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本編
47.敵の内情を詳らかにする
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アルホフ王国の嘆願に応じる条件を示すのは、エック兄様の担当ね。ルヴィ兄様は淡々と、外交ルートを封鎖していく。国境を接する我が国が動くことで、交易路は封鎖された。物理的に封鎖するのは、フォルト兄様の仕事よ。
ブリュート王国は、他国へ食糧や資材を融通する余裕はない。反対側のデーンズ王国も、今は動けないでしょうね。すでに私が手を打ったわ。
手配を頼んだライフアイゼン公爵を呼び出し、用意したお茶を振る舞う。私が白い花茶を出した時点で、計画は順調と察したライフアイゼン公爵は、白くなった顎鬚を指でなぞる。
「じぃ、結果はどうだったの?」
「やれやれ、せっかちな姫様じゃのぉ。年寄りをこき使うものではありませんぞ」
ほっほっほ、笑いながら取り出した書類をテーブルに置いた。すっと滑るように差し出され、手にとって目を通す。その間に、公爵はお茶の香りを楽しんだ。ふぅと冷ましてから口をつけるの、なんだか可愛い仕草だわ。横目に確認し、報告書と記された書類を捲った。
枚数は三枚、それぞれに別件が記されている。一枚目はデーンズ王国の貴族の関係図ね。現時点で、王族と距離を置く貴族が多い。数年前からの失政が続いた影響でしょう。その巻き返しに、帝国を敵として攻め込む案が浮上した。
もし叶ったなら……巻き返しになるわ。そうね、私がデーンズ王国の国王なら、アディソンを動かしたりしない。今の王妃と離縁して帝国の血を取り込む。リヒテン・ブルーを持つ子を産ませ、子供を足がかりに切り崩す計画を立てる。
リヒター帝国の弱点は、跡取りがいないことよ。お父様が皇帝なら、ルヴィ兄様が皇太子で控えになれた。でも今はルヴィ兄様の治世、子供どころか婚約者もいない状況は危険だわ。イングリットが保護されたのも、その点が大きく影響している。
他の兄弟がいようと、次世代はイングリット一人なのが実情だった。この点で、デーンズ王国は最初の一手を間違えたの。
二枚目はアディソン王国の混乱状況が並び、最後の三枚目に驚いた。
「じぃ、これ……」
「苦労しましたぞ」
飄々と口にするから、全然苦労が見えないのよ。大変だったのは想像できる。これは軍事同盟の控えだわ。署名は続きのページに行ったようだけれど、条件などが細かく記されていた。
指でなぞりながら丁寧に確認し、口元を緩める。本当に軍事面だけの同盟だわ。これならいけるわね。
「ありがとう、じぃ。とても助かったわ」
「やれやれ。そう思ってくださるなら、労っていただきたい。そうですなぁ……孫のように可愛い姫様が幸せになってくださらねば、安心して隠居もできませぬ」
「近々、婚約式をするの。クラウスはいい男よ? 私を愛してくれているわ」
「姫様は?」
直球で聞くなんて、彼らしい。ライフアイゼン公爵は外交の要だった。緩急つけて相手を追い込む方法なら、私より詳しいはず。誤魔化そうと思ったのは、ほんの一瞬だった。公爵の真剣な眼差しに、私はゆっくり深呼吸する。
「愛はわからないけれど、彼を悲しませたくないわ。一緒にいると気持ちが楽なの」
ほっほっほ、と独特な笑い方をして、ライフアイゼン公爵は満足げに頷いた。
「存外の褒美をいただきました。またご用命があれば、この年寄りをお使いくだされ。くれぐれも、無理はなさいませんよう」
今の言葉、以前も言われたわ。結婚式の前だったかしら? 無理なら頼れ、と。今になれば、まるで予言のようね。
「わかったわ。じぃには勝てないもの」
降参と手のひらを見せ、私は笑った。ムキになって失敗したあの頃の自分を、許してあげられる気がする。ありがとう、じぃ。幼い頃から私の味方だった。ライフアイゼン公爵が立ち上がるのを手伝い、テーブルの上の書類を拾い上げた。
ブリュート王国は、他国へ食糧や資材を融通する余裕はない。反対側のデーンズ王国も、今は動けないでしょうね。すでに私が手を打ったわ。
手配を頼んだライフアイゼン公爵を呼び出し、用意したお茶を振る舞う。私が白い花茶を出した時点で、計画は順調と察したライフアイゼン公爵は、白くなった顎鬚を指でなぞる。
「じぃ、結果はどうだったの?」
「やれやれ、せっかちな姫様じゃのぉ。年寄りをこき使うものではありませんぞ」
ほっほっほ、笑いながら取り出した書類をテーブルに置いた。すっと滑るように差し出され、手にとって目を通す。その間に、公爵はお茶の香りを楽しんだ。ふぅと冷ましてから口をつけるの、なんだか可愛い仕草だわ。横目に確認し、報告書と記された書類を捲った。
枚数は三枚、それぞれに別件が記されている。一枚目はデーンズ王国の貴族の関係図ね。現時点で、王族と距離を置く貴族が多い。数年前からの失政が続いた影響でしょう。その巻き返しに、帝国を敵として攻め込む案が浮上した。
もし叶ったなら……巻き返しになるわ。そうね、私がデーンズ王国の国王なら、アディソンを動かしたりしない。今の王妃と離縁して帝国の血を取り込む。リヒテン・ブルーを持つ子を産ませ、子供を足がかりに切り崩す計画を立てる。
リヒター帝国の弱点は、跡取りがいないことよ。お父様が皇帝なら、ルヴィ兄様が皇太子で控えになれた。でも今はルヴィ兄様の治世、子供どころか婚約者もいない状況は危険だわ。イングリットが保護されたのも、その点が大きく影響している。
他の兄弟がいようと、次世代はイングリット一人なのが実情だった。この点で、デーンズ王国は最初の一手を間違えたの。
二枚目はアディソン王国の混乱状況が並び、最後の三枚目に驚いた。
「じぃ、これ……」
「苦労しましたぞ」
飄々と口にするから、全然苦労が見えないのよ。大変だったのは想像できる。これは軍事同盟の控えだわ。署名は続きのページに行ったようだけれど、条件などが細かく記されていた。
指でなぞりながら丁寧に確認し、口元を緩める。本当に軍事面だけの同盟だわ。これならいけるわね。
「ありがとう、じぃ。とても助かったわ」
「やれやれ。そう思ってくださるなら、労っていただきたい。そうですなぁ……孫のように可愛い姫様が幸せになってくださらねば、安心して隠居もできませぬ」
「近々、婚約式をするの。クラウスはいい男よ? 私を愛してくれているわ」
「姫様は?」
直球で聞くなんて、彼らしい。ライフアイゼン公爵は外交の要だった。緩急つけて相手を追い込む方法なら、私より詳しいはず。誤魔化そうと思ったのは、ほんの一瞬だった。公爵の真剣な眼差しに、私はゆっくり深呼吸する。
「愛はわからないけれど、彼を悲しませたくないわ。一緒にいると気持ちが楽なの」
ほっほっほ、と独特な笑い方をして、ライフアイゼン公爵は満足げに頷いた。
「存外の褒美をいただきました。またご用命があれば、この年寄りをお使いくだされ。くれぐれも、無理はなさいませんよう」
今の言葉、以前も言われたわ。結婚式の前だったかしら? 無理なら頼れ、と。今になれば、まるで予言のようね。
「わかったわ。じぃには勝てないもの」
降参と手のひらを見せ、私は笑った。ムキになって失敗したあの頃の自分を、許してあげられる気がする。ありがとう、じぃ。幼い頃から私の味方だった。ライフアイゼン公爵が立ち上がるのを手伝い、テーブルの上の書類を拾い上げた。
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