猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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可能性 ※シエラ視点

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 アノマリー隊βはヴァージ部隊長を筆頭に組織されている。参加条件は、他の部隊と同様に、上級魔術師であることである。

 アノマリー隊は給料が良かった。そして、名実共に魔術界直轄部隊であるが故、その名の名誉は計り知れなかった。そんなくだらないもののために隊に志願した邪な考えを持つ者どもは軒並みヴァージ隊長によって潰されていった。

 そんなヴァージ隊長の部隊の隊員の一人がシエラであった。

 白色の髪の中に黒のメッシュが織り混ざり、髪は短く切られて鋭い目つきと淡々とした話し方は相手を威圧するに十分だ。

 シエラが新たに任された任務は新たな『異常現象』に関する調査であった。今までは、民間の建物や街の中……郊外などに生成されていた『異常現象』だったが、今回初の例になる国が運営している建物内部での調査である。

 帝都魔術学校、未来の栄えある学生たちが学ぶ校舎は国からの要請により、休校は許されなかった。危機管理ができていないわけではない、我々が信頼されているのだ。

 いや、その対象は主に未曾有の危機から人々を救ってきた、アノマリー隊α部隊隊長のレイン殿であろう。

 未だかつて例を見ない、弱冠9歳での特級魔術師の昇格者だ。

 水の魔術師ではあるものの、世間の認識は『無属性魔術の生みの親』である。属性関係なく扱える無属性魔術は『無紋者』でも一流の魔術師になれる可能性がある。才能がなく魔術の道を諦めたものたちも、もっと強くなりたいと向上心を持つものも、こぞって彼の無属性魔術について学びたく必死だ。

 レイン殿はまだ論文を発表していないため、教本などは存在しない。今伝わっているのは、レイン殿の『変形する腕』『無傷の胴体』という部隊員が見た魔術のみである。

 シエラの今回の任務はレインのバックアップである。教師として一ヶ月という期限付きではあるが潜り込むことに成功し、レインを陰ながらサポートする。

 学生という面を持つレインでは入れない場所や、監視ができない時間帯が存在する。臨時講師としてシエラと特級魔術師のグレンが調査をすることとなっている。

 緊張していないといえば嘘になるが、シエラはいたって冷静にレインにメッセージを飛ばす。

 返ってきた声は予想よりも遥かに高いものだった。忘れてはいけない、彼はまだ9歳だ。

「ふう」

 メッセージを飛ばし終えたシエラは髪を耳にかけながら、イヤリングを触る。『異常現象』に巻き込まれて死んでしまった兄の形見である。

 兄の死をきっかけにシエラは、この世の全てから『異常現象』を消し去ろうと決めたのだ。もう誰も、死なせないために……。

「誰ですか」

 素早く展開される無詠唱上級魔術。雷属性上級魔術の『雷爆』はシエラの得意とする魔術の一つであり、最も破壊力のある魔術の一つであった。

 校舎裏、その曲がり角に直撃した『雷爆』は校舎の壁を破壊し、土煙を上げながらゆっくりと近くでシエラの様子を観察していた人物に脅しをかける。

「すまねえな、姿が見えなかったから」

「っグレン様。失礼しました」

 現れたのはグレン。ダボっとしたあまり似合っていない学校の教師の服装で現れた。

「問題ねえ。それより、俺はこれから授業の付き添いがある。レインもこれから授業だ、監視と見回りを頼む」

「了解」

 報告を聞いて、シエラがすぐさま業務に戻ろうとした時、

「それともう一つ。魔術界に報告して欲しい内容がある」

「……それは?」

「『異常現象』についてだ」

「っ……一体なんでしょうか」

「『異常現象』にはどうにも不可解な点がある。それが何かわかるか?」

「『異常』なことが起きているところでしょうか?」

「違う。答えは、『突然起きたこと』だ。半年ほど前から『異常現象』が発生し始めたが、半年前に何かの転換点となるようなものは見受けられない。もしかしたら、これは『人間の仕業』ではないかもしれない」

「グレン様はこれが人の所業だと思っていらしたのですか?」

『異常現象』魔術が使用された形跡は一回たりとも発見されたことはない。あるのは、魔力の残痕と、血痕だけだ。

「だってそうだろ?突然に自然現象の一部に『異常現象』が組み込まれたわけでもあるまいし。どっかの裏組織の工作だと思うのが自然だ。魔術は日々進化する、密かに魔術を通さない魔力の使い方も見つかっているかもしれない」

 そんなものがあれば、それはきっと魔術界の革命の時となるだろう。魔術という術式すら使わないとなれば、それは難易度も下がるということ。魔術師がさらに増えることだろう。

「賢人会議に出席した〈虹の魔女〉も賢人たちに直々に調査を依頼されている。その調査が終わるまで帰ってはこない。ああ、これはレインには知らせるなよ?」

「はっ、なぜでしょう?」

「泣いちまうだろ。『師匠』と呼んで慕っている奴の帰りがいつなのかわからないってのは……知らせない方があいつのためだ」

「わかりました」

「話を戻すが、俺はこれを『異種族』によるものだと思う」

「っ!?」

 その時、鐘の音がなり、授業の開始の合図として全校舎中に響き渡る。もちろん、校舎裏にもそれは響き、耳の中で音が反響した。

「おっと、俺はもう授業があるから。監視を頼んだぞ!」

「了解しました」

 走っていくグレンをシエラはただ敬礼し、見つめていた。
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