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83.私の妻になってください

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「わしの孫なら、きっちり決めろ」

 ひいお祖父様はそう言って、苦い珈琲を飲んだ。気管に入ったのか、咳き込んだところをお祖母様に摩ってもらっている。心配になって視線を向けた私を拘束する腕が、するりと緩んだ。

 離れてしまう。咄嗟に袖を掴んでしまい、恥ずかしくなった。その上に軽く手を重ねたオスカル様は、振り解くことなく膝を突いた。

「エリサリデ公爵令嬢バレンティナ様へ、アルムニア大公家オスカルが愛を捧げます。私の妻になってください」

 ぽろりと涙が落ちる。さっき泣いて枯れたと思ったのに、予備があったのかしら。折角見えるようになった視界が、ぼやけて滲んだ。色や光が涙で乱反射する視界を、瞬きで戻す。

「はい、喜んで」

 微笑むことが出来ている? 嬉しくて驚いて、息が止まりそう。こんなこと、現実かしら。目が見えなくなって、治ったと思ったら素敵な人に愛を告白された。どこまで現実で、どこから想像なの。私にこんな想像力があったなんて。

「お姉様がお母様になるの?!」

「私のお嫁さんになってもらうんだ。だから……その通りだよ、リリアナ」

 なぜか訂正しようとして、間違ってないと気づいたオスカル様が、リリアナの銀髪を撫でた。感動して泣いたリリアナの顔が、再び崩れる。

「お母様が出来るのっ、私の……」

 その言葉で私の涙はまた溢れる。リリアナは実母を覚えていないと聞いた。新しく来た義母に期待して裏切られ、それでも母親の影を追い求める。愛して欲しい、その願いを込めて伸ばす手を受け止めた。

「リリアナ」

 抱き締めて濡れた頬同士を擦り寄せた。オスカル様が上から覆い被さるように腕を伸ばし、ひいお祖父様の「めでたい! よくやった!!」の声が飛んで来る。

「おめでたいわ、すぐに婚約手配をしなくちゃ」

「婚約式は派手にやりましょう」

 お祖母様やお母様がはしゃぐ声が聞こえて、私は大きく深呼吸する。緩んでしまう口元をそのままに、リリアナと手を繋いで立ち上がった。手を貸してくれるオスカル様に頷く。

「お父様、お母様。私はオスカル様の求婚を受け入れ、アムルニア大公家へ嫁ぎます」

「違うよ、ティナ。嫁ぐ先は大公家ではなく、オスカル殿だ」

 お父様が苦笑いして訂正する。そこに込められた意味は、家同士の政略結婚ではない、と。愛する男性の元へ嫁ぎなさい。そう諭す父の愛だった。

 今度こそ幸せになります。そう口にする声は震えて、その後、お昼になるまで部屋の中は大騒ぎだった。お祖父様の指示で、アルムニア大公である大叔父様が呼ばれることになり……お茶会も近づいているのに。

 腫れた目元を必死で侍女達が冷やし、人前に出られる程度に整えてもらった。ぎりぎり間に合った? 綺麗に身なりを整えた私は、友人達を出迎える。隣に娘となるリリアナを連れて。
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