“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由

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守るための死

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 自ら自分の体の主導権を預けたことは今までになかった。

 《あなた、ようやく私に心を開いてくれた?》

 ツムちゃんとは別の女の人の声が聞こえてきた。その声は私の声に似た声質似ていて、そして話し方も似ている。

 だが、そんなわけがあるはずないでしょ?あなたみたいな暴れることしか脳のないやつに。

 《じゃあなんだというの?この目の前の男を殺せばいいの?はっ!都合のいいことね。自分が殺したい人は殺して守りたい人は守る。結局あなたは偽善者の域を出ない。ただの我儘な子供よ》

 違う。私はそいつを殺して欲しいわけじゃない。

 《じゃあなんで私を呼んだの?》

 私は……この人を救いたいの。だからこそ、力が必要なの。

 《あなたの願うことが叶うはずがないわ。だって、あなたにはなにもできないのだから》

 だから私はあなたに頼んでいるの。あなたならそれができる。

 《我儘なお願いを聞くつもりはないわ。メリットもないのに》

 メリットを掲示すればいいの?

 《なんですって?》

 このままだとやっぱり協力してくれないだろう。私の中にいる別の誰か。

 つまり、メリットがあれば協力してくれるわけだ。

(あなたが望むことを、私ができるだけ叶えるわ)

 《それは……面白いわね》

 心なしかその声は微笑んだ気がした。

 《今回だけは特別。主導権は後で返してあげるわ。だけど、私の望みを叶えられなかったら……あなたの大切にしているものを全て破壊した後に、自殺してあげる》

(…………………………わかったわ)

 時間を稼がなくてはならないのだ。そうすれば、八光の仙人を救えるかもしれない。

 彼を捕まえて、幻花を使って元の彼に戻す……そうすれば、大きな味方ができる同時に二人を救うことができる。

「なにをするつもりだ?」

 八光の仙人が少し警戒したようにこちらをみている。

「そろそろ、私も本気を出すだけよ」

「なんですって?」

(任せたよ)

 そう言って、私は瞳を閉じた。次に目を開けたのは、違う私だった。だが、それに気づくはずもない八光の仙人は雰囲気の差だけでしか感じることはできない。

「どうやら本当に本気になったようですね……明らかに敵意が違う」

「ええ、そろそろ始めようか」

「……」

 八光の仙人は自分とベアトリスの力の差をしっかり理解している。故に、どのくらいの力を出せばいいのかなどは把握している。

 それに基づき、速度を上げて刀で切り込む。本来であればその攻撃はベアトリスが近くすることはできずに食らっていたであろうはずの攻撃だった。

 だが、結果は違った。

「なに?」

「あらやだ、ハエが止まってた?」

 刀は素手で受け止められ、そこには平然としているベアトリスの顔があった。その顔は残酷なまでの……暗い笑みを讃えていた。

「くっ……!あまり調子に乗るなよ!」

 そう言って、今度は本当の本気で攻撃を繰り出す。刀に浄化の炎を纏わせ、仙術によりさらに身体能力を向上させた一撃。

 今度こそベアトリスは避けることもできずに、かつ燃え散った跡すら残すことなくこの世から完全に消滅するであろうはずの一撃だった。

「全く、愚図が。私と闘いたいなら最低限度の攻撃というものがあるでしょう?」

 ベアトリスが手を振ると同時に巨大な竜巻が発生する。とてつもない魔力が渦巻き、龍ですら逃げることができないほどの風圧が襲いかかってきた。

「ぐっ!?」

「ちっ。消えないか」

 炎は多少なりとも弱まったものの、流石にただの風では吹き飛ばすことができなかった。だが、八光の仙人を威嚇するには十分な威力ではあった。

「くそ!どうして!どうしてそんな力を隠せていた!?私の情報源ではそんな力はなかったはずだ!」

 焦った様子の八光の仙人にベアトリスは不敵な笑みを浮かべてみせた。

「今まで『私』が戦った回数は少ないからねえ?」

「それはどういう……まあいい。私に貴様を倒す手段はないようだ。だが、問題ないさ。私が死ななければいいだけの話。体を散り残さず消し飛ばしても復活できる私なら、貴様の攻撃で死ぬことはない」

「へえ?それは面倒ね」

 だが、ベアトリスの笑みは消えないままだった。

「まあいいわ。元から殺すつもりはなかったのだし」

「なにをするつもりだ!言え!」

「なあに?大したことではないわ、そんなに怯えなくていいのよ坊や」

「くそ……!」

「あはははハハハハハ!」

 ベアトリスの笑い声、そして八光の仙人の歯を食いしばる音がその場を支配していた。だが、次の瞬間、そのメロディは崩れてある一声がその場を支配した。

「ベアトリスさん!」

「ははっ……は?」

「こいつは……」

 二人が凝視したある一点には一人の女性が立っていた。

「ミハエル?どうしてそこに?」

 ミハエルである。

「なんだかすごい音がして、私にも何かできることがないかと思ってきたんです!」

「はは、私は運があるようだ」

 そして、八光の仙人はベアトリスが動き出す前に、ミハエルに近づき首を掴む。

「あっ……かはっ……!?」

「形成逆転ですねベアトリスさん。そこから動けばこの女を殺しますよ?」

 そう言って、刀をミハエルに向ける。

(ミハエルさん!)

 《ばか、なにをしようとしている?動いたら殺されるんだぞ?お仲間さんがね》

 でも、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?動いても動かなくても殺されてしまうかもしれない!

 《ふん、だからって私は動かないわよ?別に、あなたの仲間を守るのは契約外だからね》

 なんでよ!ふざけないで!

「さあ!どうしますかベアトリスさん」

「どうしますか?そんなの決まってるでしょう?」

『ベアトリス』は大剣を取り出す。

(ちょっと!?なにをしているの!?)

 《決まってるでしょ?あの女ごと斬るだけよ》

 そんなことはさせないわ!絶対に!

 《あはは!別にいいじゃない。あなたみたいな偽善者が「命知らずな」行動に出られるはずないのだから》

 ……………ふざけないでよ。せっかく仲良くなれたのに……死なせるわけないでしょう?

 そう言って「私」は大剣をしまった。

「なにがしたいのかよくわかりませんねえ?気でもおかしくなったのですか?」

 《今!どうやったの?一体どうやって私から『主導権』を奪い返したの?》

 私は確かに偽善者かもしれないけど、その偽善を突き通さないとただの悪人に成り下がっちゃう。それなら、私は偽善者でもいい。

 《ちょっと!待ちなさい》

 力は借りとくね。

 いつも以上に力が溢れる感覚、私から主導権をとっていた彼女はこういう感覚で戦っていたのか。

「な、なにをするつもりだ!」

「決まってるでしょう?ミハエルは絶対に死なせない!」

 そう言って私は加速する。

「バカめ!そんなところから追いつくわけが……」

「追いつかせるのよ!」

 その速度は今までで一番の速度だった。体の感覚がさっきいた場所に置き去りにされているような、動く度に体に痛みが走って軋む。

 だが、そんなのどうだっていい。私は刀がミハエルに突き刺さる前に、彼女の首を掴む八光の仙人の腕を手刀で斬る。

「ミハエル!」

 彼女を押し飛ばして、私は満足した。

「よかった……早く逃げて」

「ベアトリスさん!後ろ!」

 後ろを見ると、刀を強く握りしめている八光の仙人がいた。

「やはり、偽善者は身を滅す。哀れだな」

 そう言って、手に持っていた刀を私に向かって振り下ろすのだった。

「ベアトリス!」

 その時、八呪の仙人もその場に戻ってきたが、時はすでに遅かった。

 なぜなら、私の心臓にしっかりと刀が突き刺さっていたのだから……。
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