84 / 122
84.驚かせたいから内緒ね
しおりを挟む
目の腫れを癒し、化粧で誤魔化す。侍女達の技術には、いつもながら感心するわ。あっという間に整えられた姿を、鏡で確認した。柔らかな桃色のドレスは、昼間のお茶会用に裾が僅かに短い。地面を擦って歩かないよう、くるぶし丈だった。本来、夫人同士のお茶会は庭を使うから。
リリアナは同じ桃色のワンピースね。色は私より濃いめかしら。まだ幼い部類に入るリリアナの裾丈は、膝をすっぽり覆う長さ。踏んだり引き摺らないけれど、貴族令嬢の品位を保つよう計算されていた。裾にレースとフリルを使って、長さがあるように装う。
「行きましょう、リリアナ」
「はい、お義母様」
少し早いけれどいいわよね。そう思って歩き出し、慌ててリリアナに口止めをした。
「リリアナ、最初だけいつも通りのお姉様にして。彼女達を驚かせたいの」
「分かったわ」
大人びた口調で頷く小さな淑女の銀髪に口付けし、私は手を繋いで歩き出した。お母様に言われて「見えるようになったこと」で驚かせようと思ったけれど、さらに報告が増えたわ。嬉しい報告ならいくつ重なってもいいわよね。
リリアナは宮殿の廊下を歩きながら、ちらりと私を見上げる。
「どうしたの?」
「エルを抱っこしないんだな、と思って。それに目のレース飾りはなぁに?」
「彼女達は何も知らないのよ」
私の目を保護するため、薄絹にレースのリボンを縫い止めた飾りが用意された。侍女が急拵えで用意したとは思えない布で、ゆったりと目を覆う。カーテンがなくても、光が調整できた。リリアナには、見慣れない布で不思議だったのね。
はっとした顔でリリアナが頷く。それから繋いだ指を解いて、しっかりと腕を掴み直した。
「こうした方が、前みたい?」
くすくす笑うリリアナに「ありがとう、一緒に驚かせましょうね」と微笑み返し、宮殿の客間へ向かった。お母様の侍女であるバーサがエルを連れ、共に入室する。
黒髪のフォルテア侯爵夫人シルビアは、鮮やかな紫のドレスだった。派手さはなく、品のいいデザインと控えめな飾りが施されている。お茶会用に仕立てた丈のスカートを摘み、上品にカーテシーを披露した。
隣のパレデス伯爵夫人ナタリア様も、優雅にスカートを摘んで一礼した。ナタリア様は空色の明るいドレスで、よちよち歩き始めたご令嬢と同じ生地で揃えていた。お揃いもいいわね。可愛い娘も出来たことだし。
私が見えなくなったと思っているのに、そのカーテシーは最上級のもので、手抜きなどなかった。本当に素晴らしいお友達だわ。彼女達に友人として認めてもらえて、心の底から嬉しい。溢れ出る感情をそのまま声に乗せた。
「お待たせしてごめんなさい。嬉しいお知らせがあるのよ」
リリアナは誘導するように、しっかり掴んだ私の腕を揺らす。足を踏み出して距離を縮め、どうやって見えることを告げようか考える。驚かせたいと思ったけれど、方法を考えていなかったの。
でも、今思いついたわ。
「シルビア様の紫のドレス、とても素敵ですわ。ナタリア様はお嬢様とお揃いですのね。羨ましい」
見えていなければ口にできない、色の話。誰も室内に入ってから声に出していない情報を、さり気なく彼女達へ聞かせる。
「え?」
「そんな……もしかして!」
二人は驚きで目を見開いた後、嬉しそうに笑う。その頬に流れる涙を見て、私の目はまた濡れた。今日は泣いてばかりの一日になりそう。
リリアナは同じ桃色のワンピースね。色は私より濃いめかしら。まだ幼い部類に入るリリアナの裾丈は、膝をすっぽり覆う長さ。踏んだり引き摺らないけれど、貴族令嬢の品位を保つよう計算されていた。裾にレースとフリルを使って、長さがあるように装う。
「行きましょう、リリアナ」
「はい、お義母様」
少し早いけれどいいわよね。そう思って歩き出し、慌ててリリアナに口止めをした。
「リリアナ、最初だけいつも通りのお姉様にして。彼女達を驚かせたいの」
「分かったわ」
大人びた口調で頷く小さな淑女の銀髪に口付けし、私は手を繋いで歩き出した。お母様に言われて「見えるようになったこと」で驚かせようと思ったけれど、さらに報告が増えたわ。嬉しい報告ならいくつ重なってもいいわよね。
リリアナは宮殿の廊下を歩きながら、ちらりと私を見上げる。
「どうしたの?」
「エルを抱っこしないんだな、と思って。それに目のレース飾りはなぁに?」
「彼女達は何も知らないのよ」
私の目を保護するため、薄絹にレースのリボンを縫い止めた飾りが用意された。侍女が急拵えで用意したとは思えない布で、ゆったりと目を覆う。カーテンがなくても、光が調整できた。リリアナには、見慣れない布で不思議だったのね。
はっとした顔でリリアナが頷く。それから繋いだ指を解いて、しっかりと腕を掴み直した。
「こうした方が、前みたい?」
くすくす笑うリリアナに「ありがとう、一緒に驚かせましょうね」と微笑み返し、宮殿の客間へ向かった。お母様の侍女であるバーサがエルを連れ、共に入室する。
黒髪のフォルテア侯爵夫人シルビアは、鮮やかな紫のドレスだった。派手さはなく、品のいいデザインと控えめな飾りが施されている。お茶会用に仕立てた丈のスカートを摘み、上品にカーテシーを披露した。
隣のパレデス伯爵夫人ナタリア様も、優雅にスカートを摘んで一礼した。ナタリア様は空色の明るいドレスで、よちよち歩き始めたご令嬢と同じ生地で揃えていた。お揃いもいいわね。可愛い娘も出来たことだし。
私が見えなくなったと思っているのに、そのカーテシーは最上級のもので、手抜きなどなかった。本当に素晴らしいお友達だわ。彼女達に友人として認めてもらえて、心の底から嬉しい。溢れ出る感情をそのまま声に乗せた。
「お待たせしてごめんなさい。嬉しいお知らせがあるのよ」
リリアナは誘導するように、しっかり掴んだ私の腕を揺らす。足を踏み出して距離を縮め、どうやって見えることを告げようか考える。驚かせたいと思ったけれど、方法を考えていなかったの。
でも、今思いついたわ。
「シルビア様の紫のドレス、とても素敵ですわ。ナタリア様はお嬢様とお揃いですのね。羨ましい」
見えていなければ口にできない、色の話。誰も室内に入ってから声に出していない情報を、さり気なく彼女達へ聞かせる。
「え?」
「そんな……もしかして!」
二人は驚きで目を見開いた後、嬉しそうに笑う。その頬に流れる涙を見て、私の目はまた濡れた。今日は泣いてばかりの一日になりそう。
85
あなたにおすすめの小説
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
Mimi
恋愛
若様がお戻りになる……
イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。
王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。
リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。
次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。
婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。
再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……
* 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました
そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる