【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
49 / 222
本編

48.濁って腐る前に浄化するのは当然よ

しおりを挟む
 血族婚が多いのは、どの王家でも同じ。リヒター帝国が例外であるはずはなかった。アディソン王国のモーリスが、前王妃に睨まれたにも拘らず、王家の庶子として認識されたのもここに原因がある。外からの血を入れなければ、子供が生まれにくくなっていくの。

 リヒター帝国は他国より早く気づき、曾祖父の代から側妃の制度を取り入れた。あれは妃となる妻を軽んじたわけではないの。将来の我が子が娶る公爵家の令嬢の血を薄めるためよ。祖母は納得して受け入れた。義母ガブリエラ様は、他国から血を取り入れることを目的に選ばれた方よ。

 他国の王族ならば、血が薄まって別の家系になっている。ガブリエラ様は祖母から側妃制度の利点を聞いた。当然、合理的なガブリエラ様は取り入れる。その結果が、四人の妃と四人の子供達だった。唯一の女児として生まれた私に求められたのは、他国の血を取り入れること。

 お兄様達に子供が生まれても、帝国の青リヒテン・ブルーを持たない可能性がある。妻の浮気よ。でも私が産む子は、必ず皇族の血を受け継ぐわ。皇族の腹から産まれたという、明確な証拠があった。

「お祖母様の日記を見て、愚かな私は他国の血を得なければならないと思ったの。止めるお兄様達の気持ちを理解せず、意地になって相手を探した」

 今になれば愚かだった。私が公爵家を興し、他国から夫を得ればよかったのよ。実際、エック兄様はその案を用意していた。ちょうど政略結婚の話が舞い込み、年齢や血の薄さが決め手となったの。アディソン王家とは数世代遡っても、婚姻歴がない。さらに庶子なら完璧だった。

 まさか、あんな馬鹿な案を実行に移していたとは思わなかったけれど。嫁いで五年もしたら戻るつもりだった。その前に彼らの失態を知り、利用したのは私よ。

「トリアは頭が良すぎるのかな。私くらい、のんびりしてれば良かったのに」

 苦笑するルヴィ兄様は、白ワインの入ったグラスを掲げる。夕食の席で溜め息をついた私に、兄様二人は優しい。

「俺なんて、説明されてもわからん」

 がははと大声で笑い、豪快にワイングラスを干したフォルト兄様は、手酌でお替りした。皇族らしさは欠片もない。これも三世代に渡り、血を薄めた結果だった。四人は全く別の性質と能力を持って生まれ、外見すら似ていない。

 フォルト兄様はエーデルシュタイン大公となり、いずれ子を生して皇族を支える。それは、この場にいないエック兄様も同じね。すでにラウエンシュタイン大公領を用意し、臣籍に降る準備を整えた。宰相として国を支える覚悟だと思うわ。

 私がリヒテンシュタインの姓をローヴァインへ替えることで、皇族の薄まった血が貴族の中に紛れていく。そこから皇族へ嫁いだり、養子に入る子が出たりすることで、濁った血を浄化できる。

「もう落ち着いたのか?」

「ええ、そうね……頭は冷えたと思うわ」

 イングリットを授かったことだけは、感謝しましょう。私の名誉を蔑ろにし、愚かにも利用しようとした罰は下す。けれど、あの子は私一人で授かれなかった。その一点だけで、命だけは助けてあげようと思えるほどの功績ね。

「ローヴァインと結婚したら、イングリットは返さねばならんか」

 がっかりした様子のお兄様に、私はくすくすと笑いだした。ご自分で仰ったではありませんか。

「皇帝の養女として記録し、そのように取り計らったのでしょう? 臣下の公爵夫人が、皇女を奪ったりいたしません」

「だが……」

 母と子を離すのは気が引ける。ルヴィ兄様は本当に……私やエック兄様とは別の生き物ね。純粋な一点はフォルト兄様に近かった。

「私、ルヴィ兄様の秘書官になろうと思いますの。毎日我が子と会えますし……能力も活かせますでしょう? なので、ローヴァインの領地とは別に、皇宮に近い直轄領を一つくださいな」

 公爵夫人の社交は、片手間にこなしてみせますわよ?
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵
恋愛
 一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。  それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。  リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。  そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。  でも、次に目を覚ました時。  どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。    二度目の人生。  今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。  一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。  そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか? ※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。  7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

処理中です...