知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
363 / 627
第4章 ジャンヌの西進

閑話26 椎葉達臣(エイン帝国プレイヤー)

しおりを挟む
 失敗したと思った。

 大地から噴き出した敵をあぶる炎。

 自分のスキル『罪を清める浄化の炎バーン・マイ・クライム』によるものだが、その火力が大きすぎた。
 特定の位置を指定して火を起こすスキルだが、できるのは着火と火力調整のみで消火はできないのだ。

 このスキルがあればあの双子を焼き殺すことなど簡単だが、加減するのが難しく、最悪の場合、主都が灰燼(かいじん)と化す。
 つまりそこに住む何万もの人を殺すことになるわけで、そんな覚悟はできず、今に至るわけだが。

 だから3つの門はしばらく使用不能。
 しかたなく唯一無事な西門から出たのはいいが、移動に手間取って外に出た時には敵はすでに遠くなっていた。

 ここまで負けに負けをよそおって引き込み、一気に決める作戦が、最後の最後でへまをする。
 やっぱり自分はこの程度だ。

「さすが、大勝利ですね」

 タニアが興奮気味に言うが、自分が思い描いていた戦果には程遠い。
 ひょっとしたら無意識のうちに追撃をセーブしていたのかもしれない。

『立花里奈さんというプレイヤーがいました』

 諸人さんがそう告げた時、自分の中に激しい動揺と、説明しようのない不安が渦巻いた。
 あるいは、と思った。
 やはり、と思った。

 オムカに向かった里奈。
 この世界ではそうそう単独で生きられないのは自分がよく知っている。
 里奈もそうだろう。
 だからオムカのプレイヤーで一番の実力者を頼るしかない。
 そう、ジャンヌ・ダルクだ。
 となれば、彼女と共に従軍していることはありえるということで。

 そもそも諸人さんは僕と彼女の関係を知ったうえで話したわけではないだろう。
 キッドが大怪我を負って、その話の延長線上で出た話題だからだ。

 ただ、彼らの語る里奈の話は、自分の知っている里奈とはどうしても結びつかなかった。

 想像以上に出た犠牲。
 その大半は、敵も味方も関係なく殺戮した1人の女性によるものだったからだ。
 そんなことを、あの里奈がするわけがない。あれほど臆病で、優しくて、明るくて、欠けている里奈が……。

 いや、今はもう考えるな。
 劣っている身としては、自分も里奈もと何もかもできるわけがない。
 だから今は、目下できることをするだけだ。

「追撃します」

「はっ!」

 タニア以下、5千の将兵の声に一瞬喉が詰まる。
 これまでわざととはいえ、負け続けていたのだから、彼らとしても鬱憤うっぷんが溜まっているのだろう。

 正直、これまでの時間は辛かった。
 わざと負けるといっても、相手に悟られてはいけないから、ところどころでは本気で戦う必要がある。それに目的が知られたら意味がないので、わざと負けることを知っているのは上層部のさらに一部のみだった。

 だから今に至るまで、末端の兵からは無能呼ばわりされ、知らされていない上層部からはあからさまに無視されたり舌打ちされたりした日々が続いた。
 そもそもが新参者の部外者なのだ。そう思われても仕方ない。

 それをなんとか抑えてくれたのがタニアだから、本当に彼女には頭が上がらない。
 将軍の想いとは別に、彼女にはなんとか報いてあげたいと思う。

 そして今。
 ここまで来て熱を帯びた背後の将兵が怖い。
 もしかしたら刺されるんじゃないかと思ってしまうのだ。

 だがそれは杞憂きゆうだった。

「さぁ、行きましょう、将軍!」「俺は将軍はやればできるって思ってました!」「なんで上から目線なんだよ!」「デュエイン将軍の目が確かだったことが分かって……俺は……俺は!」

 何かが違う。
 そんな気がする。

 どうして彼らはそんなことを言うのだろう。
 こんな最後の最後で失敗した僕を。まるで家族のように包み込んでくれるのは何故だ。

 隣を見る。
 タニアが泣きそうな顔で笑っている。それも理解ができない。

 いや、こんな表情を一度だけ見たことがある。

 里奈。
 彼女が明彦に、初めて自分から話しかけた時。
 あの2人が、僕が、友達になった時。

 あの時も彼女はこんな泣き笑いみたいな表情をしていた。

 里奈の表情は明彦に向けられていた。
 では今、タニアは誰にだ。
 僕になのか?
 ならその意味はなんだ?

 分からない。
 分からないから、とりあえず進もうか。

「前進」

 その言葉と共に動き出す。
 全軍が興奮を押し殺して、命令に従って歩み始める。

 追撃。
 それは執拗なものになっているはずだ。

 東進すればするほど、そこらに人の死体が転がっている。
 無残なものだ。

 これも僕が引き起こしたこと。
 しかも僕が考えたわけじゃない。僕の知恵でもない。

『この時の計略が凄いんだ。十面埋伏じゅうめんまいふくの計。程昱ていいくって軍師が進言したんだけど、逃げながら敵を引き付けたところで一気に逆襲。敵が崩れた時に第1段の伏兵が左右から敵を挟撃する。そうなったら3方向から攻撃を受けるから、敵は後退する。その後退したところに2段、3段と次々に伏兵が襲いかかるから、もう敵はたまらず逃げ出す必殺の作戦だ。もちろん、これには伏兵が襲いかかるタイミングとか、敵をつり出すまで負けないこととか高度な戦術が必要なわけで、これは島津家の“釣り野伏”にも通じる――』

 そんな感じのことを、あの歴史馬鹿あきひこが語っていたのを思い出しただけだ。
 あまりよく分からなかったけど、引っ張って伸びたところを横から10隊が攻撃すればいいんだということは分かった。

 だからそうした。
 第1段は潰走させられたが、これがあと4段、8隊による攻撃が行われるのだ。

 それにこうとも言っていた。

囲師いしは周するなかれ、帰帥きしはとどむるなかれ。敵を完全包囲しちゃいけないし、逃げる敵の前を塞いじゃいけない。つまり相手を絶体絶命に追い詰めちゃいけない。そうなると窮鼠きゅうそ猫をかむのことわざ通り、必死になった相手に逆襲される可能性があるんだ』

 だからそうした。
 相手を逃げるがままに、横と後ろから攻撃する。

 そして極めつけ。
 その仕上げのために、僕は今、馬を走らせる。
 さらには諸人さんとキッドにも動いてもらっている。

 できればこれで終わってほしい。
 ここで敵を壊滅させ、ジャンヌ・ダルクとかいうプレイヤーを倒せば後は帝国を遮るものはない。

 あとは里奈を探して元の世界に戻る。
 そうなった後に、明彦と一緒にまた語り合うのもいい。

 そんな夢を、馬に揺られながらわずかに思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...