家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈

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(6)おごりの麦酒

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 書き終わった手紙は、少年に託した。
 銅貨を渡した時にはあまり嬉しそうではなかったのに、届け先を聞いた瞬間、ガラリと表情が変わった。
 急に背筋が伸びて、読めないはずの宛名を見つめ、「すぐに走ってきます!」と本当にあっという間に出て行ってしまった。

 でも、ありがたい。
 これでギーズと連絡が取れるはずだ。


 ほっとして、でもテーブルに目を落として困惑する。
 テーブルの上には、代筆屋が広げたままだった紙とペンとインクがある。代筆屋本人は、顔馴染みたちと本格的に飲み始めたようで、こちらのことは完全に忘れているようだ。

 とりあえず、テーブルの上を軽く整えてみた。でも根本的な解決にはなっていない。
 代筆屋は二杯目を飲み始めたし、酒場にやってくる人は増えている。このテーブルはいつまで使っていいのだろうか。

 そもそも、僕はまだ何も注文していない。そろそろ何か食べるなり飲むなりするべきかもしれないが、そうなるとこのテーブルの上の紙が汚れる事態だけはさけなければいけない。

 ついに、僕は本格的な片付けを決意した。
 確か、鞄から出していたから……。
 恐る恐る代筆屋の鞄を開け、見様見真似で片付けていく。とりあえずテーブルの上にあったものは全て収納することができた。


 さて、これからどうするか。
 そんなことを考えていたら、向かいの席に男が座った。

「あ、あの、僕は代筆屋では……」

 そう言いかけて、独特の帽子をかぶったままだったことを思い出して慌てて脱いだ。でも座った男は、少し酒臭い息を吐きながらにやけていた。

「あんたが代筆屋ではないことはわかってるよ。あいつがそこのテーブルで飲んでいることもな」

「そうですか」

 それはよかった、と言いかけて、では何の用があるのかと首を傾げる。
 どうやら行商の護衛職なのだろう。
 長旅の後を思わせる薄汚れた服を着ていて、腰には剣があった。

「あんた、まだ飲んでいないじゃないか」

「代筆屋に用があっただけですので。それに……その、お金が乏しくて」

 ノーラから渡された大切なお金だ。
 明日からどうなるか分からないから、無駄遣いはできない。もしギーズと連絡が取れなかったら、今夜から困窮することになる。

「なんだ、それなら俺が奢ってやるよ。おい、麦酒を頼む!」

 すぐに麦酒が運ばれてきて、僕の前に置かれてしまった。
 水面が泡に覆われた麦酒は木のジョッキに入っている。しかもそのジョッキが、意外に面白い模様が掘り込まれていて、思わず見入ってしまった。

「まあ、飲んで見ろよ。お貴族様にはこういうのは物珍しいらしいな」

「え、ええ。葡萄酒がほとんどですからね。えっと、このまま飲めばいいのかな」

 せっかくなので、恐る恐るジョッキに手を伸ばす。
 たっぷりと液体が入っているので、ジョッキは意外に重かった。片手ではおぼつかない気がして、両手で用心深く持ち上げた。でも、これからどうやって飲めばいいのか。水面には泡がたっぷりと浮いている。このまま口をつけると泡しか飲めないような……。

「こうやって、泡を残しなが飲むんだよ。気が抜けないようにな!」

 男が見本のように、自分のジョッキをぐいっと傾けた。
 なるほど。
 鼻の下に髭のように泡がついているが、それが正しいようだ。
 では、僕も、この庶民の娯楽酒を……!


 唇に泡がついた、と思った瞬間。
 酒場の扉が乱暴に開いた。

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