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82.お姉様を好きなんでしょう?
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私の部屋に運んだ大きな円卓で朝食を済ませる。ひいお祖父様達が、絶対に一緒に食べると引かなかった。私は賑やかな食事を楽しみ、お茶を飲み始める。柔らかな緑のお茶を口に入れたところで、部屋の扉がノックされた。
騎士にオスカル様とリリアナが到着した報告を受け、お父様が入室の許可を出す。その間に、お母様と一緒に私は扉の前まで移動した。開いた扉から入る光が目に良くないから。そう言われ、扉の脇に背を付けた姿勢で待つ。
「失礼します、バレンティナ様の目が……っ!」
見えるようになったと聞きました。そう続けるオスカル様の声が途切れる。手を伸ばした私が彼の肩に触れたの。驚いて固まったオスカル様の後ろで、忍び笑う騎士がそっと扉を閉めた。眩しかったけど、思ったほどじゃないわ。
後で知ったけれど、お祖父様達の命令で、廊下の窓にもカーテンが掛けられていたんですって。
「本当、に?」
「ええ、本当です」
「見えるの? お姉様っ、よか……っうぐっ、う……」
泣き出したリリアナが我慢しようとして、唇を噛む。必死で声を堪える彼女の銀髪を優しく撫でた。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。その姿が愛おしい。
「ありがとう、リリアナ。オスカル様……きゃっ」
リリアナに声を掛けて身を起こした私は、突然抱き締められて固まった。しっかりとした力強い腕が、背中に回される。左肩にオスカル様の頭があり、絞り出すような声が「神よ、感謝します」と紡いだ。吐息に紛れる言葉に、胸がじんとする。
家族以外の男性に抱き締められて、こんなに安心するなんて。ドキドキする気持ちも嘘ではない。ただ、収まるべき部分に何かが嵌った気がした。おずおずと腕を彼の背中に回す。
「……まだはや……うっ」
お父様が何か言い掛けて、お祖父様に足を踏まれたみたい。覆い被さるオスカル様の肩越しに見える光景は、お父様が気の毒だった。お母様に口へパンを詰め込まれ、お祖父様に足を踏まれている。痛そうだわ。
見えるって、こんなに凄いのね。一度に入ってくる情報が多くて、以前はどうやって処理していたのか不思議なほど。目を閉じれば、まだ嗅覚は敏感なようで。オスカル様の爽やかな香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「あ、し……失礼しました」
慌てたオスカル様の上着の裾を掴むリリアナは、大きな声で言い放った。
「もう! お義父様は素直になってよ。お姉様を好きなんでしょう?」
子どもは無邪気というか、無鉄砲なのか。思わぬ形で気持ちを暴露され、オスカル様が真っ赤になる。いつもの首や耳がほんのり色づく程度ではなく、身体中の血が集まったみたいに真っ赤だった。それを見て私も赤くなる。
お祖母様がパンと手を叩いた。
「いつまで抱き合ってるのかしら。お茶でも一杯いかが?」
「仲が良くていいじゃないの。お母様ったら、邪魔してはダメよ」
皇后様を止めるような言い方をしたけど、お母様も後押しして。さらに赤くなった私達は、ぎこちなく両手を緩めた。まだ抱き合ったままだったわ。でも……リリアナの言葉は本当かしら。私は出戻りで幼い息子もいる。彼にとって私は、可哀想な同情対象の親戚ではないの?
尋ねる勇気はなくて、泣きそうな顔でオスカル様を見上げた。
騎士にオスカル様とリリアナが到着した報告を受け、お父様が入室の許可を出す。その間に、お母様と一緒に私は扉の前まで移動した。開いた扉から入る光が目に良くないから。そう言われ、扉の脇に背を付けた姿勢で待つ。
「失礼します、バレンティナ様の目が……っ!」
見えるようになったと聞きました。そう続けるオスカル様の声が途切れる。手を伸ばした私が彼の肩に触れたの。驚いて固まったオスカル様の後ろで、忍び笑う騎士がそっと扉を閉めた。眩しかったけど、思ったほどじゃないわ。
後で知ったけれど、お祖父様達の命令で、廊下の窓にもカーテンが掛けられていたんですって。
「本当、に?」
「ええ、本当です」
「見えるの? お姉様っ、よか……っうぐっ、う……」
泣き出したリリアナが我慢しようとして、唇を噛む。必死で声を堪える彼女の銀髪を優しく撫でた。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。その姿が愛おしい。
「ありがとう、リリアナ。オスカル様……きゃっ」
リリアナに声を掛けて身を起こした私は、突然抱き締められて固まった。しっかりとした力強い腕が、背中に回される。左肩にオスカル様の頭があり、絞り出すような声が「神よ、感謝します」と紡いだ。吐息に紛れる言葉に、胸がじんとする。
家族以外の男性に抱き締められて、こんなに安心するなんて。ドキドキする気持ちも嘘ではない。ただ、収まるべき部分に何かが嵌った気がした。おずおずと腕を彼の背中に回す。
「……まだはや……うっ」
お父様が何か言い掛けて、お祖父様に足を踏まれたみたい。覆い被さるオスカル様の肩越しに見える光景は、お父様が気の毒だった。お母様に口へパンを詰め込まれ、お祖父様に足を踏まれている。痛そうだわ。
見えるって、こんなに凄いのね。一度に入ってくる情報が多くて、以前はどうやって処理していたのか不思議なほど。目を閉じれば、まだ嗅覚は敏感なようで。オスカル様の爽やかな香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「あ、し……失礼しました」
慌てたオスカル様の上着の裾を掴むリリアナは、大きな声で言い放った。
「もう! お義父様は素直になってよ。お姉様を好きなんでしょう?」
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お祖母様がパンと手を叩いた。
「いつまで抱き合ってるのかしら。お茶でも一杯いかが?」
「仲が良くていいじゃないの。お母様ったら、邪魔してはダメよ」
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尋ねる勇気はなくて、泣きそうな顔でオスカル様を見上げた。
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