知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第56話 驕兵の計

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 前方に人の群れ。
 そして喚声が聞こえてくる。

 その奥にあるのは、これまでより一回り大きな砦。
 ここを抜けば、旧ビンゴ王国の首都まで一直線というのだから、最終防衛ラインとだけあってさすがに防備は硬そうだ。

 その砦の中腹辺りに穴があって、そこから弓や鉄砲を突き出して、愚直に攻め寄せるオムカ・ビンゴの連合軍に矢玉を食らわせている。

 どうやらまだ城攻めを行っている段階のようだ。

「間に合いましたかね」

 フレールがホッとしたようにつぶやく。

「当然。ジャンヌさんが間違うわけないじゃん」

 いや、サール。そこまで言い切られると困るんだけど。
 まぁ、とにかく間に合ったことは確か。

「行くぞ」

 護衛2人に言って、馬を走らせる。

 敵と思われないよう、俺は自分の旗を掲げた。
 どうやら部隊を3つに分けているようで、東門に攻め寄る軍勢の後方にまとまっているのが本陣だろう。

 ブリーダたちは別の指示を出してここにはいない。
 だから3騎で本陣に駆け寄り馬を降りる。途中で遮られたが俺の顔と旗をしっていたらしくすんなり通してくれた。
 とはいえさすがに本陣の中央に近づくと、制止する兵が出てきたのでそれを振り切って、目指すべき人物を探し当てた。

「クロス!」

「これは、ジャンヌ殿。よくいらっしゃいました」

「ふん、今さら来ても遅いんですよ」

 突然の来訪をクロスは驚きながらも平然と、センドは明らかに顔をしかめて噛みつくように迎えてきた。

 てっきりセンドとヴィレスが南北の指揮を執っていると思ったから当てが外れた。
 けど迷っている暇はない。

「今すぐ軍を退くんだ。敵が来る!」

 結論だけのその言葉に、2人は明らかに眉をひそめた。
 そして先に噛みついたのはやはりセンドだ。

「貴女の命令には従わないと言ったはず! ここももう落ちる! 他と同様に!」

「違う。謀られたんだよ! これまでは手を抜かれてたんだ!」

「ジャンヌ殿。貴女といえども、我らを愚弄するのは許せませんよ」

 クロスが声を低くして言う。
 ええい、くそ。なんでわからないんだ。

 手元に『古の魔導書エンシェントマジックブック』を開く。
 俺が把握している部隊のうち、1万ほどはこの砦の中にいる。そしてその半分の5千が、今かなりのスピードで北と南から近づいているのが分かる。

 もちろんそれだけじゃないはずだ。
 俺たちを袋叩きにするために、万全を期しているに違いない。

「敵に戦意はない。もうすぐ砦は落ちる!」

「だからそれが敵の計略だって言ってるだろ!」

「ジャンヌ殿。いい加減にしないと、騒乱そうらん罪で――」

 と、俺たちが言いあっていたその時。
 西の方で光が走った。

 俺たちの顔を赤く照らすのは、燃え上がる炎。
 砦の周辺、地面から噴き出すような業火に、悲鳴が上がる。

 炎。
 炎だ。
 俺を殺した炎。

「くっ……ぅぅ」

 胸が苦しくなる。
 前に自分で火計を使った時があった。その時は分かっていたからそうでもなかった。
 けど今は違う。この不意打ちのような、しかも自分のより数倍は巨大な火の柱を見て、とてつもない恐怖と寒気に襲われ、頭が真っ白になる。

「て、敵襲ー!」

 そんな俺を現実に引き戻したのは、まったくもって有難くない敵の襲来を告げる声だった。

「こ、これは……!」

「…………っ!」

 まだうろたえた様子のクロスに、無言で声のないセンド。
 その2人を見て、さらに落ち着いた。
 火は想定外だが、それ以外は想定通り。ここに来るまで何度もシミュレーションしたことをするだけだ。

「鉦鳴らせ! 退却だ!」

「な、なにを勝手に」

「死にたいのか!」

 一喝。
 それだけで場の空気が凍った。

「鉦、鳴らせ」

 俺が鉦持ちの兵に命令すると、おどおどしながらもそれに応えた。

 鉦が鳴り響く。
 その音にハッとなるようにして、全体が動き出した。

「し、しかし殿軍でんぐんを決めなければ」

 クロスの言う通り、殿軍がおらずに三々五々に逃げれば、敵はこれ幸いに皆殺しにかかかるだろう。
 だが今この状況。組織だった動きなどできるはずがない。

「殿軍は要らない! とにかく皆、最初の砦まで逃げろ!」

「そ、そんな滅茶苦茶な……」

「敵、来ます!」

 南北からの敵が来る。
 およそ5千ずつの1万。

 本陣は4千ほどしかいないから、挟撃されるだけで壊滅するだろう。
 誰もが言葉を失って呆然と立ち尽くす。その時、野に転がる自分の死体を思い浮かべたに違いない。

 ――俺以外は。

「ブリーダ!」

 叫ぶ。
 もちろん聞こえるはずもないが、その声に呼応するように東から地鳴りがする。
 それはブリーダの騎馬隊。3千を半分に割ってブリーダとアイザが指揮している。

 その2つの騎馬隊は、北と南。それぞれに別れて襲ってくる5千の兵の横腹に突っ込んだ。

「おお!」

「今のうちに退け! 殿軍は俺たちがやる!」

 その声に、本陣が動きだす。
 さらに城攻めをして炎に巻かれた兵たちも逃げ出してくる。

 幸か不幸か、敵の砦から打って出てくる気配はない。
 それも自らの炎の所為で、門前が塞がっているせいだ。火薬の量が多すぎたのか、あるいはプレイヤーのスキルなのかは知らないが、敵の失策は俺たちの幸運だ。

 全員が一斉に東に向かって駆ける。
 敵の襲撃は南北の1万だけのようだ。それはブリーダたちが動き回って牽制しているから、その間に俺は目的の人物を『古の魔導書エンシェントマジックブック』で探す。

 やがて小さな集団がひと固まりになって東へ駆けているのを発見した。

「サカキ! クルレーン!」

「ジャンヌちゃん!」

 先頭を走るサカキが破顔する。
 他の兵も、走りながら少し安堵した様子。見た感じ犠牲は少なそうに見える。

 だが再会を喜んでいられない。

「このまま少し北上する。そしてブリーダが引き付けてる敵の後ろを襲うぞ! それが終わったら南だ!」

「っしゃあ! 速度上げるぞ!」

「承知」

 サカキが猛々しく、クルレーンが黙々と答えるのを見て安堵。
 そのままサカキは南から回り込むようにして、敵5千に突っ込む。こちらはたったの200だから、それだけで潰走させることはできない。そこへさらにブリーダが東から襲いかかり、クルレーンの鉄砲隊が西から猛射を加えると、さすがに敵は被害を大きくして後退していく。

 俺は旗を振ると、3隊はそのまま南へ。
 アイザが相手している5千を強襲し、徹底的に打ち破った。

 何も言わずとも、その場で最適な連携を取る。そんな皆の動きに、戦えない俺はふと憧れを抱いた。

「よし、俺たちは殿軍となる。逃げ延びるまで死ぬなよ!」

「おお!」

 サカキを始め、3千300の兵の雄たけびは、一瞬俺の心を怯ませるほど猛っていた。

 ここまでは最良の形でこれた。
 あとは敵の追撃をどれだけ防げるか。
 
 そこに全てがかかってくる。

 だから気は抜けない。

 俺は敵が来るだろう、西の炎を見つめ――少し胸に痛みが走ったが、それを振り切るようにして、東へ。
 みんなの待つ、帰るべき場所へとただ馬を走らせた。
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