30 / 39
第二章
【三】星夜ー赤い絨毯と短期留学生④
しおりを挟む
遠い、遠い国から海を渡って来た王子様は、日本の田舎でひっそりと生きていた俺が珍獣に見えたらしい。
都会のセレブ学園での俺は確かに、訛りが目立つ珍獣だった。
由緒正しき家柄の子息令嬢たちからすれば、天才CEOの息子は無能な凡人でしかない。
珍獣のレッテルを貼られた俺は教室の片隅で誰にも話しかけられる事なく、ただひたすら勉強をしていた。
誰も来ない最上階の踊り場が、俺のランチルーム。祖父ちゃんにもらった文庫本を読みながら、ひっそりと過ごした。
俺が仙台に戻れたのは、両親に故郷へ帰りたいと訴えたから。
きっかけは、テレビに映った仙台七夕の吹き流しだった。
はち切れんばかりの笑顔で、幼児が金粉を織り込んだ和紙に触れている。
祖父ちゃん達との楽しい思い出が詰まっている祭りが、まるで地球外の出来事に見えた。
俺はあと何年我慢したら、あそこへ戻れるんだろう――。
「仙台に戻りたい。祖父ちゃんの家で暮らしたい」
涙が止まらなかった。俺の見たい景色は、高層ビルや鮨詰めの通勤列車じゃなかった。
東には仙台平野と太平洋、南には雪化粧を施した蔵王連峰が眺められる、あの家が大好きだった。
高みを目指すのが生きがいの父さんには、俺がもどかしく映っていただろう。なぜ飛翔する機会が与えられている学園で、友達と有意義に過ごせないのかと。
『あの子はね、天才ゆえに平凡な人間がわからないの。辛くなったら、いつでも仙台へ戻っておいで』
ラン祖母ちゃんは、転勤を嫌がった俺にそう言って送り出した。祖父ちゃんを亡くした祖母ちゃんに心配かけたくなくて、学校のことは話せなかった。
父さんは大検合格を条件に転校する案を出した。
「クリアしたら、あとは故郷で暮らせばいい」
諦めを滲ませた口調は、俺の心情を理解できていない表れだ。
父さんは悪人じゃない。けれど宇宙の理(ことわり)を幼少期に理解した天才は、経済を回す事に夢中だ。
俺もその一員になることを、父さんは信じて疑わなかった。俺が布団で丸一晩泣き続けている間、母さんが父さんを説得してくれた。
中学三年生の春だった。
俺が運悪くルシアン王子に見つかったのはその頃。階段の踊り場で弁当を食べていたら、散歩中のプリンス一行が通りかかった。
これは母さんが炭火焼グリルで焼いた塩焼き牛タンなんだ。アブダビのご近所さんプリンスにだってやるもんか!
『君は誰だ?』
『ただのモブキャラです』
所望されたって一口も譲らない覚悟でいた俺は、うっかり彼の母国語で返事を返した。
人生で最大の失敗だった――。
父さんは悪気はなくても『これくらいできるだろう。身につけておきなさい』と幼い頃から英語やフランス語、中国語などを団らんの会話に取り込んでスパルタ教育した。
親心ってのは時に残酷だ。子の為によかれと思って熱心になればなるほど、無意識の脅迫にすり替わっていく。
愛情に応えるには耳を澄ませて異国の言葉をオウム返しするしかなく、父さんは俺が面白がっていると勘違いしていた。
『星夜、外国語は音楽みたいだろう。これさえ覚えておけば、世界中を旅しても困らないぞ!』
皮肉なことに異国のイントネーションは何一つ、心の琴線には掠りもしなかったのだ。
アジャール語を話せる珍獣をルシアン王子は側に置きたがった。まさに父さんの思惑通りだ。
ハイソな生徒達は嫉妬して俺を脅迫する者もいれば、態度を豹変させて親友になりたがった。激怒したルシアン王子は俺と特別教室でリモート授業を受け始め、俺はますます孤立した。
あんな生活は、もうこりごりだ。俺はこの街で自由に生きていくんだ!
都会のセレブ学園での俺は確かに、訛りが目立つ珍獣だった。
由緒正しき家柄の子息令嬢たちからすれば、天才CEOの息子は無能な凡人でしかない。
珍獣のレッテルを貼られた俺は教室の片隅で誰にも話しかけられる事なく、ただひたすら勉強をしていた。
誰も来ない最上階の踊り場が、俺のランチルーム。祖父ちゃんにもらった文庫本を読みながら、ひっそりと過ごした。
俺が仙台に戻れたのは、両親に故郷へ帰りたいと訴えたから。
きっかけは、テレビに映った仙台七夕の吹き流しだった。
はち切れんばかりの笑顔で、幼児が金粉を織り込んだ和紙に触れている。
祖父ちゃん達との楽しい思い出が詰まっている祭りが、まるで地球外の出来事に見えた。
俺はあと何年我慢したら、あそこへ戻れるんだろう――。
「仙台に戻りたい。祖父ちゃんの家で暮らしたい」
涙が止まらなかった。俺の見たい景色は、高層ビルや鮨詰めの通勤列車じゃなかった。
東には仙台平野と太平洋、南には雪化粧を施した蔵王連峰が眺められる、あの家が大好きだった。
高みを目指すのが生きがいの父さんには、俺がもどかしく映っていただろう。なぜ飛翔する機会が与えられている学園で、友達と有意義に過ごせないのかと。
『あの子はね、天才ゆえに平凡な人間がわからないの。辛くなったら、いつでも仙台へ戻っておいで』
ラン祖母ちゃんは、転勤を嫌がった俺にそう言って送り出した。祖父ちゃんを亡くした祖母ちゃんに心配かけたくなくて、学校のことは話せなかった。
父さんは大検合格を条件に転校する案を出した。
「クリアしたら、あとは故郷で暮らせばいい」
諦めを滲ませた口調は、俺の心情を理解できていない表れだ。
父さんは悪人じゃない。けれど宇宙の理(ことわり)を幼少期に理解した天才は、経済を回す事に夢中だ。
俺もその一員になることを、父さんは信じて疑わなかった。俺が布団で丸一晩泣き続けている間、母さんが父さんを説得してくれた。
中学三年生の春だった。
俺が運悪くルシアン王子に見つかったのはその頃。階段の踊り場で弁当を食べていたら、散歩中のプリンス一行が通りかかった。
これは母さんが炭火焼グリルで焼いた塩焼き牛タンなんだ。アブダビのご近所さんプリンスにだってやるもんか!
『君は誰だ?』
『ただのモブキャラです』
所望されたって一口も譲らない覚悟でいた俺は、うっかり彼の母国語で返事を返した。
人生で最大の失敗だった――。
父さんは悪気はなくても『これくらいできるだろう。身につけておきなさい』と幼い頃から英語やフランス語、中国語などを団らんの会話に取り込んでスパルタ教育した。
親心ってのは時に残酷だ。子の為によかれと思って熱心になればなるほど、無意識の脅迫にすり替わっていく。
愛情に応えるには耳を澄ませて異国の言葉をオウム返しするしかなく、父さんは俺が面白がっていると勘違いしていた。
『星夜、外国語は音楽みたいだろう。これさえ覚えておけば、世界中を旅しても困らないぞ!』
皮肉なことに異国のイントネーションは何一つ、心の琴線には掠りもしなかったのだ。
アジャール語を話せる珍獣をルシアン王子は側に置きたがった。まさに父さんの思惑通りだ。
ハイソな生徒達は嫉妬して俺を脅迫する者もいれば、態度を豹変させて親友になりたがった。激怒したルシアン王子は俺と特別教室でリモート授業を受け始め、俺はますます孤立した。
あんな生活は、もうこりごりだ。俺はこの街で自由に生きていくんだ!
73
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる