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本編
48.濁って腐る前に浄化するのは当然よ
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血族婚が多いのは、どの王家でも同じ。リヒター帝国が例外であるはずはなかった。アディソン王国のモーリスが、前王妃に睨まれたにも拘らず、王家の庶子として認識されたのもここに原因がある。外からの血を入れなければ、子供が生まれにくくなっていくの。
リヒター帝国は他国より早く気づき、曾祖父の代から側妃の制度を取り入れた。あれは妃となる妻を軽んじたわけではないの。将来の我が子が娶る公爵家の令嬢の血を薄めるためよ。祖母は納得して受け入れた。義母ガブリエラ様は、他国から血を取り入れることを目的に選ばれた方よ。
他国の王族ならば、血が薄まって別の家系になっている。ガブリエラ様は祖母から側妃制度の利点を聞いた。当然、合理的なガブリエラ様は取り入れる。その結果が、四人の妃と四人の子供達だった。唯一の女児として生まれた私に求められたのは、他国の血を取り入れること。
お兄様達に子供が生まれても、帝国の青を持たない可能性がある。妻の浮気よ。でも私が産む子は、必ず皇族の血を受け継ぐわ。皇族の腹から産まれたという、明確な証拠があった。
「お祖母様の日記を見て、愚かな私は他国の血を得なければならないと思ったの。止めるお兄様達の気持ちを理解せず、意地になって相手を探した」
今になれば愚かだった。私が公爵家を興し、他国から夫を得ればよかったのよ。実際、エック兄様はその案を用意していた。ちょうど政略結婚の話が舞い込み、年齢や血の薄さが決め手となったの。アディソン王家とは数世代遡っても、婚姻歴がない。さらに庶子なら完璧だった。
まさか、あんな馬鹿な案を実行に移していたとは思わなかったけれど。嫁いで五年もしたら戻るつもりだった。その前に彼らの失態を知り、利用したのは私よ。
「トリアは頭が良すぎるのかな。私くらい、のんびりしてれば良かったのに」
苦笑するルヴィ兄様は、白ワインの入ったグラスを掲げる。夕食の席で溜め息をついた私に、兄様二人は優しい。
「俺なんて、説明されてもわからん」
がははと大声で笑い、豪快にワイングラスを干したフォルト兄様は、手酌でお替りした。皇族らしさは欠片もない。これも三世代に渡り、血を薄めた結果だった。四人は全く別の性質と能力を持って生まれ、外見すら似ていない。
フォルト兄様はエーデルシュタイン大公となり、いずれ子を生して皇族を支える。それは、この場にいないエック兄様も同じね。すでにラウエンシュタイン大公領を用意し、臣籍に降る準備を整えた。宰相として国を支える覚悟だと思うわ。
私がリヒテンシュタインの姓をローヴァインへ替えることで、皇族の薄まった血が貴族の中に紛れていく。そこから皇族へ嫁いだり、養子に入る子が出たりすることで、濁った血を浄化できる。
「もう落ち着いたのか?」
「ええ、そうね……頭は冷えたと思うわ」
イングリットを授かったことだけは、感謝しましょう。私の名誉を蔑ろにし、愚かにも利用しようとした罰は下す。けれど、あの子は私一人で授かれなかった。その一点だけで、命だけは助けてあげようと思えるほどの功績ね。
「ローヴァインと結婚したら、イングリットは返さねばならんか」
がっかりした様子のお兄様に、私はくすくすと笑いだした。ご自分で仰ったではありませんか。
「皇帝の養女として記録し、そのように取り計らったのでしょう? 臣下の公爵夫人が、皇女を奪ったりいたしません」
「だが……」
母と子を離すのは気が引ける。ルヴィ兄様は本当に……私やエック兄様とは別の生き物ね。純粋な一点はフォルト兄様に近かった。
「私、ルヴィ兄様の秘書官になろうと思いますの。毎日我が子と会えますし……能力も活かせますでしょう? なので、ローヴァインの領地とは別に、皇宮に近い直轄領を一つくださいな」
公爵夫人の社交は、片手間にこなしてみせますわよ?
リヒター帝国は他国より早く気づき、曾祖父の代から側妃の制度を取り入れた。あれは妃となる妻を軽んじたわけではないの。将来の我が子が娶る公爵家の令嬢の血を薄めるためよ。祖母は納得して受け入れた。義母ガブリエラ様は、他国から血を取り入れることを目的に選ばれた方よ。
他国の王族ならば、血が薄まって別の家系になっている。ガブリエラ様は祖母から側妃制度の利点を聞いた。当然、合理的なガブリエラ様は取り入れる。その結果が、四人の妃と四人の子供達だった。唯一の女児として生まれた私に求められたのは、他国の血を取り入れること。
お兄様達に子供が生まれても、帝国の青を持たない可能性がある。妻の浮気よ。でも私が産む子は、必ず皇族の血を受け継ぐわ。皇族の腹から産まれたという、明確な証拠があった。
「お祖母様の日記を見て、愚かな私は他国の血を得なければならないと思ったの。止めるお兄様達の気持ちを理解せず、意地になって相手を探した」
今になれば愚かだった。私が公爵家を興し、他国から夫を得ればよかったのよ。実際、エック兄様はその案を用意していた。ちょうど政略結婚の話が舞い込み、年齢や血の薄さが決め手となったの。アディソン王家とは数世代遡っても、婚姻歴がない。さらに庶子なら完璧だった。
まさか、あんな馬鹿な案を実行に移していたとは思わなかったけれど。嫁いで五年もしたら戻るつもりだった。その前に彼らの失態を知り、利用したのは私よ。
「トリアは頭が良すぎるのかな。私くらい、のんびりしてれば良かったのに」
苦笑するルヴィ兄様は、白ワインの入ったグラスを掲げる。夕食の席で溜め息をついた私に、兄様二人は優しい。
「俺なんて、説明されてもわからん」
がははと大声で笑い、豪快にワイングラスを干したフォルト兄様は、手酌でお替りした。皇族らしさは欠片もない。これも三世代に渡り、血を薄めた結果だった。四人は全く別の性質と能力を持って生まれ、外見すら似ていない。
フォルト兄様はエーデルシュタイン大公となり、いずれ子を生して皇族を支える。それは、この場にいないエック兄様も同じね。すでにラウエンシュタイン大公領を用意し、臣籍に降る準備を整えた。宰相として国を支える覚悟だと思うわ。
私がリヒテンシュタインの姓をローヴァインへ替えることで、皇族の薄まった血が貴族の中に紛れていく。そこから皇族へ嫁いだり、養子に入る子が出たりすることで、濁った血を浄化できる。
「もう落ち着いたのか?」
「ええ、そうね……頭は冷えたと思うわ」
イングリットを授かったことだけは、感謝しましょう。私の名誉を蔑ろにし、愚かにも利用しようとした罰は下す。けれど、あの子は私一人で授かれなかった。その一点だけで、命だけは助けてあげようと思えるほどの功績ね。
「ローヴァインと結婚したら、イングリットは返さねばならんか」
がっかりした様子のお兄様に、私はくすくすと笑いだした。ご自分で仰ったではありませんか。
「皇帝の養女として記録し、そのように取り計らったのでしょう? 臣下の公爵夫人が、皇女を奪ったりいたしません」
「だが……」
母と子を離すのは気が引ける。ルヴィ兄様は本当に……私やエック兄様とは別の生き物ね。純粋な一点はフォルト兄様に近かった。
「私、ルヴィ兄様の秘書官になろうと思いますの。毎日我が子と会えますし……能力も活かせますでしょう? なので、ローヴァインの領地とは別に、皇宮に近い直轄領を一つくださいな」
公爵夫人の社交は、片手間にこなしてみせますわよ?
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