまった。
その背中には『天下無双夜露死苦』と刺繍してあったのに気分が重くなる。
ただ去っていくその刹那。見えた表情は、どこか寂しそうに見えた。
「おい、お前!」
ヴィレスが去っていくアイラを追おうとする。
が、俺はその前に立って平謝り。彼女に処分を受けさせるわけにはいかないのだ。
「あー、すみません。ちょっとすぐには無理だったみたいで」
あの感じでは俺には無理だろう。
まったくもって取り付く島がない。
かといって、ここで彼女を処分させるわけにはいかない。
「いえ、貴女の責任では……その、どいていただけますか。彼女にはしかるべき処分を与えなければ示しがつきません」
あぁ、いいね。
この真面目で頑固一徹な感じ。
軍人としては有能なんだろう。
けど、それをされたら俺が困る。もといオムカが困る。
だから舌先三寸口八丁。ここでも発動させてもらいますよ。
「けど、彼女の行動の理由が分からない。それを調査しないで一方的に罰するのは倫理から外れるんじゃないかな?」
「ここは軍隊です。倫理よりも規則が勝ります」
「さっき保護した民間人と言わなかったかな? 民間人に軍規を強要するのは、その規則からも外れるんじゃないか?」
こういう場合、戦中の特別措置で軍属扱いとかにされる可能性はあるものの、おそらくまだ会ったばかりで、敵に追われる混乱を考慮すると、そこまで話が進んではいないだろうと踏んだ。
「…………何をおっしゃりたいのでしょうか?」
っと、警戒させたか。
でもここで退くわけにはいかない。
「調査期間を設けて欲しい。もちろん調査は俺がする。それまで彼女らの身柄を預からせてもらいたい」
「…………」
ヴィレスの沈黙が怖い。
けど、俺はほぼ勝利を確信している。
彼が規則を重んじるのであれば、その中にある不文律が彼を縛る。
そう『上官の命令には絶対』だ。
それが他国とはいえ、今は運命共同体。何より彼の方がこちらを上だと認識しているのだ。ならばその原則は活きるはず。
「分かりました。この件、貴女にお任せします」
そう言って礼をすると、ヴィレスは踵を返して反対側に歩き去っていく。
ふぃー、なんとかなった。怖かった。
大きくため息をつき、振り返る。
事の張本人ながらも蚊帳の外に置かれていた少年は、へたり込みながらもポカンとしている。
ま、そうだよな。
この様子、この世界に来たばかりなのだろう。
だから彼に近づき、俺は手を差し伸べながらこう言った。
「やぁ。同じプレイヤー同士、一緒に行かないか?」
「何をやっている!」
ヴィレスが雷を落とすと、騒ぎがピタリと止んだ。
「団長……またアイラが」
アイラ?
女性プレイヤーの名前か。
「あぁ、分かってる。とにかく散れ」
「はっ!」
規律正しく、騒いでいた兵たちが直立不動の姿勢を取ると、そのまま散らばっていく。
そして残されたのは2人の人物。
1人は立ってこちらをにらみつけてくる女性。
まぁなんというか、予想通りというか。
化粧っ気は少ないものの、白くて張りが良い肌は、線の細さも相まってどこか清楚な美しさを印象付ける。だが170以上あるだろう高い身長に、三白眼による鋭い眼光と眉間のしわ、そしてソバージュの茶髪の髪がどこか暴力的という相反する感情を想起させてしまう。
そして何よりその格好。いつの時代だとツッコミたくなるが、これが彼女らの正装なのだろう。
特攻服だっけか。
ひざ下まである上着を羽織り、上半身は胸元にさらしを巻いただけという挑発的なスタイル。下はロングパンツにブーツといういで立ちで、上も下もすべて赤で統一されている。
おまけに口元にはタバコのような何かを咥えて、さらに右手には肩に担ぐようにして木刀を持っているのだから完璧だ。
完全にヤンキーだった。レディースだった。
超怖い。こっち睨んできてる。完全文系な俺としては、こういった手合いとはまったくもって接点がなかったからどうしていいのか分からない。多分理系でも接点はないと思うけど。
うん、俺、今混乱してる。
さらにもう1人。男の方。
地面にうずくまる黒髪の少年は、おとなしそうな坊ちゃんといった風貌。
黒の礼服とか言ってたけど、あれ、学生服じゃね? 詰襟の。
てかこの配役。ハマりすぎだろ。
学校の校舎裏かと思ったわ。
顔は目立つからボディにしろよ!?
「貴様ら、何をしている!」
ヴィレスが上官としての威厳を振りまきながらも問いただす。
その後ろで小さくなっている軟弱軍師様は、今すぐ回れ右をして里奈たちのもとに帰りたかった。
「あ?」
レディースの女性が凄んだ様子でヴィレスに反論する。
高いながらもどすの効いた威圧感のある声に、体がすくみそうになる。
「てめぇには関係ねーだろ」
突き放すような女性の物言いに、ピキッとヴィレスの眉間にしわが寄った。
「関係ないわけがなかろう! 貴様らは我が軍に保護された身! 勝手な行動は慎んでもらう!」
「は? んでてめぇの言う事を聞かなきゃいけねーんだよ。てか保護とか、んなこと頼んでねぇっつーの」
「貴様……」
怒り心頭のヴィレスが一歩、前に出る。
さすがにそれ以上は俺も見ていられなかった。
ヴィレスに先回りするように、前に出る。
「あー、ちょっと待った。ヴィレスさん。落ち着いて」
「申し訳ありませんが、これは我が軍のこと。同郷とはいえ貴女には関係ありません」
「いや、だから少し話させてもらえないかな。彼女たちだって、きっと理由があったんだろうし。ね、同郷のよしみということで」
「…………分かりました。ただし、彼女の方に過失があるのなら、厳しく処分します」
怖いよ、この人も。
とはいえ一触即発の事態は避けられた。
いや、ここからの会話――というか結果次第で血をみることになりそうだけど……。
気が重い。
けどやらないわけにはいかない。
「やぁ、初めまして」
まずは当たり障りのない挨拶から。
それで心を開いていく。
「誰?」
うぅん。そう来るか。
てか俺ってそもそも友達少ない口下手人間だったよね。なんで説得できると思っちゃったんだろう。
いや、舌先三寸口八丁。
知力99の引き出しを開けば、きっと通じるものがあるはず。
大丈夫。竜胆の時だってなんとかなったんだ。今回もなんとかなる。
「俺はジャンヌ・ダルクって呼ばれてる……プレイヤーだ。君たちもプレイヤーだろ?」
とりあえずそれで反応を見る。
女性の方はあまり変化はないが、地面にしりもちをついている少年の方は明らかにこちらに反応した。それでも何かを言うわけじゃない。こちらを見て目を見開いている。よく見たら、その左頬が腫れている。もしかして殴られたのか?
「できれば君たちの名前を教えてくれないかな」
それでも俺は感情を殺して問いかける。
まずは名前を知る。
すべてはそこから始まる。
「なんでてめぇなんかに教えなくちゃいけねぇんだよ」
うわぁ、殴りたい、こいつ。いや、駄目だ。絶対負ける。てか殺される。
負ける勝負はしない。それが軍師というもの。
よし、こうなったら搦め手から行ってみよう。
「さっき呼ばれてたよね、アイラって。それが君の名前。合ってるかな?」
「うざ……」
うざいことした覚えはないんだけど!
いや、我慢だ。ここはもう一歩、踏み込んでみる。
「何が起きたのか、教えてくれるかな? 元の世界に戻るには必要なことなんだ」
元の世界に戻る、という言葉にアイラは反応を示した。
反応と言っても眉が少し動いたという程度のものだったが。
「てめぇには関係ねーだろ……」
そう吐き捨てると、彼女はペッと口に咥えたタバコのようなものを吐き出した。
どうやらそれはタバコではなく小さな木の棒のようだった。お前は岩鬼か。
「ジャンヌだかなんだか知らねーけど……あんまオレに構うな」
そう言い捨てて、アイラは踵を返すとそのまま去って行ってしまった。
その背中には『天下無双夜露死苦』と刺繍してあったのに気分が重くなる。
ただ去っていくその刹那。見えた表情は、どこか寂しそうに見えた。
「おい、お前!」
ヴィレスが去っていくアイラを追おうとする。
が、俺はその前に立って平謝り。彼女に処分を受けさせるわけにはいかないのだ。
「あー、すみません。ちょっとすぐには無理だったみたいで」
あの感じでは俺には無理だろう。
まったくもって取り付く島がない。
かといって、ここで彼女を処分させるわけにはいかない。
「いえ、貴女の責任では……その、どいていただけますか。彼女にはしかるべき処分を与えなければ示しがつきません」
あぁ、いいね。
この真面目で頑固一徹な感じ。
軍人としては有能なんだろう。
けど、それをされたら俺が困る。もといオムカが困る。
だから舌先三寸口八丁。ここでも発動させてもらいますよ。
「けど、彼女の行動の理由が分からない。それを調査しないで一方的に罰するのは倫理から外れるんじゃないかな?」
「ここは軍隊です。倫理よりも規則が勝ります」
「さっき保護した民間人と言わなかったかな? 民間人に軍規を強要するのは、その規則からも外れるんじゃないか?」
こういう場合、戦中の特別措置で軍属扱いとかにされる可能性はあるものの、おそらくまだ会ったばかりで、敵に追われる混乱を考慮すると、そこまで話が進んではいないだろうと踏んだ。
「…………何をおっしゃりたいのでしょうか?」
っと、警戒させたか。
でもここで退くわけにはいかない。
「調査期間を設けて欲しい。もちろん調査は俺がする。それまで彼女らの身柄を預からせてもらいたい」
「…………」
ヴィレスの沈黙が怖い。
けど、俺はほぼ勝利を確信している。
彼が規則を重んじるのであれば、その中にある不文律が彼を縛る。
そう『上官の命令には絶対』だ。
それが他国とはいえ、今は運命共同体。何より彼の方がこちらを上だと認識しているのだ。ならばその原則は活きるはず。
「分かりました。この件、貴女にお任せします」
そう言って礼をすると、ヴィレスは踵を返して反対側に歩き去っていく。
ふぃー、なんとかなった。怖かった。
大きくため息をつき、振り返る。
事の張本人ながらも蚊帳の外に置かれていた少年は、へたり込みながらもポカンとしている。
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