家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈

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(5)代筆屋

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 教えてもらった隅のテーブルでは、紙を広げて暇そうに座っている男がいた。独特の帽子をかぶっている。あれが代筆屋の印のようだ。

「ちょっといいかな」

 そう声をかけると、男はハッとしたように顔を上げた。どうやらうたた寝をしていたらしい。少しまだ眠そうな目が僕を見上げ、それから大きく瞬きをした。

「……なんてこった」

「え?」

「どこの女神様かと思ったら、あんたいつも図書院に通っている人だな! いやー、こんなに近くから拝めるとは思わなかったよ! まあ座ってくれ! 酒を奢らせてくれよ!」

「いや、ありがたいんだけど、僕は頼み事があってね」

「頼み事? ……あー、そうか。コレ関係だな? それともこっちか?」

 代筆屋は何やら意味ありげに指を立ててみせた。
 この場合、小指とか親指とかは何を意味しているのだろう。学問的な用語ではないのは確かだ。
 僕が戸惑っているのに、代筆屋は訳知り顔で僕に椅子を勧め、こほんと軽く咳払いをして真面目な顔を作った。

「筆跡を隠すために代筆屋を使うってのは、お貴族様でもよくあるから慣れているよ。ほら、こっちにお貴族様用の紙がある。そうだな、あなたならこれがおすすめだな!」

 カバンの中から、とても高級そうな美しい紙を出してきた。
 貴族も使うというのは本当らしい。
 それに筆跡隠しというのも、なかなかに面白い。
 ペンやインクにもいろいろな種類があるようだ。どんどんテーブルの上に並べ始めたので、僕は慌てて止めた。

「いや、違うんだよ。代筆を頼みたいんじゃなくて、その、紙とペンを買い取りたいんだ」

「買い取り?」

「その、いろいろ事情があって、家で手紙が書けなかったんだ。それで代筆屋ならと聞いて……」

「ああ、なるほど! いや、そうだよな! 誰にも知られたくない手紙ってのはあるよな! これは失礼しました! どうぞこのテーブルを使ってくれ! 紙もペンも好きなだけ使ってくれ! 俺はその辺で飲んでるからな!」

「え、ちょっと待って! いくら代金を渡せばいいだろうか!」

「代金? そんなの、あなたが使ったペンを売り飛ばせばお釣りが出ると思うんだが……」

「ペン……? えっと、すぐに届けたいから、届けてくれる人を紹介してほしいんだけど」

「じゃあ、紹介料込みで飲み代分もらおうかな。届ける奴にも同じだけ渡せばいいんで。おい! こちらの方が後で頼みたいそうだから、いつでも出れるように待機しておけ!」

 言われるままに酒代に少し上乗せした銅貨を渡すと、代筆屋は近くのテーブルにいた少年に声をかけ、それから帽子を脱いで僕の頭に乗せた。

「今夜はあんたが代筆屋だ。手紙を書き終わったら適当に片付けておいてくれればいいから!」

 そう言って、男は別のテーブルに行ってしまった。
 代筆屋の帽子は、思っていたより重い。
 ずり落ちてきた帽子をなんとか被りなおし、おすすめされた紙に手紙を書くことにした。

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