【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
48 / 222
本編

47.敵の内情を詳らかにする

しおりを挟む
 アルホフ王国の嘆願に応じる条件を示すのは、エック兄様の担当ね。ルヴィ兄様は淡々と、外交ルートを封鎖していく。国境を接する我が国が動くことで、交易路は封鎖された。物理的に封鎖するのは、フォルト兄様の仕事よ。

 ブリュート王国は、他国へ食糧や資材を融通する余裕はない。反対側のデーンズ王国も、今は動けないでしょうね。すでに私が手を打ったわ。

 手配を頼んだライフアイゼン公爵を呼び出し、用意したお茶を振る舞う。私が白い花茶を出した時点で、計画は順調と察したライフアイゼン公爵は、白くなった顎鬚を指でなぞる。

「じぃ、結果はどうだったの?」

「やれやれ、せっかちな姫様じゃのぉ。年寄りをこき使うものではありませんぞ」

 ほっほっほ、笑いながら取り出した書類をテーブルに置いた。すっと滑るように差し出され、手にとって目を通す。その間に、公爵はお茶の香りを楽しんだ。ふぅと冷ましてから口をつけるの、なんだか可愛い仕草だわ。横目に確認し、報告書と記された書類を捲った。

 枚数は三枚、それぞれに別件が記されている。一枚目はデーンズ王国の貴族の関係図ね。現時点で、王族と距離を置く貴族が多い。数年前からの失政が続いた影響でしょう。その巻き返しに、帝国を敵として攻め込む案が浮上した。

 もし叶ったなら……巻き返しになるわ。そうね、私がデーンズ王国の国王なら、アディソンを動かしたりしない。今の王妃と離縁して帝国の血を取り込む。リヒテン・ブルーを持つ子を産ませ、子供を足がかりに切り崩す計画を立てる。

 リヒター帝国の弱点は、跡取りがいないことよ。お父様が皇帝なら、ルヴィ兄様が皇太子で控えになれた。でも今はルヴィ兄様の治世、子供どころか婚約者もいない状況は危険だわ。イングリットが保護されたのも、その点が大きく影響している。

 他の兄弟がいようと、次世代はイングリット一人なのが実情だった。この点で、デーンズ王国は最初の一手を間違えたの。

 二枚目はアディソン王国の混乱状況が並び、最後の三枚目に驚いた。

「じぃ、これ……」

「苦労しましたぞ」

 飄々と口にするから、全然苦労が見えないのよ。大変だったのは想像できる。これは軍事同盟の控えだわ。署名は続きのページに行ったようだけれど、条件などが細かく記されていた。

 指でなぞりながら丁寧に確認し、口元を緩める。本当に軍事面だけの同盟だわ。これならいけるわね。

「ありがとう、じぃ。とても助かったわ」

「やれやれ。そう思ってくださるなら、労っていただきたい。そうですなぁ……孫のように可愛い姫様が幸せになってくださらねば、安心して隠居もできませぬ」

「近々、婚約式をするの。クラウスはいい男よ? 私を愛してくれているわ」

「姫様は?」

 直球で聞くなんて、彼らしい。ライフアイゼン公爵は外交の要だった。緩急つけて相手を追い込む方法なら、私より詳しいはず。誤魔化そうと思ったのは、ほんの一瞬だった。公爵の真剣な眼差しに、私はゆっくり深呼吸する。

「愛はわからないけれど、彼を悲しませたくないわ。一緒にいると気持ちが楽なの」

 ほっほっほ、と独特な笑い方をして、ライフアイゼン公爵は満足げに頷いた。

「存外の褒美をいただきました。またご用命があれば、この年寄りをお使いくだされ。くれぐれも、無理はなさいませんよう」

 今の言葉、以前も言われたわ。結婚式の前だったかしら? 無理なら頼れ、と。今になれば、まるで予言のようね。

「わかったわ。じぃには勝てないもの」

 降参と手のひらを見せ、私は笑った。ムキになって失敗したあの頃の自分を、許してあげられる気がする。ありがとう、じぃ。幼い頃から私の味方だった。ライフアイゼン公爵が立ち上がるのを手伝い、テーブルの上の書類を拾い上げた。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

演じるのはもうやめます

たくわん
恋愛
「君は完璧すぎて、つまらない」 完璧な淑女として知られる公爵令嬢アリシア・ヴァンフリートは、婚約者ヴィクター侯爵から、17歳の誕生日に婚約破棄を告げられた。

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷 むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界恋愛33位) ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

【完結】婚約破棄に感謝します。貴方のおかげで今私は幸せです

コトミ
恋愛
 もうほとんど結婚は決まっているようなものだった。これほど唐突な婚約破棄は中々ない。そのためアンナはその瞬間酷く困惑していた。婚約者であったエリックは優秀な人間であった。公爵家の次男で眉目秀麗。おまけに騎士団の次期団長を言い渡されるほど強い。そんな彼の隣には自分よりも胸が大きく、顔が整っている女性が座っている。一つ一つに品があり、瞬きをする瞬間に長い睫毛が揺れ動いた。勝てる気がしない上に、張り合う気も失せていた。エリックに何とここぞとばかりに罵られた。今まで募っていた鬱憤を晴らすように。そしてアンナは婚約者の取り合いという女の闘いから速やかにその場を退いた。その後エリックは意中の相手と結婚し侯爵となった。しかしながら次期騎士団団長という命は解かれた。アンナと婚約破棄をした途端に負け知らずだった剣の腕は衰え、誰にも勝てなくなった。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【短編】『君のためを思って』と婚約者に言われ続けたので『自分のため』に生きることにしました

あまぞらりゅう
恋愛
「君のためを思って」 シャルロッテ侯爵令嬢の、婚約者のハインリヒ公爵令息の口癖だ。 本当にわたくしのため……? ★他サイト様にも投稿しています! ★小説家になろう2025/12/31日間総合4位

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

処理中です...