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第2章
密猟者たち
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夜の森は、昼間とは別の顔を見せる。
木々の隙間から差し込む月光は冷たく、時折吹き抜ける夜風がカイルの薄い旅装を通り抜けて肌を刺した。
「ちょっと寒いね。」
カイルの震える姿を見て、シリウスがカイルの元に近寄る。
カイルは小さな焚き火の傍らで腰を下ろし、隣にいたシリウスをそっと抱き寄せた。
かつてのパーティーでは、火の番を命じられながらも、まともに火に当たることは許されず、ただ凍えながら夜明けを待つのが常だった。だが今は、誰に気兼ねすることもなく、温もりを分かち合うことができる。
「あったかい。シリウスは本当にもふもふだね」
カイルが白銀の柔らかな毛並みに顔を埋めると、シリウスは「くぅ」と喉を鳴らして、カイルの首元に鼻先を寄せた。
カイルにとって、このもふもふとした感触と体温は何よりの救いだった。自分はレベル0の役立たずかもしれないけれど、この小さな命だけは、自分の手で守らなくてはならない。そんな静かな決意が、温もりと共にカイルの心に染み渡っていく。
しかし、その穏やかな時間を、不吉な沈黙が切り裂いた。
パキッ、と乾いた枝の折れる音が闇の奥から響く。
シリウスがぴくりと耳を立て、もふもふの体を強張らせて闇の一点を見据えた。
「シリウス? どうしたの?」
カイルも身を固くし、周囲に目を凝らす。
風に乗って届くのは、湿った土の匂いではない。使い古された鉄や、下卑た人間の生活臭。
「あ、あの。誰か、そこにいるんですか?」
カイルの声は、情けないほどに震えていた。
闇の奥で、幾重にも重なる木の影から、ふわりと松明の火が灯る。一つ、また一つ。
カイルを包囲するようにして、下卑た笑い声を漏らす男たちが姿を現した。
獲物を捕縛するための網や鎖を手にし、品定めするような視線を投げかける一団。王都周辺を拠点とする闇ギルド『黒い牙』の密猟部隊だ。彼らは茂みの陰に潜み、カイルたちが無防備になるのをじっと待ち構えていたのだ。
「ひっ……!」
カイルは反射的に肩を竦ませた。
松明の光が、カイルの腕の中にいるシリウスを白々と照らし出す。その瞬間、男たちの顔が強欲に歪んだ。
「……おい。見ろよ、あの毛並み。ただの狼じゃねぇぞ」
「間違いない……。『白銀のワーウルフ』の変異種だ。しかも、まだガキじゃねぇか!」
男たちの目が、ギラギラと卑しい光を帯びる。
「依頼主のジジイに売れば一生遊んで暮らせる。最高級の商品(アルビノ)じゃねえか」
「あなたたち何ですか!」
カイルは必死に声を絞り出す。
かつてアルドたちに虐げられてきた記憶が蘇る。力のない自分は、こうした暴力的な大人には絶対に勝てない。それが、カイルの体に染み付いた「レベル0」の現実だった。
「用ならあるぜ。坊主、その犬っころをこっちに渡せ。そうすりゃ、命だけは助けてやる」
男が鉈(なた)を抜き、威圧するように一歩踏み出した。
「ダメです。シリウスは、僕の家族なんです。絶対に、渡しません!」
カイルは足の震えを必死に抑え、シリウスを背中に隠すようにして立ちはだかった。
レベル0の自分にできることなんて何もない。
それでも、盾になることくらいはできるはずだ。かつてのパーティーで、魔物の前へ突き出された時のように。
「あぁ? 生意気なガキだ。おい、どけよゴミが!」
男がいきなり手を伸ばし、カイルの胸を乱暴に突き飛ばした。
抵抗する力もないカイルは、なす術なく地面に転がる」
「うっ……!」
「グルルル」
シリウスの喉から、地を這うような低い唸り声が漏れた。
神獣としての矜持、そして何より、自分を必死に守ろうとした主を傷つけられた怒りが、その小さな体に極限まで凝縮されていく。
「へへっ、次は犬っころだ。網を――」
男が捕獲網を投げようとした、その瞬間だった。
「ワォォォーン!!」
シリウスが、鋭く吠えた。
カイルから無意識に流れ込んでいた膨大な魔力が、シリウスの怒りに呼応して不可視の「衝撃波」へと変換され、全方位へ解き放たれる。
「な、なんだァ!?」
「ぐわぁっ!?」
捕獲網は空中で消し飛んだ。
男たちは見えない巨人に殴られたかのように、数十メートル後ろへと吹き飛ばされた。木の幹に激突し、悲鳴を上げる暇もなく意識を失っていく。
「え? あ、あれ……?」
カイルは恐る恐る顔を上げた。
目の前にいたはずの怖い男たちが、全員転がって動かなくなっている。
「シリウスすごいよ!この人たちシリウスの遠吠えに驚いて転んだ時に頭を打ったみたいだ」
カイルは、それが神獣による蹂躙だとは夢にも思わず、「シリウスが頑張って吠えてくれたから、運良く追い払えた」と解釈した。
シリウスは、倒れた男たちには目もくれず、森のさらに奥へと視線を向けた。
その瞳には、鋭い光が宿っている。
「シリウス、あっちに何かあるの?」
カイルは、サーチをしてみる。すると、森の奥に魔物の群れを発見した。その群れは動かずに一箇所に固められているようだ。
「そっか。あの人たち、他の子たちも捕まえてるんだね。助けに行かなきゃ、だよね」
カイルは痛む掌を払い、立ち上がった。
自分がどれほど無茶なことをしようとしているのか、その自覚さえないまま。
カイルはシリウスに導かれ、闇ギルドのアジトがある森の深部へと、静かに足を踏み出した。
木々の隙間から差し込む月光は冷たく、時折吹き抜ける夜風がカイルの薄い旅装を通り抜けて肌を刺した。
「ちょっと寒いね。」
カイルの震える姿を見て、シリウスがカイルの元に近寄る。
カイルは小さな焚き火の傍らで腰を下ろし、隣にいたシリウスをそっと抱き寄せた。
かつてのパーティーでは、火の番を命じられながらも、まともに火に当たることは許されず、ただ凍えながら夜明けを待つのが常だった。だが今は、誰に気兼ねすることもなく、温もりを分かち合うことができる。
「あったかい。シリウスは本当にもふもふだね」
カイルが白銀の柔らかな毛並みに顔を埋めると、シリウスは「くぅ」と喉を鳴らして、カイルの首元に鼻先を寄せた。
カイルにとって、このもふもふとした感触と体温は何よりの救いだった。自分はレベル0の役立たずかもしれないけれど、この小さな命だけは、自分の手で守らなくてはならない。そんな静かな決意が、温もりと共にカイルの心に染み渡っていく。
しかし、その穏やかな時間を、不吉な沈黙が切り裂いた。
パキッ、と乾いた枝の折れる音が闇の奥から響く。
シリウスがぴくりと耳を立て、もふもふの体を強張らせて闇の一点を見据えた。
「シリウス? どうしたの?」
カイルも身を固くし、周囲に目を凝らす。
風に乗って届くのは、湿った土の匂いではない。使い古された鉄や、下卑た人間の生活臭。
「あ、あの。誰か、そこにいるんですか?」
カイルの声は、情けないほどに震えていた。
闇の奥で、幾重にも重なる木の影から、ふわりと松明の火が灯る。一つ、また一つ。
カイルを包囲するようにして、下卑た笑い声を漏らす男たちが姿を現した。
獲物を捕縛するための網や鎖を手にし、品定めするような視線を投げかける一団。王都周辺を拠点とする闇ギルド『黒い牙』の密猟部隊だ。彼らは茂みの陰に潜み、カイルたちが無防備になるのをじっと待ち構えていたのだ。
「ひっ……!」
カイルは反射的に肩を竦ませた。
松明の光が、カイルの腕の中にいるシリウスを白々と照らし出す。その瞬間、男たちの顔が強欲に歪んだ。
「……おい。見ろよ、あの毛並み。ただの狼じゃねぇぞ」
「間違いない……。『白銀のワーウルフ』の変異種だ。しかも、まだガキじゃねぇか!」
男たちの目が、ギラギラと卑しい光を帯びる。
「依頼主のジジイに売れば一生遊んで暮らせる。最高級の商品(アルビノ)じゃねえか」
「あなたたち何ですか!」
カイルは必死に声を絞り出す。
かつてアルドたちに虐げられてきた記憶が蘇る。力のない自分は、こうした暴力的な大人には絶対に勝てない。それが、カイルの体に染み付いた「レベル0」の現実だった。
「用ならあるぜ。坊主、その犬っころをこっちに渡せ。そうすりゃ、命だけは助けてやる」
男が鉈(なた)を抜き、威圧するように一歩踏み出した。
「ダメです。シリウスは、僕の家族なんです。絶対に、渡しません!」
カイルは足の震えを必死に抑え、シリウスを背中に隠すようにして立ちはだかった。
レベル0の自分にできることなんて何もない。
それでも、盾になることくらいはできるはずだ。かつてのパーティーで、魔物の前へ突き出された時のように。
「あぁ? 生意気なガキだ。おい、どけよゴミが!」
男がいきなり手を伸ばし、カイルの胸を乱暴に突き飛ばした。
抵抗する力もないカイルは、なす術なく地面に転がる」
「うっ……!」
「グルルル」
シリウスの喉から、地を這うような低い唸り声が漏れた。
神獣としての矜持、そして何より、自分を必死に守ろうとした主を傷つけられた怒りが、その小さな体に極限まで凝縮されていく。
「へへっ、次は犬っころだ。網を――」
男が捕獲網を投げようとした、その瞬間だった。
「ワォォォーン!!」
シリウスが、鋭く吠えた。
カイルから無意識に流れ込んでいた膨大な魔力が、シリウスの怒りに呼応して不可視の「衝撃波」へと変換され、全方位へ解き放たれる。
「な、なんだァ!?」
「ぐわぁっ!?」
捕獲網は空中で消し飛んだ。
男たちは見えない巨人に殴られたかのように、数十メートル後ろへと吹き飛ばされた。木の幹に激突し、悲鳴を上げる暇もなく意識を失っていく。
「え? あ、あれ……?」
カイルは恐る恐る顔を上げた。
目の前にいたはずの怖い男たちが、全員転がって動かなくなっている。
「シリウスすごいよ!この人たちシリウスの遠吠えに驚いて転んだ時に頭を打ったみたいだ」
カイルは、それが神獣による蹂躙だとは夢にも思わず、「シリウスが頑張って吠えてくれたから、運良く追い払えた」と解釈した。
シリウスは、倒れた男たちには目もくれず、森のさらに奥へと視線を向けた。
その瞳には、鋭い光が宿っている。
「シリウス、あっちに何かあるの?」
カイルは、サーチをしてみる。すると、森の奥に魔物の群れを発見した。その群れは動かずに一箇所に固められているようだ。
「そっか。あの人たち、他の子たちも捕まえてるんだね。助けに行かなきゃ、だよね」
カイルは痛む掌を払い、立ち上がった。
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カイルはシリウスに導かれ、闇ギルドのアジトがある森の深部へと、静かに足を踏み出した。
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